シネマクラッシック(10) 張込み
ゆ
大木実さんとは梅田コマでの1978年(昭和53年)の「傷だらけの人生」と翌年の名鉄ホ―ルでの「お天道さん見ててや」(昭和54年)でご一緒した
「傷だらけの人生」は笠原和夫の名作「総長賭博」を劇化した作品で彼の役は映画では若山富三郎が演じた役で準主役の役だった 舞台経験もあまりないようでカチカチの様子が手に取るように判る 決して上手い役者とは言えなかったが 翌年ご一緒した時はみなしごを集めて面倒を見る「おやじさん」の役で生き生きとした演技だった
さてこの度 YouTubeにアップされた松本清張原作 野村芳太郎監督 大木実主演「張込み」をじっくり見た
そのころ大木実はスター鶴田浩二が松竹を辞めたため新松竹三羽鴉〈前三羽烏は上原謙、佐分利信、佐野周二)の一人として佐田啓二、高橋貞二の仲間入りしたばかり
いわゆる大根として有名であったがこの映画では目を見張る演技を見せる
松本清張は昭和30年頃 たまたま読んだ新聞記事をヒントにこの原作短編を書いた
その記事は東京の下町で起った強盗事件の犯人が見付かった主人を殺して逃走 被疑者は九州の某県のある町に家があり一年前妻子を残して上京していたことが判明 捜査員を2名被疑者の家に張込みすることになったという記事であった この設定を多少変更して犯人と恋仲であった女性が他家に嫁いでいるという設定に変えた
原作では張込みは柚木刑事一人であるが「張込み」は決して一人ではしないという規則があり それを原作者松本清張に指摘したら納得したので 映画ではもう一人宮口精冶の下岡刑事をプラスした(原作では下岡刑事は犯人の実家を張込みに行った設定)
また原作ではS市となっているが映画では佐賀市とはっきりさした
この映画の助監督に付いた山田洋次は当時他の助監督仲間から「監督の才能がないから辞めたら」と言われていて 野村に相談したところシナリオを書くように勧められ この映画が縁で橋本忍に弟子入りした 後に「ゼロの焦点」「砂の器」などを二人で共作した
映画は 冒頭10分ほど横浜から佐賀県鳥栖まで一泊二日の移動をリアルに延々と見せる
(脚本橋本忍)懐かしい食堂車もあり なるほど新幹線以前の移動は大変だったと思わせる 佐賀市について 丁度いい具合(目的の家の玄関、庭先が見える)の旅館に潜り込み張込みを開始してやっとタイトル
この電車には天井の扇風機が辛うじて廻っているだけで 勿論冷房はない
煙で鼻の穴が真っ黒のなるのを我慢して窓を開けるしかない
この移動中一番多いセリフ「暑い、暑い!」
着いた旅館にももちろんクーラーもない時代 扇風機らしきものもない(この時代我が家にも扇風機はなかったと思う) 開けっ放しの窓から入って来る生暖かい風のみ
二人の一番多いセリフ「暑い、暑い!」
犯人石井(田村高広)の元恋人さだ子(高峰秀子)はかなり年上の厳格な銀行員の亭主から朝渡される一日百円の生活費を貰い子供の世話をしながら規則正しい生活を送っている
これもこの時代僕が親から貰っていた「お小遣い」の額だ
柚木と共に戦後一般市民がどんな生活をしていたか じっくり観察出来る
そんなさだ子が男の前で豹変する 石井と合流して二人で温泉郷へと生き生きとして楽し気なさだ子 それまでと同じ人物とは思えない 女の方から男の胸に飛び込みキスをせがむ 「家庭を捨ててあなたと一緒に行く」と迫る
柚木にも一緒になるのを躊躇している恋人(高千穂ひずる)がいる
柚木は明日からあの単純な日常に戻ると知りながら地元の警察の協力を得て さだ子の目の前で石井を逮捕する
刑事柚木が吸うタバコは「今日も元気だ タバコがうまい」の「いこい」
この年新発売30円(戦前にあったのは「憩」)
歌が溢れている映画である おの時代 僕の育った名張の街はこんなに音はなかった
旦那から渡される一日商店街に流れる「港町十三番地」(ひばり)「一本刀土俵入り」(三橋美智也)「愛ちゃんはお嫁に」(鈴木三重子)広場でやっているサーカスのジンタ(「天然の美」)ハーモニカ演奏の「お月さんこんばんは」
民放のラジオ番組「民放まつり」中継 「君はマドロス海つばめ」(ひばり)「早く帰ってこ」(青木光一)
温泉場近くの子供たちが歌う「故郷」
ラストは佐賀駅から捕まえた石井を連行した刑事二人が乗り込む蒸気機関車の汽笛にエンドマークが入る
