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まりっぺのお気楽読書

読書感想文と家系図のブログ。
ゆる~い気持ちでお読み下さい。

『巡礼者たち』頭の中がルート66

2012-08-28 22:57:30 | アメリカの作家
PILGRIMS 
1997年 エリザベス・ギルバート

読んでいる時には「女性が書いているわりには男っぽいなぁ」と思っていましたが
読後はやはり女性らしい物語の数々だったと感じています。

舞台が、アメリカの、どちらかというと田舎、あるいはハイウェイ沿いに思える話が多くて
つい、テンガロンハットとかブーツの男性が屯する酒場とか
二の腕逞しい大型トレーラーの運転手が座って大きなホットドッグをほおばるカフェを
勝手に想像しながら読んでいたのが、男らしく思えた要因かもしれません。

表題『巡礼者たち』は農場主に雇われた19歳の少女とその家の息子の
仲間意識なのか恋なのか…という微妙な心情を描いた秀作ですが
それはおいといて、好きだったお話しをいくつか紹介します。

『トール・フォークス(Tall Falks)』
エレンの店トール・フォークスと、別居中の夫トミーの店ラディ・ナット・ハウスは
道をはさんで営業していて、常連たちが行き来し、お互いに繁盛していました。
しかしトミーの店は潰れ、トップレスバーがオープンしました。
エレンが甥と偵察に行くと、常連たちが皆そのバーに勢揃いしていました。

たぶん小さな町なんだと思うんですが、以前従業員だった女性も向かいに移り
常連も向かいに取られ…なんてことが続けばエレンの店も将来どうなるか…
物語の中ではエレンは落ち着いていますが、ちょっとした言動に焦りが見える気がします。
しかし、トップレスだからって長年通った店に背を向けるとは…男の人って…

『デニー・ブラウンの知らなかったこと
      (The Many Things That Denny Brown Did Not Know)』
15歳のデニー・ブラウンの両親は看護士でした。
その夏、デニーはなぜかかつていじめられていたラッセルと親しくなり
ラッセルの姉ポーレットとこっそり恋人同士になりました。
ある日ポーレットが水疱瘡にかかり、デニーは父親譲りの看護をします。

いじめを克服して友人になる少年たち、父親の仕事を見直す息子…
テーマから見ればいい話なんですけど、道徳番組的な展開はなく
主人公が夏のけだるさに流されているうちに大人になりました、という感じです。
“ 人生の岐路 ” と言いますが、気付かぬ内に岐路を越えていたってこともありますよね。

『最高の妻(The Finest Wife)』
惚れっぽくて恋愛を繰り返したローズは一番好きな男性と結婚し43年後に死別しました。
70歳近くなっていたローズは幼稚園バスの運転手になりました。
ある日、子どもたちが表れないかわりに老人たちが次々バスに乗って来ます。
彼らは皆ローズのかつての恋人でした。

小説では、恋愛遍歴の多い女性はなにかと不幸なラストを迎えることが多いのですが
この物語のラストはすごくハッピーに思えました。 こんな最後を迎えたい…
私はまわりがなんと言おうと、本人が「幸せだ」と思える人生が送れればいいと思うのよね。
ブログで女性の歴史を書いてますが、後の世で悪女だとかおばかさんだとか言われようと
生きているうちに幸せな思いをした人はそれでいいと思うのですよ。

そうですねぇ…
作者が特定のパーソナリティーに肩入れしていないような気がします。
確かに面白い短篇集には様々な人物やシチュエーションが登場するものですが
エリザベス・ギルバートの場合は徹底しているような気がします。

扱っているテーマには、社会的な問題や世間をにぎわす話題はほとんんどありません。
主人公のまわりで起きていることだけを、ほぼ時系列で書いています。

執着心がないのか、公平なのか、利己的なのか、平和主義なのか…
とにかく、雑念無く話の世界に入り込むことができました。

時系列だし文章は読み易いのですが、だからといって簡単な物語ではありません。
主人公の気持がはっきりしないまま話が進行し、成り行きっぽくラストを迎え
そのラストもすっきりしない…というスタイルで
ちゃんとした起承転結が存在しないと嫌な人には向かないかもしれません。

好き嫌いはあるかもね… 私は今のところ好きと嫌いのど真ん中にいる状態です。
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『地図にない町』SFって幅広いのね

2012-04-24 21:55:38 | アメリカの作家
THE COMMUTER AND OTHER STORIES 
1953年 フィリップ・K・ディック

SFをあまり読まない私なんですが、P・K・ディックは何冊か持ってます。
しかし完全に内容を覚えていないのだが…
村上春樹さんに凝った時に「読んでる」って書いてあったからだと思うのね…

P・K・ディックは宇宙でドンパチ…という印象が強いんですが
この一冊からはもう少し親しみ易さを感じました。
内容はともかく、とりあえず地球が舞台の話が多かったのでね…

好きだったお話しをご紹介します。

『おもちゃの戦争(The Little Movement)』
ボビィ少年は町でおもちゃの兵隊をひとつ買ってもらいました。
しかし、家に持ち帰ると兵隊は豹変し、ボビィ少年に命令するようになります。
兵隊は仲間の兵隊たちと人間社会を乗っ取る気です。

ASIMOとかムラタセイサクくんがある今、「ありえない」 とは言えないですよね!
明晰な頭脳を持つ小さな兵隊に攻められるって、怖いような可愛いような…
兵隊をやっつける正義の味方もかなり可愛いです。

『名曲永久保存法(The Preserving Machine)』
ラビリンス博士は名曲を後世まで遺したいと思い名曲保存器を製造します。
モーツァルト、ベートーベン、バッハなどの楽譜を奇妙な生物に変えて森に放ったところ
生物たちは野生化して、森はとんでもないことになります。

ものすごい良音で場所もとらずに音楽が保存できる今、そんな回りくどいこと…と
思いがちですが、昔の人々にとっては夢みたいなことだったんでしょうね?
でも1950年代って蓄音機は無かったのかしら?
現代には100年前の人から見れば魔法みたいな商品が山のようにありそうですね。

『ありえざる星(The Impossible Planet)』
アンドリュウ船長の船に350歳になるゴードン夫人がやってきて
死ぬ前に伝説の星、地球へ行きたいと言います。
大金に目が眩んだ船長は、地球によく似ているエムファー3星を選び向かいました。
しかしその星の没落ぶりにゴードン夫人は…

