清水邦夫の「冬の馬」
久しぶりの新劇の観劇だ、久しぶりの清水邦夫だ 今まで数々の清水作品を上演している大阪放送劇団からのご招待がありÅアンドHホールがある千里中央まで出かけた 客席にはかって一緒に芝居した多賀勝一、西園寺章雄ら「新劇オジサン」の姿を見掛けた
1992年の作品なので56歳の設定の主人公である「親子」たちは清水と同じ歳だ 堂崎茂男演じる吉村研一は大学教授だった父が「老楽の恋」で若い女(なんと自分と同じ歳)と駆け落ちされて捨てられた過去を持つ元全共闘の翻訳家だ
駆け落ちして二人で小さな時計修理の店を開くが旦那に先立たれ今は銀時計の制作を細々と波子の実の息子透の元嫁美枝と二人で営んでいる波子(増田久美子)の店に研一がやって来るところから始まる
堂崎は膨大なセリフを二日目のせいか何度か詰り気味でもなんとかこなしたが「タバコ」の吸い方一つとっても「全共闘」らしくなく 様にならないのならタバコを吸うのをカットした方がいいと思わせる程であった (頭はいいかつらで似合っていた) 増田もややもするとセリフは詰り気味だったが 持ち前の強情っぱりで本心を口に出来ない不器用な女を好演した そういえば一番喫煙が様になっていた
同じ歳の「親子」の歪んだ「恋」、歳の離れた兄弟(研一と透) の親子ごっこ それを覗き見する隣のケッタイな親子がかき回しはじめると俄然面白くなる
( この母親役で中村美代子は紀伊國屋演劇賞を授賞)
かって四年間、病気の治療(カリエス)で共に暮らしたこの店で聞いたレコードをこんどは二人で又聴いている絵で幕となるのだが今回の間では絵にもならない (曲の指定があるとはいえ) 曲を変えるか、このまま行くのなら もっと離れていてユックリ近づく手もあったのでは
タイトルの「冬の馬」とは太平洋戦争末期、軍用馬の産地・木曽では次々と馬が徴用され、ついには一頭もいなくなった 馬のいない生活に張りや支えを失った人々は無気力になり喧嘩や殴り合いばかり、冬になるとそれが一層酷くなり誰もが酷くなっていった その時「空になった馬小屋に馬がいることにしたらどうだろう」と言い出した者がいた すると皆の生活に張り合いが出てかっての生活のリズムを取り戻した つまりいないものがいると思い込み、それによって生活に張り合いを出し、人間の尊厳を取り戻せるとする夫に死なれてもなんとか背筋を伸ばしていきようとする波子の遊びのこと
この作品は1992 年に初演された
作・演出 清水邦夫/ 美術 朝倉摂/ 照明 服部基
米倉斉加年/松本典子/中村美代子
シアター・X