白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(343)新潮45休刊(廃刊)ほか

2018-11-21 16:35:38 | 思い出
新潮45休刊〈廃刊)ほか



「新潮45」が事実上廃刊となった 
僕はこの雑誌のファンで「杉田論文」LGBT問題が炎上してすぐ次号で「そんなにおかしいか 杉田論文」の特集号を出したことに喝采をおくり書店で買おうと思っていた矢先 休刊を発表 事実上の廃刊となった

この雑誌は1982(昭和57年)4月創刊の「新潮45+」という45歳以上の中高年の生き甲斐と健康情報をテーマに「大きな活字」が売りの雑誌だった
この年寄り社会を先取りした(それにしても十年は早い 団塊の世代が45になるにはあと十年もあった)雑誌は思うように売れず3年後廃刊が検討されるが雑誌名を「新潮45」に変更して「日記と伝記とノンフィクション雑誌」としてリニューアルされる

僕がこの雑誌を購読するのはこの辺りからで 特に長瀬ゆかりが編集長になったころには「13の事件簿」(例えば今手元にある「文壇女と男13の愛憎劇」「平成・昭和 芸能界13の赤い衝撃」など)と岩井志摩子 中村うさぎなどの女流作家を起用して「体験的性行為」を発表する連載物が売りの「事件とエロ」を表面に出して生き延びる
ところが今回杉田水脈論文が問題となり炎上状態となり 裏で文芸誌「新潮」のレギュラーであった平野啓一郎や高橋源一郎らの「休筆」の脅しがあったと言われるが 作家ならそんな手を使わず堂々と文章で批判したらどうだろう
少なくとも雑誌側は杉田論文に対する集団ヒステリーに対して小川栄太郎らによる「そんなにおかいいのか杉田論文」と題する特集を組み反論したが逆に油に火を注ぐ結果となり休刊を余儀なきものとされた 
この号は読もうと書店に向かおうとしてるときに休刊が決定して手に取ることは出来なかった

僕たちは昔(1971年)朝日ジャーナルが自主回収された事件を知っている
当時「右手にキャーナル 左手にマガジン」と言われ 我々弥次馬学生達の愛読書だった朝日ジャーナルに連載された 赤瀬川源平の「桜画報」の最終回において「アカイ、アカイ、アサヒ】いう文が水平線に昇る「朝日新聞」のイラストに添えて書かれ「朝日は赤くなければ朝日ではない ホワイト色の朝日なんてあるべきではない せめて桜色に」と書かれてあった これが「新左翼の機関紙」とまで言われるほどの左傾化を憂いていた朝日新聞上層部の怒りにふれ自主回収となった
朝日ジャーナルが儲けのために全共闘支持だったことは当時ジャーナル記者だった川本三郎の小説「マイ バック ページ」に詳しい 
この本にはこの事件の顛末も詳しく書いてある
この事件で同紙は2週間休刊しただけで続刊 続いて起こった朝霞自衛官殺人事件で同紙記者川本三郎が逮捕解雇されたときも続刊 
同社の新しい雑誌「AREA」が好調なった1992年休刊となった


これと1995年 もう一つ集団ヒステリーで廃刊させられた雑誌がある
文藝春秋社の発行の雑誌「マルコポーロ」だ 
編集長は元週刊文春編集長の花田紀凱・現 月刊HANADA編集長 
事件の発端は医師西岡昌紀が寄稿した「戦後世界最大のタブー・ナチ「ガス室」はなかった」という論文だった
アウシュビッツなどを視察後英文の資料からナチスがユダヤ人を絶滅しょうとした根拠がない その手段として使用されたガス室は戦後ねつ造したものである ユダヤ人が大量に死亡したのは発疹チフスによるものだった ユダヤ人問題の最終的解決とはロシアへの集団移動だった
という内容だった