地球の寿命ってあと何年でしたっけ? その後にはこんなことがおこるのかしら?
星の最後は粉々に砕け宇宙に飛び散るんだと思っていましたが
廃墟になったうら寂しい星のたたずまいを想像すると
一種のロマンを感じないでもないですね。

未来の戦争や宇宙の駐屯地をテーマにした話もあれば、不思議な機械の話あり
ギリシャ神話をモチーフにしたもの、怪奇小説のような話、超能力など
一般人が不思議に感じるものを幅広く描いております。

本当にあったら東スポが黙っていなそうな内容が盛りだくさん!!で
面白かったですよ。
あと3冊短篇集があるのでいつか読んでみます。
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『荒野の呼び声』“ワンちゃん”とか呼んでる場合じゃない

2011-09-17 18:33:33 | アメリカの作家
THE CALL OF THE WILD 
1903年 ジャック・ロンドン

完全に猫派で犬が苦手な私が感動した『白い牙』
野生の狼犬が人間と触れ合っていくうちに “ 飼われること ” とはなんぞや?
ということに目覚めていくお話しでした。

『白い牙』の読後、絶対読もうと思っていた『荒野の呼び声』は
飼い犬バックが、野生の中で生きていた遠い先祖の記憶を呼び覚まされるという物語です。

今回も本当に面白かったですよ!

バックはサンディエゴの大きなお屋敷で猟犬として飼われていた犬です。
セントバーナードとシェパードのあいの子で、屋敷内では敵無しでした。
しかしある日、困窮していた庭師助手にさらわれてしまいます。
カナダ~アラスカで金鉱が見つかって、橇を引く犬が大量に必要で高く売れたのです。

物語は、南国育ちのバックが北国の気候に驚き、今まで受けたことのない侮辱や体罰、
犬同士の闘争を乗り越えて橇犬として立派に成長する姿と
尊敬に値する人間とそうでない人間に対して抱く思いや、愛情と忠誠心が描かれています。

北の大地で暮らすうちに、バックは今まで見たこともないのになぜか懐かしい
野生犬視点の情景が脳裏に浮かび、野生犬の感性が育まれていきます。

特に装飾的な言葉はなく、逆にどちらかというと素朴で荒削りな言葉で書かれているのですが
橇犬として厳しい行程を進む犬たちの姿がありありと目に浮かび
ずんずん読み進むことができました。

ラストでバックが完全に野生に返ってしまうきっかけは
とてもとても悲しい出来事なんですけど、書かないでおきますね。
ぜひぜひ読んでいただきたい!

それよりさぁ… ハスキー犬て、やっぱり狼の子孫なのよね!
北国の大地で君臨するハスキー犬たちの群れの気性や戦い方は獰猛です。
狙った相手を追い込む姿勢と布陣は狼そのものです。
倒した相手を生かしておくなんてことはありえません。

今でさえシベリアンハスキーとかシェパードが散歩をしてると避けて通る私なのに
今度見たら泣いちゃうかもしれん リードがついてるからまだいいようなものの…

(まさかいないとは思うけど)ハスキーに可愛い服なんか着せてる場合じゃないですよ。
彼らは雪の中で平気で寝れるんですよ。
野生の教えるまま雪の中に穴を掘り、風を読んで温かさを確保するんですよ。
服は不要です。

もはや “ ちゃん ” づけで呼んじゃいかん気がする… ラブリーな名前もダメでしょう。
勇敢で誇り高い名前にしてあげましょう。
ちなみに、橇犬には雌もいますけど、彼女らもたくましく自然や雄犬と戦います。
雌だからって女々しい名前はやめて、戦いの女神とか女傑の名前…
アテナとかメドゥーサなんてどうでしょう?

ジャック・ロンドンが若い頃の経験をもとに書いたという物語です。
他にもあったらぜひ読んでみようと思っています。
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『ふくろう女の美容室』静かに警告を発する一冊

2011-08-19 01:50:15 | アメリカの作家
AT THE OWL WOMAN SALON 
1997年 テス・ギャラガー

なんでしょう?
好きか嫌いかがはっきりしない本でした。

「その気持よくわかる」と入り込んでいってたら
唐突に突き放されたり、取り残されたりしたような感じになりました。

難解なわけではないです。
前衛的なところも実験的なところはありません。
舞台はごく一般の家庭で、日常を淡々と、極めて普通の言葉で書いてあります。

現代特有の問題をいろいろと孕んでいながらも、薄いベールで覆い隠した感じは
どことなく旦那さんのレイモンド・カーヴァーに似ているんですかね?

10篇の短篇と2篇のエッセイが収められています。
私が一番おいてけぼりにされた気がしたのは、実はエッセイの部分だったかもしれません。

好きだった物語をいくつかあげてみます。

『むかし、そんな奴がいた(I Got a Guy Once)』
ダニーから言いくるめられ、ずっとただ働きをさせられたせいで、母屋を人に貸し
自分は離れで暮らす始末です。
ある日ダニーが破産して賃金を払えないと言いました。
しかし、その3日後、ダニーが他の木こりを雇ったと人づてに聞きました。

ダニーという人は良い人ではないんです。 こんな上司も友達も嫌ですね。
でもなぜか、最後にダニーがすごく可哀想に思えます。 自業自得なのに…
“ 憎めない人 ” について考えさせられる、というと大げさですが心にひっかかります。

『石の箱(A Box of Rocks)』
子供ができないとわかった後、妻の妹が娘を預けたいと言ったので3年間育てました。
娘が5歳になった時、再婚した妹が一方的に引き取ると言って泣き叫ぶ娘を連れて行きました。
その後妹から娘の服を送れと言ってきます。 妻は石を詰めた箱を送ってやりました。

あまりにも一方的な妹が悪人のように思える前半と、夫が頑なすぎる妻を不安に思う後半、
どちらをどう思えばいいのかわからなくなってきます。
板挟みになった旦那さんの気苦労を考えると「仲直りしたら?」と言いたくなりますが…

『祈る女(The Woman Who Prayed)』
ずっと幸せな結婚生活を送ってきたドッティは
ある日ガレージでヒルダから夫に宛てたラブレターの束を見つけました。
ヒルダとは学生時代にも男の子をめぐって一悶着ありました。
ドッティはその夜ラブレターを燃やし、祈るようになりました。

