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まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『神の小さな土地』摩訶不思議…男の欲望と女の忍耐

2011-01-09 22:42:05 | アメリカの作家
GOD'S LITTLE ACRE 
1933年 アースキン・コールドウェル

エミール・ゾラの『大地』のような、剥き出しの欲望や金への渇望が
痛々しいほどに激しく描かれているのかと思いきや…
なんつーか、少しは理性で押さえんかい! と怒り出したくなる内容でしたね

『大地』と決定的に違うと(あくまで私が)思うのは
そこに漂う “ どうしようもない感じ ” の強さです。

『大地』では、現在の生活のため、子どもの将来のため、生産量の落ちた土地から
少しでも多くの収入を得るために、家族で激しい土地の奪い合いが展開されます。
そのためには嫁の妹にだって手をだして言いなりにさせてやる! という
荒々しいやり口だって躊躇せず選びます。

なんだけど『神の小さな土地』ではね…

金鉱掘りに全てをかけて、農園を食いつぶしてしまった父を持つウォールデン父子と
その家族たちが主人公です。

父タイ・タイは15年間一家の土地という土地で穴を掘り続けています。
バックとショウはそんな父親の手伝いに明け暮れ、これまた作物を作りませんでした。
バックの妻グリゼルダはものすごい美女で、タイ・タイの自慢の嫁です。
次女ダーリング・ジルは男好きで悪い噂が絶えません。

長男ジム・レスリーは金持ちで病気持ちの女と結婚し、貧しい実家には近づこうとしません。

長女ロザモンドは良い娘ですが、結婚して夫一筋です。
その夫ウィルは工場で働く職人ですが1年以上ストライキを続けています。

で、内容はものすごくはしょるんだけど…

タイ・タイはダーリング・ジルに求婚しているスウィントの情報のおかげで
今度こそ金鉱が見つかると思って、ロザモンドとウィルを手伝いに呼び寄せようと考えます。

冬が越せないので、ジム・レスリーにお金を借りようとも考えます。

それでウィルもジム・レスリーも、バックの妻グリゼルダに完全に参ってしまうわけですね。
自分に妻がいてもグリゼルダに夫がいてもおかまいなし、
「手に入れてやる!」と公言して憚らないばかりか
ウィルにいたっては嫁の前で彼女を押し倒しちゃう始末。

ダーリング・ジルは、姉ロザモンドの夫ウィルの男前ぶりにやられてしまって
姉が目を離した隙にベッドにもぐりこんじゃうし
押し倒されちゃったグリゼルダも「本当に探していた男はウィルだったわ」てな感じで
夫のことも忘れてスト破りについていく有様…
妻ロザモンドは「それでこそウィル!」と惚れ直しちゃうのよ、どう思う?

ジム・レスリーはグリゼルダを奪いに銃を持って実家に乱入する…て
もう無茶苦茶でしょー

問題は、彼らのどうしようもない衝動と本能のみの行動が理解できるか、
これはそうしちゃっても仕方が無いと思えるか、なんですが
わたしゃさっぱりわからんよ。

百歩譲ってどうしても人の嫁を手に入れたいとしましょうよ。
でもなにも “ 直ちに ” じゃなくたっていいのでは? 皆が寝静まるまで待ってみませんか?

もちろん他にもテーマはあるのよ、金鉱のこととか、また工場で働きたいとかさ。
でもそこにもあまりギリギリの崖っぷち感がないんですよね。

物語のラストでは、兄弟・義理の兄弟入り乱れての惨劇を招くのですが
哀しさも力強さも何も感じませんでした。

ドリフとか吉本新喜劇で最後にドタバタドタ~って終わるじゃない?
むしろあんな情景が頭に浮かんじゃいましたよ。

発売時センセーションを巻き起こしたと言われるこの物語…
Weblioによれば “ センセーショナル ” の語意には
あざとい、えげつない、興味本位の、などの意味があるみたいです。

この『神の小さな土地』はうっすらとそんな感じを受けた本でした。
欲望のはけ口、やり場の無い怒り、みなぎる力の象徴などなどの吐露を
すべてセックスでかたずけちゃってるような気がしてなりません。
一番手っ取り早いと言ってしまえばそれまでなんだが…
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『オリーヴ・キタリッジの生活』活字になった不幸

2011-01-05 01:37:54 | アメリカの作家
OLIVE KITTERIDGE 
2008年 エリザベス・ストラウト

これから訪れる人生の中盤から後半を考えさせられる興味深い一冊、
すごく面白い本です。

この本は、どうにもこうにも人をやりきれない気分にしてしまう
オリーヴ・キタリッジという女性と、彼女を取り巻く人々を描いた
13篇の短篇から成り立っています。

オリーヴが40代だった頃から70代になるまで、物語は断片的にちりばめられています。
彼女が主人公のものもあれば、一瞬しか登場しない物語もあります。

何がすごいって、読んでいたら不幸のオンパレードなんです。
ごく日常茶飯事的ものから、ありそうもないことまで一緒くたになっているのですが
それがものすごくスムーズに一冊に収まっているんですよ。
“ 不幸かも… ” を旗印にして活字にしたことで、違和感が無くなってしまっているみたい。

好きだった物語は他にあったりするのですが
せっかくなのでオリーヴが主人公になっている物語をいくつか紹介しますね。

『小さな破裂(A Little Burst)』
息子のクリストファーが気に入らないタイプの女性と結婚することになりました。
家族で造った息子の新居での結婚パーティーで
疲れを感じたオリーヴは新婚夫婦の寝室のベッドに横になります。
すると窓の外で嫁が友達に自分のことを話している声が聞こえてきました。

新しく家族になった人が自分のことを何て言っているか、考えたらドキドキです。
良いことならいいんですけどね、悪口だったら…
オリーヴは腹いせにとんでもない行動にでます。
最初が肝心です、気をつけましょう。

『チューリップ(Tulips)』
クリストファーは嫁にそそのかされ、新居を捨てて西海岸に行ってしまいました。
すぐに離婚してしまったのですが故郷へ帰ってくる気は無さそうです。
夫のヘンリーは倒れて介護施設に入ってしまいました。
オリーヴは自分より不幸そうなラーキン家のルイーズを訪ねてみることにしました。

人の不幸を見て自分の不幸を軽くしようとオリーヴが考えていたとしたら
そのあては見事に外れます。
やはり母親の不幸は子どものことになるんですかね?
ふたりの母親が息子のことで当てこすりを言い合う様は、想像するとちょっと恐ろしい…

『セキュリティ(Security)』
ニューヨークに引っ越して子持ちの女性と再婚したというクリストファーに呼ばれ
オリーヴは老体にムチ打って出かけて行きます。
再婚相手のアンは妊娠中なのに酒もタバコもやめません。
連れ子の男の子は生意気だし、下の女の子はまったくオリーヴになつきません。

オリーヴは、人が言うほどやりきれない相手だとは思っていませんでしたが
この物語を読んだら少し理解できました。
側にはいてほしくないタイプだけど、見方によってはだだっ子みたいで可愛いかも…
しかし老母を呼んどいてちょっとないがしろにしすぎじゃないのかね?

