まりっぺのお気楽読書

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『オリーヴ・キタリッジの生活』活字になった不幸

2011-01-05 01:37:54 | アメリカの作家
OLIVE KITTERIDGE 
2008年 エリザベス・ストラウト

これから訪れる人生の中盤から後半を考えさせられる興味深い一冊、
すごく面白い本です。

この本は、どうにもこうにも人をやりきれない気分にしてしまう
オリーヴ・キタリッジという女性と、彼女を取り巻く人々を描いた
13篇の短篇から成り立っています。

オリーヴが40代だった頃から70代になるまで、物語は断片的にちりばめられています。
彼女が主人公のものもあれば、一瞬しか登場しない物語もあります。

何がすごいって、読んでいたら不幸のオンパレードなんです。
ごく日常茶飯事的ものから、ありそうもないことまで一緒くたになっているのですが
それがものすごくスムーズに一冊に収まっているんですよ。
“ 不幸かも… ” を旗印にして活字にしたことで、違和感が無くなってしまっているみたい。

好きだった物語は他にあったりするのですが
せっかくなのでオリーヴが主人公になっている物語をいくつか紹介しますね。

『小さな破裂(A Little Burst)』
息子のクリストファーが気に入らないタイプの女性と結婚することになりました。
家族で造った息子の新居での結婚パーティーで
疲れを感じたオリーヴは新婚夫婦の寝室のベッドに横になります。
すると窓の外で嫁が友達に自分のことを話している声が聞こえてきました。

新しく家族になった人が自分のことを何て言っているか、考えたらドキドキです。
良いことならいいんですけどね、悪口だったら…
オリーヴは腹いせにとんでもない行動にでます。
最初が肝心です、気をつけましょう。

『チューリップ(Tulips)』
クリストファーは嫁にそそのかされ、新居を捨てて西海岸に行ってしまいました。
すぐに離婚してしまったのですが故郷へ帰ってくる気は無さそうです。
夫のヘンリーは倒れて介護施設に入ってしまいました。
オリーヴは自分より不幸そうなラーキン家のルイーズを訪ねてみることにしました。

人の不幸を見て自分の不幸を軽くしようとオリーヴが考えていたとしたら
そのあては見事に外れます。
やはり母親の不幸は子どものことになるんですかね?
ふたりの母親が息子のことで当てこすりを言い合う様は、想像するとちょっと恐ろしい…

『セキュリティ(Security)』
ニューヨークに引っ越して子持ちの女性と再婚したというクリストファーに呼ばれ
オリーヴは老体にムチ打って出かけて行きます。
再婚相手のアンは妊娠中なのに酒もタバコもやめません。
連れ子の男の子は生意気だし、下の女の子はまったくオリーヴになつきません。

オリーヴは、人が言うほどやりきれない相手だとは思っていませんでしたが
この物語を読んだら少し理解できました。
側にはいてほしくないタイプだけど、見方によってはだだっ子みたいで可愛いかも…
しかし老母を呼んどいてちょっとないがしろにしすぎじゃないのかね?

この作家の文章は簡潔で読みやすいと思います。
けれども話しの核心にまっしぐらに向かっていくという書き方ではありません。
ちょっと寄り道があって、ユーモアがあって、別件が見え隠れしているうちに
テーマとなっている問題に迫ってる、という感じです。

私は最初に不幸のオンパレードと書きましたが、泣ける! 涙が止まりません!!
という、いかにもお涙ちょうだいな悲しさはありませんので念のため…
不幸押しまくりではないので、気分も重くならずさっぱり読めますよ。

こう言ったらわかっていただけるかしら?
友人から聞かされる家庭内や恋愛の愚痴とか不満がありますね。
その時はかなり真剣に同情するのだけど、翌日にはまったく考えないという…
忘れたわけではなくて考えないのです、という程度の不幸。

そういう本です。
友達の愚痴を聞いている気分で読んでみたらいかがでしょうか?

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