報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「栃木へ向かう当日の朝」

2024-04-26 15:32:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月25日08時00分 天候:曇 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 高橋「あっ、先生!おはようございます!」
 パール「おはようございます」
 愛原「あはは……おはよう」
 高橋「どうかしたんスか?」
 パール「……何か、先生のお体から変な臭いが……?」
 愛原「うん、やっぱバレるよね。これ、帰ってからでいいから、洗濯しといてくれ」

 私はそう言って、リサの部屋のベッドの中や下に落ちていた、使用済みのショーツやブルマ、スポブラを見せた。

 

 
 
 高橋「あいつ!先生に散々っぱら言われたのに!後で俺から説教しておきます!」
 愛原「いいよ。あいつが退院したら、俺から言っておく」
 パール「でも先生、どうしてわざわざ今さらそれを?」
 高橋「まあ、あいつの部屋の家探しなんて、あいつがいない時にしかできませんからねぇ」
 愛原「いや、そういうわけじゃないんだ……」

 私は、どう説明しようか、迷っていた。
 ところが!

 右手👋
 左手✋
 高橋「わあっ!何だ!?」
 パール「先生、離れてください!危険です!」

 リサの寄生虫から合体してできた、リサの分身とも言うべき右手と左手。
 まるで、“アダムスファミリー”シリーズに出て来るハンドのような存在。
 私の背中などに隠れていたが、ついに高橋やパールに対しても姿を現した。

 愛原「実は、かくかくしかじか……」

 私は観念して、昨夜にあった事を話した。

 高橋「せ、先生!そういう時は、すぐ俺達に助けを求めて頂ければ、対処したのに……!」
 パール「リサさんの分身であるなら、そんなに危険は無いと思いますけど、でも何で手だけ?」
 愛原「特異菌さえあれば、エブリンのように、俺達に幻覚を見せることができたんだろうが、今はその特異菌が除去されたからな。いま駆使できるのは、リサの体の外から出て来た寄生虫と、それが合体してできたリサの手の化身だけだそうだ」
 高橋「何だって今さらこんなのが……」
 愛原「俺達が今日から出かけるから、留守番しててくれるらしいぞ」

 すると手達、チラシの裏紙にスラスラとペンを走らせる。

 『留守はセコムにお任せください』

 高橋「不気味なセコムだなw」
 パール「まあ確かに、侵入した途端、手のオバケが襲ってきたら、泥棒は一目散に逃げるでしょうねぇ……」
 愛原「リサの分身なら、悪いようにはしないだろう。とにかく、脱ぎっ放しの下着は洗濯しといてやってくれ」
 高橋「あ、はい」
 愛原「まあ、使った後は俺が少し洗って……」
 高橋「ん?何か言いました?」
 愛原「い、いや、何でもない。そうか。リサのベッドで寝るハメになったから、あいつの匂いが付いちゃったか。……ちょっと、シャワー浴びて来る」
 高橋「あ、はい!」
 パール「早いとこ、4階にシャワールームが増設されるといいですね」
 愛原「設置工事は来週からだろう?」
 高橋「そうです!」

 結局内装工事は、高橋の知り合いの内装工事会社に任せることにした。
 こういう時、彼らの人脈は非常に助かる。

[同日08時30分 天候:曇 同地区 愛原家3階浴室→ダイニング]

 愛原「ちょちょ……!洗うのは背中だけでいいって!こここ、こらっ!!」

 シャワーを浴びていると、手達が入って来て、私の背中を流してくれた。
 それだけならまだしも、シャンプーの他、全身『手洗い』コースまで!
 絶対これ、リサの意思が働いてるだろ!もしかしてリサ、意識が戻ったのか!?
 後で確認してみよう。
 ……最後には手○キでヌかれてしまった。
 リサのヤツ、あんなに上手とは……。
 い、いや、分身か……あれ?

