田舎おじさん 札幌を見る!観る!視る!

私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

中国の国内観光事情

2016-10-24 20:32:51 | 大学公開講座
 海外に出る中国人ばかりでなく、国内旅行をする中国人の数も爆発的に増えているらしい。そうした中、宗教観光にまつわる観光事情について、中国南部の雲南省の回族(回教徒)を研究対象とする研究者から話を伺った。 

 北大公開講座「旅は東アジアを変えるのか?日中韓から見る現代の観光文化」の第3講が10月20日(木)夜、開講された。
 今回のテーマは「現代中国における民族観光の展開」と題して、北大メディア・コミュニケーション研究院の奈良雅史助教による講義だった。

              
       ※ 講師の奈良氏が研究対象とした中国雲南省の位置です。紅河州箇旧市は雲南省の中でも南のベトナムとの国境にある地域です。

 中国における観光事情は1978年の改革・開放政策の導入に伴い大きく変化したという。
 それまで中国においては〝観光″は贅沢なものであり、タブー視されていたため政治外交として、あるいは社会主義圏へのツアー程度しか行われていなかった。
 そうした「政治的な観光」から「産業としての観光」へ変わったことと、国民の所得が急増したことなどにより、中国国内には一種の旅行ブームが現出しているという。

 2015年の海外旅行者数は1億人を突破し、国内旅行者数も8.78億人だそうだ。この国内旅行者数はすでに世界最大の国内旅行市場を形成しているという。基礎人口が違うだけにその数も驚異的である。
 このような状況の中で、奈良氏は中国国内における宗教観光事情、つまり民族観光について調査・研究をしたという。

 雲南省は少数民族が多い地域であるが、その中でも奈良氏は回族が地域の人口の90%を占めるという紅河州箇旧市の沙甸区(こうがしゅう こきゅし さでんく)に入り調査したという。
 中国政府は辺境の少数民族地域における観光資源開発に注力しているようだ。その理由は、少数民族の生活、文化に着目し、それを資源として民族観光を開発することによって、貧困救済と地域振興を目指しているとのことだ。

 中国の国内政治にとって最大の課題は、領域統合と国民形成ということだ。つまり、55の少数民族と漢族を抱合して「中華民族」としての国民を形成することだという。観光はその一翼を担うものとして共産党政府は期待しているようだ。
 奈良氏がフィールド研究とした箇旧市の沙甸区は「沙甸事件」(この説明は省きます)の贖罪の意味もあって、中国で最大のモスクを建設するなど当地の回族に対して相当な支援をし、観光開発に力を入れているという。
 こうしたこともあって、沙甸区にはムスリム(回教徒)はもちろんのこと、非ムスリムも相当数訪れるようになり、観光地として発展し、地元も潤っているようだ。

              
              ※ 中国でも最大といわれる沙甸区に建設されたモスクです。

 ところが中国共産党政府は、沙甸区のような民族観光が隆盛を迎えている状況は痛しかゆしの面もあるという。それは共産党にとって「宗教」の統治には両義性を有しているからだという。
 ここが難しい。共産党の教義であるマルクス・レーニン主義にとって「宗教」は本来打倒すべき対象であった、ということだ。だから、改革・開放後の現在でも、宗教は最終的に消えてなくなるもの、という原則であるという。
 一方、中国政府にとっては宗教信仰を持つ少数民族を取り込むためには、「宗教」を容認せねばならないという側面も併せ持っているということだ。

              
              ※ ムスリムの典型的な服装をした男性です。

 そこで中国政府としては、政府の管理下において「信教の自由」が保障されるような公認宗教の制度を理想としているようだ。例えば、ムスリムと非ムスリムが接触することをできるだけ制限するというように…。
 ところが現実は政府が考えているように進んでいないところがあるようだ。非ムスリムは観光地として開発されたムスリム地域にも興味・関心を示し盛んに訪れているのが現実のようだ。

 奈良氏は状況を観察し、次のように予想した。
 「人々は国家の統治のロジックを越え、そして動く」そして「経済発展、国民形成には還元されない民族間関係の再編が起きるのではないか」と…。

 中国においては、チベットやウィグル地区など民族問題が影を落としている。中国における人々の旅の隆盛が中国の民族問題さらなるの火種になる可能性がある、とする奈良氏の見方は今後の中国をウォッチングするうえでも大切な要素になるようだ。