白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(419)日本人は綺麗好きか?

2022-11-28 16:52:56 | 近況

日本人は綺麗好きか?

 サッカーW杯カタール大会で強豪ドイツを破った日本は別の視点からも好感を持たれることになった それは試合後のサポーターのスタジアムの清掃である 日本のサッカーのサポーターにとって「当たり前のこと」「いつもやっている事」であってもことカタールにおいてその行為は驚くべき素晴らしい事だった 主催のFIFAワールドカップは「世界中から称賛される日本人ファン!  歴史的な勝利の後もスタジアムを掃除する姿に心からリスペクトです」とツィートした この日本サポーターを見習ってフランス、サウジアラビア、モロッコなどのサポーターもスタジアムの掃除を始めた

と同時にその行為を戒める意見も相次いだ 前東京都知事の舛添要一氏がそうだ 彼は「日本のサポーターがスタジアムの掃除をして帰るのを世界が評価しているという報道があるが一面的だ 身分制社会などでは分業が徹底しており、観客が掃除まですると掃除を生業としている人が失業してしまう文化や社会構成の違いからくる価値観の相違にも注意したい、日本文明だけが世界ではない」とツィート

更に大王製紙の元会長、井川意高氏も「日本の美徳は海外では凶暴でさえある 学校の掃除を生徒がすると掃除人の生活を奪っていることを日本の教育で育った我々には理解し難い」

そういえば我々は小学生の頃から教室、廊下、運動場、校門の掃除は当たり前だが外国でそんな国はほとんどないらしい 

この舛添要一はフランス留学の経験があり最初の嫁はフランス人だ 井川は世界中のカジノ廻りを繰り返した経験がある

海外と言えば 昨年 エンジェルスの大谷翔平のゴミ拾いが称賛された事があった エンジェルスのベンチも心なしか綺麗だったが昨年はゴミ拾いする大谷翔平は話題にもならない それと同時にベンチ内の汚さは酷くなった 僕は密かにトラウトが戻って来たからだと思っている 大谷も大っぴらにベンチ内のゴミを拾うことなく 自分はヒマワリのタネなどは食べないでなるべくゴミを出さない努力をすることに徹していた グランドのゴミは拾ってもベンチのゴミは拾わなくなった 昨年大谷翔平が称賛された時 僕もベンチ掃除の仕事の事は考えた もしかして大谷もそんな指摘を受けたのではないかと考えている

確かにドイツに勝った日本チームは素晴らしい そのことでテレビ朝日のコスタリカ戦の視聴率がNHK(35、3%)より10%増えた(42、9%)が玉川徹の電通批判を乗り越えて無事終わった 負けた日本サポーターは相変わらずスタジアムを綺麗にして帰った サムライブルーのメンバーも使ったロッカールームをピカピカにした

翻って日本の盛り場はどうか 一夜明けた難波や渋谷はサッカー観戦で浮かれた連中の宴の後であい変わらすゴミの山だ

果たして日本人は本当に綺麗好きなのか怪しいもんだ

 

 


白鷺だより(418) しし座「ヒーロー、道に迷う」

2022-11-20 16:50:21 | 観劇

しし座「ヒーロー、道に迷う」

 

 3週連続の観劇となった ここ何年かコロナのせいでスタジオ公演が続いていたしし座公演が客を入れての久しぶりの公演の案内を戴いて出掛けた

 結果はもう一つだった 北川隆一の上手さばかり目立って他に大人の芝居が出来る役者はいず、きついことをいうと「金を取れる芝居」になっていない 竹内介の脚本は劇団員のアテ書きだろうが余りにも若い役者ばかりで芝居にならないのが辛い(若いと言っても女学生には無理がある) あと4、5人は中年が必要だろう 

あらすじ

葛の名産地で知られる葛龍町、(東京から3時間の東北地方か?) 素朴な田舎町には不思議な言い伝えがあった 町外れの雑貨屋「安達商店」の隣りに建つ町英雄葛屋龍次郎の銅像に祈りを捧げると「葛龍仮面」が現れて問題を解決してくれるというものだった 放浪の旅の途中で安達商店の主人(北川隆一)に助けられ居候している芦田(倉内恵)は密かに安達が葛龍仮面だと思っている 安達が死んて葛山の避難小屋に閉じ込められた都会からの若者たちを助けに行こうとするが……

開演前の放送で休憩なしで2時間の予定と聞いて 果たしてコチラが持つのかと思ったが以外と時間を感じさせなかった 安達商店と避難小屋を裏表に飾ったセット(美術、竹内志朗)のお陰と思われる もう少しテンポと笑いがあれば言う事なし この町の素朴な方言を作っても良かった 昔からの言い伝えの英雄はカタカナのヒーローではなく平仮名のひいろうであって欲しいものだ そうでなければ仮面と真っ赤なコスチュームを着たアカレンジャーみたいな格好で大活躍するシーンが村人の共通のイメージとして一度は見せるべきだった

ともあれ劇団員以外のゲストを入れても 作者の好きなような作品を書かせる必要があるだろう 大阪の劇団だ 大阪弁の芝居が観たい

この作者、実は理系の受験指導の第一人者としても有名らしい もう少し昔話や言い伝えばかりでなく 理系の芝居を目指したらいいのかもしれない

劇団しし座 第80回公演 ABCホール

作 竹内介 演出 北川隆一 美術 竹内志朗 舞台監督 三浪郁二

 

 

 

 

 

 


