ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

春のハートビート

2010-02-22 03:28:57 | ヨーロッパ
 ”Celtic Woman (Compilation)”

 まずは、例の桜の群生がやっと開花してやれやれめでたしと言ったところだ。
 私の街の裏山には早咲きの桜の群生があり、いつもなら1月の終わりには満開となっているはずのそれが今年はなぜかいまだにつぼみのままで、これはどうしたのかと気になっていた、とはいつぞやこの場に書いた。その桜が今日、車を転がして覗きに行ったらきれいに花開いて例年通りの桜のトンネルを作っていたのだった。

 やはりこの冬の気候がおかしかったのが原因だったのだろう。桜が冬の寒さに痛めつけられた後、不意に訪れた春の気配を感じ取って一斉に花開く、という習性があると聞いてはいた。暖かくなるだけではダメなのだ。その前に寒さの刺激がなければならない。で、そういえばこの冬は、裏山にほとんど雪を見ていないのだ。
 それがどうやら2月に入ってから気温の低い日があったことと、昨日あたりから気候が暖かくなり始めた事で条件がドサクサながらも整ったのではないか。裏山の別荘地を覆って桜は、遅ればせながら(とはいえこれでも全国平均よりはよほど早く)花開いた。

 人気のない別荘地を思い切りゆっくり車を転がし、桜色の饗宴を楽しみながら、カーステレオで聴いていたのがこのアルバムだった。アイルランドの女性コーラスグループ、”ケルティック・ウーマン”のベストアルバム。マニアの人には「何をベタな」と鼻で笑われてしまうかも知れないが。
 ”ケルティック・ウーマン”とは、例の”リバーダンス”のプロデュースを行なった人物が才能を認めたトラッド系女性ミュージシャンを集めて作り上げた、かなりショーアップされたトラッド・グループだ。私も、ショービジネス的にキレイに演出され過ぎの感があり、やや興味から外れるかなとは思ったものの、車の運転のGMにはこのくらいがちょうど良いのではと持ってきたのだが、これが結構な”当たり”だったのだった。

 道の両側から枝を伸ばした桜が花びらのトンネルを作り、その下にはすでに散り落ちてしまった桜の花がピンク色に染めた道路が続いている。こうして出来上がった桜色のパイプラインを走り抜ける。季節を越え、生まれ変わり死に変わりし連綿として流れて行く生命の息ずきと、アイルランドの女性たちの見事にコントロールされた歌声による伝承歌がきれいに響き合った、と感じられた。
 どちらかといえば秋や冬のイメージであるトラッドだけれど、こんな具合に噴出したばかりの春の命の気配が空気の中に満ちて行く、そんな中で聴くのもまた、相当に心騒ぐ体験と言えよう。

 それにしても気になるのは、私の町内に立っている、私が勝手に”長老”と名付けている桜の巨木である。こいつは街の早咲きの桜の中では一番日当たりが良いくらいの場所に立ち、いつも冬の真っ盛りに先頭切って満開状態となっているのだが、今年はまだ咲く気配を見せない。やっぱり異常な冬なんだろうな。大丈夫か、しかし。”長老”がこんなことになるのは、見た事がないんだが。