 愛原「ただいまァ……」
 高橋「だ、大丈夫っスか、先生!?」
 愛原「大丈夫、大丈夫……。さあ、朝飯にしよう」
 パール「今朝はベーコンエッグです」

 2つ目玉の目玉焼きに、カリカリに焼いたベーコンが下敷きになっていた。
 土休日はパン食と決めているが、今日のパンはホットドッグだった。
 今朝の食事当番は高橋だったことを思い出す。

 高橋「実は事務所の冷蔵庫に置いてあるウィンナー、今日明日で賞味期限が迫ってることに気づきまして……」
 愛原「そういうことか。それならしょうがない。勿体ないからな」
 高橋「サーセン」
 愛原「東京駅から11時くらいの新幹線で向かうぞ。タクシーの予約、よろしく」
 高橋「あ、それならもうサムに頼んでます」
 愛原「サム?」
 高橋「佐元工務店のあいつですよ」
 愛原「ああ!」

 要は高橋の知り合い。
 4階のシャワールーム増設工事を頼んだ工事会社だ。
 こういうヤツらって、ニックネームを付けるのが好きなようだ。
 佐元(さもと)だから、サムだって。
 実際ゴリマッチョなところが、某海物語の某サムに似ているということからも、そう付けられた理由のようだ。
 顔は全然似てないけどねw

 愛原「うー……食後にキューピーコーワゴールドも飲んどこう……」

 本体のリサは遠慮してるのに、化身の手達は遠慮が無い。
 昨夜もリサの使用済み下着やブルマなどを使って、何発かヌかれた。

 高橋「大丈夫っスか?」
 愛原「大丈夫大丈夫。新幹線の中で、ビールでも飲めばすぐに元気になるよ」
 高橋「さすがは名探偵っス!」
 愛原「おい、探偵は関係無いだろ!」

 尚、食後に現場に詰めている善場主任に確認したところ、リサの意識はまだ戻っていないという。
 どうやら本体の意を組んだ手達が、本体に忖度して、積極的に私を攻めているだけのようだ。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの大手術の後で」 

2024-04-24 20:34:44 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月24日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 愛原「乾杯!」
 高橋「カンパーイっス!」
 パール「乾杯です!」

 リサの手術は2日掛かりであった。
 結論から言うと、手術は成功。
 2日掛かりであった。
 具体的には当初の予定通り、まずは体内の特異菌を死滅させ、感染していた寄生虫を全て除去する。
 そして、Gウィルスは完全除去できる技術が確立するまでの間、偽の特異菌を噛ませておく。
 偽の特異菌とは、無害化した特異菌のこと。
 特異菌の素は、ルーマニアの山奥で発見された新種のカビ。
 それをバイオテロ組織が手に入れて、生物兵器化させたものである。
 そのカビの菌根は焼却処分されている。
 偽の特異菌には、Gウィルスが変化の時に出す触手(通称、『ネメシスの鞭』)が異物であることを知らせる情報が入っている。
 それに騙されたGウィルスは、触手を体から排除しようとするので、Gウィルスの核に麻酔を打ち込んで黙らせると、その隙に触手を取り除くという荒療治であった。
 その後は美容外科手術で、触手が出入りしていた痣を綺麗にする。
 それから、手術の為に体に開けていた穴を塞いで終了というもの。
 Gウィルスは残り、無害化しているとはいえ、特異菌も残っているわけだから、リサを完全に元の人間に戻すことはできなかった。
 少なくとも、これでリサが触手の生える第2形態以降には変化しないはずである。
 あとは意識が回復するのを待つだけ。
 もちろんその後は経過観察があったり、点滴治療を行ったりするので、施設での暮らしはもう少し続くことになる。

 愛原「取りあえず、明日・明後日は上野利恵の所に行こう」
 高橋「そこは予定通りなんスね」
 愛原「ああ。まあ、仕方無いだろう。上野利恵達には、栗原蓮華と戦ってもらうという任務もあるし、その挨拶を兼ねてだ」
 高橋「鬼同士をケンカさせるなんて、いいアイディアっスね」
 愛原「元々が、蓮華達が上野達のシマで暴れたのが原因だからな。そこに便乗させてもらうだけの話だよ」
 高橋「さすがは先生っス」
 愛原「とはいえ、何の挨拶も無いのはアレだからな。それに、利恵達もバカじゃないから、俺の身に何かがあったら大変なしっぺ返しがあるということくらいは知ってるよ」
 高橋「なるほど」
 愛原「リサの意識が無い今のうちに、たーっと行って、たーっと帰って来るんだ。分かったな?」
 高橋「うっス!」
 パール「分かりました」

