まりっぺのお気楽読書

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『緑色の裸婦』人それぞれの難題

2010-05-28 01:59:53 | アメリカの作家

アーウィン・ショー

以前『夏服を着た女たち』を読んだ時には、舞台が都会ばかりだったのと
男女のお話が多かったので、お洒落路線の作家なのかしらね…と思っていましたが
この短篇ではまったく別の一面を見せていただいた気がします。

人々が抱える問題…まったく個人的なようで、実は社会の問題とリンクしています。
でも、やはり抱えた時点でひとりひとり重みが違うものです。

『寡婦たちの再会/1946年』
エミリーと娘のペギーは、霧のせいで着陸できない飛行機に乗っている
もうひとりの娘アイリーンを待っています。
アイリーンは若い頃、ペギーが恋していたドイツ人を奪って結婚し
第二次大戦を終えてアメリカに帰って来るのです。

お互いの息子を戦争で失った姉妹の再会です。
アイリーンはヒトラーを崇拝していたのですが、戦後困窮に陥りました。
やりきれない相手でも家族は家族…いい話しですね、では終わらない物語。
母娘3人の暮らしがこれからどうなるのか、とても心配です。

『緑色の裸婦』
バラノフは革命軍除隊後画家になり、美味しそうな野菜や果物の絵で成功しました。
社会で活躍する女傑アンナと結婚してしばらくすると画風が変わっていったバラノフは
怨念と怒りと絶望が宿る、一枚の凄まじい裸婦を書き上げました。
しかしそのためにソ連を後にすることになります。

バラノフはドイツでも、そして自由の国であるアメリカでも同じ目に遭います。
そんなに恐ろしい絵って何? 恐ろしいのは絵なのか社会なのか?
それとも裸婦にそっくりな妻の顔?
でもそんなことより、バラノフが妻のことを思って口にした言葉が涙を誘います。

『忘却の川の麗らかな岸辺』
働きざかりのヒューは決して物忘れをしませんでした。
しかし結婚記念日を忘れ、それからは物忘れが止まりません。
昔の偉人、いつも買っていた新聞、愛人と待ち合わせしたバーの場所、
金を無心してきた息子の名、夫の借金を返してくれと言っていた娘の顔…

そんな日がやってくるのかと思うと恐ろしくていてもたってもいられません。
でもね、どちらかというと何もかもヒューに甘えていた家族に「ざまーみろ」と
言ってやりたくもなります。
だけど急にこんなことがおこるなんて、誰も、本人でさえ、想像できないものね。

戦争、国家の思想、進行する病…巻き込まれたが最後、誰もが逃れられません。
しかし決して皆が同じ不幸を感じるわけではありませんよね。

収められている7篇全て、登場人物は3人ぐらいです。
極めて小さな環から発せられる社会的不幸…死刑や赤狩りの話しもあります。
批判はありません、哀しさを描いているだけです。

しんみり考えさせられます。

緑色の裸婦  集英社


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