これに対してイスラエル大使館やユダヤ人団体サイモン・ウイーゼンダール・センター(SWC)などから激しく抗議を受け 特にSWCは内外の企業に対して週刊文春はじめ文藝春秋社全体の出版物に対して広告出稿をボイコットするように呼び掛けたため会社は「マルコポーロ」誌に反論のページを提案したが拒否される 
多くの企業がSWCに賛同して広告出稿を取りやめたため会社は「記事は誤り」と発表 謝罪して同紙の廃刊を決めた
事件が丁度阪神大震災が起こった時だったので殆どの人が知らぬうちに解決となった(この号の発売日が1月17日だった)
後の花田の懐古によると【日本中を敵に回した感じだったが 論文は読みごたえのあるものだった】【僕がつけたタイトルが悪かった・・」と語っている
花田は編集長の職を解かれ閑職「戦後史企画室」に左遷させられた

新潮45ともう一つ今年消えて行く雑誌がある
これも記録しておく必要がある
ちょい悪オヤジで売った「LEONレオン」創刊編集長だった岸田一郎を起用して2017年創刊した「GGジジ」である 
今年の11月号で休刊 団塊の世代がシルバー世代になり「新世代シニアに向けた新しいライフスタイル誌」がうりだったが・・・・






白鷺だより(342)「マンザナ、わが町」

2018-11-01 18:16:02 | 観劇
マンザナ、我が町



 我が友 熊谷真実さんは9月の紀伊国屋ホール以来 今年の後半はずーっとこの作品「マンザナ、我が町」に漬かりっぱなしだ
(それどころか来年の一月一杯まで)
 
前回(2015)この芝居を「こまつ座」で再演した時彼女が2016年度読売演劇大賞優秀女優賞を取った作品(優秀作品賞と演出の鵜山仁が最優秀演出賞)の再演なので是非見たいと思っていたが紀伊国屋ホールではおいそれ大阪から出かけられず諦めていた 
ところが今回思いがけず熊谷さん本人から近くの京都公演をご招待して頂いて喜んで飛んで行った
(初演キャストは白戸真理 川口敦子 神保共子 篠崎はるく 松金よね子)

あらすじ
1942年3月 カリフォルニア州マンザナ強制収容所
4か月前 真珠湾攻撃以来日系アメリカ人に対する「排日」の機運は一気に高まっていた
特に西海岸在住のおよそ十一万人は奥地に急造された十か所の収容所に強制的に収容されることになった そのうちの一つ「リンゴ園」という意味の名を持つ土地に造られた「マンザナ収容所 砂漠の真ん中のバラック小屋の一室に集められた5人の女性たち ジャーナリスト(土居裕子)浪曲師(熊谷真実)舞台奇術師助手(伊勢佳世)歌手〈北川理恵) 映画俳優(吉沢梨恵) 
収容所長から彼女らに下された命令は「マンザナは決して強制収容所ではなく集まった日系人たちの自治で運営されるひとつの町なのだ」という内容の朗読劇「マンザナ、我が町」の上演 日系人として受けた差別的な境遇を語り合い 明らかになる自分の中にある日本人らしさとアメリカ人らしさ・・収容所を美化する台本をめぐって時には激しく対立する五人 果たしてこの「マンザナ、我が町」は上演されるのか

15分の休憩を挟んで3時間の大作 暗いテーマ そこは作者の創作モットーである「難しいことを易しく易しいことを深く深いことを面白く」+歌や浪曲を駆使した展開なので長くは感じることはなかった 特にリリアンの歌う「おぼろ月夜」と乙女の浪曲とのコラボは圧巻
 欲を言えば前回の「頭痛肩こり樋口一葉」でも感じたことでもあるのだが「笑い」が少ないということである 
それは演者だけの責任でもなく客席側にも大いに責任があると思われる 

