メキシコは麻薬が大きな社会問題となっているという。麻薬密輸組織間の抗争、さらには「国家 対 麻薬組織」間の争いと、内戦ならぬ「犯罪戦争」の様相を呈し、この10年間の争いによる死者は10~15万人に上るともいわれる。はたしてメキシコはこうした社会の分断を乗り越えられるのか?
北大公開講座の新しいシリーズが始まった。法学研究科附属高等法政教育センターが主催する「社会の分断をいかに乗り越えるか?」のシリーズ(4回講座)が始まった。
7月27日(木)夜、その第1講が開講した。第1講は「メキシコの麻薬戦争」と題して法学研究科の馬場香織准教授が担当した。
メキシコは経済発展が著しく、2016年度のGDPは世界16位、ラテンアメリカではブラジルに次いで第2位だということだ。
ところが一方で、近年、麻薬をめぐる暴力の激化が国内では大きな問題となっているという。その要因はメキシコの地政学的条件が関係しているのだが、麻薬消費国であるアメリカと国境を接しているため、メキシコは古くから麻薬の供給地として、あるいは密輸の経由地の役割を担ってきたという。
こうした背景の中で、メキシコ国内では麻薬売買の縄張りをめぐって麻薬密輸組織(カルテル)間の抗争が激化するとともに、カルテルを撲滅しようと策する国とカルテル間の争いも激しさを増しているらしい。
何せこの10年間の麻薬抗争による累積死者数は10万人以上、行方不明者数が約3万人といわれ、この数はシリア内戦に匹敵する数字だというから、相当に激しい抗争が展開されているようだ。
※ 講義中の馬場香織准教授です。
講義は、このように抗争が激化した背景には、①民主化、②大物ボス排除戦略、③コロンビアからのコカイン供給の減少、④貧困・格差と経済危機の4点があるとした。
①の民主化についてだが、メキシコでは2000年にそれまで70年間にわたりメキシコを支配してきた制度的革命党(PRI)の一党支配はカルテルをいわば黙認していたのだが、民主政権の誕生によって、これまでのある種の不文律と均衡が崩壊したことが原因の一つとして挙げられる。
②の大物ボスの排除も民主政権がカルテル壊滅のために実行したのだが、そのことによって組織が細分化され、組織内の争いや犯罪の多様化を産んだようだ。
③のコロンビアからのコカイン供給の減少は、コロンビア政府の対麻薬政策が功を発したことによって、コカイン価格が上昇したこと、コロンビアなどからの犯罪集団の流入したこと、などによって縮小したパイをめぐる争いが激化したとみられている。
④の貧困・格差と経済危機については、1990年代発効したNAFTAなどグローバル化の波が零細な農業に影響を与え、若者たちの職を奪い、若者たちが麻薬組織に組み込まれる構造を作ってしまったという背景があるようだ。
こうした状況の中で、はたしてメキシコの国の「分断」を乗り越える妙策はあるのだろうか? 講師の馬場准教授も妙案は持ち合わせてはいないようだった。そのような中で、馬場氏は次の2点をその方途を探る策の一つとして提案した。
一つは、「麻薬をめぐる『南北問題』について理解」すること、とした。現在、消費は先進国、生産は途上国という状況を理解し、そこからの解決を模索すること。
さらには、メキシコ側からアメリカへ麻薬や不法移民が移動していることに対して、アメリカからメキシコへ麻薬の収益や、武器、移民の送金が行われるといったサプライチェーンが構築されている現状にどうメスを入れるかという問題など。
そしてもう一つは、カルテルに対する強硬策の負の影響を考慮した政策形成・国際援助の必要性があるとした。
※ 馬場准教授がメキシコの麻薬戦争の実態を知るうえで理解できる映画として推薦した映画「皆殺しのバラッド」のポスターです。
麻薬をめぐる問題が、国の深層部に深く根を張っているメキシコにおいて、それを解決することは容易な問題ではないようだ。しかも、麻薬の消費国アメリカと供給国メキシコの間に構築されているサプライチェーンの存在など、その解決への道はかぎりなく遠いようにも見える。
