白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(427) ミヤコ蝶々と名鉄ホール

2023-01-23 11:18:04 | 演劇資料

ミヤコ蝶々と名鉄ホール

名鉄ホールはかって御園座、中日劇場と並んで「芸どころ」名古屋の3大劇場の一つで2015年惜しまれつつ閉館した 名鉄百貨店の上にある小ぢんまりとした劇場で数々の新劇の名作を紹介し、商業劇場としては宝塚をはじめ東宝系の名作を公演、また関西の小劇団「笑いの王国」「劇団喜劇」「喜劇座」「蝶々劇団」などを紹介した ミヤコ蝶々さんにとって名鉄ホールは中座に次いでホームグラウンドといってもいい劇場であった

ミヤコ蝶々の名前が名鉄ホールに初めて上がったのは昭和38年7月出し物は「えらいやっちゃ」で共演は南都雄二であった 後に「阿波の女」として何度も再演された作品である まだ松竹新喜劇に入る前の吉本の所属かな

次にミヤコ蝶々の名前が登場するのは花登筺作・演出の「おからの華」であった (昭和47年)  その前年中座で蝶々さん主演で公演された芝居の再演である 劇団創立以来定期的に名鉄で公演している劇団喜劇公演の一環であった 

2年後この「おからの華」は日本テレビ系でテレビドラマとして大ヒットする(中村玉緒主演)   

さてその後の蝶々さんの活躍を見てみよう 

これからの作品はその殆どが日向鈴子作演(蝶々さんのペンネーム) である

昭和49年4月「女ひとり」共演 曽我迺家明蝶 

         50年5月「わかれ橋」 大村崑

  53年7月 「女と三味線」西村晃

          55年2月 「子は鎹」「蝶々ショータイム」 雁之助(これは僕が手伝った気がする)

     8月「子は鎹」「晴ればれ街道」 雁之助 (こっちかも知れない)

          56年4月「遺産のぬくもり」金子信雄

           57年4月「浪花のスーパーかあちゃん」崑  

    8月「阿波の女」「蝶々笑タイム」森田健作

           58年6月「おんなの橋」中村竹弥

            59年8月 「花火」 目黒祐樹

   60年4月「おんなの橋」辰巳柳太郎

 12月「ミヤコ蝶々ひとり芝居」「おもろうてやがて哀し」

             61年5月「ふれあい」崑

     11月「ふたり芝居」蝶々、雁之助

           62年4月「たそがれの灯」小島秀哉

              12月「電話」「親買います」蝶々 雁之助

   63年8月  「女ひとり」 小島秀哉

  平成元年3月「母桜」山本リンダ

  12月「占い信じますか?」「わたしゃ天国お前は地獄」

     2年8月「おもろい一族」崑

   3年8月「高砂や うれし恥ずかし尉と姥」文枝 

   4年4月〜5月 「母子泥棒」BORO

   6年8月「ぼけましておめでとう」小島慶四郎

   7年1月「おばあちゃんは魔女」宗方勝己

    8月  「金とダンボール」入川保則

   8年4月「雪のぬくもり」

   9年6月「おもろい一族」三原じゅん子

     

 

  


