報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の結婚」 2

2024-04-04 21:55:37 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月17日12時15分 天候:雨 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]

 私のスマホに、タクシー配車アプリからの通知音が鳴る。
 呼んでいたタクシーが事務所に到着したらしい。

 愛原「気をつけて行けよ?」
 高橋「はい!」

 私は一応、ガレージまで2人を見送ることにした。
 エレベーターで1階に下りると、目の前がガレージである。
 ガレージは車が2台止められるようになっていて、1台はリースしている業務用のライトバンがある。
 もう1台は来客用に空けている。
 といっても車で来る来客は皆無に等しく、せいぜい善場主任達くらいか、或いは宅配業者くらいであった。
 今は予約したタクシーが止まっている。
 都内ではもう珍しくない、黒塗りのトールワゴンタイプのタクシーだった。

 愛原「アプリ決済になっているから、行きは金出さなくていいぞ」
 高橋「ありがとうございます」
 パール「それでは、行ってきます」
 愛原「ああ、行って来い」

 高橋とパールは、タクシーのリアシートに乗り込んだ。
 運転手が運転席に乗り込むと、タクシーは事務所の前の路地を左折していった。
 その後、三ツ目通りを左折して区役所を目指すのだろう。
 タクシーの車体は雨で濡れていたから、タクシーが出て行った後のガレージの床が濡れていた。
 もちろん、洗車もできるようになっているから、ちゃんと排水口があるので、冠水の心配は無い。
 私が事務所に戻ろうと、エレベーターに乗り込もうとした時だった。

 リサ「ただいまー!」

 傘を差したリサがガレージに入って来た。

 愛原「おー、リサ、お帰り。……また何か買ってきたのか?」
 リサ「ただいま」

 リサはガレージの中に入ると傘を閉じた。
 彼女の手には、傘以外にも何か持っている。

 リサ「エヘヘ……。ドトールコーヒーで、チーズケーキ買ってきちゃった」
 愛原「それがオマエの昼飯か?」
 リサ「まさか!おやつだよ!」
 愛原「今日はビーフジャーキーじゃないんだな」
 リサ「鬼の形したBOWでも、たまには甘い物が食べたくなるの」

 チーズケーキって、そんな甘い物かな?
 甘さは控えめだと思うが、まあいいだろう。

 リサ「あ、もちろん、先生の分も買ってるからね。一応、お兄ちゃんとメイドさんも」
 愛原「あ、そうなの。それは悪いね」
 リサ「それより、お腹空いたよー」
 愛原「早いとこピザ頼もう」

 私達はエレベーターで2階に上がった。

 愛原「何がいい?」
 リサ「そりゃもう、ミート系!これしか無いね!」
 愛原「だろうな」
 リサ「あれ?お兄ちゃん達は?」
 愛原「婚姻届がやっと届いたからな、今、区役所に出しに行ってる。昼飯も、外で食ってくる」
 リサ「じゃあ、わたしと先生、2人っきりだね!」
 愛原「あー、そうだな」
 リサ「わたし達の婚姻届はいつ出す!?」
 愛原「せめてお前が、学生を卒業してからだ。職業、学生のうちは無理だと思え」
 リサ「ふーん……。わたしが『人間に戻ってから』という条件は良くなったんだ?」
 愛原「えっ?……あ!」
 リサ「まあいいや。現状、わたしが人間に戻るのは難しいんだもんね。しょうがないね」
 愛原「いや、それはその……」
 リサ「それより、早く頼んで。わたし、Lサイズのピザ、半分でいいよ。その代わり、サイドメニューはフライドチキンのセットでね」
 愛原「……だろうな」

 私は事務机のパソコンから、宅配ピザ店にネットで注文した。
 Lサイズのハーフ&ハーフで、リサにはミート系、私はマルゲリータにした。

 愛原「……で、フライドチキンのサイドメニューだな」
 リサ「そうそう!」
 愛原「……はい、注文OKっと。30分後に来る」
 リサ「おー!……じゃあ、わたしは着替えて来る」
 愛原「ああ」

 リサは階段から上の階に上がって行った。
 それから私がパソコンに向かっていると、メールが着信していたことに気が付いた。
 それは善場主任からだった。
 何か、重要なお知らせだろうか?

