”Dakhilo” by Fares Karam
それは私も国際情勢にかんがみ、レバノンの大衆音楽などこの場で取り上げてみたくはあったんだけど、かの国にはファイルーズという偉大な歌手がおられて、この人をまず語らねば話は始まらないだろう、という感触がある。けどまあ、偉い人の苦手な私でありましてね、そこのところで立ち止まっていたわけです。
けど、こんな盤だったら、私が語ってもよろしいかもと、謙虚な私は思うのです。
ファレス・カラムと読むんでしょうか、地下鉄辺りで撮ったみたいなジャケ写真で、上着を羽織りながら無精ひげでこちらを斜に構えて覗うさまは、不良少年が歳食って、でもまだチョイ悪オヤジの境地に至るにはストリートの悪ふざけに未練もあり、みたいな風格のレバノンの若手男性歌手であります。
歌声のほうも、下世話な街角の血の騒ぎ感覚横溢のワイルドなものであり、イスラミックなコブシが狂おしく脈打つさまは、聴いてるこちらも思わず握りこぶしに力が入る、といった逸物。
サウンドも、歌声に劣らぬ荒削りな迫力が炸裂するアラビアン・ポップスであり、これはたまりません。
不勉強で名が分からないのだが、強力な低音の響きの民族打楽器が演奏をリードしており、というか音像のど真ん中に位置して暴れまわるこのタイコと、ファレスのワイルドな歌声が四つに組んで取っ組み合っているみたいなサウンドであります。それ以外の男女混声コーラスや電子楽器の響きなど、吹き飛ばされるほどの勢い。
ともかくレバノンの”今”を伝える一発。かっこいいなあ。ところでこのタイトル、”Dakhilo”って、まさかとは思うが、”ダークヒーロー”の意味じゃないよね?いや、そうであっても納得できるようなジャケ写真とサウンドではあるんで、ちょっと考えてしまっているんだけど。
それはともかく。レバノン爆撃やめなさい。アメリカもさあ、オノレの国に一発食らえば、やれテロのなんのと大騒ぎするくせに、このイスラエルのご乱行は見てみぬ振り、というか影で援助って、ふざけた話じゃね~か。というわけで、頑張れ、ファレス・カラム。