白鷺だより(426) 佐藤浩史さんのこと

2023-01-19 10:18:52 | 思い出

 佐藤浩史さんのこと

池波正太郎の映画本「味な映画の散歩道」を読んでいたら懐かしい名前を見つけた 少々長いが引用する

○月○日 帝劇の「剣客商売」の舞台稽古の二日目に行く 前日の続きをやる それから全体を「ダメ出し」せず「通し」を演じさせる すでに3日前の「総ざらい」で今度の芝居の成果は私に判ってしまっているから少しも不安を覚えない まだ不安なのは担当プロデューサーや役者たちであろう(中略、かって演った新国劇の稽古の思い出 辰巳VS島田の話) それは新国劇という一つの家族のような劇団だから出来たと思う 今回のようにそれぞれ違う劇団やプロダクションに所属している俳優たちを50人も束ねてする仕事となれば作・演出としての私は一つのトラブルを出さねようにせねばならぬ そして全員の気持を引き立てて仲良く融合させ芝居に乗せてゆかねばならぬ それがためには先ずスタッフと俳優の選択が何より大切だ 今度は全てが上手くいった 東宝には佐藤浩史という有能な演出助手兼舞台監督がいて彼のお陰で私は自分の老体を庇うことが出来た 九時半に終わる 全員を労い帰宅して泥のように眠る

これは1975年の6月帝劇公演の舞台稽古中の日記だ

記録によると 作・演出は池波正太郎 出演は加藤剛、中村又五郎、辰巳柳太郎 真木洋子、香川桂子ら

今この佐藤浩史をウィキペディアで検索すると何と「ブラックペイン」の松田優作の役名として出る さらに「佐藤浩史、東宝、演出」と入れて検索するといきなり彼の死亡記事がでる 

佐藤浩史 演出家 本名洋(ひろし) 2004年7月31日文京区の病院で食道癌のため死去 61歳 東宝演出部所属 「マイ・フェア・レディ」「屋根の上のヴァイオリン弾き」などの日本版を演出

そう彼のことを「ようさん」と呼ぶのは本名が洋さんだからだ それにしても若く死んじゃったものだ

東宝作品には他のジャンル(主にテレビ)から来た有名演出家の演出助手が多かったが1979年桑名正博と組んで作った「ロックミュージカル・ハムレット」が印象に残る

僕は梅田コマの「屋根の〜」の再演でお付き合いしただけだったが森繁に非常に信頼を得ている記憶だけが残る それが故に東宝から重宝されて一本立ちも出来ず最後まで飼い殺しされた感があった

東宝にはこうした「有能」な演出助手が多かったが 今はどうしているのだろうう


白鷺だより(425) 浪花千栄子著「水のように」

2023-01-11 08:45:24 | 読書

浪花千栄子著「水のように」

 浪花千栄子に新喜劇時代には代表作というものがない理由を第二章「私の芸歴」で述べている 

私は座長渋谷天外の妻と云う誇りを捨て、一座の立て女形( トップ女優)である責任も放棄して一生懸命、この20年間一座のために奔走いたしました 当然私がやらねばならぬ役も他の人に譲らねばならぬことが往々にしてありました それは天外さんが一座の脚本家でもあったからで「亭主の脚本で一番いい役を取る」と云われては「統制上支障を来す」ということが大義名分になっていたからです ですから思いもよらない若い役がきたり、やった事もないし老婆の役が来たりその芸域の広いこと、つまり人の嫌がる役、蹴られた役の一手引受けという訳です それを20年やり抜き通した

そしてそれをやらした天外にお礼をこめて

「よくひっぱたいて下さいました よく騙して下さいました よく阿呆にして下さいました ありがたくお礼を申しあげます だからこそ今日の浪花千栄子がどうやらここまで歩いて来られたことを感謝致します 20年のあなたとの辛酸の体験にもの云わせて人間渋谷天外を平伏さすような立派な仕事を遺したいものと念願いたしています」

そんな浪花千栄子に対して長谷川一夫のアドバイス

「20年かかって二人で撒いた種が実ったと思うたら他人に刈り取られてしもうた、と思うたら腹が立つ しかしそれをその人は食べて生きてなさるんや、まるまる捨ててしもうたんなら惜しいけれど それでその人が命を保つていまさるんならええやないか、許してあげなさい 許してあげるのがあんたの道や、そして今度はあんたは勇気をふるい起こしてあんた一人で種をまきなはれ、今度実ったら誰も持っていかへん、こんなことでヘタってしまらんとさっぱり昨日を捨てて新しい種をまきなはれ 及ばずながら出来るお手伝いはさせてもらいますからね」