 愛原「へえ……」

 しばらくして、リサが私服に着替えて下りて来た。
 体操服にブルマではなく、白いTシャツの上にピンク色のパーカーを羽織り、下は黒いミニスカートである。

 愛原「リサ、善場主任からメールが来たぞ」
 リサ「なーに?藤野行きは中止だって?」
 愛原「なワケねーだろ」
 リサ「ちっ」
 愛原「善場主任、4月から出世だよ。『主任』から『係長』だってよ」
 リサ「……そんなに偉いの?」
 愛原「少なくとも役所では、主任より上だよ。だから出世だ」

 善場主任の所属するNPO法人デイライトは、実質的には政府からの出先機関であるとされている。
 今では善場主任も、自分がそういう身分の国家公務員であることを隠さなくなった。
 事実、こうして挨拶状を送って来たのも証拠の1つだ。
 さすがに、日本政府のどこの省庁からの出向なのかまでは教えてくれないが。

 リサ「ふーん……」

 まだリサはピンと来ないようだ。
 まあ、学校では馴染みの無い役職だからだろう。

 愛原「藤野の研究施設のことだが、そこの守衛さん達は知ってるだろ?」
 リサ「気のいいオジさん達だよね。それがどうしたの?」
 愛原「警備会社と契約して、そこから派遣される警備員ではなく、直接センターを運営する国の機関に雇われている守衛さん達だ。つまり、あの人達も公務員ということだな」

 それも、警察官のような地方公務員ではなく、刑務官のような国家公務員である。

 リサ「だろうね。で、それがどうしたの?」
 愛原「その守衛さん達、『総務課警備係』という部署に所属してるわけだ。で、その守衛さん達のトップ、係長さんって言ったよね?」
 リサ「ああ。警備室の奥の、偉い人の椅子にドカッと座ってる人」
 愛原「ま、まあな。要は、その身分ってことだよ」
 リサ「偉そうだねぇ!」
 愛原「偉そうじゃなく、本当に偉いんだよ」

 民間企業だと係長という役職名は大したこと無さそうに聞こえるが、お役所ではとんでもない。
 ノンキャリアであれば、定年までそこまで到達できれば御の字という役職なのである。
 それを20代後半の歳でなれるのだから、やはり善場主任はエリートなのだろう。

 リサ「じゃあ、何かお祝いしたいねぇ?」
 愛原「胡蝶蘭でも送るか?……なーんてな」

 利益供与だと断られない物でも考えておこう。
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“私立探偵 愛原学” 「高橋正義の結婚」

2024-04-04 14:53:46 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月17日11時30分 天候:雨 東京都墨田区菊川2丁目 愛原学探偵事務所]

 高橋「…………」
 パール「…………」

 朝から高橋は落ち着かなかった。
 高橋ほどではないが、平静さを保っているように見せているパールですら、何らかの強い感情のオーラは漂わせている。
 電話が鳴る。
 いつもなら、いの1番に電話を取ろうとする高橋だが、今は他のことに気を取られている為、反応が遅い。
 それは平静さを保っているかのように見せているパールも同様だった。
 電話に対する反応の遅さが、それを物語っている。

 愛原「お電話ありがとうございます。愛原学探偵事務所でございます」

 しょうがないので、私が電話を取った。

 上野利恵「お久しぶりでございます。栃木の上野利恵でございます」
 愛原「上野利恵……!?」
 利恵「まもなく春休みの時期でございますね。娘達も実家へ帰省する予定でございます」
 愛原「次女の方、来年度から高等部へ進学だろう?リサの後輩になるな?」
 利恵「はい。リサ姉様には、お手柔らかな御指導・御鞭撻を賜りたいと思っております」
 愛原「電話の用件はあれだろう?『天長園にはいつ来るのか?』という催促だろう?」
 利恵「催促だなんてとんでもないです。ただ……ご予約はお早めにという営業でございますわ」
 愛原「似たようなもんだw それに、学生は春休みでも、俺達社会人は連休なんて無いぞ?」
 利恵「存じております。この時季は天長会の大きな行事も無く、ホテルは閑散期となってございますので、ご利用頂ければ幸いです」
 愛原「天長会はヒマでも、那須ハイランドパークは営業するだろう?その辺りの客は?」