主人公の女性は、祈っている間だけは夫と相手の女のことを忘れることができます。
不信心な私ですが、こんな時には神様がいてくれて良かった…と思うかもしれません。
彼女の祈りが通じればいいんですけどね。

どの物語も登場人物が少なくて寡黙です。
誰にでも言い分がありそうなのに誰も何も言わない、という感じでしょうか。

どの物語でも、語り手、あるいは主人公を不愉快にさせる相手が登場しますが
そこに悪意があるのかどうかは明瞭ではないんですよね。
他人から見ればあまり気持のよいものではない行動にも
なんらかのわけがあるのかもと、少しは理解できたような気がします。

人の分別なんて、時と場合によっては立場が完全に入れ替わってしまうかもしれません。
そんな警告を発しているようね…と、読み終わってしばらくしてから思いました。
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『ジョイ・ラック・クラブ』母娘のギャップと愛はどちらが深い?

2011-07-16 15:05:39 | アメリカの作家
THE JOY LUCK CLUB 
1989年 エイミ・タン

中国からアメリカに渡った女性たちとその娘たちのことを
エピソード形式で語っている物語です。

読む前は、祖国の習慣やしきたりを大事にしようとする母親世代と
アメリカで生まれて、かなり自由な雰囲気の中で育った娘世代の隔たりを
書いている物語だと思っていましたが、そんなに単純なものではありませんでした。

ジンメイ・ウーというコピーライターの女性が、急死した母親の代わりに
ジョイ・ラックという女性四人が麻雀卓を囲んで語り合うクラブに参加するところから
物語が始まります。

長編とはいえ、8人の女性たちのエピソードが交互に書かれているので
あらすじを書くのはむずかしいのですが、簡単に内容を書いてみます。

大きく四つの章に分かれていて
“ 千里を越えてきた母 ” は、スーユアン・ウー、アンメイ・シュー、リンド・ジョン、
インイン・セント・クレアという母親世代四人の、若い頃や幼い頃のエピソードです。
舞台はもちろん中国で、家族の掟や昔からの言い伝えなどが色濃く反映されています。

“ つまずいた子どもたち ” は、ジンメイ・ウー、ウェヴァリー・ジョン、
リーナ・セント・クレア、ローズ・シュー・ジョーダンという娘世代四人の
子供時代のエピソードです。
アメリカで生まれて中国語があまり理解できず、母親たちが守ろうとするしきたりや風習を
少し煙ったく感じています。

“ アメリカ人となった娘たち ” では、大人になった娘たちが
母親の言葉に苛ついたり不安を覚えながらも、言ったとおりになることはわかっていて
信頼せずにはいられない様子が書かれています。
感じ方は違っても「やっぱりマー(母)は正しかったのかも…」という結論に至ってます。

“ 中国の母たちの物語 ” には、やはり母親たちの中国時代の出来事が書かれています。
娘たちに知ってほしい、教訓にしてほしい…という内容ではないかと思えます。
ジンメイ・ウーのみは、母親が桂林に残してきた、父親の違う双子の姉に会いに行く話です。

四千年の歴史を持つ中国の教えや考え方が、建国300年足らずの国の暮らしで
いとも簡単に失われていくというのは、母親には理解し難いだろうし
娘たちにしてみれば、アメリカでアメリカ人として暮らしているんだから
いちいち中国のことを持ち出さなくてもさぁ…という思いもあるでしょう。

たぶん中国の人たちに限ったことではなくて、日本から移住した人たちも
ヨーロッパ各地、アジアの各地から海を渡った皆さんも同じではないでしょうか?

はたまた、移住を経験していなくても、なんだか母と娘には独特の思いがありますよね。
「私はお母さんみたいな人生は絶対送りたくない!」と若い頃はほとんどの娘が思うもの…
でもいざ結婚して旦那と暮らしてると、驚くほど母と同じことしてたりするのよね
妙なおまじないみたなことまで信じてたりして…愕然としちゃう。

この物語では異国ということでよりクローズアップされていますが
成長するにつれて、母娘間には越えられない考え方の違いが生まれてきますよね。
でも、それ以上にお互いを引き離せない何かがあるんだと思います。

父親じゃなくてすまん… ま、父親には別の思いがあるはずなんで
そういう本に出会ったら考えてみます。
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『黒衣の花嫁』脱力のエンディング

2011-07-10 19:12:39 | アメリカの作家
THE BRIDE WORE BLACK 
1940年 コーネル・ウールリッチ

仕事を辞めてから流行りの断捨離でも、と思ったらよけい家が汚くなった今日この頃…
気を取り直して本棚をやってみたら100冊ほどBook-offに送ることができました。

そんな中見つけたこの本、覚えがないんだけど…ということで読んでみました。

最初から犯人はわかっていて、犯行の一部始終が書かれています。

犯人はジュリーという美しい謎の女です。
事前に殺す相手の下調べをし、犯行現場に堂々と現れては堂々と去って行く…
しかし、たくさんの目撃者がいながら彼女のことは誰も知りません。

殺されたのは男ばかり4人。

株の仲買人のケン・ブリスは自分の婚約式の晩に転落死、
しがないホテル暮らしの老人ミッチェルは毒殺、
フランク・モランは自宅で窒息死、画家のファーガスンは矢で射抜かれました。

ずっとこの事件を追っていた刑事のウォンガーは目撃者の証言から
4人のつながりを発見して、犯人の動機らしきものも掴み
さらに次に命を狙われるホームズという作家を探し出しました。

ホームズの家には同じ日に二人の女が現れて、数日間滞在することになりました。

あとはウォンガーが犯人を捕まえて、動機をはっきりさせれば話は終わりです。

なにもかもわかりきったことが書いてあるわりには、ものすごく面白かったんだよねぇ。
本当に最後の最後まで、すごいスピードで読んでいたんですけど…

ラストでがっくし

これはひどいよぉ…
ミステリーやサスペンスには、読者を裏切るどんでん返しが必要だってことはわかる!
わかるけど、あまりにも脈絡がないじゃんよ!!