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/3d/51e82ce1066e962ec6ab3e41cd1ac12b.jpg)
大木実さんとは梅田コマでの1978年(昭和53年)の「傷だらけの人生」と翌年の名鉄ホ―ルでの「お天道さん見ててや」(昭和54年)でご一緒した
「傷だらけの人生」は笠原和夫の名作「総長賭博」を劇化した作品で彼の役は映画では若山富三郎が演じた役で準主役の役だった 舞台経験もあまりないようでカチカチの様子が手に取るように判る 決して上手い役者とは言えなかったが 翌年ご一緒した時はみなしごを集めて面倒を見る「おやじさん」の役で生き生きとした演技だった
さてこの度 YouTubeにアップされた松本清張原作 野村芳太郎監督 大木実主演「張込み」をじっくり見た
そのころ大木実はスター鶴田浩二が松竹を辞めたため新松竹三羽鴉〈前三羽烏は上原謙、佐分利信、佐野周二)の一人として佐田啓二、高橋貞二の仲間入りしたばかり
いわゆる大根として有名であったがこの映画では目を見張る演技を見せる
松本清張は昭和30年頃 たまたま読んだ新聞記事をヒントにこの原作短編を書いた
その記事は東京の下町で起った強盗事件の犯人が見付かった主人を殺して逃走 被疑者は九州の某県のある町に家があり一年前妻子を残して上京していたことが判明 捜査員を2名被疑者の家に張込みすることになったという記事であった この設定を多少変更して犯人と恋仲であった女性が他家に嫁いでいるという設定に変えた
原作では張込みは柚木刑事一人であるが「張込み」は決して一人ではしないという規則があり それを原作者松本清張に指摘したら納得したので 映画ではもう一人宮口精冶の下岡刑事をプラスした(原作では下岡刑事は犯人の実家を張込みに行った設定)
また原作ではS市となっているが映画では佐賀市とはっきりさした
この映画の助監督に付いた山田洋次は当時他の助監督仲間から「監督の才能がないから辞めたら」と言われていて 野村に相談したところシナリオを書くように勧められ この映画が縁で橋本忍に弟子入りした 後に「ゼロの焦点」「砂の器」などを二人で共作した
映画は 冒頭10分ほど横浜から佐賀県鳥栖まで一泊二日の移動をリアルに延々と見せる
(脚本橋本忍)懐かしい食堂車もあり なるほど新幹線以前の移動は大変だったと思わせる 佐賀市について 丁度いい具合(目的の家の玄関、庭先が見える)の旅館に潜り込み張込みを開始してやっとタイトル
この電車には天井の扇風機が辛うじて廻っているだけで 勿論冷房はない
煙で鼻の穴が真っ黒のなるのを我慢して窓を開けるしかない
この移動中一番多いセリフ「暑い、暑い!」
着いた旅館にももちろんクーラーもない時代 扇風機らしきものもない(この時代我が家にも扇風機はなかったと思う) 開けっ放しの窓から入って来る生暖かい風のみ
二人の一番多いセリフ「暑い、暑い!」
犯人石井(田村高広)の元恋人さだ子(高峰秀子)はかなり年上の厳格な銀行員の亭主から朝渡される一日百円の生活費を貰い子供の世話をしながら規則正しい生活を送っている
これもこの時代僕が親から貰っていた「お小遣い」の額だ
柚木と共に戦後一般市民がどんな生活をしていたか じっくり観察出来る
そんなさだ子が男の前で豹変する 石井と合流して二人で温泉郷へと生き生きとして楽し気なさだ子 それまでと同じ人物とは思えない 女の方から男の胸に飛び込みキスをせがむ 「家庭を捨ててあなたと一緒に行く」と迫る
柚木にも一緒になるのを躊躇している恋人(高千穂ひずる)がいる
柚木は明日からあの単純な日常に戻ると知りながら地元の警察の協力を得て さだ子の目の前で石井を逮捕する
刑事柚木が吸うタバコは「今日も元気だ タバコがうまい」の「いこい」
この年新発売30円(戦前にあったのは「憩」)
歌が溢れている映画である おの時代 僕の育った名張の街はこんなに音はなかった
旦那から渡される一日商店街に流れる「港町十三番地」(ひばり)「一本刀土俵入り」(三橋美智也)「愛ちゃんはお嫁に」(鈴木三重子)広場でやっているサーカスのジンタ(「天然の美」)ハーモニカ演奏の「お月さんこんばんは」
民放のラジオ番組「民放まつり」中継 「君はマドロス海つばめ」(ひばり)「早く帰ってこ」(青木光一)
温泉場近くの子供たちが歌う「故郷」
ラストは佐賀駅から捕まえた石井を連行した刑事二人が乗り込む蒸気機関車の汽笛にエンドマークが入る