この作家の文章は簡潔で読みやすいと思います。
けれども話しの核心にまっしぐらに向かっていくという書き方ではありません。
ちょっと寄り道があって、ユーモアがあって、別件が見え隠れしているうちに
テーマとなっている問題に迫ってる、という感じです。

私は最初に不幸のオンパレードと書きましたが、泣ける! 涙が止まりません!!
という、いかにもお涙ちょうだいな悲しさはありませんので念のため…
不幸押しまくりではないので、気分も重くならずさっぱり読めますよ。

こう言ったらわかっていただけるかしら?
友人から聞かされる家庭内や恋愛の愚痴とか不満がありますね。
その時はかなり真剣に同情するのだけど、翌日にはまったく考えないという…
忘れたわけではなくて考えないのです、という程度の不幸。

そういう本です。
友達の愚痴を聞いている気分で読んでみたらいかがでしょうか?
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『誕生日の子どもたち』絵日記の世界にいる感じ

2010-12-23 22:56:23 | アメリカの作家
CHILDREN ON THEIR BIRTHDAY 
トルーマン・カポーティ

童心に返りたい、という人におすすめの美しくて楽しくて哀しい一冊です。

収められている6篇のうち4篇は短篇集『夜の樹』『ティファニーで朝食を』などで
読んだことがあるのですが、村上春樹さんの訳なので再読してみました。

5篇は田舎での子ども時代を描いた物語で、思い出話のように書かれていますが
子ども目線の純粋さが表れています。

子どもが主人公でありながら「子どもが書くかいな!」という哲学的な一文や
大人びた思想を差し挟んでいる小説がありますが、この本にはそんなところがなく
単純に、素直に出来事が綴ってあります。
しかしさすがにカポーティが書いているだけあって
その舞台や背景の素朴で楽しそうな素描が見えてきます。

全部いいお話しですよ。
でもクリスマス前なのでクリスマスと感謝祭のお話しを3篇ご紹介します。

『感謝祭の客(The Thanksgiving Visitor)/1967年』
乱暴者のオッドにいじめられることを恐れて学校には行きたくないのに
唯一の親友であるミス・スックは「我慢しなさい」と言います。
それだけでなく、反対を押し切って感謝祭のディナーにオッドを招待すると言います。
貧しいオッドの母親を訪ねたミス・スックは、喜んでやって来るという返事をもらいました。

『クリスマスの思い出(A Christmas Memory)/1956年』
毎年、冬の訪れを知らせる朝がくると、友人である60歳の従姉と
クリスマスの準備を始めました。
大統領やバスの運転手さん、1年に2回やって来る研屋さんなどのために
30個のケーキを焼くのです。
そのために二人で貯めたお金を握りしめ、買い出しに出かけ、4日がかりで焼き上げました。

『あるクリスマス(One Christmas)/1982年』
6歳のクリスマス、ニューオーリンズにいる父に呼ばれていやいや田舎の家を後にします。
本当はミス・スックたちのいるアラバマの家で過ごしたかったのです。
うんざりするパーティーの後、父がプレゼントをツリーの下に並べているところを見てしまい
サンタクロースがいないことを知ってしまいました。

上の3篇は、全てが本当ではないかもしれませんが、カポーティの幼少期の思い出が
ベースになっているようです。
カポーティが子ども時代を書いた物語は、本当に楽しそうで幸せそうで大好きです。
たとえ一瞬だったとしても、生涯胸に刻まれている思い出がある人生はとても羨ましい、
そして、それを人々に伝える術を持っているというのは素晴らしいことだと思います。

『クリスマスの思い出』では、大好きなミス・スックとの別れとその後が書かれていて
とても悲しくなりますが、人が避けて通れない悲しみのひとつです。
大好きだった人たちとの永遠の別れ… できたら避けて通りたいんですけどね。

同じような内容の物語をもう1篇ご紹介。

『おじいさんの思い出(I Remember Grandpa)』
学校に上がる年、おじいさんとおばあさんを残して
両親と山の向こうに移ることになりました。
おじいさんはしきりに秘密のことを口にして、いつか帰って来るように言います。
夕食の席でいいドレスを着たおばあさんはポタポタ涙を落として泣きました。
嵐のせいで1日早く家を発つことになりましたが、おばあさんは起きてきませんでした。

これはミス・スックも登場しないし、両親もいるので完全にフィクションですが
おじいさんのモデルになった人はいるそうです。
最後はとても悲しい結末ですが、やはり若い人の未来は優先されるべきだと思う、
家を出た3人を薄情だと言い切ることはできないと思います。

さて、訳によって話しの善し悪しは決まるか…という問題ですが
読みやすさとか好き嫌いがあるとはいえ、いいお話しに変わりはない、って感じでしょうか。
今まで龍口直太郎氏、川本三郎氏、河野一郎氏の訳でカポーティを読んでますが
どれもこれも素敵な短篇集でした。
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『終着駅』文豪を悩ます愛の綱引き

2010-11-24 01:22:22 | アメリカの作家
THE LAST STATION 
1990年 ジェイ・パリーニ

副題は『トルストイ最後の旅』です。

何度も書いているように、私は作家の私生活にはあまり興味がないのですが
トルストイの奥様が悪妻だったという話しを聞いたことがあったので
ちょいと真相が知りたくなって読んでみました。

トルストイ本人と、奥様ソーニャ、弟子のチェルトコフ、三女サーシャ
主治医マコヴィーツキー、秘書ブルガーゴフの手記と日記、手紙で
最晩年である1910年にトルストイを取り巻いていた環境と
トルストイが82歳で家を出て、田舎の駅で亡くなった経緯を紹介しています。

手記などの内容は本物でしょうが、ノンフィクション、記録と考えず
物語として読んだ方が断然面白いと思います。

とにかく、ソーニャの手記はトルストイや彼を取り巻く人たちへの憎悪が滲み出ているし
ソーニャ以外の人たちはソーニャの行動を激しく非難しています。

ソーニャはチェルトコフからトルストイを守らなければいけないと
常に行動に目を光らせて、何から何まで知らずにはいられません。
チェルトコフ、マコヴィーツキー、サーシャは、
ソーニャがトルストイを窮地に陥れると考えて彼を自分で保護しようと躍起です。

誰も彼もが自分が一番トルストイを理解していると思っているし
自分が一番信頼を得ている、あるいは愛されていると考えています。

皆から愛されるというのは幸せなことでしょうが、こうも愛されると窮屈そう…
どいつもこいつもほっといてくれやしないという毎日はしんどくないですか?