大好きなアガサ・クリスティを読んでいても、たまに「え? その証拠はどこから?」と
唐突な推理に驚くことがありますが、この物語にはとことん驚かされました。

犯人はわかっているから、他の部分にとんでもない間違いが潜んでいるんですよ。
書いちゃうと読みたくなくなるかもしれないので書かないけど…
「いきなりそんなこと言われてもさぁ」って感じです。
せめて何か伏線が欲しかったですよ。

映画化されてますよね。
読んでいてとてもフォトジェニックというか映画向きの話だな、とは思いました。
黒い服の美しい女性が、髪の色や印象を変えて次々と非情な殺人を犯す反面
ターゲット以外には絶対に手を下さないで巻き込まれないように気を配るフェアさ、
すごくスマートでクールです。

だけど、そのフェアさが仇となるという、かなり皮肉なラストでした。
あ、言っちゃった
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『ファミリー・ダンシング』味付けが濃すぎない?

2011-07-03 19:16:21 | アメリカの作家
FAMILY DANCING 
1983年 デイヴィッド・レーヴィット

ふんだんに調味料を使ってこってりの味付けにした料理みたい…
胃もたれがしてます。

発売された当時は絶賛されているし、O.ヘンリー賞もとっているだけあって
文章は悪くないんだし、静かなタッチの筆運びも好きです。

どちらかと言えば、家庭内の小さな事件や他人にわかりづらい不幸を描いた話しは
キライじゃない、むしろ大好物なんですが…
この本はちょっと盛り込み過ぎなのよぅ。

9篇入った短篇集で、けっして長くはないひとつひとつの話し、つまり一家族の物語に
こんなにもイヤ~な思いがたくさんつまっていていいのだろうか?

イライラする会話、夫の身勝手な言い分、わかったようなことを言う子供…
あー! キーッとしてきちゃう。

完全に崩壊した家庭の惨状をバイオレンスフルに書いてくれたほうが
気分的にはスッキリするんじゃないかな? 私は読まないと思うけど…

比較的好きだったお話しを…

『失われた別荘』
マークの両親リディアとアレックスは、アレックスの浮気が原因で離婚しました。
しかし、今年も毎年恒例の別荘での休暇に、家族全員が集まるように言われました。
滞在中、アレックスはことさら明るく振る舞い、リディアは張りつめています。
マークの兄ダグラス、姉エレンは二人の扱いに手を焼きます。

『犠牲者』
ダニーと母親のエレインが伯父ニックの家に来てから2ヶ月になります。
エレインは父アレンが家を出たあと、心ここにあらずの毎日を送っています。
ダニーはこの家に来てから、わがままを通すためにヒステリーを起こすようになりました。
ニックとキャロルの夫妻はこっそりアレンを呼んでエレインと話し合わせようとしました。

『巣立ち』
グレッチェン、カローラ、ジルの三姉妹は、父親の遺品の整理のために集まりました。
その家は父の再婚相手の家で、三人にはなんの思い入れもありません。
グレッチェンの夫レナードは三姉妹があまりによそよそしいと思います。
他の姉妹に一番怒りを感じているのはカローラのようです。

さら~と書いてしまいました。
上二篇は浮気と離婚がメイン、最後の一篇は姉妹の確執がメインなんですけど…

テーマそのものが不幸である、と言っているわけではなくて
書いているうちに不幸が上積みされちゃってるような状態になってるんです。
主人公は圧し潰されちゃう。

例えば離婚なんて、見方によっちゃハッピーにとらえることだってできるんだけど
登場人物はどよーんと沈んじゃってまわりを巻き込んでます。

さらに、不治の病、精神の病、反抗する子供たち、などが随所に盛り込まれて
読んでるだけで気が滅入ってきます。

で、最大のポイントが、同性愛についてなのね。
作者はゲイで、もちろん経験を盛り込んでいるんだと思います。

しかし、一話目の『テリトリー』は同性愛がテーマだからいいとして
ほぼ全ての話で、気の重い家族にさらにワンポイント…ってな感じで
あんまり本筋と関係ないエピソードが入れられてます。
最後の方は「またそれ?」と飽きてしまいました。

自分の人生や嗜好を作品に反映するのはぜんぜんかまわないんだけど
あんまりそればかり書かれてもなぁ…
同性愛者の方々はこんな扱われ方で共感できるんだろうか?

当時のアメリカ文壇では若者の無気力さがクローズアップされていたようでして
そう言われれば、各物語の主人公たちの受け身でローテンションな有様は
時代にフィットしていたのかもしれません。
それが作者が絶賛を受けた要因のひとつとも考えられます。

生意気を言わせていただければ、テーマを1話につき1~2個ぐらいに絞ってくれれば
もう少し読みやすかったんですけどね。
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『若かった日々』若いうちに読んでおこうか…

2011-06-12 10:50:18 | アメリカの作家
THE END OF YOUTH 
2003年 レベッカ・ブラウン

作者の “ 自伝的短篇集 ” ということで、アリス・マンローの『林檎の木の下で』的な
世界観を期待して手に取ったのですけど(Book-offで100円だったし…)

うぅぅん…『林檎の~』が自分の過去を題材にして創作した作品という印象が
強かったのに対して、こちらは完全に自分の記録、私小説という感じがしました。
とても正直すぎて少し戸惑った…というのが率直な感想です。

他人の人生なのでとやかくいう資格はないですけど…
印象に残ったお話しをいくつかあげてみます。

『暗闇が怖い(Afraid of the Dark)』
小さい頃は暗闇が怖くてよく叫び声をあげ母を起こしていました。
毎年母と訪ねていた祖母の家では、祖母が叫び声をあげ母が慰めていました。
大きくなってからは逆に叫び声をあげる母を慰める役にまわっていました。
祖母も母も私も、皆同じような声をあげます。

母娘三代に渡って夜中に叫び声をあげるとは…いったいなにがあったっていうんでしょう?
暗闇、恐怖心、叫び声という一般的な材料で描いているというのに
ありきたりではなくどこか哀しみが漂ってます。
詳しくは書かれていませんが、時代も内容も異なる女の事情があるのでしょうね。

『ナンシー・ブース、あなたがどこにいるにせよ(Nancy Booth,Wherever You Are)』
毎年参加していたサマーキャンプに行った最後の夏、他の女性とはタイプが違う
スカフというキャンプネームのスタッフがいました。
ある眠れない夜ポーチで彼女と会話してから、毎晩語り合うようになりました。