[同日23時00分 天候:晴 愛原家4階・愛原の部屋→リサの部屋]

 愛原「さーて、明日は朝から移動だし、もう寝るとしよう」

 リサがいないので、4階では私1人で寝ることになる。
 それでも私は自室に入り、ベッドに潜り込んだ。
 そして、消灯して幾ばくかもしないうちに……。

 愛原「ん?」

 トントンとドアがノックされた。
 それも、小さなノックの音。
 よく聞くと、ドアのあちこちから聞こえて来る。
 まるで、指でノックしているかのようだ。

 愛原「何なんだ?」

 私がドアを開けると、そこには……。

 愛原「うわっ!?」

 白い紐のようなものと、イモムシみたいな物が蠢いていた。
 リサの寄生虫が頭に浮かんだ。
 それを合図にするかのように、その白い物達は合体すると……。

 愛原「手!?」

 人間の手の形になった。
 具体的には、手首から先の部分だけ。
 右手があったり、左手があったりする。
 それが4~5個になった。
 一体、これは何なんだ?

 愛原「うわっ!?何をする!?」

 手達は私を軽々と抱えると、部屋から連れ出し、リサの部屋へと連れ込んだ。
 オッサン臭い私の部屋と違い、リサの部屋は女の子の匂いで一杯である。
 手達は私をそこで降ろすと、リサのベッドの掛布団を捲り上げた。
 そして、『右手』の1つはそこを指さし、『左手』の1つはマットレスをポンポンと叩いた。
 ここで寝ろと言いたいのか?
 何でー?

 愛原「そもそもオマエ達は一体、何なんだ?」

 私の問いに『右手』の1つが、リサの机の上に向かった。
 そしてそこにあるペンを取ると、メモ用紙にスラスラと何かを書いた。

 『リサのともだち』

 愛原「リサの友達だぁ?リサの友達が、こんな勝手なことをしていいのか?」

 すると、『右手』がまたスラスラとペンを走らせる。

 『これはリサがのぞんでること』

 愛原「女の子のいい匂いがするが、俺みたいなオッサンが寝たりしたら、オッサンの臭いが染み付くぞ。それでもいいのか?」

 『リサにとってはごほうび』

 愛原「マジか……」

 すると、別の『右手』にドンと背中を押され、私はベッドに倒れ込んだ。

 愛原「おいおい!」

 そして無理やりベッドの中に入れられると、掛布団を被せられた。

 愛原「ん?」

 ベッドの中に何かある。

 

 取り出すと、それはリサの脱ぎっ放しのショーツだった。
 あいつめ、脱いだら洗濯機のカゴに入れろって言っといたのに……。

 愛原「ん?」

 更に手達が何か書いて持って来る。

 『楽しんで💛』

 愛原「こらぁっ!」

 恐らく、リサの体内にいた寄生虫達が、彼女が寝ている間などに体から抜け出たものだろう。
 それまで体内にいたことで特異菌に感染し、彼女の意を多分に受けているのだ。

 だから、『リサの友達』を自称してはいるが、実際は手だけの分身みたいなものだろう。

 愛原「ちょっと握手してくれるか?」

 試しに私は右手を差し出した。
 すると、手達は我先にと私の手を握ろうとしてくる。

 愛原「握手は右手でするものだぞ」
 左手達(´・ω・`)
 愛原「あー、やっぱり」

 握手したみた結果、分かったことがある。
 まるで、人間の手と握手しているような感覚であったが、もっと言うと、リサと握手をしたような感じだった。
 だから、リサの実質的な分身だと確信した。
 これは恐らく、本人が帰宅するまでは消えることはないだろう。

