白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(455) 団鬼六「美少年」のモデル

2023-11-30 18:52:06 | 思い出

団鬼六「美少年」のモデル

大学に入ったら演劇をやろうと思っていた僕は関学に入ってまず訪ねたのは「劇研」だった その頃「劇研」は三田和代がいてフランス・ナンシーで行なわれた世界学生演劇祭で「夕鶴」を演じ優勝したばかりであって人気だった

 へそ曲がりの僕はもう一つあった創作劇団「エチュード」にもぐり込んだ その汚い部室にあったOBたちの現状報告の小冊子に映画脚本を書くかたわらオール読物の新人杯を「浪花に死す」で取り教師をしながら時期を待つという自虐的な文章が何故かひっかかり、その黒岩松次郎という名前と共に記憶に残った

3年後 全共闘運動の挫折で中退も考えたがゼミの教授のアドバイスを得て1年留年していた僕はー下鉄梅田駅の掃除の仕事(終電までに駅に入り水洗の仕事、ゴミ箱の整理) をしていた時ゴミ箱に捨てられた山ほどのSM雑誌(その頃ブームだった、家に持って帰れずゴミ箱に捨てたのだろう、中には精液がついた本もあった) の中に黒岩松次郎の名前を何度か見た そのライバルとして台頭してきた花巻京太郎と同一人物だと判って驚いていたら 名作「花と蛇」の作者団鬼六も同一人物と知って驚いた 僕がSM小説を一番読んだ時代であった

さて久しぶりに団鬼六を読んだ この「美少年」は団には珍しい自伝的小説で( ( SMは実際経験はなかった営業用) 関学在学中の話である 実際団は劇団エチュードと同時に軽音楽部のスターでもあった 同じ軽音には高島忠夫がいた、

軽音楽部の隣の部室は邦楽研究部であった 「私」はそこで気品溢れる美少年菊雄と出会い倒錯の世界にのめり込んでいく やがて応援団の学生ヤクザ山田に知られ、その愛人マリーや「私」の恋人久美子を巻き込みクライマックスの「私」の目の前で3人の男女に菊雄がレイプされるシーンで終わる

「私」がセックスの相談する東郷健は実際関学の先輩で「おかま」を公言していた 某大銀行の重役木村某と恋仲でその相手は宝塚スター扇千景の父親という両党使いであった

菊雄は関西有数の舞踊家元、若松流の御曹司で若松菊雄を名乗った 家のしきたりからか小学生まで女の着物を着せられて躾された いよいよその着物を脱ぐ日は悲しくなって泣いたという そして17歳の時義理の叔父さんに犯され、色々仕込まれたという この流派は花柳流だ 小説では事件の2年後 ヨーロッパ巡業を終えた菊雄は服毒自殺してしまう しかし実際は僕もコマ時代振付でお世話になった花柳雅人さんがそうだ その後日本舞踊飛鳥流を起こし初代家元飛鳥峯王を名乗った 今年6月亡くなった、その死亡記事

飛鳥峯王(あすかみねお 日本舞踊飛鳥流初代家元 本名武田欣治郎 94歳)    喪主は3代目家元飛鳥左近(長女)

65年.日本舞踊アカデミーASUkAを創立、80年に飛鳥流を創設し宝塚、OSK日本歌劇団 コマ、新歌舞伎座などの振付、演出を手掛けた 桂米朝さんら関西の多ジャンルの若手が芸を語り合うグループ「上方風流ぶり」のメンバーだった 歌舞伎俳優の市川右團次は長男  

 

 


白鷺だより(454) 平井房人のこと

2023-11-18 08:47:47 | 人物

平井房人(ひらいふさんど)のこと

 昭和62年の七月新橋演舞場の新聞広告である このころは天外・寛美の二枚看板だがなぜか天外一人である 昼の部2本目に平井房人作「滝の茶屋」とある

さてでは何故今「平井房人」なのか イラストレーターの成瀬國晴さんの新刊「オダサクアゲイン」という自伝的怪書の中で彼の漫画の師匠松葉健さんの戦後の思い出話の中で

「カストリ雑誌の編集部で同じように作品を持ってきていた漫画家平井房人に会う モダンで品がありニコニコしていて驚いた 平井は宝塚歌劇の脚本も書いていた有名人で朝日新聞にも夫婦ものストーリー漫画を描いていたのを知っていたのでそんな人でも売り込みに来るんだと不思議に思った」

とある 戦後すぐの彼の姿である

そこでその波乱万丈の彼の経歴をみてみよう

明治36年福岡県久留米生まれ、大正10年画家をめざして上京、同12年関東大震災に会う 神戸に移住と同時に宝塚少女歌劇の美術部に所属、雑誌「歌劇」の編集、舞台の台本やポスター制作なんでも携わる 平行して関西の漫画家達と「大阪グルっペ」を設立、 昭和13年大阪朝日新聞に3コマ漫画「思ひつき夫人」を連載、翌年宝塚映画で映画化される また時流に乗っで「カンチャンの少年戦車兵」などの子供向け戦争絵本も書いた (宝塚の舞台脚本は高速度喜歌劇「街の近代人」映画「思ひつき夫人」は竹久千恵子主演、岸井明、アチャコ共演 斎藤寅次郎監督」

戦後は京都に移り昭和26年大阪毎日新聞に「ポッポおばさん」を連載、又雑誌「平凡」「明星」「主婦の友」「家の光」などの注文で京都、大阪、宝塚などのイラストルポを制作、子供用の絵本の出版なども携わった ラジオや宝塚新芸座の台本、漫才台本や芝居の台本も執筆

昭和35年脳溢血で倒れ、そのまま死去 享年57歳

戦前に比べ なんでもござれのこの器用貧乏の生きざまを見よ!

