ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

VOXのギターが欲しかったんだ

2006-08-14 21:10:09 | 60~70年代音楽


 ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズが使っていたVOX製のビワ型ギターが欲しかったのさ、シンプルにロック好きなガキだった中学から高校にかけて。
 初めて買ったレコードが、ストーンズの「黒く塗れ」のシングル盤だった。その後、”ニューロック”の嵐に洗われるまで、イギリスのビートバンドのファンとして過ごしたのだった、我が音楽ファンとしての幼年時代は。

 レコードコレクターズ誌の8月号がブライアンの特集だったので、同誌を久しぶりに買ってみたのだったが、やっぱり何を考えて生きていたのかもう一つ分からない男で、だから早死にし過ぎだってんだよ、ブライアン。ミック&キース路線で巨大ビジネスとしてのロックを邁進してしまったその後のストーンズなども思うにつけても。
 
 いや、ブライアンが生き残っていたからどうなるというものでは全然ないのだが。

 今回の特集などを読んでも、そもそもブライアンの肉声といったものもろくに残されていないと分かる。ともかく、「彼はそのとき、このように考えたのではないか」なんて推測ばかりではないか、書かれているのは。他人の記憶やら伝聞やらのフィルターをかけられた後のブライアン像。
 
 そもそも私が夢中になっていた現役時代も、曲を作っているいないの問題もあるんだろうが、ブライアンが何を考えているのか、よく分からなかったし、音楽的な主張というものも分かったような分からないような。そしてそれでも確かにストーンズには”ブライアンのいた頃の音”というのは存在している。そしてその音が、私にとっての”好きだった頃のストーンズの音”にそのまま重なる。
 
 シタールやらマリンバやらダルシマーやら不思議な楽器群を弾きこなし、モロッコの民俗音楽を”遺作”として残している事実を思えばストーンズのサイケ部門を担っていたかに見えるのだが、レココレ誌の”ベガーズ・バンケット”に関わる(そしてブライアンの、ストーンズからの解雇に関わる)記事にあたると、「ようやくストーンズが彼の志向する音楽性に戻ったにもかかわらずブライアンは」なんて書かれている。これをどう理解したらいいのか。

 どっちなんだ、ブライアン?お前はサイケでありたかったのか、デビュー当時のようにブルースを、アメリカの黒人音楽をやりたかったのか?自身のコメントが明確に残されていないだけじゃなく、今、こうして読んでみる”後世の評価”もまた、それぞれ矛盾しているようだ。

 と書いている私にしてからが、ブライアンのどこが好きだったのか、考えてみれば良く分からない。ブライアンが丸ごと自力で作った曲が残されているわけでもなし、彼の放っていた妖気のファンだったとでも言うしかない。ストーンズを夢中で聞いていた頃は、聞こえてくるギターのどれがブライアンのものかも知らなかったし、それどころか彼の得意としていたスライドギターの何たるかも分かっていなかった。

 それでも、ブライアンの突然の死をまるで契機とするかのように私はストーンズに興味を失っていったし、いや、ロックそのものの本流にも興味を失っていったのだった。そして結局、この件に関して確信を持っていえることは、ブライアンの使っていたVOX製のビワ型ギターが欲しかったなあ、あの頃。これだけだったりするのだった。