 愛原「あー、分かった分かった。ここで寝りゃいいんだろ、ここで」

 どの道、従わないと部屋から出してもらえなさそうだ。
 私は観念して、リサのベッドに潜り込むことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「リサの大手術」

2024-04-24 16:14:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月23日08時00分 天候:雨 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所2階]

 いよいよ、リサの手術が始まった。
 まずは全身麻酔から行う。
 人間と違って、相手はBOW(Bio Organic Weapon)なので、生半可なことでは麻酔は効かない。
 まずはリサの体内にある特異菌を死滅させ、また、寄生虫も死滅させる必要があった。
 その際、クリーチャー化した寄生虫が暴れたり、リサ自身が暴走する危険性があるあので、手術室の内外には武装守衛の他、BSAAも配置されている。
 基本的には日本地区本部が対応に当たるが、在日米軍に間借りして出向している北米支部も出動していた。
 その中に、レイチェルが後方支援要員として配属されているという。
 養成学校生とあっては、まだ最前線に出せないからだろう。
 とはいえ、貴重な実地研修である。
 正規隊員でもなかなか滅多にお目に掛かれないBOWなだけに、訓練生も勉強の為に呼ばれたのだろう。
 正規隊員とは違う、養成学校生の軍服を拝む良いチャンスだ。
 ……ここまで詳細に実況できているのは、偏にこのもようはBSAAの広報官によって撮影されているからである。
 もちろん、視聴できるのは限られた者だけであるが。
 今回私達はリサの保護者ということもあり、特別にこの中継を視聴することが許可された。
 但し、実際の手術シーンは見せられないという。
 まあ、とんでもないグロ画像になるだろうから、そこまで見たいとは思わない。
 もう1度言うが、今日は地上の研修センターも含め、地下の研究施設もBSAAなどが武装警備に当たっている。
 まさかとは思うが、こんな時に栗原蓮華が出張ってくるとは思えなかった。
 行くなら、上野利恵のところだろう。
 今回は善場主任も、現地入りしているという。
 NPO法人デイライトは、BSAA日本地区本部隊の窓口業務を請け負っているからである。
 公式には存在しないことになっているが、善場主任は日本政府側の諜報機関の人。
 つまり、日本政府も関心を持っているということだ。

 高橋「先生、始まったみたいです」
 愛原「そうか」

 どうやら全身麻酔が効いたようで、手術が始まったようだ。
 当初の予定では、これでリサが人間に戻れることになっていたが、今は完全にはそれは無理となり、今では、『これ以上、化け物に変化するのを防ぐ』という後進的なものになっている。

[同日12時00分 天候:雨 同事務所]

 高橋「先生、昼飯っス」
 愛原「ああ」

 昼食は高橋が作ってくれた。
 ホットドッグではなく、今日は鍋焼きうどん。
 今日は1日中雨で肌寒い日なので、ちょうど良い。
 実は、進展はあまり無かった。
 何でも、特異菌の除去に手間取っているのだという。

 善場「リサが保有している特異菌は、Gウィルスと融合してしまっているので、まずはそれを分離させる必要があります」

 特異菌の除去には、アメリカのエブリン退治の際にも使用された薬剤が使用される。
 それで少しずつGウィルスから引き剥がす必要がある。
 Gウィルスにもワクチンがあるが、胚状態のものを殺す程度のものであり、ここまで本体と融合している状態での使用は危険ということで、見送られている(シェリー・バーキン氏や善場主任は『胚』を埋め込まれただけの状態だったので、ワクチンが効いている)。
 いずれは研究は進み、成長したGウィルスを除去できるようにはなるのだろう。
 この時、本当にリサは人間に戻れるのかもしれない。