皆の手記をほぼ平等に取り上げ、両者の言い分が書かれていますが
とりあえず、一番の悪者はソーニャに見える…というのが読み終わった感想です。

でも…トルストイファンの皆さん、怒らないで下さいね
ここからソーニャに譲歩して、ものすごく味方になって深読みしてみます。

トルストイは自分が贅沢な暮らしをしていることを恥じていて抜け出したいと書いています。
でもソーニャを愛していて彼女の言い分も尊重しなければ、と考えて耐えていました。

トルストイは貴族(伯爵)らしからぬ服装をして下級の人々とも気さくに接して
時には貧民街にまで出かけて行って語り合うなど、階級を捨てたような行動もしています。

でもさ…結局は捨ててないわけよね。
例えばソーニャがものわかりのいい妻で、トルストイの言いなりだったら?
「私も子供たちも、遺産や階級はいりませんよ」と彼の意志に従っていたら
トルストイは身分を捨てて貧しい人たちの中で暮らしたでしょうか?

『幼年時代』『少年時代』を読めばわかるように根っからの上流育ちのトルストイ。
きっと思い切れなかったと思うわ、それに捨てる必要もないと思うし…

ソーニャはそんなトルストイの、恰好の言い訳になったんじゃないかと思うんですよね。
そしてトルストイが命の残り少なさに気がついた時、ソーニャを捨てることで
自分の主張を正当化してみせた…っていうのはどうでしょう?

本当に本当に、ソーニャに百歩譲った感想です。
でも50年我慢して連れ添った女性を捨てるにはあまりにも唐突な行動なんですもの。
それまでにソーニャと別れても、誰も非難しなかったと思うのに…それほど強烈な妻です。

ともあれ、文豪とよばれたトルストイを取り巻く人間劇、
実話だろうがフィクションだろうがかまわないほど入り込めますよ。

映画化されるそうですが愛の部分が強調されてたら雰囲気台無しだと思います。
本の方がドロドロしてて面白いんじゃないかと思いますが…
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『夜の姉妹団』やりすぎ創作料理っぽい一冊

2010-11-07 19:28:10 | アメリカの作家
THE SISTERHOOD OF NIGHT 

副題が “ とびきりの現代英米小説14篇 ” となっているのですが
12篇中8篇がアメリカの作家のものなのでアメリカのカテゴリーに入れてしまいました。

“ 現代 ” というのが現在(2001年当時)活躍中の作家という意味なのか
はたまたコンテンポラリーな作家という意味なのか…
ニュアンスとしては後者だと思います。
つまり、根っから現実的な私には苦手なジャンルでした

普通に書いて下されば面白いものもあると思うんだけど
随所に新しい試みがあるものだから、何が言いたいのか
よくわからなくなってしまうんですよね。

『お願いランキング』という番組でレストランの没メニューを紹介するコーナーがあって
「あ~、そんなことしなきゃ美味しそうなのに」という料理が登場します。
この本の物語にはそんな残念さが漂っている気がします。
文学を学んでいる方や、探究心旺盛な方には興味深い内容かもしれませよ。

比較的理解しやすかった物語をいくつかご紹介します。

『夜の姉妹団(The Sisterfood of Night)/1994年 S・ミルハウザー)』
町の少女たちが夜な夜な集まって何をしているのか? 大人たちは知りません。
裸で踊るとか、動物の血を飲むとか、おぞましい噂が飛び交います。
そんな中、雑誌に掲載されたある少女の投稿がセンセーションをおこします。

何をしているかわからない、というのは周りに恐怖感を与えるものですよね。
よくニュースでとりあげられる、所謂 “ カルト ” と呼ばれる集団が怪しまれるのも
秘密主義が原因のひとつになっている気がします。
少女たちの行動は、自分が十代の頃を思い返せばそんに不思議では無い気がしますけど…

『シャボン玉の幾何学と叶わぬ恋(The Geometry of Soap Bubbles and Impossible Love)
                      /1993年 R・ゴールドスタイン』
浮かれたことが好きな祖母サーシャと、生真面目な古典の教師の母クローイと暮らしている
26歳のフィービーは、シャボン玉の幾何構造に魅せられ研究に熱中しています。
彼女は8歳のとき、80代のペノワイエ氏に叶わぬ恋をしました。

祖母、母、娘の三代が暮らすって理想的じゃないですか? 実の母娘に限りますけどね。
世代も性格もまったく違う女性たちが醸し出す雰囲気がクールな物語です。
大姑、姑、嫁の三代にわたる寡婦だったら恐ろしいことになりそう…

『ラベル(Labels)/1993年 ルイ・ド・ベルニエール』
なにか趣味を持たねば…と探していた時、キャットフードのラベルに惹かれました。
その後はラベルを集めスクラップをする毎日です。
とうとう妻も出ていき、仕事もクビになり、食料を買う金も底をつきました。

食料は買えないけどキャットフードは買うのよ…コレクターのカガミよね。
想像がつくと思うけど、主人公はキャットフードに手を出します。
でもただ食べるだけじゃないというところがミソ! ある意味やり手です。

私がどこらへんに戸惑うかというと、急に場面や話しが変わったりして
起承転結もなにもあったものじゃないところですかね?

