白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(181)蜷川幸雄 追悼(1)

2017-01-02 09:17:07 | 人物
あけましておめでとうございます
本年も「白鷺だより」よろしくお願いします 
 
        2017年1月 吉村正人       




蜷川幸雄 追悼(1)

昨年末押し迫った30日にNHKBSで蜷川追悼番組として「ハムレット」の中継があった 丁度昨年亡くなった平幹二朗もクローディアス役で出ており二人の追悼番組となった

次いで31日には沖縄旅行中だったため本放送を見られなかった「泣かないのか蜷川幸雄のために」という特集追悼番組の再放送を観劇した これも蜷川の代表作三本を選ばれたが図らずも(というより必然的に)平幹主演作が並んだ

太地喜和子が言った
「蜷川さん、こないだの水戸黄門で公家の役をやってるのを見たわよ・・・あんな下手な芝居を観てしまったら演出家としてのダメ出しが聞けなくなるわ 頼むから役者は辞めてちょうだい」
この水戸黄門での彼の芝居は僕も見て同じ思いだった 「役者辞めればいのに」
喜和子は続いて言ったという 「あんた一人くらい私が食わせてあげるわよ」
そこまで言われて蜷川は役者を辞める決心をした

「ハムレット」
蜷川幸雄80周年記念作品 ニナガワシェイクスピアレジェント第二弾
2015年1月22日~2月15日 彩の国さいたま芸術会館
藤原竜也 満島ひかり 鳳蘭 平幹二朗 満島真之介 内田健司

高校3年生の僕はそのころ英語研究会(ESS)の部員で前年の英語劇「ベニスの商人」が好評だったことをいいことに無謀にも「ハムレット」に挑戦した しかも主役 (完全な芝居ではなくどちらかと言うと名セリフ集の体裁であった)
いいかげんなセリフ覚え(もちろん英語)で恰好だけで悩める若者を見せた
カーテンコ―ルでの拍手と歓声の嵐はその後の運命を決めた

ニナガワにとって1978年から2015年までの27年の間で8通りの演出を残した
ハムレット役者は平幹 渡辺謙 真田広之 市村正親 藤原竜也 川口覚と変わった
今回はいきなり明治初期のオンボロ長屋風景が現れ
「日本で初めてシェイクスピアが紹介された頃の街並みで ここでハムレットの最後の稽古が始まります」・・・と芝居が始まる 
最初の帝劇では舞台全面の階段の覚えがある
「ハムレット」では毎回変わっているが今回の長屋のセットは成功とは言い難い
今回のハムレットには以前ハムレットを演じた平幹もクローデイアスとして出ていた

平幹曰く 
15年の「ハムレット」のクローディアスも実は気が進まなかった だって悪役じゃないですか ただの悪役じゃ面白くないと考えて祈りの場面で水垢離をすることを思いついた 僕はハムレットを3回演じてきたがハムレットがクローディアスを刺すことを躊躇う場面がやりにくかった 祈っている人を殺さないというキリスト教的な行動だと頭では判っているし そう演じてはきたのですがどうもしっくりいかない 裸を曝して水を被ることでクローディアスのガートルードへの愛が本物で そのための兄殺しを悔いていることが伝われば ハムレットを驚かせ立ち止まらせることが出来るのではないかと思ったわけです
 うまくいったかどうかは分かりませんが蜷川さんは面白がって採用してくださいました

長屋の物干し台に現れる先王の亡霊も平幹が演っているのだがこれもなかなかいい

ハムレットのマザコンは昔から言われていることだが今回の演出はハムレットと母親ガートルード(鳳蘭)との母子相姦を思わせるベッドシーンは元ハムレット役者(?)のぼくとしてはどうかと思う

内田健司という役者は彩の国さいたま芸術会館内にある「さいたまネクストシアターに所属する秘蔵っ子で今回のハムレットではノルウェーの王子フォーテインプラス役で出ている この役はかって小栗旬や成宮寛貴も演じているラスト・ハムレット亡きあとを締めくくる重要な役だ 

昨年㋄12日死去したことにより10月に公演予定だった「ハムレット」は中止となった
弔辞を読んだ平幹二朗も同年10月死亡した