 愛原「こりゃ、本当に何日も掛かる見込みですか?」
 善場「その見込みです」
 愛原「うへー……」
 善場「特異菌を除去さえできれば、あとはGウィルスを眠らせるだけなのですが」
 愛原「Gウィルスを眠らせる?そんなことができるんですか?」
 善場「はい。その仕組みはお話しできませんが、眠らせている間に触手の素を除去し、痣を除去することができます」
 愛原「そうなんですか。……あれ?何か、前に、『Gウィルス単体では危険』とか言ってませんでした?」
 善場「はい。本物の特異菌ではなく、無毒化した『偽の特異菌』をリサに投与します」
 愛原「そんなものがあるんですか?」
 善場「はい。そうすることで、Gウィルスは従来通り、特異菌を取り込んでいると勘違いするわけです。当初はTウィルスを使用するという案もありました。Tウィルスなら愛原所長方には抗体がありますし、今はワクチンもありますから」
 愛原「とはいえ、流出したら危険なことに変わりは無いのでは?」
 善場「はい。ですので、最終的にそれは見送られました」
 愛原「『無毒化した特異菌』とは、具体的にどういう特異菌なのでしょう?」
 善場「有毒な特異菌は感染者をモールデッドに『転化』したり、BOWに『転化』したりしますが、無毒化した物についてはそういう現象は起こりません」
 愛原「へえ……!」
 善場「寄生虫が感染して、リサに使役されることもないでしょう」
 愛原「たまにあいつ、寄生虫を悪用することがあるからなぁ……」
 善場「ただ、無毒化したといえ、元は特異菌です。リサに投与することで、再活性しないとは限りません。ただ、他に方法が無いので」

 公一伯父さんの薬剤って、結局何だったのだろう?
 善場主任の話を聞いている限り、かなり不完全なものだ。
 時間は掛かるが、有毒な特異菌を安全に除去できて?更には有毒であるはずの特異菌を無毒化できるなんて、それは確かに画期的なことだろう。
 Gウィルスが除去できないのは、私も前から知っている。
 『胚』の状態でワクチンを投与されても、残ったウィルスが体内に取り込まれたままという絶望的なのがGウィルスの特徴だ。

 高橋「先生、早く食べないと冷めちゃいますよ?」
 愛原「ああ、今食べる」

 現場ではリサも含め、飲まず食わずの状態なのだろう。
 それを想像するに申し訳無いことだが、私は昼食に箸を付けさせてもらうことにした。
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“私立探偵 愛原学” 「鬼の居ない家」

2024-04-22 20:38:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月22日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 今夜は久しぶりに、リサのいない夕食を囲むことになった。

 愛原「いいのか?せっかくの新婚なのに、俺なんかが混じってて」
 高橋「全然大丈夫っス。俺は先生の不肖の弟子ですから!」
 パール「私も、先生にはお世話になっている身ですので」
 愛原「そ、そうか。それならいいんだが……」

 リサがいないので、今日は魚メインの食卓になった。
 ホッケの開きに、スーパーで買って来たという刺身の盛り合わせがメインだ。
 食べていると、リサの方も夕食の時間なのか、それを写真に撮ってLINEに送って来た。

 愛原「リサの方はハンバーグ定食らしい。元からそうなのか、リサに気を使って肉料理にしてくれたのか……」
 高橋「ムショの飯に似ているようで、ちょっと違いますね」
 パール「どっちかっていうと、少年院の飯に似てない?」
 高橋「あ、そうか!」
 愛原「お前らの飯の基準、それかい!」

 この2人の料理のスキルは、受刑中に付けたものである。
 高橋もパールも、少年院と少年刑務所を経験しているので。
 パールの場合は、女子少年院と女囚刑務所か。

 愛原「俺には合宿所の飯に見えたけどな」
 高橋「さすがは先生です」
 愛原「ていうか、飯は研修センターの食堂で作っているのと同じなんじゃないか?」
 高橋「言われてみれば……」
 愛原「食器も同じだしな」
 高橋「食器!よく覚えてますね!」
 愛原「探偵として、そんなものは基本だぞ」
 高橋「! メモっておきます!」

 一流の探偵を目指すべく、常に勉強しようとする姿勢は立派なんだがなぁ……。

[同日19時00分 天候:晴 同地区 愛原家3階リビング]