ハネムーンに行ったら知人が大勢押しかけて来て長い間夫にたどり着けなくなったり
劇作家ジョン・フォードの戯曲を映画監督ジョン・フォード(別人)がシナリオ化したり
ボルヘスの短篇『南部』のその後を知りたくて “ 物語 ” を訪ねてみたりとか…
まさに「創作」という言葉がぴったりの作品。

あまりにも現実離れしすぎていて、登場人物に共感することもできないし
自分に置き換えて涙したり喜んだりすることもできない小説というのは
楽しめないし、読みがいがないんですよね。
フィクション、ファンタジーとはいっても、入り込める物語が好きでございます。

いや、所詮想像の世界なんだから現実を遠く離れてありそうも無い話しを読みたい!
という読者には面白い一冊なのではないでしょうか?

ところで最後にひとつ! D・バーセルミのすごく短い小説
『ドナルド・バーセルミの美味しいホームメードスープ』というお話しは
もはやクノールの広告にしか思えないんだけどタイアップ?
クノールはこれをもとにCFを1本作ってみてはいかがでしょう?
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『パラダイス』憎悪は創り出される

2010-10-26 22:53:15 | アメリカの作家
PARADISE 
1998年 トニ・モリスン

静かな迫力を持った文章と内容にどんどん引き込まれていきました。
残りのページが少なくなるにつれて悲しくなりましたよ。
もっと読み続けたかった…

いきなり殺戮のシーンから始まります。
これはプロローグでありエピローグ。
適度な緊張感を保ったまま、物語はすすんでいきます。

時代は公民権法制定から10年ほどたった1976年、
舞台はオクラホマのルビーという黒人のコミューンです。
ルビーは、自由になったと言いながらどこの町でも受け入れてもらえなかった黒人たちが
流れ着き、造り上げた町でした。

襲われたのは “ 修道院 ” と呼ばれる5人の女性が暮らす館です。

あらすじを書くのはかなり難しいのでやめますね

不穏な雰囲気を醸し出すシーンから始まる物語は
“ ルビー ” “ メイヴィス ” “ グレイス ” など女性の名前を冠した9章で構成されてます。

その名前がついた女性のエピソードが書かれていると思うでしょ?
それはそうなんだが…

修道院で暮らすようになった女性、修道院を襲った男性、その妻や娘や母たち、
町の変化を阻む者、変化を歓迎する者、様々な人々の断章がちりばめられ
複雑に絡み合って各章を成しています。

登場人物も多く、田舎町にありがちなややこしい親戚関係もあります。
場面もころころ変わり、宗教的な言及も多い…普通なら読みづらいはず。
でもまったく別々のパーツが組み合わされてひとつになっていく様が
これほどわかりやすい小説はあまりないんじゃないかしら?

組み合わされてでき上がったもの、それは憎悪の対象です。
9人の男性たちが抱える、各々のやりきれなさから変化した怒りが
謎の多い、ふしだらに見える女性たちに向かっていきます。

修道院が襲われる激しい息づかいが聞こえてきそうなシーンが再び展開された後
物語はある意味ファンタジックなラストを迎えます。

結局、個人が集団となって何かに怒りをぶつける時って
象徴的なキーワードが必要になるものなのね。
バラバラの方向を向いて違う温度で見ている人たちをひとつにする媒介が…

その象徴を決定するのが、この物語では、ルビーを造った男たちの子孫の中で
町の秩序を守り抜こうとする者たちと、変化を嫌う牧師…になるのかな?

デモとかテロとかって…
中には信念を持ってやっている人もいらっしゃるでしょうが
そのはけ口はなんでもいいという人もけっこういるんじゃないでしょうか?

それはさておき…
『パラダイス』はいろいろな恐ろしさをはらんではいるものの
どことなく高貴さが漂う、美しささえ感じられる物語でした。

余談です
今日は韓流ドラマ『ゲームの女王』(TVK放送分)が最終回なのよ!
それなのにテレビ神奈川がいきなり映らな~い !! なぜ? さっきの雨のせい?
神奈川全域がそうなっているのだったら明日放送してほしい…
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『世界短編名作選 アメリカ編』Heart of America な一冊

2010-10-03 00:45:23 | アメリカの作家


同シリーズの『イギリス編』に異彩を感じたのでアメリカ編も読んでみました。

社会派な一冊、て感じかしら?

宗教間の争い、戦争、独裁、公権の私物化、失業、貧困、などなど
文明社会が抱える問題をテーマにした13篇の物語が選ばれています。

中でも人種問題を扱ったものは
公民権運動前から運動後まで、5篇の物語が収められています。

アメリカ人の良心が込められたような作品と
どうしようもない世間を見限ったような作品が入り交じっています。
どちらも読んでいるうちに少しジーンときます。

13篇の中から好きだったものをいくつか紹介します。

『一兵卒の帰還/H・ガーランド 1891年』
長い間列車にゆられ、やっと故郷の駅に戻ったスミスと3人の仲間たち。
スミスは妻子を残し、農場の経営も人に任せて志願兵になったのでした。
出発は盛大に見送られたのに、到着は誰の出迎えも無く寂しいものでした。
スミスは家族に会いたくて休みも取らずに尾根を登り続けました。

祖国のために! と志願して戦った兵士の帰還がこんなに無念さに溢れたものなら
徴兵されて亡くなった兵士たちの無念さは計り知れませんね。
「戦争を!」と言う人たちは、自分が前線に出るべきだと思う。

『変節者/J・ロンドン 1911年』
7歳の時から工場で働き続けている父親のいない18歳のジョーイ。
優秀な工員になって最高額の賃金をとるようになったのに
弟妹を学校に通わせるため暮らしは一向に楽になりません。
インフルエンザでしばらく工場を休んだ後、ジョーイは家を出ていきます。

この一家、働いてくれる人への感謝が足りなすぎると思うの。
学校に行かせてもらって当たり前という弟の態度は、私でもいらつきます。

『この世でいちばん幸せな男/A・モルツ 1938年』
ミズーリからオクラホマまで1週間かけて歩き義兄トムを訪ねて来たジェシィ。
みすぼらしくなったジェシィは、トムに仕事をくれと頼みます。
トムはニトログリセリンをトラックで運ぶ仕事の危険さを説明して止めますが
ジェシィは「人並みに暮らしたい」と言って聞き入れません。

背に腹は…の気持ちで危険な仕事に挑む人たちのつらさに満ち満ちています。
勤める方はもちろん、止めきれなかった義兄の無念さも痛々しい物語です。
イラクでもそういうお仕事があったと記憶していますが…家族も辛いですよね。

人種問題がテーマの物語は、どれも重い雰囲気ではありましたが
この時代を歩み、乗り越えて、オバマ大統領の時代がきたのかと思うと
アメリカという国の正義感を、少し信じてみてもいいかな…という気になります。
特に『ある金曜日の朝/L・ヒューズ』という物語を読むと
けっこう熱い気持ちになりました。