このお話しと、次の『A Vision』というお話しは、作者の性、つまりレズビアンへの
目覚めのようなことが書かれているようです。
私だって年上の女性や凛々しい女性教師への憧れが思春期に無かったとは申しませんけど…
人はこのようにして自分の性向に気づいていくものなのね。

『母の体(My Mother's Body)』
母の家で看病をする合間にクリスと部屋で眠っていると、姉が入って来て
「母が死んだ」と言いました。
良い香りのするお湯で拭き、ジャスミンのオイルをぬって洗い立てのシーツでくるみました。

作者はご存知の通りホームケアワーカーとして末期の人々をケアした経験をもとに
(私は読んでないけど)『体の贈り物』を書いた人です。
見慣れていると言ってはなんですが、落ち着いています。
でも淡々とした話しの中に、母親への感謝が込められているような気がしました。

ほとんど家にいなかった父親と母親の愛憎がちりばめられていますが
それはあまり気になりませんでした。
結婚生活から離婚に至るまでの話しは、どんなことであれキレイにはいかないものね。

しかし年を経てから思い出すことで、両親に、特に父親に対する苦々しさはかなり薄まり
良い思い出として語られているような気がしないでもありません。
過去を許すとはこういうことかもしれないですね。

それより死をテーマにした後半がリアルで、ちょっと気が滅入ってきました。
20年後ぐらいに読んだら身につまされて恐怖を感じそう…
今のうちに読んでおいてよかったです。
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『ヘミングウェイ短篇集』はずまない会話がいい感じ…

2011-05-19 02:07:21 | アメリカの作家

アーネスト・ヘミングウェイ

ヘミングウェイはずっと読まず嫌いで、前回『キリマンジャロの雪 他12編』という
短編集にチャレンジしましたが、まだ長編を読む勇気が出ません。
再び短編集に挑戦です。

ちょっと慣れてきたみたいです。
訳のせいなのか、この一冊は前回よりさらにぶっきらぼうな印象を受けました。
でも、それがかえっていい感じ…

とにかく、登場人物のほとんどが、自分の言いたいことを繰り返し
相手の言うことを聞きやしないという強情な人ばかりで、会話が一方通行&堂々巡り。
日本人には無い(と言われる)強い自己主張ぶりに、小気味よささえ感じられました。

一番好きなのは『キリマンジャロ~』で紹介した『清潔で明るい場所』です。
それ以外に気になった物語をいくつかあげてみます。

『贈り物のカナリア(A Canary for One)』
パリへ向かう列車のコンパートメントで同室になったアメリカの婦人は
娘への贈り物のカナリアを連れていました。
彼女はしきりに夫にするならアメリカ人が一番だと力説します。
娘はスイス人と恋愛したので引き離したとも言っていました。

アメリカ婦人の相手をしているのはアメリカ人夫妻なのね。
とにかくこの婦人の会話は、夫はアメリカ人じゃなきゃ! の一点張りです。
最後の最後に “ ガクッ ” て感じになります。ヘミングウェイの体験談なんでしょうか?

『密告(The Denunciation)』
マドリードの名店チコーテの店の常連は、ほとんどがフランコ側につきました。
ある夜爆撃を避けて飲んでいるとウェイターがやってきて耳打ちしました。
なんと、やはり常連で、古い友人のルイス・デルガドが店にいます。
彼は反フランコ派の兵士になっていました。

この物語では主人公の男性とウェイターが、密告をめぐって同じ言葉を繰り返します。
お互いフェアでありアンフェア…あなたが決めてほしいっていう会話です。
でもラストで主人公は、ルイスの気持を大事にしてあげるんですけどね。

『雨の中の猫(Cat in the Rain)』
ホテルに二人しかいないアメリカ人夫婦の夫が窓から外を見ていて
テーブルの下で雨宿りをしている子猫を見つけました。
妻が子猫を連れにいきますが、行ってみるといなくなっていました。
部屋に戻った妻は「子猫が飼えないなら髪を伸ばしたい」と言い出します。

妻はさらにいろんなことを言い出しますけど、中には無理難題もあります。
猫の話しからどうしてそうなるの? っていう旦那の呆れぶりがひと言に滲み出てます。
女性が爆発した時の「何言ってるんだ」感が上品に表されているような気がします。

“ 弱く寂しい男たち、冷静で寛大な女たちを登場させて~ ” と裏表紙に書いてありますが
私は、それはあまり感じなかったですねぇ。
むしろ男性は、小さなことにこだわらずぶっきらぼうで憂いがあって…という男臭さがあり
女性は、静かに男の話しを聞いて相づちをうってるのに掴みどころが無い…という
神秘的&キュートさが目につきました。

(読んだことないけど)ハードボイドにおける理想の男女像、って感じですか?
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『夕暮れをすぎて』ジョークとホラーは両立するか?

2011-05-13 01:23:08 | アメリカの作家
JUST AFTER SUNSET  
2008年 スティーヴン・キング

一時期凝ったんですけどめっきり読まなくなったスティーヴン・キング。
短篇集を見つけたので懐かしくなって手に取ってみました。

長編ほどの恐ろしさはないものの、やはり背筋がヒヤッとしますね。
これはデュ・モーリアとか『イギリス怪奇傑作集』を読んだ時の感じに似ているんだけど
決定的に違うのは……ジョーク多すぎ

もちろん、さすがのスティーヴン・キングですから文章は面白いし
ジョークをちりばめつつも恐ろしく仕上げているわけですけど、どうも馴染めない…
私の怪奇小説に対する固定観念が強すぎるせいですかね?
もう少しシィィィンとした文章の方が怖さ倍増じゃないか、なんて考えてしまうんです。

7篇収められているうち、特に好きだったものをあげてみます。

『ウィラ(Willa)』
ウィラが姿を消しました。
恋人のデイヴィッドは、いつ来るかわからない列車を待っている人々を駅に残し
5キロ離れた町まで狼が出没する荒野を歩いて探しに行きます。
ウィラは安酒場にひとりで座っていました。

なんかいい話しなんですよ。
幽霊がみんなこんな思いで存在しているのだったら怖がらなくてもいいかなぁ…なんて
思えてきます。 でも見えたら怖いですけどね。

『エアロバイク(Stationary Bike)』
シフキッツは健康診断の後医者に太り過ぎを注意されました。
医者は例えとして、体の中で飲み込んだ食料を処理する労働者の話しをします。
イラストレーターのシフキッツは考え込んだ末労働者の絵を描き始めました。
絵に没頭するうち、シフキッツは痩せていきます。