 食事が終わると、私はリビングに移動する。
 と、家の固定電話が鳴った。

 愛原「はい、愛原です」
 上野利恵「愛原先生!こんばんは!上野です!」
 愛原「う、上野利恵……!?」
 利恵「今週末、当ホテルへの御来館を決めて頂いたそうで、ありがとうございます。大歓迎致しますわ!」
 愛原「せ、せっかく誘ってくれたのに、無碍には断れないからな……」
 利恵「リサ姉様はいらっしゃらないことですし、是非とも鬼の居ぬ間に命の洗濯をなさってください」
 愛原「オマエも鬼だろうがw」
 利恵「娘達も、愛原先生のお越しを心よりお待ち申し上げております」
 上野凛「あ、愛原先生!お、お待ちしております」
 上野理子「お、お待ちしています」
 愛原「キミ達、何か言わされてる感無い!?無理しなくていいんだよ!?」
 利恵「ああ……愛原先生の声を聴けただけでも幸せ……

 何で私は、鬼の女にしかモテんのだ?

 愛原「そんなに私を歓迎したいのかい?」
 利恵「はい!もちろんですわ!」
 愛原「私よりも血肉の美味い人間なんて、そこら中にゴロゴロいるだろう?」
 利恵「いいえ!愛原先生は特別です!こんな特別な人間、私の……死んだ主人くらいしかいませんでしたわ……」

 『死んだ』ではなく、利恵が『食い殺した』んだからな?
 このツッコミを、私は喉の奥に押し留めた。
 つまり、私も食人の対象ということか。
 いや、1度未遂で襲われたから、とっくのとうに理解しているのだが。
 因みに、利恵が食い殺した人間の旦那の写真を見せてもらったことはあったが、私とは似ても似つかない男性であった。
 恐らく、利恵の好みは顔ではなく、『匂い』なのだろう。
 リサも、私が『美味そうな匂い』だと言った。
 そして、『特別に美味しい血の味がする』と言っていた。
 血液型は普通にO型なのだが、どうも鬼型BOWには血の味の違いが分かるらしい。
 で、何か知らんが、私は貴重種なのだと。

 愛原「ああ、そう。それは光栄なことで。それより、そっちに栗原蓮華は行った?あいつも、俺の血を狙ってるらしいぞ?」
 利恵「横入りしてきた知らない女に、先生の血は一滴も渡しません!……東京では私の部下達と、ヤツの手下達で小競り合いがあったそうですが、蓮華本人とは遭遇していません。で、こちらにも蓮華の手下と思われる鬼が偵察にやってきたのですが、返り討ちにしてやりましたわ!」
 愛原「蓮華が待ち構えているのなら、俺は行かない方がいいんじゃないか?」
 利恵「ご安心ください!私達は全力で先生の御安全を確保致しますわ!」
 愛原「そ、そうかい?もし私の身に何かあったりでもしたら、リサが黙っちゃいないと思うんだよ?」
 利恵「は、はい!姉様の怒りに振れるようなことは一切致しません」
 愛原「それならいいけどね」

 その時、私のスマホの方にLINE通話の着信があった。
 画面を見ると、リサからの電話だった。

 愛原「ちょっと待ってくれ!リサから電話が来た!出ないとマズい!」
 利恵「かしこまりました。では今週末、お気をつけてお越しくださいませ」
 愛原「分かった!それじゃ!」

 私は電話を切ると、急いでリサのスマホに出た。

 愛原「も、もしもし!?」
 リサ「先生?出るの遅かったね?何してたの?」

 電話の向こうから、冷たい鬼の声が聞こえて来た。

 愛原「いや、ちょっとトイレ行ってたんだ!悪い悪い!」

 私は咄嗟にウソをついた。
 さすがに利恵から電話があったとは言えない。

 リサ「ふーん……。まあ、いいや。明日は大手術になるみたいだから、先生に励ましてもらおうと思って」
 愛原「そ、そうか!手術、どんな感じにやるって?」
 リサ「朝ごはん抜きだってよ!信じられる!?」
 愛原「いや、まあ、大手術の時って、だいたいそうだよ。ということは、もう朝から手術をやるってことだな?」
 リサ「そう!しかも全身麻酔だよ!」
 愛原「まあ、だろうなぁ……。大変だと思うけど、これも人間に近づく為の大前進だから、頑張るんだぞ?」
 リサ「分かった」

