報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「鬼の居ない家」

2024-04-22 20:38:50 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月22日18時00分 天候:晴 東京都墨田区菊川2丁目 愛原家3階ダイニング]

 今夜は久しぶりに、リサのいない夕食を囲むことになった。

 愛原「いいのか?せっかくの新婚なのに、俺なんかが混じってて」
 高橋「全然大丈夫っス。俺は先生の不肖の弟子ですから!」
 パール「私も、先生にはお世話になっている身ですので」
 愛原「そ、そうか。それならいいんだが……」

 リサがいないので、今日は魚メインの食卓になった。
 ホッケの開きに、スーパーで買って来たという刺身の盛り合わせがメインだ。
 食べていると、リサの方も夕食の時間なのか、それを写真に撮ってLINEに送って来た。

 愛原「リサの方はハンバーグ定食らしい。元からそうなのか、リサに気を使って肉料理にしてくれたのか……」
 高橋「ムショの飯に似ているようで、ちょっと違いますね」
 パール「どっちかっていうと、少年院の飯に似てない?」
 高橋「あ、そうか!」
 愛原「お前らの飯の基準、それかい!」

 この2人の料理のスキルは、受刑中に付けたものである。
 高橋もパールも、少年院と少年刑務所を経験しているので。
 パールの場合は、女子少年院と女囚刑務所か。

 愛原「俺には合宿所の飯に見えたけどな」
 高橋「さすがは先生です」
 愛原「ていうか、飯は研修センターの食堂で作っているのと同じなんじゃないか?」
 高橋「言われてみれば……」
 愛原「食器も同じだしな」
 高橋「食器!よく覚えてますね!」
 愛原「探偵として、そんなものは基本だぞ」
 高橋「! メモっておきます!」

 一流の探偵を目指すべく、常に勉強しようとする姿勢は立派なんだがなぁ……。

[同日19時00分 天候:晴 同地区 愛原家3階リビング]

 食事が終わると、私はリビングに移動する。
 と、家の固定電話が鳴った。

 愛原「はい、愛原です」
 上野利恵「愛原先生!こんばんは!上野です!」
 愛原「う、上野利恵……!?」
 利恵「今週末、当ホテルへの御来館を決めて頂いたそうで、ありがとうございます。大歓迎致しますわ!」
 愛原「せ、せっかく誘ってくれたのに、無碍には断れないからな……」
 利恵「リサ姉様はいらっしゃらないことですし、是非とも鬼の居ぬ間に命の洗濯をなさってください」
 愛原「オマエも鬼だろうがw」
 利恵「娘達も、愛原先生のお越しを心よりお待ち申し上げております」
 上野凛「あ、愛原先生!お、お待ちしております」
 上野理子「お、お待ちしています」
 愛原「キミ達、何か言わされてる感無い!?無理しなくていいんだよ!?」
 利恵「ああ……愛原先生の声を聴けただけでも幸せ……

 何で私は、鬼の女にしかモテんのだ?

 愛原「そんなに私を歓迎したいのかい?」
 利恵「はい!もちろんですわ!」
 愛原「私よりも血肉の美味い人間なんて、そこら中にゴロゴロいるだろう?」
 利恵「いいえ!愛原先生は特別です!こんな特別な人間、私の……死んだ主人くらいしかいませんでしたわ……」

 『死んだ』ではなく、利恵が『食い殺した』んだからな?
 このツッコミを、私は喉の奥に押し留めた。
 つまり、私も食人の対象ということか。
 いや、1度未遂で襲われたから、とっくのとうに理解しているのだが。
 因みに、利恵が食い殺した人間の旦那の写真を見せてもらったことはあったが、私とは似ても似つかない男性であった。
 恐らく、利恵の好みは顔ではなく、『匂い』なのだろう。
 リサも、私が『美味そうな匂い』だと言った。
 そして、『特別に美味しい血の味がする』と言っていた。
 血液型は普通にO型なのだが、どうも鬼型BOWには血の味の違いが分かるらしい。
 で、何か知らんが、私は貴重種なのだと。