人間が酷い過去を作ってきたのなら、これからだって起こり得る、ということですよね?
他人の国の遠い昔の話しだなんて思わず教訓にいたしましょう。
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『ビッグ・アップル・ミステリー』力ずくの推理にお手上げ

2010-09-17 00:06:16 | アメリカの作家
THE BIG APPLE MYSTERIES 
J・ヤッフェ/S・パーマー/H・ペンティコースト/C・ロースン
F&R・ロックリッジ/E・クイーン/R・L・スティーヴンズ/R・スタウト
Q・パトリック/C・ウールリッチ/E・D・ホック/I・アシモフ

何度も書いているように、アガサ・クリスティ以外の推理小説は
ほとんど読んだことがないわたし…

ニューヨークを舞台にして、いろいろな推理作家が競演するということで
新しい発見があるのではないかと渋谷古本市で手に取ってみました。

そうですねぇ…
推理小説って、古今東西すごくたくさんあるじゃないですか?
これだけあると「どこかで見たトリック…」というものも多くないですか?

作家の皆さんは、最後の種明かしで読者が「あ!」と驚く推理を繰り広げるべく
日夜新たなトリックを生み出していらっしゃることでしょう。

でも、推理小説慣れしていない私には “ 考え過ぎちゃった? ” という印象。
だって、どこにそんなヒントがあったのか、はたまた
それが犯人を落とし得る動かぬ証拠と言えるのか…よくわからないんですもの

気になった物語をいくつかあげてみます。

『春爛漫のママ(Mam in the Spring)/ジェイムズ・ヤッフェ』
ミルナー警部をママとくっつけようと夕食に招きました。
話題はもっぱら五番街でおきた老婦人マーガレット殺人事件のこと。
彼女の甥夫婦は、殺人の1週間前に伯母と怪しい男のことを警察に相談していました。

なんつーか…ミス・マープルにしか思えんかったです。
突拍子もないことを言ったり、いきなり核心をついたり、知人の話しを持ち出したり…
違いは未亡人で息子がいてニューヨークに住んでるってことかしら?
ママのシリーズは人気らしいです。

『殺人のかたち(Pattern for Murder)/フランセス&リチャード・ロックリッジ』
中西部からやって来たファーンのために、同窓生3人とその夫たちで晩餐会を開きました。
彼女はお酒を飲まないのにとても興奮して、誰も覚えていない昔のことを話し続けます。
しかし食事の席に向かう途中、ファーンは階段から落ちて死んでしまいました。

この物語は推理小説というより、雰囲気がとても好きなお話でした。
殺人をおこさないで3組の夫婦とひとりの独身女性の心の伝わらなさみたいなものを
描き続けても良かったかも… 元も子もありませんけど。
推理は今ひとつよく分かりませんでした、そんなことで自供しちゃう?

『地下鉄の怪盗(The Phantom of the Subway)/コーネル・ウールリッチ』
車掌ディレニーが早朝の当番になった日の真夜中、ブロードウェイで50万ドルが奪われ
犯人が逃げているというニュースが飛び込んで来ます。
ディレニーは、犯人が持っていたとされるスーツケースをデッキで見つけました。

これは推理小説かどうかは別にして(だって推理がないんですもの)
ハラハラドキドキ感が味わえたお話しでした。
やはり開放的な地上の電車より、暗闇を走る地下鉄の方が絵になりますね。

推理小説ファンには錚々たる顔ぶれの作家陣だそうで、人気シリーズもあるらしい…
すみません、エラリー・クイーン以外は知りませんでした。
それから、お年を召した女性が探偵だと聞くとミス・マープルと比較しちゃう癖があります。

だから、本当の推理小説ファンの方が読んだらものすごく面白い一冊かもしれません。

でも、私はもう少しわかりやすい方が好きかしら…
それを文章で面白く読ませていただけると嬉しいですね。
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『草の竪琴』美しい想い出の哀しさ

2010-07-25 00:07:44 | アメリカの作家
THE GRASS HARP 
1951年 トルーマン・カポーティ

この小説をどう表現したらよいかしら? と悩みましたが
結局私の貧しいボキャブラリーでは “ 美しい ” という言葉になってしまいます。

母親に続いて父親も亡くしたコリン少年が、11歳から16歳まで一緒に暮らした
かなり年上の従姉ドリーとの日々を回想する物語です。

ドリーは60歳の未婚女性ですが、純粋で無垢な少女のような女性です。
優しくておとなしくて、とても恥ずかしがりやでした。
薬草で水腫によく効く薬を作って、細々とお得意様に売っています。

ドリーの妹ヴェリーナはいくつもの商店を持っているやり手です。
町でも顔が利くし、家の中でも姉ドリーをさしおいて家長の座にすわっています。

ドリーのたったひとりの友人は、小さな頃ドリーの家に引き取られたキャサリン。
気の弱いドリーをかばい、ヴェリーナのことをボロクソに言う
ちょっと変わった年配の女性です。

コリン少年は、ほとんどの時間をドリーとキャサリンと過ごしました。
キッチンでのお茶、休日の野草摘み、屋根裏でのおしゃべり…
十代の少年にとって良い環境なのかどうかはさておき、コリン少年には心楽しい日々でした。

しかし、コリン少年がドリーと過ごした最後の夏、平穏な日々に終わりが訪れました。
ヴェリーナがドリーの薬に目をつけ、事業を興そうとしたからです。

ものすごくかいつまんで書くと、ドリーは珍しく妹に反抗するのね。
そしてキャサリンとコリンを連れて家出をしてしまいます。
3人はピクニックで見つけた木の上の小屋で暮らすことにします。

このことがヴェリーナのみならず、町の常識派たちを怒らせますが
それまでつき合ったことがないような、新たな友人もできました。

牧師や保安官が説得にきたり、なんとか家に連れ戻そうというおせっかいが押しかける中
3人の生活はどうなっていくのでしょう?

あらすじはともかく、ドリーとコリン少年の毎日は
カポーティの少年時代が下敷きになっているようです。
ドリーは彼が一緒に過ごした従姉のミス・スックがモデルです。

カポーティはその時代があまりにも楽しかったのか
『ティファニーで朝食を』に収められている『クリスマスの思い出』や
『夜の樹』の『感謝祭のお客』のような短篇でも書いていますよね。
読んでいると、本当に幸せだったんだろうな…と思える物語です。

文壇の寵児になり、セレブになった後にすさんでいったカポーティの晩年…
美しい想い出は彼にとってどんなものだったのでしょうか?