 当初は人間に戻れるかもしれない手術だったのだが、さすがにそれは無理だと分かった。
 明日の手術は、リサをこれ以上、化け物に変化しない為の防止が目的である。
 その為に、肩甲骨の痣を除去し、触手が現れるのを防がなくてはならない。

 愛原「多分、1日では終わらないと思うが、お前なら乗り越えられる!だから絶対……」

 と、また固定電話の着信音が鳴る。

 リサ「電話鳴ってるよ!?」
 愛原「あ、大丈夫だ。高橋が取ってくれる」
 高橋「はい、愛原っス」
 愛原「ほら?」
 リサ「そうか。お兄ちゃんが取ってくれたのなら……。先生、終わったら絶対に迎えに来てね?」
 愛原「もちろんだ」
 高橋「うるせっ!てめっ!フザけんじゃねぇっ!!」
 愛原「!?」

 高橋は電話で怒鳴りつけると、ガチャンと受話器を叩き付けるように切った。

 愛原「どうしたんだ、うるさいぞ!」
 高橋「さ、サーセン!蓮華から電話が掛かって来やがりまして……」
 愛原「ファッ!?」
 リサ「にゃにぃ!?」
 高橋「『愛原先生を出せ』と言ってきやがりました」
 愛原「マジか!?」
 リサ「あのクソ女、ブッ殺す!わたしの!この手でーっ!!」
 愛原「リサ、落ち着け。しかし、わざわざ電話してきたってことは、俺を狙う気満々だってことだな」
 高橋「家を特定されているのは確かですね。あいつ、人間だった頃にここに来たことありますし」
 愛原「そ、そうだな」
 リサ「先生、どこかに避難して。ていうか、こっちに来て!」
 愛原「しかし、平日は仕事があるからなぁ……」

 しかし、今夜は随分と鬼女達にラブコールを送られる日だ。
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“愛原リサの日常” 「初日の検査」

2024-04-22 11:34:48 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月22日13時00分 天候:不明 神奈川県相模原市緑区某所 国家公務員特別研修センター地下研究施設]

 リサ「…………」
 検査技師A「はい、息を大きく吸ってー!はい、そこで止めます」

 まずは胸のレントゲン写真を撮られた。
 既にリサの体内の臓器は、その構造からして人間と違うことが判明している。
 Gウィルスは今や変異に変異を重ね、疑似臓器としてリサの体内に宿っている。
 こうすることで1つの臓器が死んでも、すぐに新しい臓器が復活してを繰り返し、BOW本人が死なないようになっているのだ。
 さすがにGウィルス本体を体内から駆逐したシェリー・バーキンや善場優菜にはそんなものはないが、残ったウィルスが形を変えて残り、驚異的な回復力や身体能力を名残としている。

 検査技師A「次は採尿・採血です。隣の部屋に移動してください」
 リサ「はい」

 今日は初日ということもあり、都内のクリニックで受けた事前検査とほぼ同じことをやるだけらしい。
 事前検査との違いを確認する為だという。
 違うのは、脳のCTスキャンや腹部エコー検査などもあること。

 検査技師B「それでは採血を行います」

 採尿の後は採血。

 検査技師B「今日は10本取らせて頂きます」
 リサ「10本!?お腹空きそう……」
 検査技師B「今日は検査だけですので、夕食は取って頂いて構いませんよ」
 リサ「おー!」

 次は身長・体重。

 検査技師C「身長157cm、体重53キロ。ほぼ17歳女子の平均ですね」
 リサ「ほー、これ平均なんだー。少しだけ伸びたかな。(蓮華やメイドさんが高いだけか)」
 検査技師C「これまでの身体データを見るに、BOWにしては成長が遅いとされていましたが、今は常人並みと言えるでしょう」
 リサ「ふむふむ……」

 あれだけの食欲を抱えておきながら、見た目の体型は平均程度という不思議を解明するのも、ここの研究施設の課題であるようだ。
 一説によると、リサの体内にいる寄生虫の栄養となったり、Gウィルスが疑似・予備臓器の維持に消費しているのではとなっている。

