白鷺だより

50年近く過ごした演劇界の思い出話をお聞かせします
     吉村正人

白鷺だより(404) 特殊慰安施設協会(RAA) について

2022-03-09 10:44:37 | 演劇資料

(404) 特殊慰安施設協会(RAA) について

 終戦たった三日後の8月18日のことである

総理大臣東久禰稔彦はじめ近衛文麿副総理、内務大臣山崎巌、外務大臣重光葵、大蔵大臣津島寿一らが「日本婦女子の純潔が性に飢えた進駐軍兵士らに損なわれる」と心配し、内務省による占領軍向け性的慰安施設の設置を指令した

 今回の紅壱子ひとり芝居「焼け野原にいた女たち」の第一話に突然でてくるこの施設は主人公の女が云うように国が「女郎屋」を経営してやって来る進駐軍の性処理を一手に引き受けさせ「一般婦女」に害が及ぼさないようにいわば「性の防波堤」として機能するために作られた その背景にはヨーロッパ戦線においてアメリカ兵によるレイプの数が14000人にのぼったこと、沖縄戦においても米兵上陸後約10000人の強姦被害者が出た事、連合国軍が上陸一ヶ月で3500人が被害を受けたことがあげられる

全国紙である某大新聞に大きくその募集の広告が出た 9月4日

「新日本女性よ、来たれ! 国家的緊急施設、進駐軍慰安の大事業に率先協力を求む 宿舎、衣服、食事全て支給」これに応募した女性は多いときには700 00人  を超えた

その本部は焼け残った京橋区銀座7-1 歌舞伎座に置かれた 組織名のレクリエーション(R) 、アミューズメント(A)、アソシエーション(A)に相応しい場所だった

8月27日協会は設立した 資本金は1億円 国営売春が1200万個のコンドームと共に始まった 1号店は大森「小森園」  たちまちそれは全国にもひろがった  

その他笹川良一らが自費で進駐軍のみ入れるキャバレーを作ったり、例えば松坂屋地下3階にオアシス オブ ギンザ というダンスホールなどは 地下2階の美術館までは行けるが その先には「連合国軍隊に限る」との張り紙が もちろん ダンスはいいわけで後は自由恋愛には目をつぶる形であった

さて順調に進んでいたこの計画も翌年3月26日収束を迎える 原因は性病の蔓延であったが一説にはルーズベルト大統領夫人の耳にこの話が入り 怒りをこうむったからだと云われる

この施設の設立理由は「日本婦女子の純潔を守る」であったが実際設置中は一日平均40件の婦女暴行と強姦事件だったが廃止後のそれは一日330件で効果ありと思えるが多くの研究者の結論は「効果なし、日本婦女子の純潔は守れなかった」と結論付けられている

さてRAA閉鎖後の職を失った55000人の女性たちはパンパンと云われる外娼となったり風俗街に移動したものもいた

どこに敗戦国自ら進んで国家的売春組織を作って占領者に差出す国があろうか 恥を知れ!!恥を

 


白鷺だより(403) 紅壱子ひとり芝居と菱田信也

2022-03-08 16:14:18 | 近況

(403) 紅壱子ひとり芝居と菱田信也のこと

 紅壱子が推古天皇を演じ聖徳太子を扱った「和をもって尊しとなす」という芝居を近鉄アート館で観た時貰った先の公演のチラシの束の中に「紅壱子ひとり芝居〜焼け野原にいた女たち」のチラシを見てすぐ萬ちゃん(紅壱子)に「協力をさせて」と連絡をしていた 聞いたら昨年12月17日、18日の公演予定が延期になった公演だった チラシの「関西演劇界で噛み続けて50年」の惹句も気に入った

この原作の「いつも煙が目にしみる」は菱田が読売文学賞(戯曲シナリオ部門)を取った「パウダア-おしろい-」の原本であり尼崎市の「近松門左衛賞」の受賞作だった 菱田が読売文学賞を受賞したことに関西の演劇関係者はもっともっと騒いでもいい 何かのブログにも書いたが この賞の受賞者を羅列してみると三好十郎、福田恒存、田中千佳夫、三島由紀夫、中村光夫、北条秀司、飯沢匡、矢代静一、阿部公房、秋元松代、木下順二、井上ひさし、清水邦夫、山崎正和、別役実、堤春恵、福田善之、竹内銃一郎、岩松了、マキノノゾミ、松田正隆、永井愛、宮藤官九郎、坂手洋二、唐十郎、そして彼、菱田、その後も野田秀樹、三谷幸喜、ケラリーノ・サンドロヴッチなどが名を連ね そのまま現在演劇地図が出来あがる しかしその中で菱田はまったくと言って売れっ子作家でもない その原因は「大阪弁」だと云う人がいるが、確かに全国区にはなれない一因かも知れないが 残念なことに この作品には関西の若い演劇人からの上演依頼は一件もない

菱田の受賞第一作「ええお湯でっせ」は平成18年ワッハ上方で紅壱子の劇団である「浪花人情紙風船団」が演った 演出は僕吉村正人 チカラ及ばす大して評判にもならないで終わった その後第二作「負けてもイギョラ」も同じワッハ上方で上演これも僕の演出だった 菱田が後続の野田秀樹や三谷幸喜に比べ売れっ子ではない一因は僕を含め関西演劇人の責任である これが僕が協力をさせて貰おうと思った動機であった

何年か前(2017)このシアターエートーで若い役者を集めて「カット版」を菱田の演出で上演したのを観た その公演に紅壱子は喜味家たまごと共にゲストで出た 因みに紅の役はストリップ小屋の女主人であり喜味家たまごは京都の三味線の女であった どう読んでも喜劇の台本なのに「ウンともスンとも云わない客席」かろうじて「トメ」で登場した紅壱子で笑いがきた、そんな公演だった 

今回菱田に原作「いつも煙が目にしみる」の台本コピーを貰った

舞台の一方が平成8年の初秋 神戸市郊外の被災者用仮設住宅の一室 篠田容子(34) 地元の新聞社社会部記者 花村健史(29) この男女二人の演者

もう一方は

(1)1947年昭和22年冬 神戸三宮 闇の女(22)

(2)1949年昭和24年盛夏 京都・東九条 新興宗教教祖(49)

(3)1947年昭和22年春 東京・新宿 区会議員選挙の女性候補(40)

(4)1955年昭和30年初夏 京都・伏見 三味線のお師匠さん(34) 

(5)1952年昭和27年春 大阪 ストリップ小屋の女主人(31)

もう片方の舞台における女たちは一人の演者によって演じわけられるものとするとなっているので今回の「ひとり芝居」は原作により近い形で演じられる

この平成8年の仮設住宅と約50年前の「焼け野原の世界」とが交互に演じられるこの原作は結局マトモに演じられたことはない 今回紅壱子がその半分を通して演じてみせた 紅が元気なうちにキチンと全編通してやりたいものだ

今回の公演のために菱田が書き下ろしたもう一人の女がいる 

1954年昭和29年初夏 兵庫県、播州の村 村の嫁

正直言ってこれが一番面白かった 紅の適確な演技で女の哀しみ、おかしさが滲み出た 肩肘貼らない菱田の脚本もいい これを機会に全編現在の菱田の視点で書き直してみるのもいいのかも知れない