いつまでも心の中で光っている宝石だったのか、二度と帰れない過去の墓標だったのか…
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『時の娘』SFに挑戦してみた!

2010-07-12 23:50:53 | アメリカの作家
DOUBLE TAKE AND OTHER STORIES 

めちゃくちゃ現実的な私は “ SF ” と名のつくものとはほぼ無縁に生きてきたわけですが
“ ロマンティック時間SF傑作選 ” という副題と、ジャック・フィニィの名につられ
読んでみることにいたしました。

結論からいうと面白かった!
ただ、この本に収められている物語がどれぐらい本格的なSFなのかは分りません。

そんなSFオンチな私でも特に楽しめた物語をいくつか…

『チャリティのことづて(A Massage from Charity)/1967年 ウィリアム・M・リー』
1700年に生きる11歳の少女チャリティと、1965年に生きる16歳のピーターは
お互いが病気になった時から交信ができるようになりました。
ピーターはチャリティに265年後のアメリカの姿を見せてあげようとしますが
そのせいで彼女は魔女裁判にかけられることになってしまいます。

未来を知ってしまう…幸せなのか不幸なのか分りませんね。
しかしコカ・コーラやアイスクリームを知ってしまった子どもに
もとの質素な生活に戻れというのは酷な気がします。

『台詞指導(Double Take)/1965年 ジャック・フィニィ』
美しい女優ジェシカと台詞指導のジェイクは、ロケのためにニューヨークを訪れます。
ふたりとスタッフたちは、1920年代のバスで真夜中の街をテスト走行することにしました。
しかし街の人々は驚きもせず、バスに乗っては降りて行きます。

思えば『ゲイルズバーグの春を愛す』でも乗り物や衣装の描写が
ノスタルジックな雰囲気を演出していましたね。
“ 夢か現実か ” なんてどうでもよくなる 美しく切ないお話しです。

『かえりみれば(Backward,Turn Backward)/1970年 ウィルマー・H・シラス』
30歳の時「若い頃に戻ったら有意義に人生を送る」と言ったことで
ある科学者から15歳に戻されてしまったミセス・トッキン。
しかし授業内容は覚えていないし、未来の夫ポールに出会えるか不安だし…
その上、ついスピーチで言ったことが校内で科学的な物議を招きます。

いろいろ大変だろうとは知りつつも、15年ぐらい前に戻りたいわ。
そうしたら水泳を始めてスタイルを保ち、エステに通ってお肌をケアし…
やっぱり女性はそういう方向で考えちゃうわよね!

SFと聞くと、どうも得体の知れない生物とドンパチやってるイメージしかなかったのですが
“ ロマンティック ” と謳っているだけあって、どの物語も恋愛がベースになっています。
それが私でも楽しめた要因なのかもしれません。

しかし現代ならともかく、50年ぐらい前にこんな物語を思いつくなんてすごいわ…と
ちょっとSFのジャンルを見直しました。

ところで『むかしをいまに』というお話は『ベンジャミン・バトン』とそっくり!!
ちょっとアプローチの仕方が違いますが、人生を遡っていくあたりがね…
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『同じ一つのドア』アンチドラマティックな日常

2010-06-30 02:00:41 | アメリカの作家
THE SAME DOOR 
1959年 ジョン・アップダイク

アップダイクは、自分の経験を物語にするタイプの作家だったそうです。
この一冊には16篇の短篇が収められていますが、テーマとなっているのは
そこらへんで日常的に目にする出来事で
「珍しい体験をした」「驚くべきことがおこった」というものではありません。

それなのに読み物として完成しているのは凄いと思う。
だって本当にドラマティックな内容じゃないんだもの。
だけどちゃんと読ませてくれる…私はそういう短篇がけっこう好きです。

そんな物語からいくつか…

『黄色いばらを黄色にしたのは誰?(Who Made Yellow Roses Yellow?)』
パリから帰国したフレッドは早速クレイトンを食事に誘いました。
羽振りがよくなったと言うクレイトンから仕事を世話してもらおうと思ったからです。
しかし、クレイトンはとても忙しそうであまり時間が取れませんでした。

厳しい時代ですね…お友達に仕事の世話を頼む人もつらいでしょうが
頼まれた方も大変だと思うわ。相手をよく知っているだけに…
とにかく、儲かっている会社はどんどん人を採用してほしいと思います。

『最良のとき(His Finest Hour)』
チャンドラー夫妻は、隣のアーヴィ夫妻の部屋で争う声を耳にします。
アーヴィ夫人の声が次第に狂気じみてきたので、とうとう警察を呼ぶことにしました。
警察が着いた時、夫はいませんでしたが夫人は血だらけでした。

このお話、翌日には意外な展開を迎えます。
隣には干渉するなという都会の掟みたいなものを感じました。
彼らの行動は正しかったと思うけど、後々面倒くさいことになりそうだものね。
あ! 殺人とか、そういう恐ろしい話しではないです。

『市からの贈り物(A Gift from the City)』
リズが10ドルを与えた黒人が、どうしても夫のジェームズに礼を言うと言い張ります。
彼は翌日タクシーでやって来て料金を払えと言い、家に入れると苦労話を始めました。
ジェームズは20ドル渡し、さらに帰りのバス代まで与えました。

腰が低くて弱気、でも凄腕のたかり屋、なんですかね?
一度見せた優しさが面倒な状況を招くなんてやりきれないけど、ありがちな話しです。
こんな目に遭うと、優しさを見せるのはやめようなんて気になっちゃうわね。

ね、そんなにとりたてていう話しじゃないでしょう?
仕事を探してもらおうと思ったり、近所から激しいケンカの声が聞こえたり
施しを下さいと言われたりなんて、ありがちなことです。

日々起こる小さな出来事…その時あなたはどうするか? で
まったく人生に関わりのないことになるか、何かを感じる出来事になるか別れるわけですね。
平凡な毎日って結構エキサイティングなものです。

 日本は頑張ったってば!
正直パラグアイ相手に互角に戦えるとは思っていなかった私…南米は強いものね
今日勝てれば、次はスペインが相手でもポルトガルが相手でも勝てると信じてたわ!
これからは心おきなくハンサムな選手がいるチームを応援します。
まずはフェルナンド・トーレスがいるスペインを今から…
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『メイプル夫妻の物語』寄せては返す…倦怠期のさざ波

2010-06-19 01:47:22 | アメリカの作家
TOO FAR TO GO - THE MAPLES STORIES 
1979年 ジョン・アップダイク

アメリカの離婚事情はよく知りませんけどね
こんなにスタイリッシュな離婚劇があってよいのでしょうか?