 検査技師D「ここでは脳のCTスキャン並びに腹部エコー検査を行います」
 リサ「はい。(本当に検査だけで1日掛かりそうだなぁ……)」

 で、腹部エコー検査を受けていると……。

 検査技師D「あれ?食べた物はどこに?」
 リサ「あー、お腹空いた……」

 検査技師は昼食を取ったはずのリサの胃の中が、殆ど無くなっていることに気づいた。

 リサ「気を抜くと、すぐにお腹が空くんだよねぇ……」
 検査技師D「大方の検査が終わったら、休憩はありますから」
 リサ「おやつ、食べれる!?」
 検査技師D「大丈夫だと思います」

[同日15時00分 天候:不明 同施設・自販機コーナー]

 休憩時間になる。

 リサ「おやつ、おやつー」

 自販機コーナーにあるのは飲み物だけでなく、お菓子やパンの物もあった。
 カード読取機があったが、どうやらICカード対応ではないようだ。

 武装守衛「それは職員のIDカード読取機だよ。職員はここでの支払いは、食堂も含めて、ほぼIDカードなんだ。そして、支払った分は給料天引きになる。そういうシステムだ」

 リサの後ろでショットガンを持つ武装守衛は、リサにそう言った。
 もちろん、来訪者など、職員でなくても買えるように、現金の投入口はある。
 つまり、職員以外は現金オンリーということだ。

 リサ「なるほど」

 自販機の値段は、外にある自販機と大して変わらない。
 また、品揃えも大して変わらなかった。

 武装守衛「飲食は原則、宿泊エリアで」

 ということで、一旦居住区に戻される。
 尚、研究施設にあるウォーターサーバーは使って良いもよう。
 居住区には設置されていないが、給湯室の水道には一応、浄水器が付いている。

 リサ(水のペットボトルは買っといた方がいいかな……)

[同日16時00分 天候:不明 同施設・問診室]

 医師「それでは、口を大きく開けてー」
 リサ「出た!アイスの棒みたいなヤツ!」
 医師「…………」

 医師はペンライトで、リサの喉の奥を照らした。

 寄生虫「コンニチハ」
 医師「わっ!?」

 リサの喉の奥から白いドジョウのような寄生虫が現れた。

 医師「寄生虫を引き抜きますよ!?」
 リサ「えっ?それはやめた方が……」
 医師「あっ、待って!」

 しかし、寄生虫はリサの体内に引っ込んでしまった。

 リサ「一匹だけ引き抜いても、また出て来るだけですよぉ……」
 医師「寄生虫の除去も、治療目的に加えておきましょう。後ろ向いて」

 背中の肩甲骨辺りにある痣。
 これは第2形態以降に現れる、触手が現れる場所だ。
 オリジナルのリサ・トレヴァーがここから触手を出していたことから、Gウィルスを受け継いだ者の系譜の証拠となるものだとされている。
 ここでの目的は、この系譜を断ち切ること。
 即ち、リサのこの痣を消して、触手が現れるのを防止することである。

 医師「明日から大手術になりますから、今から覚悟しといてください」
 リサ「うへー……」

 医師の問診で、今日の予定は終了となる。

 リサ「おやつと飲み物、買って行こう」

 再び自販機コーナーに寄らせてもらい、飲み物と食べ物を買って行く。
 それから、居住区に戻った。
 検査着は脱いで、それからシャワーを浴びることにする。
 シャワールーム内に、シャンプーやボディソープは備え付けられているので。

 リサ「お湯に浸かりたいな……」

 シャワーはちゃんとお湯が出るし、水圧も申し分無かったのだが。
 夕食までは寝室のベッドに転がり、スマホを弄ったり、タブレットで電子書籍のマンガを読んだりしていた。
 18時になると夕食。
 初日の夕食は、ハンバーグ定食だった。
 御飯のお代わりはできないようだったが、一応、丼ぶり飯に大盛りが頼めた。
 少なくとも、夢で見た刑務所の独房よりはマシな待遇であるようだ。
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