白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(410) 美空ひばり芸能生活10周年記念映画

2022-06-18 18:31:31 | 映画

美空ひばり芸能生活10周年記念映画

 You Tubeの東映時代劇チャンネルが時々自社の古い映画を期間限定で特別配信してくれる 今回は1958年上映のこんなミュージカル映画「希望の乙女」、 芸能生活10周年と言っても少女時代のデビューだから御年21歳の美空ひばりだ

 物語は北海道から歌手になるために上京してきた少女、美原さゆりが青函連絡船の中で出逢ったサックスを吹く男(高倉健)と知り合う 担任の教師に書いて貰った紹介状を持って作曲家月森浩一(山村聡)を訪ねるが彼は奥さんを亡くしたばかりで なかなか心を開いてくれず弟子入りも許して貰えない 近所の下町商店街の素人バンド「あけぼの楽団」のメンバー(北村英治ら)と親しくなる

 戦後すぐヒットした並木路子の「そよかぜ」(松竹、主題歌リンゴの歌)とストーリーが似ているが 原案のひばりの母親加藤喜美枝が昔観た映画だったりして、そう言えば「そよかぜ」の監督は佐々木康だ

スタッフ

製作  大川博                       原案                      

原案  加藤喜美枝

脚本  笠原良三/ 笠原和夫

監督  佐々木康

音楽  米山一夫

振付  矢田茂

笠原和夫は東映宣伝部在席だった19:56年社内シナリオコンクールで1位となる

キャスト

美空ひばり/山村聡/高倉健/山東昭子

柳家金語楼/小野透(当時、17歳.のちのかとう哲也)

ダークダックスが北海道時代の音楽仲間で東京で再会する役( 芝居もしている)「アカシヤ楽団」は北村英治とシックスブラザースのメンバー

さて吉村は梅田コマにて美空ひばり芸能生活30周年記念公演「鳳城の花嫁」、33周年記念「北条政子」40 周年記念「春秋千姫絵巻」を手伝った

 

 

 


白鷺だより(409) 若山富三郎はなぜ東映に草鞋を脱いたのか

2022-06-03 16:31:52 | 人物

  若山富三郎はなぜ東映に草鞋を脱いだのか

 昭和41年6月の南座は「南座時代劇6月公演」と銘打ち大江美智子一座を中心にゲストには大映を辞めたばかりの城健三朗、東映の山城新伍らがメンバーだった 城健三朗は公演直前若山富三郎と昔の名前に改名「パンフレットやポスターは刷り終わっていたため、そのままいきますが来月からは若山で売出します」

この公演で若山は昼の部では行友李風作「国定忠治」の主役忠治を演じ 夜の部では「血煙荒神山」の吉良の仁吉、又「雪之丞変化」では座長菊之丞を演じ劇中劇では雪之丞役の大江美智子と四つに組んで本格的な歌舞伎芝居を演じた もとより時代劇が好きで東映に入った山城にしたら待ち望んでいた時代劇スターであった 因みに山城は「国定忠治」では板割の浅太郎、夜の部の前狂言の主役と「血煙荒神山」では清水の小政を演じた 山城は密かに俊藤プロデューサーに南座の芝居を観せ若山獲得の工作を始めた 若山曰く「頭のいい山城は会社には俺が是非ともお世話になりたい、と言っており俺には東映が是非とも欲しいと言っている」とさすがに渋りに渋っている俺も押し切れた

若山が渋っている原因はかって新東宝が潰れた時東映にお世話になった事があったからである 鳴り物入りで破格のギャラで1956年新東宝に入った若山とはいえ「人形佐七捕物帳」シリーズでヒットすれども会社の倒産とはいえ移籍せざるを得なかった新参者でしかなかった 東映ではヒットシリーズの再映ばかり、千恵蔵、右太衛門の相手役に甘んじていた兄を見兼ねて今や大映映画の大看板で弟の勝新太郎が救いの手を出し大映に引き抜く 心機一転で名前も城健三朗に改名 しかしここでも勝や市川雷蔵の相手役に甘んじざるを得なかった 名前が出るのは大映の看板スターであった藤原礼子との結婚と離婚のスキャンダル、また同じく看板スターの安田道代との同棲発覚などばかりであった

そこに山城新伍の余計なお世話のせいで東映に返り咲いた「総長賭博」の松田役で主役鶴田浩二の中井と対照的なヤクザを演じ注目される その勢いで俊藤プロテューサーの「極道」シリーズの二枚目半の役処で山高帽、ダボシャツ、腹巻き、ステテコと云うスタイルの主役島村清吉に抜擢、映画さながら「若山一家」を構え代紋も作って事務所までかまえる その番頭格には山城がついた

さて吉村が若山さんと仕事をしたのは御園座の中村玉緒さん主役の「浪花女」であった 玉緒さんの旦那で文楽の三味線引きの役だった 渋い芝居であったがなにより三味線が弾けるのが強みであった (白鷺だより(38) 浪花女のこと 参照) なお同じ御園座で山城新伍の「石松浮き世旅」を上演、別の芝居では劇中劇で「国定忠治」を演じた