 愛原「ああ、そう。それは光栄なことで。それより、そっちに栗原蓮華は行った?あいつも、俺の血を狙ってるらしいぞ?」
 利恵「横入りしてきた知らない女に、先生の血は一滴も渡しません!……東京では私の部下達と、ヤツの手下達で小競り合いがあったそうですが、蓮華本人とは遭遇していません。で、こちらにも蓮華の手下と思われる鬼が偵察にやってきたのですが、返り討ちにしてやりましたわ!」
 愛原「蓮華が待ち構えているのなら、俺は行かない方がいいんじゃないか?」
 利恵「ご安心ください!私達は全力で先生の御安全を確保致しますわ!」
 愛原「そ、そうかい?もし私の身に何かあったりでもしたら、リサが黙っちゃいないと思うんだよ?」
 利恵「は、はい!姉様の怒りに振れるようなことは一切致しません」
 愛原「それならいいけどね」

 その時、私のスマホの方にLINE通話の着信があった。
 画面を見ると、リサからの電話だった。

 愛原「ちょっと待ってくれ!リサから電話が来た!出ないとマズい!」
 利恵「かしこまりました。では今週末、お気をつけてお越しくださいませ」
 愛原「分かった!それじゃ!」

 私は電話を切ると、急いでリサのスマホに出た。

 愛原「も、もしもし!?」
 リサ「先生?出るの遅かったね?何してたの?」

 電話の向こうから、冷たい鬼の声が聞こえて来た。

 愛原「いや、ちょっとトイレ行ってたんだ!悪い悪い!」

 私は咄嗟にウソをついた。
 さすがに利恵から電話があったとは言えない。

 リサ「ふーん……。まあ、いいや。明日は大手術になるみたいだから、先生に励ましてもらおうと思って」
 愛原「そ、そうか!手術、どんな感じにやるって?」
 リサ「朝ごはん抜きだってよ!信じられる!?」
 愛原「いや、まあ、大手術の時って、だいたいそうだよ。ということは、もう朝から手術をやるってことだな?」
 リサ「そう!しかも全身麻酔だよ!」
 愛原「まあ、だろうなぁ……。大変だと思うけど、これも人間に近づく為の大前進だから、頑張るんだぞ?」
 リサ「分かった」

 当初は人間に戻れるかもしれない手術だったのだが、さすがにそれは無理だと分かった。
 明日の手術は、リサをこれ以上、化け物に変化しない為の防止が目的である。
 その為に、肩甲骨の痣を除去し、触手が現れるのを防がなくてはならない。

 愛原「多分、1日では終わらないと思うが、お前なら乗り越えられる!だから絶対……」

 と、また固定電話の着信音が鳴る。

 リサ「電話鳴ってるよ!?」
 愛原「あ、大丈夫だ。高橋が取ってくれる」
 高橋「はい、愛原っス」
 愛原「ほら?」
 リサ「そうか。お兄ちゃんが取ってくれたのなら……。先生、終わったら絶対に迎えに来てね?」
 愛原「もちろんだ」
 高橋「うるせっ!てめっ!フザけんじゃねぇっ!!」
 愛原「!?」

 高橋は電話で怒鳴りつけると、ガチャンと受話器を叩き付けるように切った。

 愛原「どうしたんだ、うるさいぞ!」
 高橋「さ、サーセン!蓮華から電話が掛かって来やがりまして……」
 愛原「ファッ!?」
 リサ「にゃにぃ!?」
 高橋「『愛原先生を出せ』と言ってきやがりました」
 愛原「マジか!?」
 リサ「あのクソ女、ブッ殺す!わたしの!この手でーっ!!」
 愛原「リサ、落ち着け。しかし、わざわざ電話してきたってことは、俺を狙う気満々だってことだな」
 高橋「家を特定されているのは確かですね。あいつ、人間だった頃にここに来たことありますし」
 愛原「そ、そうだな」
 リサ「先生、どこかに避難して。ていうか、こっちに来て!」
 愛原「しかし、平日は仕事があるからなぁ……」

 しかし、今夜は随分と鬼女達にラブコールを送られる日だ。

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