難しいテーマにじっと身構えて観ている客を笑わせる方法は意外と簡単だ 早い目にその肩の力を抜いてやる これがコツだ 井上ひさしの脚本にはその仕掛けが一杯ある なにしろこれは喜劇であるという演者客席の姿勢が大切だ そしてその笑いの中から見えて来る強制収容所内の悲惨さ 半分アメリカ人半分日本人である自らの運命 差別とは何かが浮かび上がる 
井上作品は腹を抱えて笑ってふと我に帰って「考える」 そんな喜劇が理想だ

ここの収容所長はおそらく1938年の初演されたソーントン・ワイルダー作「わが町」(OUR TOWN)を見ているはず
 演出を担当するソフィアも評判を聞いていると思う(早川演劇文庫)
この僕たち世代には学生演劇の定番というべき作品はその頃セットなしの舞台に机やイスのみの「舞台監督」が進行させていくという簡潔な演出で演じられたという

僕は何年か前(1991年)マンザナの実態を細かく描いた映画を見ている  
それは「ミッドナイト・エクスプレス」「フェーム」などのイギリス人監督アランパーカーの「愛と哀しみの旅路」という映画だ

およばぬことと あきらめました
だけど恋しい あのひとよ
ままになるなら 今一度
一目だけでも 逢いたいの


いきなり戦前のヒット歌謡曲「雨に咲く花」(関種子歌)が流れ驚くがこの曲をうまく使っている
(僕たちが知っているこの曲は戦後ロカビリー歌手井上ひろしがリバイバルヒットさせた曲だ)
僕はのちに京唄子の芝居でこの曲を使った 暗転で流れるこの曲に合わせて何人か口ずさんでいた

莫大な予算を使って再現したマンザナ収容所は良く出来ていて その中で行われた残虐行為もリアルに感情移入もせず描いていた

こんな映画だ
1930年代後半のアメリカ 労働組合運動の闘士だったジャック(デニス・クエイド)はロスアンゼルスで日本人向け映画館の映写技師として働いていて館主の娘リリーことゆりこ〈タムリン・トミタ)と恋に落ちる 二人は米国市民と移民との結婚を禁じたカルフォルニア州法を避けてシアトルで結婚 娘も生まれて幸せな生活を営んでいたがジャックが再び組合運動にのめり込んだためリリーは娘を連れて実家に帰ってしまう そんな頃日本軍がハワイ真珠湾を攻撃し太平洋戦争が勃発 ジャックは徴兵され リリーの父親はFBIにスパイ容疑で狙われる 
そしてアメリカ在中の日系人はすべて財産を奪われ 収容所に強制収容されてしまう 収容所の生活は過酷だった 
リリーの兄弟は米国への忠誠心を問うアンケートの別々の答えを書き チャーリーは日本へ強制送還 ハリーは米軍に志願して戦死する そんな時ジャックが軍務を抜け出しリリーと娘に会いに収容所にやってきた・・・

このアメリカの不都合な真実を描いた(そのため第三国(イギリス)のパーカーを起用した?)はハリウッドでは三流のメロドラマとして殆ど無視されヒットしなかった

さて舞台は5人の女優たちの熱演であっという間の3時間が過ぎた
我が熊谷真実も浪曲がすばらしくよく声も出ていた(もっとも声が出なくなった時もあったらしいが)芝居では「井上作品のコメディエンヌ部門を一手に任された感じ」で期待に充分答えていた
ただ芸人らしくない「八の字眉毛」のしかめっ面が何度も見受けられた こういうのを大阪弁で「ベッピン台無しや」という
芸人は人前では決してあんな顔を他人には見せないが誰も見られないところではいいと思う

現在中国共産党によって新疆ウイグル自治区のウイグル族住民への人権侵害が深刻な状態になっている 
共産党思想を叩きこむ矯正所という名の収容所がいくつも出来て噂では数十万人(何百万とも?)のウイグル人が拘束されているという 
事の真実は判らないが現在でも強制収容所は存在する

10月27日 こまつ座 京都労演公演 呉竹文化センターにて観劇