松竹新喜劇との接点は判らないが 存命中の

昭和26年9月南座 平井房人作・星四郎補 「滝の茶屋にて」天外、寛美

昭和26 年2月中座 平井房人作  「梅の茶屋にて」天外、寛美

昭和41年5月  舘直志作・演出 「滝の茶屋」五郎八、小島秀哉(寛美新喜劇首のため五郎八主役用??)(唯一の証人星四郎は寛美退団の責任を取らされ退団)

昭和62年7月  新橋演舞場 平井房人作「滝の茶屋」天外、寛美

平成6年7月  新橋演舞場  館直志 作 吉村正人演出 「滝の茶屋にて」小島慶四郎  曾我廼家八十吉 (このとき新喜劇頭取坂東さんが前回は平井房人の名前だったと言い出し 平井房人作に改められる、演出家としての私見だがそれほど名作とは思えない)

おそらくもっと公演回数はあるだろうが館直志の事務所の「オフィステン」の著作権管理のズサンさが露呈された テンは果たして未払金を遺族に払ったのであろうか?

一体何が本業であるか判らない平井の経歴であるが多才であるがゆえ個々の仕事の印象は薄い だが今古本の世界で彼の絵葉書、マンガ、絵本などが再評価され高値で取引されているらしい めでたしめでたし!

 


白鷺だより(453) 「キネマの神様」

2023-11-14 10:00:35 | 映画

キネマの神様

 コロナで観られなかった「キネマの神様」(2021) をBSプレミアムでようやく観た 前作「キネマの天地」の続編として作られたこの映画はスタートからつまずいた 主演に予定していた志村けんが死亡(しかもコロナで) 代役に志村の長年の友人であったジュリーこと沢田研二に変えて再スタートした

つかこうへい✕東映深作の「蒲田行進曲」の大ヒットに対抗して井上ひさし✕山田洋次で松竹が大船撮影所50周年記念作として作られた松竹版蒲田行進曲の「キネマの天地」その続編がこれだ そういえば撮影所の玄関の守衛はどちらも 桜井センリだ

大船撮影所の近くにあった松尾食堂のことは昔、単行本で興味をもって読んだ

物語はこの食堂の娘(永野芽郁〜宮本信子)を巡っての恋の鞘当からはじまる 

監督志望の剛(菅田将暉~沢田研二)と映写係のテラシン(野田洋次郎〜小林稔侍) だ 恋の勝利者になった剛は仕事も順調だ 念願の初監督が決まるが事故を起こしてしまい作品は流れ映画界から去る テラシンは当時からの夢自分の映画館「テアトロ銀幕」をかなえる 剛は未だにギャンブル依存症が治らず借金まみれで 家庭は自閉症の孫(前田旺志郎 )を抱え シングルマザーの娘(寺島しのぶ)と淑子(宮本信子)が働いている  大船時代の剛はあまりにも生真面目な映画青年すぎる もう少し不良っぽい部分を見せれば( 競馬、酒、女) 、老後のジュリーが悪ぶってみせれば見せるほど嘘っぽくみえる原因はそこにあるのだろう 話は自閉症の孫が剛の昔の作品の台本を見つけてきて(そういえば京都の古本屋にはカット割が書かれた台本が売っていた)動き出す そして二人で今風に直し「城戸賞」に応募して優秀賞に入る 

今フランスのミステリードラマ「アストリッドとラファエル」を観ているが主人公が自閉症なのだ その見事な自閉症の演技( ヒステリー、閉じこもりぶり) をみてる身からするともの足りない 前田君は一生懸命やっでいて好感がもてるが…… 

さて 剛とテラシンとの長年にわたる友情には最後まで泣かされるが コロナの現実(席を開けて座る、映画館を閉めざるを得ない) は 身につまされる

さてこの映画松竹さんにとって神様は微笑んたのか 前作「キネマの天地」では22億稼いた山田洋次監督作品は最近落ち目であるが悪いといっても9 億はあった でもこの映画は5億止まり 微笑みもしなかった

渋谷天笑、曽我迺家寛太郎の名前をタイトルバックでみたがどこに出ていたのかわからなかった

清水宏監督をモデルにした監督役のリリー・フランキーが好演、お見事!

松竹のこの手の映画はなんでこんなにケチがつくのだろう 前作「キネマの天地」では藤吉久美子が降板した この作品は志村けんの死亡降板

志村けんが演っていたらどうだろうと考えるのはヤボか?