本の中で気になった名前を見つけて色々調べてみて勝手に想像してみました

 第三章「わたしの住居」に住居造りにお世話になったと登場する川上拙似さんは我々の子供時代の大スター川上のぼるの父であったが有名な日本画家であると同時に松竹家庭劇時代からの「渋谷天外」の「タニマチ」であった 本名登少年は幼少から南座などに出入りする熱心な家庭劇ファンであると同時にチャプリンやヒットラーのモノマネが見事で子供がなかなか出来なかった渋谷天外に「養子に来てくれ」とまで言わしめる程だった のほるは次男であったため(長男晃は東映美術部) 養子には問題はなかった これが実現していればどうなっていたか 

のぼるのその後を見てみよう 

のほるは旧制中学5年の時 アメリカの腹話術師エドガー・ベルゲンの出演する映画に感激し 彼のようにヌイグルミを用い見様見真似で腹話術を会得、学校の文化祭で披露した すると敵国アメリカ批判などを取り入れたブラックユーモアが受けに受け各地の余興にも呼ばれ挙げ句には中村メイコ一座にも参加する 戦後民放ラジオが出来、彼は大学在学中から専属タレントとして朝日放送と契約する 学生タレント第一号であった 「ハリスクイズ」のスポンサー名のハリス坊や(人形)をもっての腹話術は「イットーショー」のフレーズとともに人気を博し 後に同じく専属だった桂米朝が「あの頃一番儲けてはった」と言わしめる程 儲けた学生であった 

 天外、千栄子の養子になって渋谷登となった場合、子役で使わず彼に充分な教育をさせるだろう(自分達が出来なかったから)  そして大学まで進学させるだろうから腹話術の習得はするだろう そして民放ラジオの登場により専属タレントになっただろう、曽我迺家五郎師匠の死によって川上拙似らの尽力で「松竹新喜劇」を創立した天外夫婦の最初の試練は五郎劇残党の女形の大量の脱退だった それによる観客の減少はラジオが産んだ人気タレント渋谷のぼるを一目でも見ようと中座に押し寄せる客によって救われる 人気の中村メイコ劇団からの申し出も鼻であしらう そもそも天外の浮気の原因の一つは夫婦間に子供がいないことだったので立派な養子の存在はそれも解決する という事は浮気も離婚もないはずだ それ以上にこのラジオの人気スターの実演は今までとは違う観客を呼び込むだろう しかしそうなると曽我迺家十吾のプライドはそれを許すのか? 

そしてそんな中で新喜劇の救世主 藤山寛美は出現するのか? 

もしかしての話しは妄想がいくらでも膨らんでいく

 

 

 


白鷺だより(424) プルカレーテの「守銭奴」(佐々木蔵之介主演)

2023-01-08 10:42:40 | 観劇

プルカレーテの「守銭奴」(佐々木蔵之介主演)

まず演出家の出身国ルーマニアから始める プルカレーテが生まれたのは僕より2年後の1950年だから社会主義国家ルーマニア人民共和国が誕生したばかりであった それから1989年のルーマニア革命で民主化されるまでチャウシェスク独裁政権が続く中、彼がどのような戦いをしたか判らないがとにかくルーマニアは民主化された 彼が39歳の時であった

 さて今回の舞台はそんな彼と「リチャード三世」以来2度目のコンビを組む佐々木蔵之介とのモリエール作「守銭奴」だ 初演は1668年バレ=ロワイヤル劇場 作家本人が主役アルパゴンを演じたと云われる 当初この作品は興行的に成功しなかったといわれているが現在ではモリエールの最高傑作といわれ上演機会の多い作品となっている この「守銭奴」を文楽用に翻案したのが井上ひさしの「金壺親父恋達引」(1972) だ

あらすじ

ドケチなまでの倹約家であるアルパゴンは召使いは云うに及ばず娘や息子にまで極度の倹約を強要し家族の我慢も極限に達している そんなある日アルパゴンは再婚したいと家族に申し出る しかしそれは息子の「恋した」相手だった さらに娘もアルパゴンの信頼している執事と恋している ケチンホ親父とその息子、娘、それぞれの恋人たちとの七転八倒のやり取りの最中に次第に明らかになる秘密とは?