白鷺だより(417) 岸田國士「チロルの秋」その他

2022-11-13 11:16:41 | 観劇

「チロルの秋」その他

 今月は図らずにも観劇月間となってしまった 先週の紅、南条二人芝居に続いて今週は大阪放送劇団の公演だ 昨年末劇団創立80周年記念とかで岸田國士を取り上げた( 「留守」、「秘密の代償」)ところ評判がよく(未見)今回も短編戯曲を3本取り上げた 客席には永遠の演劇青年の楠年明さんや多賀勝一さんがいた

岸田國士は岸田今日子、岸田衿子の父親として有名だが日本現代演劇の父と呼ばれ新人劇作家の登竜門として「岸田戯曲賞」としてその名を残している この「チロルの秋」はフランス留学時代に書いた処女作「古い玩具」に続く2作目で大正13年9月に発表され同年秋新劇協会の手で帝国ホテルの演芸場で初演、その「「チロルの秋」上演当時の思ひ出」によると

「正直に云へば私は自分の処女上演について余り香しい思ひ出を懐いていないので、なるならば語りたくない気持が非常に強い、と云ふのは私はそこで作家としてずいぶん大きな失望を感じたからである 自分の作品を舞台のものとして観てゐるに耐えられなくなって劇の半で席を立って外へ出てしまった程であった 少し強く云へば あの場合周囲の見物達に全然関わらないで「幕を閉めてしまへ!」と舞台に向かって怒鳴ることが出来たらと思ったものである」

と書いているように本人は詩劇として書いているのに新劇協会はリアリズム劇として上演したためチグハグで無残な仕上がりになってしまった

脚本(岩波書店版岸田國士集第一巻)を読んでいると数々の疑問が出てくる 

ステラは何故喪服を着て誰の為に喪に服しているのか 絶えず読んでいる本は何なのか ステラが「私のお母さん長崎で生まれたの ハマって云う名」と言ったときアマノの驚きぶりは何故か ここから二人は異父兄妹説が生まれる そもそも二人は何故流浪の旅をしているのか 

全て疑問だ 答えは脚本には書かれてはいない 僕だったらこんな作品の演出はやらない ステラ役の増田久美子は相変わらず熱橋本店好演、アマノ役には客演の関西芸術座の多々納斉 嫌みなく二枚目を好演

それにしても「チロルの秋」タイトルは上手い もう一本の「葉桜」も二人の結婚が満開の桜をイメージさせて上手い

各作品における音楽の使い方はいい 作者は「ぶらんこ」の付記に次のような注文を書いている

この戯曲の上演には開演前より閉幕後に亘って間然なく演奏される音楽が欲しいと思ひます 特にこの戯曲の為に作曲されたものであることを望みます 例へばビゼエの「ラルレジェンヌ」のような

こんな作者の細やかな望みを無視してるところがいい

外に出ると今日までの雲一つない青空が千里の空に広がっていた


白鷺だより(416) ふたり芝居「夜の取調室」

2022-11-05 07:16:10 | 観劇

 ふたり芝居「夜の取調室」

 懐かしい芝居の案内を見て早速病気上りの萬ちゃんに連絡すると初日は一杯だがその他は大丈夫と聞いて2日目のお昼に出掛けた 久しぶりの道頓堀はようやく外人客が戻ってきたように思える賑わいに近く 活気に溢れていた そんな風景を見ながらアラビヤの前を通り、法善寺にぶつかって北に向かうと座座の楽屋口にある喫煙所でいつまで経っても煙草が辞められないふたりが見舞客と喋りながらプカプカやっていた これはチャンスと祝儀を渡し入口に向かうと橋本ちゃんが「まだアホなことやってますねん」と言った 舞台監督の三ちゃんに案内されてほぼ満員の客席に…。

このチラシを見たわかぎえふの感想

「うわっ! ビックリした、二人結婚したかと思った!」

この紋付羽織姿は二人の役者人生が合わせて100周年を迎えためでたい公演だからだ

さてこの芝居まだトップホットの頃の作品だとばかり思っていたが初演は1990年だという オレンジルームが出来たのが1978年なので僕はもうコマに入っていてそれから阪急ファイブが出来ヘップホールが出来たのが1998年、オレンジルーム後期の作品だ 最初に観てから何回観たことか 最近は6年前に観た

当時売れっ子の戯作者藤本義一の「男女浮世回舞台」(なんにょこのよのあれこれ)の中の「腹情死覚書」と云う短編が原作 

舞台は曽根崎警察署の取調室、夜遅く一人の主婦が当直の刑事から事情聴取を受けている どうやら主婦は素人売春婦で老人を相手にしている内にその老人を腹上死させてしまったらしい 住宅ローンを抱え売春に走った主婦、家族に疎んじられ売春婦に一時の安らぎを求める老人、そんな話をやりきれない思いで聞く刑事、やがて情にほだされた刑事は主婦を不問にするのだが……

相変わらず達者な二人、ただ以前に比べ多少太った感がする

何時もは延々とやる芝居が終わってからのバカ話、今回は控え目

二本立ての予定が萬ちゃんの健康が思わしくなく若手(?)の二人の朗読劇が前狂言で付く   南条好輝作 夫婦漫才師「平助風子の物語」 戸田都康、泉しずか

終わって小屋を出て南海に向かう途中、例の喫煙所に懐かしい顔が、昔の芝居仲間二人が観劇後の煙草を吸っている 声を掛けると「生きていますか?」の声 お元気そうですねの問に一人が「こんなになりました」と帽子を脱ぐ あきらかにガン治療の後遺症でのツルッパゲ……!! 何とか驚きを誤魔化そうと「僕も薄くなりました」と帽子を取り寂しく笑って別れる