ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

バグパイプが響く時

2010-02-13 02:38:59 | ヨーロッパ
 ”When The Pipers Play”by Isla St Clair

 スコットランドのトラッド歌手、Isla St Clairは1951年の生まれ、子供の頃からフォーククラブで歌っていたそうで。12歳の時にはテレビにデビューしてタレントとして活躍、という経歴の持ち主で、まあ、おませなガキタレだったんでしょうな。

 そんな彼女が1972年に出したデビューアルバムは、スコットランドのフォーク界というかトラッド界にとって結構な衝撃だったようです。それまでは伝統歌、トラッドの世界の女性歌手といえば田舎の垢抜けないオバサンが地味な歌を歌う、みたいなパターンが定番だった。今だって、あんまり若い女の子が続々デビューなんて世界じゃないですからね、伝承歌の世界なんて。
 なのに、そこにハタチそこそこの女の子がポップなアレンジを施されたトラッドを新鮮な感覚で歌いまくって登場して来たわけですからね。これは鮮烈な印象を与えるでしょうよ、眠っていた世界が目を覚ます、みたいな感じで。

 そんな彼女にも時は流れまして、Isla St Clairも、もはやベテランと言っていいんでしょうな。いや、今でも変わらぬ瑞々しい感性の歌声を聞かせてくれる彼女ですが、キャリア的には。
 今回のアルバムは、Isla St Clairが1998年に発表した”When The Pipers Play”であります。スコットランドの国民楽器とでも言えばいいんでしょうか、バグパイプの楽団をバックに吹き込んだトラッドアルバム。フェアポートが”フルハウス”でやっていた”Flowers of the Forest”とか、ドロレス・ケーンがDe Dannan時代に歌っていた”Teady O'Neale”なんて”日本のトラッドファン”としては懐かしい曲が入っているのも嬉しいですな。

 国民的楽器、とか安易に書きましたがスコットランドの人々にとってバグパイプに寄せる思い入れというのはどういうものなんでしょうね。いや、見当もつかないんで何も述べませんが。
 何だかすべてを覆った濃い朝霧の向こうから聴こえてくるみたいなバグパイプの合奏は、洗い立てのシャツみたいな清冽な響きをもってIsla St Clairの歌声を包みます。
 スコットランドの懐深く、すべてがシンと静まったハイランドの冬。太古からの空気が凍りつき、遠い昔にこの地を通り過ぎて行った戦さ、バグパイプの響きと共に進軍していった兵士たちの思い出が、その奥に霞んでいる。

 ところで相談なんですがね、レコード会社の皆さん、上で述べたIsla St Clairのデビューアルバム、再発してくれませんかね?いやあ、知った風なこと書いちゃったけど、実は彼女のデビューアルバム、持ってないんですよ。いや、もってないも何も聴いた事がない。こんな内容でこんな出来上がりであるって評判しか聞いてないんだ、実は。この盤、再発してくれないかなあ。と、腰砕けのエンディングで恐縮ですが。