 プルカレーテ(以下、プルと略する)はこの1日の物語を「冬のある日」とした アルパゴンの屋敷は全て紗幕で構成されていて冷たい風が吹き抜けている 覗いている者も聞き耳を立てている者も全て客席からお見通しである しかし その責任は全てアルパゴンのドケチぶりにある 聞こえてくるのはキーが狂ったフルートの音ばかり

「リチャード三世」では出演が15人全員男性だったというが今回の配役のミソは壌晴彦を男女二役にしたところだ

切り落としで屋敷の紗幕が落ちて庭のシーンになってから芝居が動き出す そこから一気に全員の秘密が判っていく 歌舞伎の黙阿弥物のようにご都合主義的に秘密が判ってくる

アルパゴンが金の行方を客席に聞くシーンが上手い、実は秘密は紗幕越しに見ている客席だけが知っている だからコロナ菌だらけの客席にマスク一つ付けて飛び込んでいく彼は命知らずの金の亡者だ そして助けを求めるのは「ポリス」の文字が光るアメリカの警察だ

役者では二役を見事にこなした壌晴彦、難役執事のヴァレーヌの加治将樹、クレアントの召使いの手塚とおるが光った

演出のプルさんは前述のように僕より2つも下だがルーマニア革命をくぐり抜けて来た強みがある 

僕も負けてはいられない 今年は動き出すぞ

           1月7日  森ノ宮ピロティホールにて

 


白鷺だより(423) 初芝居歌舞伎座「十六夜清心」

2023-01-05 11:05:25 | 近況

初芝居 歌舞伎座 「十六夜清心」

明けましておめでとうございます 今年もよろしく

 NHKが初日を迎えた歌舞伎座より生中継で第3部を完全放送をしてくれた コロナで公演が三部制になったおかげである 勿論生中継であるからゲストコーナーをクッションに入れての放送であった ゲストは花組芝居の加納幸和と売り出し中の若手 坂東新吾である 途中、昨年売れに売れ歌舞伎座二部の「人間万事金の世の中」に主演に抜擢された坂東弥十郎がかけつけた

 さて幸四郎と七之助、ともに初役が売り物である「十六夜清心」であるが二人の熱演でいい芝居になった 黙阿弥らしいご都合主義のストーリーをリアルに演じて、特に七之助の悪党ぶりがなかなか良くその辺にいそうな悪女ぶりが見事だ

それに比べ清心の悪党、鬼薊の清吉は悪に徹していない 幸四郎の人となりにもよるのだろうが「今日ここ起こったことを知っているのはお月様と俺ばかり、人間わずか50年騒いて暮らすが人の徳地」「一人殺すも千人殺すも取られる首はたった1つ」と居直ったのだからもっと悪に徹して欲しかった その二人の悪への変化ぶりがこの芝居の見せ場なのだから 折角三部制になったお陰であんまり演じられない「鎌倉雪ノ下白蓮本宅」まで演じられるのだから勿体ない もちろんその前の二人が再会する「箱根地獄谷の場」があれば二人の悪への傾倒ぶりがタップリ描けるのに

忘れていたが俳諧師白蓮を演じた梅玉がいい味を出していた

弥十郎はこの白蓮を玉三郎、孝夫コンビの時に演じている すっかり舞い上がってしまい充分な芝居が出来なかったらしいが 今なら貫禄といい年齢といいビッタリだ ぜひ挑戦してもらいたい

 安政六年、市村座初演 江戸城御金蔵破り事件をモデルにしていたので幕府の命により35日間上演中止となった とある