メイプル夫妻の、結婚2年目から24年目の離婚までを綴った一冊です。
22年間をずーっと書いているわけではなく、2年目、7年目など
離婚へ至るポイントになった出来事を断片的に集めた短篇集です。

どのエピソードも1日から2日間の出来事が書かれています。
その他の日は安泰に暮らしていると思われる節もある…
読んでいると「別れちゃいな!」とも「別れなくても…」ともいえる
微妙な夫婦関係に思えますけど、一度でも倦怠期を経験した夫婦なら
その感じ、理解できるんじゃないかなぁ…

興味深かったものをいくつか…

『妻を待つ』
11時に帰るはずのジョウンが帰ってこないのでリチャードは不安にかられます。
やっと帰って来たジョウンは落ち着き払っていて
「メイソン夫妻はつらそうで、怒ることもできなかった」と言いました。
ジョウンは、リチャードの不倫相手とその夫のもとへ呼ばれて行っていたのです。

ちょいとちょいと、不倫の後始末に妻が行くってですか?
結婚15年目ぐらいの出来事みたいです。
妻が行ってあげるあたり、まだ愛が残っていると思えなくもない…
でも落ち着き払っているところはどうなのか? もう見切っているということかしら。

『薫製鰊の理論』
メイプル夫妻の新居で開かれたパーティーの後、リチャードがひとりの女性とばかり
踊っていたことを、ジョウンが「カモフラージュの “ 薫製の鰊 ” 」だと言います。
その後二人はお互いの薫製の鰊と本命の魚を探り合います。

実はこの物語の前にジョウンが浮気相手を告白する話しがあって、しかもひとりじゃないの。
夫婦でお互いの本命を探り合うってどうなんですの?
つき合う前に、お互いの気持ちを探るために冗談で言い合うというのはあるけど
この夫婦は本気で言ってるのだろうか? 謎です。

『ジェスチャー』
別居して一夏が過ぎましたが、リチャードは毎晩家族と夕食を食べていました。
しかしジョウンに促されて町を出ることになりました。
リチャードが借りたアパートには、不倫相手のルースも来ればジョウンも来ます。
ある日食事に出たメイプル夫妻はお互い自分の恋人のことを話したがります。

ジョウンも恋人ができたし、よかったね!って、ルースは友人の妻なんだけど…
お互いの気を惹きたくてわざとやってると思えなくもないけど
本気で不倫をしているような気もします、少なくとも夫の方は。

アップダイクは、自分の経験を短篇にしていることが多いそうですし
離婚もしていますので、もしかして実話? と思ったりしています。
でも、もし実話でも、あくまでもアップダイクサイドからの見方で書いているわけで
妻がどう思っていたかは想像の部分でしかありえませんよね。

離婚に至るまでの男性と女性を比べたら、たぶん女性の方がしたたかに気持ちを隠す…
ふふふ…
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『ニューヨークは闇につつまれて』不幸じゃない、幸福じゃない

2010-06-09 02:37:44 | アメリカの作家

アーウィン・ショー

私はアーウィン・ショーの本は4冊しか持っていないのですが
この本を読んでいて、『夏服を着た女たち』『緑色の裸婦』を読んだ時には
気がつかなかったことにハタと思いあたりました。

選者(常盤新平氏)があえて『夏服を~』と差別化したのかもしれませんけど
ショーってユダヤ人だったのね、と初めて知った一冊でした。
他の2冊ではまったく触れていなかったのよね。

この本の中の『信念の証』という物語では、戦後のアメリカにおける
ユダヤ人であることの戸惑いと疎外感を描いています。
まさかアメリカで? と思ちゃいますけど…

『マラマッド短編集』を読んだ時に感じた頑さも思い出しました。

そういえば、ふたりは同時代の作家ですよね?
(ふたりの解説を読んでみた)え 1歳ちがい…しかもブルックリン育ち。
もしかしてお友達?
ブルックリン育ちであるということは、ふたりが物語を書く上において
共通するファクターになっているのでしょうか?

ショーが描いた愛すべき頑固な人たちの物語をいくつか…

『モニュメント(The Monument)』
レストランのバーの責任者マクマホンは、オーナーであるグリメットの
安い酒を仕入れたいという意見に断固「No!」と言いいます。
グリメットはとうとうクビを言い渡しました。
マクマホンはエプロンを外し、ジャケットを羽織り、棚から名札を下ろします。

いいですね! 自分の腕に確固たる自信がある男性。
たいしてできないくせに理屈ばかりを並べる人とはわけが違います。
そして、その腕の良さがちゃんとわかっているオーナーも良き経営者と言えますな。

『金曜日の夜の神(God in Friday Night)』
ソルは母親を訪ねて、やっと身ごもった妻ヴァイオレットのために
毎週金曜の夜、祈りを捧げてほしいと頼みます。
ヴァイオレットはお祈りに向かない女だし、自分はナイトクラブの芸人だから…と。

お母さんはね、お嫁さんが嫌いみたいでものすごくブツブツ言うんですよ。
でもやはり母親なのですね…律儀に祈りをあげてくれます。
この物語のラストはとても美しいです。

『レチェフスキー夫人の哀歌(The Lament of Madam Rechevsky)』
娘に有無を言わせず夫アブラハムの墓地へ連れて来てもらったレチェフスキー夫人。
娘を待たせて毅然とした態度で墓の前まで進むと、切々と生活の苦労を訴えます。
アブラハムは生前、王様のように贅沢に暮らしていました。

レチェフスキー夫人をただの愚痴っぽい未亡人と思わないで下さいね。
夫に対する彼女の “ 文句タラタラ ” には美学があります。
でも普段お付き合いするにはちょっとやっかいな方かもしれないんだけどね…

頑固な方がメインの3篇を選んでみましたが、他に8篇の物語が収められています。
この一冊にはたしかに暗闇が似合う気がします。
現に夜の物語が多いというのもありますが、煌煌と輝く摩天楼の裏側の薄暗さが
イメージしやすいお話になっています。

暗いからと言って不幸というわけではないんですよね。
ただ、ものすごくハッピーなわけじゃない…という感じでしょうか?
恋人がいる、そこそこ成功している、仕事はある、ありふれた人々が主人公。
テーマは、ちょっと軽口をたたきながら普通に生きている人たちにふと宿る不安、かな?