最初は小さい労働者のことなんか思い浮かべながらほのぼの読んでいたら
だんだん恐ろしくなっていきましたよ。
自己催眠という、少し違うベクトルの話しかと思いましたが、やはりホラーでした。

『彼らが残したもの(The Thing They Left Behind)』
ミズ・ロブスンの部屋のエアコンを直してしばらくしてから
いろいろな思い出の品が部屋に出現し始めました。
サングラス、バット、ブーブークッション、etc… それらは捨てても部屋に戻って来ます。
そして持ち主は皆9.11で亡くなった同僚でした。

大惨事のことを体験談以外で小説にするのはけっこう勇気がいることだと思うんですが
海外の作家はちょくちょく題材にして別の物語を書いてますよね。
このお話しも9.11のあの情景を思い浮かべさせながら、まったく別物に仕上げています。
随所で凄惨さを思い出させる描き方はさすが!って感じです。

読み終わって感じたのは、まさにアメリカを象徴するものがテーマになっている、
ということでしょうか?
ジョギング、ダイエットとマクドナルド、巨大なパーキングエリア
プロム、土曜の朝のキッチン、高層ビルのオフィスなど
何気ない日常が一瞬にして恐怖に変わってしまうものばかり…現代人への警告なんですかね?

あとがきを自分で書いてるあたり、ドラマにも出演しちゃうという
キングならではの出たがりぶり。
序文もすごく面白かったですよ。
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『世界のすべての七月』“ 最後のひと花 ” 適齢期はいくつだ?

2011-04-19 01:37:47 | アメリカの作家
JULY,JULY 
2002年 ティム・オブライエン

1960年代、ヴェトナム戦争など
幾分かのメッセージを含んだ小説かもしれない…ということはさておき
私はおおいに同窓会という設定に注目しちゃうわ!

この物語は、ダートン・ホール大学1969年度卒業生たちの、1泊2日にわたる
30年目(正確には31年目)の同窓会のパーティーシーンで始まります。
ということは来場者は50代前半から中盤にかけて、ということになります。

その後は卒業生11人のエピソードと同窓会の様子が交互に描かれています。

同窓会シーンには時間軸とプロットが存在します。
元恋人、元夫婦、友達、好きだった人、なんでもなかった人たちが
酔いがまわるにつれて、寄り添ったり言い寄ったり恨み言を言ったり、という
同窓会らしい展開を見せています。

誰かが誰かを見つめているのに、その誰かは他の誰かに見とれてるとか
昔の恨みをはらしてやる!と意気込む人にアタックする他の人とか
きっぱり言ってやらなきゃ!と思いつつ、他の女といるとムカつく人とか
もう、気分は青春まっただ中です。

その上スタートからエンディングまでに、寄り添い合うカップルの顔ぶれが
微妙に変化していきます。

この部分だけ読んでいると、青春おじさん&青春おばさんが繰り広げる
あまり中身の無い恋愛沙汰を描いた小説と勘違いしそうです。

11人のエピソードはこの物語をより繊細に仕上げるために挿入された
個々の物語と言ってもいいかもしれません。(と思ったら、もとは短篇だったらしいです)

エピソードをさらっと紹介すると…

ヴェトナムではデイヴィッドの目の前で連隊が壊滅し、自分も両足を撃たれました。
弁護士エイミーは、不運の末に結婚した相手と新婚旅行中に別れました。
ジャンは変態たちのヌードモデルをしていて元夫に出会いました。
永遠のコケット、スプークは二人の夫と上手くやっていたのに、また若い男性に恋しました。
ビリーは徴兵を避けてカナダに逃げる際、恋人ドロシーに裏切られました。
牧師ポーレットは、ある未亡人の家に侵入したところを見つかってしまいました。
エリーには1969年に大学を卒業した不倫相手がいましたが、目の前で溺死しました。
乳癌を切除したドロシーはトップレスで庭を横切り、よくできた夫の方へ突進しました。
いつも誰かを好きになり妄想していたカレンは、雇い入れた運転手に夢中になっていました。
ずっと肥満だったマーヴは、一度だけダイエットに成功した時、美しい秘書を誘惑しました。
マーラは帰還したデイヴィッドと結婚しましたが離婚することになりました。

このひとつひとつの物語はすごく好きでした。
わりと現実味がなさそうでいてリアルという、二面性が上手いことミックスされた
面白いエピソードでした。

50代なりの悩みを抱え、疲れも感じつつ集まってきた男女だち…
懐かしい顔ぶれに再会して少しハメを外してしまっても仕方がないのかもしれません。
端からみれば年を食った男女でも、本人たちの間ではお互いに20代そこそこの顔を見いだして
気持までぐっと若返ってしまうものなのかもね。

でも、なんていうか、「ここで最後のひと花を!」というリキみが感じられなくもない…
主に男女関係においてですけどね。

女性には、容貌が衰え始める前にここでひとつ…みたいな意気込みがあり
男性には、これを逃したらあとは今の生活を続けるだけか…という焦燥があって
「ふたりで逃げちゃうか」みたいな話しになっちゃうんですよね。
実行に移すのか我に返って家に帰るのかは、それぞれの事情で変わると思いますけど。

人生において、50代が “ 最後のひと花 ” のデッドラインということはないと思いますが
恋愛とか再婚のことを考えたらラストチャンスなのかしら?
うーん、どうなんだろう 難しいわぁ…
私も遠い未来のことではないのでいつかちゃんと考えてみましょう。

しかし、いくつが “ ひと花 ” 適齢期だとしても
泊まりがけなのよ、奥さん! 旦那を行かせる気にはならないですわねっ!

余談です
印は作品の善し悪しではなくて、私の好き度メモみたいなものなんですが
ミシュランみたいで誤解を与えちゃうかも…というご指摘があり
今回から別のマークにしようと思います。
ヒヨコにしてみました…試行錯誤中です。
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『若者はみな悲しい』脂のってます!

