”Steal Away”by Charlie Haden And Hank Jones
かっては政治的主張も強力な戦闘的前衛ジャズ=ブラスバンドを率いて、戦うジャズマンの代名詞でもあったようなベーシスト、キャーリー・ヘイドンだが、齢も老境にいたり、このところはずっと、アメリカ合衆国内外の”アメリカの根の音楽”に、その興味は向かっているようだ。気がつけば、その方面の優れたアルバムをいくつもものにしているヘイドンである。
このアルバムもその一枚。老ジャズピアニスト、ハンク・ジョーンズと組み、ベースとピアノのデュオで、古くから黒人教会で歌われていた黒人霊歌や南部の素朴なフォークソングなどを取り上げてみせたものである。
「誰も知らない私の悩み」「時には母のない子のように」「行けよモーゼス」「アメイジング・グレイス」などなど、こちらにもお馴染みの曲目を挟み、ハンク・ジョーンズは老練なタッチで飄々とメロディをつずって行く。それに寄り添い、ぶっとい音で演奏を支えるヘイドン。時には前に出てきて、その丸太のよ9うな野太いベースで豪快にメロディを歌ってみせもする。
二人の演奏は、時の流れのかなたの、遠い昔にこの道を歩み去った人々の足跡に寄せる深い共鳴を、枯れ切ったシンプルすぎる描線で写し出す。
そのモノクロームのつぶやきは全く派手なエンターティメントではないものの、今日を生きる我々が日々の生活に疲れ、心の隅になにごとか空虚の生まれた時などにふと聴き返したくなる、独特の味わいを秘めて静かにそこに横たわっている。
キャーリー・ヘイドン、、懐かしい名前を聞きました。彼もまた怒りの拳をポケットに入れたまま過ごしてきたひとりなんでしょうね。そんな彼の沈黙の抵抗のような深みのある演奏をもう一度聴きたくなってしまいました。