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絵本の話を中心に、好きなもの、想うことなど。

お坊ちゃん※追記あり

2021-07-28 15:34:45 | 好きなもの・音楽や本

朝井まかてさんの新刊が出たと知って、図書館で
予約しました。


どれくらい待ったでしょう。
(例によって)順番が回ってきたときには、どんな
内容で、どうしてそれを読みたいと思ったのか、
忘れかけていました。

森鴎外の子供といえば、作家の森茉莉しか知らず、
タイトルの『類』が、三男に付けられた名前だと
知ったのも読み始めてから。

冒頭の朝のお庭のシーンはとても美しく、ココロ
惹かれましたが、他の朝井さんの著作の時のような、
ページを繰るごとに前のめりになっていく自分の気持ちが
このたびは感じることができず、森類の生涯がどのような
ものであったのかを、確認したいがために、最後まで
読み切ったような気がしています。

なぜそのような読書時間であったのかー。

偉大な父を持ち、母違いの兄も、二人の姉も、義理の父も
文章や絵画で名前を馳せた方々で、そんな名家の中で、
絵を習い、文を書きながらも「なにものでもない自分」を
生きていくということが、いかほどに大変でつらいことで
あったのかは、ひしひしと伝わってはきたのです。
が、最後までどうしてもぬぐいきれなかったのは、やはり
お坊ちゃまはお坊ちゃま、という気持ちでした。

どなたかがレビューで、妻の美穂の立場から、森類という
人を語ったら、もう少し面白かったのでは、と書いていて‥
なるほどそうかもしれない、と思いました。
戦後、父の遺産ではもはや食べていかれないとなった時に、
4人の子供を育てねばならないと必死になっている妻美穂に
自分の気持ちはどうしても重なっていきましたから。

物語の終盤に、夫婦喧嘩の後に、類が回想するこんな箇所が
ありました。

どうして何もしないで、ただ風に吹かれて生きていては
いけないのだろう。どうして誰も彼もが、何かを為さねば
ならないのだろう。
僕の、本当の夢。
それは何も望まず、何も達しようとしないことだ。質素に、
ひっそりと暮らすことだ。


森類という人をもっと知るために、次はこの本を
読んでみようと思っています。

読了。(2021年8月18日)
気になったのは132~133ページにかけてのこの部分。
こんなふうに冷静に自分を「観察」していたのですね‥。

僕は、父の生きているあいだは、その足もとの影の中で
育ち、父の死後は杏奴の足もとへその身をよせたのである。
母が杏奴をかわいがることは僕をもかわいがることであり、
姉の友だちが「杏奴さん」と言って親しむことは僕にも
親しみを感じることであった。僕は杏奴さんの「弟」で
あって、「類さん」ではなかった。僕はそれで満足し、
杏奴もそれを当然だと思っていたようだ。二人は一つの
魂になっていたので、杏奴のきらいな人間を僕もきらい、
すきな人間を僕もすいて、その度合まで同じであった。
世間から圧迫をくわえられている母や茉莉に属していた
ので、一致団結がややその度を越したものであろう。

そして、書店主になったときの感想が、後書きの中に
ありました。

「四十を越してはじめて外気にあたったので、人生の
出発点が人のばあいと反対である。老いに手がとどいている
ことは残念であるが、それだけに手足がきかなくなるまでは
前進したい意欲がさかんである。風にあたると、まわりの
物事や人の心がはっきり見えてくるから、これからは
おもしろい人生を文章に書きたいと思っている」



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