しかし、人を蝕み、地域を蝕み、ひいては国をも蝕む“麻薬”は地上から姿を消すまで関係者が努力し続けるべき問題なのだと思う。
そしてそのことに私たち一般市民も関心を持ち続けるが大切なことだと思う。
北大公開講座の新しいシリーズが始まった。法学研究科附属高等法政教育センターが主催する「社会の分断をいかに乗り越えるか?」のシリーズ(4回講座)が始まった。
7月27日(木)夜、その第1講が開講した。第1講は「メキシコの麻薬戦争」と題して法学研究科の馬場香織准教授が担当した。
メキシコは経済発展が著しく、2016年度のGDPは世界16位、ラテンアメリカではブラジルに次いで第2位だということだ。
ところが一方で、近年、麻薬をめぐる暴力の激化が国内では大きな問題となっているという。その要因はメキシコの地政学的条件が関係しているのだが、麻薬消費国であるアメリカと国境を接しているため、メキシコは古くから麻薬の供給地として、あるいは密輸の経由地の役割を担ってきたという。
こうした背景の中で、メキシコ国内では麻薬売買の縄張りをめぐって麻薬密輸組織(カルテル)間の抗争が激化するとともに、カルテルを撲滅しようと策する国とカルテル間の争いも激しさを増しているらしい。
何せこの10年間の麻薬抗争による累積死者数は10万人以上、行方不明者数が約3万人といわれ、この数はシリア内戦に匹敵する数字だというから、相当に激しい抗争が展開されているようだ。
※ 講義中の馬場香織准教授です。
講義は、このように抗争が激化した背景には、①民主化、②大物ボス排除戦略、③コロンビアからのコカイン供給の減少、④貧困・格差と経済危機の4点があるとした。
①の民主化についてだが、メキシコでは2000年にそれまで70年間にわたりメキシコを支配してきた制度的革命党(PRI)の一党支配はカルテルをいわば黙認していたのだが、民主政権の誕生によって、これまでのある種の不文律と均衡が崩壊したことが原因の一つとして挙げられる。
②の大物ボスの排除も民主政権がカルテル壊滅のために実行したのだが、そのことによって組織が細分化され、組織内の争いや犯罪の多様化を産んだようだ。
③のコロンビアからのコカイン供給の減少は、コロンビア政府の対麻薬政策が功を発したことによって、コカイン価格が上昇したこと、コロンビアなどからの犯罪集団の流入したこと、などによって縮小したパイをめぐる争いが激化したとみられている。
④の貧困・格差と経済危機については、1990年代発効したNAFTAなどグローバル化の波が零細な農業に影響を与え、若者たちの職を奪い、若者たちが麻薬組織に組み込まれる構造を作ってしまったという背景があるようだ。
こうした状況の中で、はたしてメキシコの国の「分断」を乗り越える妙策はあるのだろうか? 講師の馬場准教授も妙案は持ち合わせてはいないようだった。そのような中で、馬場氏は次の2点をその方途を探る策の一つとして提案した。
一つは、「麻薬をめぐる『南北問題』について理解」すること、とした。現在、消費は先進国、生産は途上国という状況を理解し、そこからの解決を模索すること。
さらには、メキシコ側からアメリカへ麻薬や不法移民が移動していることに対して、アメリカからメキシコへ麻薬の収益や、武器、移民の送金が行われるといったサプライチェーンが構築されている現状にどうメスを入れるかという問題など。
そしてもう一つは、カルテルに対する強硬策の負の影響を考慮した政策形成・国際援助の必要性があるとした。
※ 馬場准教授がメキシコの麻薬戦争の実態を知るうえで理解できる映画として推薦した映画「皆殺しのバラッド」のポスターです。
麻薬をめぐる問題が、国の深層部に深く根を張っているメキシコにおいて、それを解決することは容易な問題ではないようだ。しかも、麻薬の消費国アメリカと供給国メキシコの間に構築されているサプライチェーンの存在など、その解決への道はかぎりなく遠いようにも見える。
しかし、人を蝕み、地域を蝕み、ひいては国をも蝕む“麻薬”は地上から姿を消すまで関係者が努力し続けるべき問題なのだと思う。
そしてそのことに私たち一般市民も関心を持ち続けるが大切なことだと思う。