2011-04-09 16:29:20 | アメリカの作家
ALL THE SAD YOUNG MEN 
1926年 スコット・フィッツジェラルド

良い短篇集かどうかは別として、ものすごく面白い一冊でした。

収められている9篇のうち『お坊ちゃん(金持ちの青年)』と『冬の夢』は
『雨の朝 パリに死す』で読んだことがありますが
あとの作品はたぶんお初だと思います。
フィッツジェラルドの短篇集も何冊か持っているので何を読んだか忘れちまって…

ドラマティックというのではなくて、ドラマ仕立て…というのかな?
寸劇の脚本みたいな作品が多かったような気がします。
いろいろあるけど座りのいいところに落ち着いた…的なラストね。
大団円とか予定調和で終わる小説はあまり好きではないのですが
ドラマを見た気分で読むととても楽しめました。

特に気に入ったものをご紹介します。

『子供パーティー』
ジョンは妻のイーディスから、娘のイードが隣のマーキー家の子供パーティーに行くので
会社の帰りに顔を出すように言われます。
しかし寄ってみるとイーディスとマーキー夫妻が口論していました。
カッとなったジョンもマーキー家の主ジョージと殴り合いを始めます。

子供パーティーって大変そう… よそ様の子が悪さをしたらどうやって叱ればいいんだろう?
ラストでは夫たちがけっこうフェアで、ホームドラマ的良い話しに仕上がってると思います。

『温血と冷血』
ジムは友人が困ったと言えば金も貸すし、疲れていても図々しい女に席を譲ります。
妻ジャクリーンはそんな夫にイラついていましたが、ある日、ジムが金を貸した男が
新車を自慢している場面に出くわして怒りをぶちまけました。
ジムはそれから人の好さを見せないように自分を変えました。

よく親に「友達にお金を貸す時は、あげたと思って貸しなさい」と言われました。
幸いそんな目にはあっていませんが、もし新車なんか買われちゃすごくムカつくわね!
さて、もともと優しい人がいつまでも冷酷でいられるものなのでしょうか?
ラストへの急展開に注目です。

『赦面』
北欧系の人々が多い町で司祭をしているシュワーツ神父は、人知れず涙を流しています。
そんな神父のもとに、11歳になる美少年ルドルフ・ミラーが訪ねて来ました。
ルドルフはとんでもない罪を犯したと言って3日前の懺悔について告白を始めます。

この一篇はドラマ性はほとんど無くて、信仰絡みの内容に終始しています。
宗教に興味は無いんだが、名文なのか名訳なのか…すごく文章に引き込まれていきました。
少年の父親の登場のしかたもTPOが絶妙で心憎いほどです。
これはかなり名作の域に入ると思うんですがどうでしょう?

この本に収められている短篇の創作は『グレート・ギャツビー』発売の翌年だそうです。
ノリにのってる時期と言えるんじゃないかしら。
読んでいて「書くことが楽しい!」という思いが伝わってくるようでした。

ただ、パリで書かれているらしいのよね。
ヘミングウェイの『移動祝祭日』によれば、パリでのフィッツジェラルドは
いつもヘロヘロで、ゼルダのせいでものが書けない的な印象がありました。
そんなことまったく無い!と言える仕上がりだと、私には思えますけど…
違うパリ時代の話しなのかしら?

数多くの脚本も手がけていたというフィッツジェラルドが
本領を発揮した短篇集かもしれないです。
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『食べ放題』バランスの問題?

2011-03-05 12:03:14 | アメリカの作家
ALL YOU CAN EAT 
1988年 ロビン・ヘムリー

読み手はどう受け取ったらいいのか、本当のところがよく解らない…という感じでした。
解る人には解るんでしょうけど…

近年のアヴァンギャルドすぎてよくわからん!という物語でもなく
だからと言ってスタンダードな話しでもないという…
好きなタイプと苦手なタイプが混在する一冊でございました。

好きだったタイプのものをいくつかあげてみます。

『食べ放題(All You Can Eat)』
妻セアラと息子ジェイミーに連れられて、教会のパンケーキ食べ放題に行きます。
本当は家でゴロゴロしていたかったし、向いの太った男も気に入りません。
しかし、シロップのジェマイマおばさんが現れ、何曲か歌ううちに気分が変わりました。

これはいいお話しだ、と私は解釈したんですけれどもね…
実は教会や信仰心を茶化した罰当たりな話しなのだろうか?
ゴスペルを聞くうちに高揚して涙が溢れる感覚を、文字で垣間見せていただいた感じです。

『ネズミの町(The Mouse Town)』
父親が死んだ時、女の子の友達が段ボールでネズミの町を作ってくれたので
さっそく友達のミッチとハツカネズミを入れて遊ぶことにしました。
ある日、ネズミを入れたまま町を燃やすことを思いつきました。

最初は動物虐待のとんでもない話しだと思いましたよ。
ネズミたちがどうなってしまうんだろうと考えると最後まで読むのを躊躇したんですが
なんだかいい話しで終わったような気がする… ちょっとジーンとしました。
私の読み方は間違っているんだろうか?

『思い出の狼(A Sentimental Wolf)』
マイケルとシルビア夫妻の居間には、場違いな大きな狼の絵が飾られています。
これはマイケルの、85歳で関節炎で緑内障のイジーおじさんが亡くなる前に描いたものです。
そこへ今度はシルビアの大伯母エルケの時代物のオルガンがやってくることになりました。

思い出深い親類のゆかりの品に寄せる思いが、この夫婦をどうしちゃうんだろう? という
不安を抱えさせたまま物語が終わります。
でも読んでいる間はおかしかったんですよね。
お互いが大切なものに抱いている温度差が見え隠れしてて、シニカルに笑えました。

収められている13篇のうちの半数が、私が苦手とするちょっと不可解な展開でしたが
最後には少なからず哀愁か安心感をもたらしてくれる物語でした。
不可解さがこれ以上増えていたら、たぶん嫌いな部類に入っていたと思います。

好きな短編集と嫌いな短編集の境目は、収められている作品の微妙なバランスにありますね。
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『橋の上の天使』“ 赤い本 ” が読んでみたい