不幸な人をとことん不幸に書く方が、たぶん簡単だと思うんだけど…
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『白い牙』真っ当な犬の一生

2010-06-03 23:19:02 | アメリカの作家
WHITE FANG 
1906年 ジャック・ロンドン

私は完全にネコ派で、子どもの頃数頭の野犬に追いかけられた経験から
今でも “ 猛犬注意 ” のシールにびびるわけですが、こんな犬なら…と
思わないでもありません。

とはいっても、ホワイト・ファング(白い牙)という名を持つ主人公は
ほぼオオカミなんです、¼だけ犬なのね。

野生に生まれたオオカミが、人間に飼われることによって、
また、飼う人物によってどのように成長していくかを描いた物語で
だったら生まれたところから書きゃいいわけだが…

冒頭、アラスカで犬ぞりを曳く二人の人間を幾晩も追って来るオオカミの群れが登場します。
犬が一匹づつやられ、そして人間も…ものっすごくスリリングです。
否応無しに物語への期待が膨らみます。

その群れの中でひときわ目を引く牝オオカミと、争いに精通した老オオカミの子が
ホワイト・ファングで、未亡人となった母オオカミと自然から様々なことを教わります。

このまま野生動物の厳しい世界を描くのかと思ったら
ホワイト・ファングはひょんなことから母子ともども人間に養われることになります。

一人目はインディアンのグレー・ビーヴァ、公平ではありますが残酷な支配者です。
犬たちにはこん棒で規律を教え、殴打で非を悟らせる、という昔ながらのご主人様です。

二人目はビューティー・スミスという醜い白人です。
残酷な気質を持つ臆病者で、グレー・ビーヴァから授けられたこん棒以上に非情な手段で
ホワイト・ファングを服従させます。

三人目はウィードン・スコットという鉱山技師です。
歪みきってしまい獰猛になったホワイト・ファングを創った人間の罪を償おうとします。

ホワイト・ファングはそれぞれの主人を “ 神 ” と考えて服従はするんだけど
それぞれに抱く感情はまったく違います。
言うことを聞いてるから好かれてると思ったら間違いなのね

グレー・ビーヴァだって酷いじゃないかと思う方がいるかもしれませんが
過酷な大地で食料と安全な寝床を与えられる変わりに服従して労働するという関係は
間違っていない気がします。
しかもアラスカの犬ってオオカミの子孫みたいじゃない?
集団で暮らすためにはそれなりの教育がいるんじゃないか、とも思えます。

そんな長い時間を経て野生動物が人間のパートナーになり
今のワンちゃんと飼い主さんの愛ある関係が形成されたのかもしれないし。

どんな感情を抱いても主人には服従し、忠誠を誓えば主人の財産を守り
命を賭けて救おうとするホワイト・ファングの姿勢は “ 真っ当な犬 ” という印象を与えます。
甘えたりべたべたしないだけに余計ね。

もちろん、愛でるために創造された小ころいワンちゃんは
お洋服を着て癒して下されば、じゅうぶんご主人に報いることができますとも!

主人によってこれだけ変わるか? というホワイト・ファングの内面。
これから何か飼われる方は読んでみられては?

私はいつか『野生の呼び声』を読もうと思っています。

白い牙 光文社


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こちら、光文社刊
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『緑色の裸婦』人それぞれの難題

2010-05-28 01:59:53 | アメリカの作家

アーウィン・ショー

以前『夏服を着た女たち』を読んだ時には、舞台が都会ばかりだったのと
男女のお話が多かったので、お洒落路線の作家なのかしらね…と思っていましたが
この短篇ではまったく別の一面を見せていただいた気がします。

人々が抱える問題…まったく個人的なようで、実は社会の問題とリンクしています。
でも、やはり抱えた時点でひとりひとり重みが違うものです。

『寡婦たちの再会/1946年』
エミリーと娘のペギーは、霧のせいで着陸できない飛行機に乗っている
もうひとりの娘アイリーンを待っています。
アイリーンは若い頃、ペギーが恋していたドイツ人を奪って結婚し
第二次大戦を終えてアメリカに帰って来るのです。

お互いの息子を戦争で失った姉妹の再会です。
アイリーンはヒトラーを崇拝していたのですが、戦後困窮に陥りました。
やりきれない相手でも家族は家族…いい話しですね、では終わらない物語。
母娘3人の暮らしがこれからどうなるのか、とても心配です。

『緑色の裸婦』
バラノフは革命軍除隊後画家になり、美味しそうな野菜や果物の絵で成功しました。
社会で活躍する女傑アンナと結婚してしばらくすると画風が変わっていったバラノフは
怨念と怒りと絶望が宿る、一枚の凄まじい裸婦を書き上げました。
しかしそのためにソ連を後にすることになります。

バラノフはドイツでも、そして自由の国であるアメリカでも同じ目に遭います。
そんなに恐ろしい絵って何? 恐ろしいのは絵なのか社会なのか?
それとも裸婦にそっくりな妻の顔?
でもそんなことより、バラノフが妻のことを思って口にした言葉が涙を誘います。

『忘却の川の麗らかな岸辺』
働きざかりのヒューは決して物忘れをしませんでした。
しかし結婚記念日を忘れ、それからは物忘れが止まりません。
昔の偉人、いつも買っていた新聞、愛人と待ち合わせしたバーの場所、
金を無心してきた息子の名、夫の借金を返してくれと言っていた娘の顔…

そんな日がやってくるのかと思うと恐ろしくていてもたってもいられません。
でもね、どちらかというと何もかもヒューに甘えていた家族に「ざまーみろ」と
言ってやりたくもなります。
だけど急にこんなことがおこるなんて、誰も、本人でさえ、想像できないものね。

戦争、国家の思想、進行する病…巻き込まれたが最後、誰もが逃れられません。
しかし決して皆が同じ不幸を感じるわけではありませんよね。

収められている7篇全て、登場人物は3人ぐらいです。
極めて小さな環から発せられる社会的不幸…死刑や赤狩りの話しもあります。
批判はありません、哀しさを描いているだけです。

しんみり考えさせられます。

緑色の裸婦  集英社


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