ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

バルカン風小指の噛みかた

2009-02-01 01:21:00 | ヨーロッパ


 ”Esti vagabond”by RUKMINI

 なにしろ、この歌手のアルバムを輸入しようとしたレコード店店主氏に現地ルーマニアの業者から、「我が国の音楽がこんなものばかりだと思わないで欲しい」なる便りが届いたというのだから穏やかでない。”ルーマニアのお恥ずかしポップス・NO1”とでも勝手に命名しておこうかと思います。

 恥ずかしいのは中身の音楽だけでなく、ジャケもご覧の通り。これが裏ジャケでは”手ブラ”状態となります。
 まあでも東欧というかロシアをはじめ旧共産圏の国々のレコード会社って、昨今はかなりの数がこのピンナップ路線を取っているわけで、かの国々の女性歌手の皆さん、ほとんどがこんな目に遭っている。このアルバムだけがどうというものでもないですが。

 で、音のほうですが、やはりバルカンといいますか、オリエントの響きの強いものとなっています。
 ”ダンツクツクツクダッックツクツク♪”みたいなイスラミックなリズムがせわしなく繰り出され、笛やアコーディオンがやはりアラブの色濃い旋律を奏で、ルクミニ女史の甲高く、可憐といえば言えないこともない声がユラユラとコブシを廻しつつ舞い踊るという次第。

 聴き進めば、バルカンっぽい、なんてレベルは簡単に乗り越えられてしまい、音の風向きはアジアの奥深く、インド洋の東あたりまで彷徨い出でて行く。ヨーロッパ臭さなんて、もうどこを探しても見つからない。
 ここまで来るとアルバム参加者の民族的出自が気になってきます。ルーマニア人がラテンの血を引く民族とは知っているんだが、それ以外に、どんな民族がいるのか?

 などと怪しむうちに、このアルバムの白眉と言える時間がやって来ます。5曲目の”Diwana”って曲、イントロが由紀さおりの”夜明けのスキャット”であり、歌の本体(?)は、伊東ゆかりの”小指の思い出”です。似ているとかそんなのではなく、まったくそのままのメロディ。それを、ごく真面目にカバーしております。

 こんなことも、実にアジアのミュージシャンっぽいものを感じてしまいますな。一応地図上はヨーロッパに属する土地のミュージシャンが、どういうルートで仕入れたのか、日本の歌謡曲を、もうベッタベタの感傷をこめて歌い上げてしまう。最近、構想中の”歌謡曲国際主義論”とかをぶち上げたくなって来ますが。

 う~ん、ルーマニアにはこんな音楽があったのか。そして、かの国のレコード輸出業者からは、「こんなものが俺の国の音楽の代表と思われたらたまらないぜ」と、”恥”の意識をもって認識されている。なんかちょっと、ルーマニアの大衆文化のありようなど興味を惹かれますね。
 と、まあ、これ以上は想像も進まないのでありますが。アルバムのほうは、バンドがインド方面から帰らぬまま、END。