2011-02-14 00:34:00 | アメリカの作家
THE STORIES OF JOHN CHEEVER 
1978年 ジョン・チーヴァー

解説によると、サリンジャー、アーウィン・ショウ、アップダイクと並んで
都会派の作家と言われていたそうです。

都会派と言われる方々の物語も、扱われているテーマは夫婦問題とか子供のこと、
近所の小さな事件などごく日常的なものなんだけど、何が違うんでしょうね?
文章の書き方なのか単語の選び方なのか、はたまたニューヨークという町の
効果的な使い方なのか? いずれにしても都会っぽい気はします。

で、あくまでも私が読んだことがある本だけで比較してみると
4人の中ではチーヴァーが一番好きかしら?
中でも気になった物語をいくつかご紹介します。

『さよなら、弟(Goodbye,My Brother)』
ある夏、亡き父が建てたローズ・ヘッドの別荘に、母・兄チャディ一家・妹ダイアナ
弟ローレンス一家、そして私の一家が休暇で集まることになりました。
ローレンスとは皆4年ぶりの再会です。
実は家族はローレンスが好きではなくて、彼の到着に緊張が生まれます。

どの家庭にも…とは言いませんが、なんだか馴染めないメンバーがいたりしますよね?
ローレンスはそんな困った親戚のエッセンスを凝縮した、典型的なタイプのようです。
この弟が去る場面では清々しさが強調されていますが、大きな疑問符も残して行ったみたい。

『離婚の季節(The Season of Divorce)』
結婚10年目のある日、妻エセルが子供を連れて公園に行くと
パーティーで会ったトレンチャー医師が来たと言いました。
それから彼は毎日のように公園に来るようになり、ある日は部屋一杯のバラが届き
夜には家の向いの通りにたたずむようになりました。

最初はそんな気が無かった妻が、次第に相手の男に惹かれていく様子にハラハラします。
この夫の何がいけない、というわけでは無いのですが、色々なことが重なっちゃったのね…
結婚も離婚もタイミングがあるんだなぁ、と改めて感じさせられたお話しでした。

『海辺の家(The Seaside House)』
毎年夏の休暇中、家族で海辺の家を借りていました。
一番印象に残っているのはグリーンウッド邸で、いたる所で空の酒ビンを見つけました。
隣の家の婦人によれば、娘の結婚に絡む不幸な出来事があったようです。
雨が降ってイライラが募り、一度ひとりでニューヨークに戻ることにしました。

見えない相手に家庭の平和を乱されるとは、ちょっと恐ろしい気がしますね。
でもこのご主人も少し神経質すぎるのではないかしら?
休暇中に降る雨…というのもポイントかもしれません。

チャリティー精神を扱ったものや、表題の物語のようにちょっとファンタジックな
素敵な物語もありますし、悲しい物語も収められています。
しかしそれらも、多くを書き込みすぎない、ローテンションな文章のおかげで
すっきりと読ませていただきました。

深刻さを強調しないクールな語り口が都会派たる所以なのでしょうかね?

実は、The Stories of John Cheever のアメリカ版は、短篇が61話集められているらしく
この本は抜粋だそうです。
『Red Book(赤い本)』と呼ばれるその本をものすごく読みたくなりました。
もちろん日本語でないと読破できないので、翻訳家のどなたか、ぜひともお願いします。
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『女嫌いのための小品集』悪意の泥沼に片足つっこむ

2011-01-28 01:39:26 | アメリカの作家
LITTLE TALES OF MISOGYNY 
1975年 パトリシア・ハイスミス

例によって大掃除中にパトリシア・ハイスミスの本を何冊か見つけました。
読んだ覚えが有るような無いような…いったいどうして買ったのかよく分かんないのですが
とりあえず短篇から手をつけてみました。

何ひとつ優しさや愛が感じられない17篇の短篇がつまった
マグロを保管する冷凍倉庫のように冷たい一冊です。

とにかく、登場人物がバタバタ死にます。
そこに憐れみや酌量はありません、スパッと死にます。
さらになんのエクスキューズも説明もありません、当たり前のように死にます。

女嫌いのための、とわざわざ書かれています。
確かに主人公は皆一癖も二癖もある扱いにくそうな女性ばかり…
でも、男性から見た嫌な女なのか、女性から見た嫌な女なのか、決めかねています。

いくつかご紹介しますね。

『寝たきりの女(The Invalid,or,The Bed-Ridden)』
クリスティーンは狙った男フィリープを繋ぎ止めるため、事故を装って寝たきりになります。
けれども休暇でカンヌに行くときだけは元気になりました。
「ぼくのせいで…」と言い続けていたフィリープも疑問を抱きます。

よく似たお話しに、モームの『ルイーズ』というのがあるんですけれどもね。
騎士道精神で、か弱い女性を守らなければいけないと考えている男性の心理を
逆手に取った上手い作戦…現代では通用しそうにないですね。

『芸術家(The Artist)』
熱烈な芸術愛好家ジェーンは、まず絵画、次にダンス・声楽・彫刻と
対象を次々に変えては没頭していきます。
夫のボブは彼女が通う芸術学院を憎悪するようになり「爆発すればいいのに」と考えます。

これは人ごとじゃないのよね…私も凝り性なもんで。
けっこう旦那さんをほったらかしにしていたりするんですけど
こんなこと考えてないでしょうね?

『動く寝室用品(The Mobile Bed-Object)』
男に買われたり下取りに出されたりしながら食事と住処をまかなってきたミルドレッドも
23歳になり、将来に不安を覚え始めました。
そんな時現れたサム・ザップは天からの授かり物のような男性でした。

女性であることを武器にして生きていけるのはいくつまでだろう…
王の愛妾・寵姫シリーズを書く時にいつも思うんですが
男性に愛されるようになるより、その愛を長く続かせる方が大変そうです。

他にも、男性から言い寄られて困っているコケットや、女流作家、ダンサー、
平凡な主婦、次から次へと子供が生まれる母親、娘夫婦に遠慮する母、などなど
いろいろな女性がターゲットになっています。
どの話しも主人公(あるいは相手の男)がバッサリやられてます。

一篇はとても短く、さら~っと現象だけを書いているようでいて
実はものすごい悪意を漂わせている気がするわ。

好きじゃないかな…
だけど、一度は面と向かって誰かに言ってみたい
「あんたみたいな女はロクなもんじゃない!」というシチュエーションが揃っていて
溜飲を下げる効果は(ちょっと)ありそうです。

ヌルヌルの中に足を入れたらなんだか気持ちいい…そんな感じの一冊でした。
おすすめはしません
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