 冬場は逆に那須ハイランドパークは休業するが、天長会は冬場は行事が目白押しなので、信者の利用が多い。
 元々ホテル天長園は、そんな信者達の宿泊・研修施設だったものを一般に開放するようになったのが始まりである。

 利恵「ある程度のお客様のご予約は入ってございますが、満室には程遠いレベルですね。お恥ずかしい話ですが……」
 愛原「肝心のリサは、下手したら春休み丸潰れだ。リサは高確率で行けないぞ?それでもいいのか?」
 利恵「リサ姉様が来られないのは非常に残念ですが(ウソ)、愛原先生へのおもてなしができれば、大きな幸いです」(*´Д`)ハァハァ
 愛原「そ、そう?」

 私は読心術でも会得したのか?
 何か、電話口の向こうから利恵の心の中が見えたような……?

 愛原「念の為、高橋夫婦とBSAAも連れていくぞ?それでもいいか?」
 利恵「歓迎させて頂きます。……高橋夫婦?」
 愛原「うちの事務所の高橋とパール、もうすぐ入籍するから」
 利恵「おめでとうございます!それでは早速、当ホテルで式を!」
 愛原「いや、あいつら式は挙げないって言ってるぞ」
 利恵「それは残念です。天長会式の結婚式は、とても人生の印象に残りますのに……」

 信者でもないのに新興宗教式の結婚式なんて、人生の汚点だろうが。

 愛原「3人に確認して、また折り返し電話するから、一旦切るぞ」
 利恵「愛原先生……いつでもお待ちしております……!」

 私は電話を切った。
 段々と電話口の向こうの利恵が、鬼化して欲情しているのが分かった。
 何でこう私は鬼にしかモテないんだ?

 高橋「だーっ!もうっ!!」

 ついに痺れを切らした高橋が、ダンッと自分の机を叩いた。

 愛原「うおっ!?何だ!?」
 パール「マサ、うるさい!先生、ビックリしてんじゃんよ!?」
 高橋「先生!本当に宅急便は午前中指定なんでしょうね!?」
 愛原「あ、ああ。昨日、父さんが間違いなく言ってた。『着払いで午前中にしたから』って。一応、伝票に書かれてる追跡番号も確認した。今、『配達中』になってるだろ?」
 高橋「それにしても……」
 愛原「11時59分までは午前中だ。余計なイチャモン付けないように」
 高橋「ううっ……!」
 パール「先生、昼食は……」
 愛原「リサが帰ってきたら、ピザでも取るよ。お前達は婚姻届を出しがてら、昼飯も食ってくればいい」
 パール「かしこまりました」

 と、そこへ玄関のインターホンが鳴る。

 パール「はい!愛原学探偵事務所でございます!」
 配達員「こんにちは!ヤマト運輸です!着払いのお荷物です!」
 高橋「キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
 パール「き、来ましたね!」

 いつもは善場主任以上に冷たい顔をしているパールですら、今は鼻息荒く、顔も紅潮させている。

 愛原「俺が行って来るよ」

 私は財布を持って、1階に下りた。
 こういう時はエレベーターより、階段の方が早い。

 配達員「お支払い方法は?」
 愛原「Suicaでお願いします」
 配達員「ありがとうございます。あと、こちらはネコポスです」
 愛原「あ、どうも」
 配達員「ありがとうございました」

 ヤマト運輸が配達してきたのは2つ。
 1つは言うまでなく、実家の父さんが着払いで送ってくれた宅急便コンパクト。
 もちろん中には、厳重に婚姻届が入っている。
 ようやく3度目の正直で届いたのだ。
 もう1つはネコポス。
 いわゆる、メール便である。
 送り主は、上野利恵になっていた。
 今度は何を送ってきたのだろう?
 封筒からして、何かの冊子が入っているようだが……。

 愛原「おい、届いたぞ!」
 高橋「おお~!」
 パール「ついに……!」

 普段はサイコパスぶるパールも、何となく目に涙を浮かばせる状態だった。
 私達のスマホに、ほぼ同時にメール着信の通知音が鳴る。
 この宅急便の配達完了を知らせるメールの着信音だ。
 早速、中身を確認する。

 高橋「ちゃんと先生のお父さんのサインがしてあります!」
 パール「記入漏れは無さそうだね!」
 愛原「それは良かった。あとは、これを墨田区役所に出してくるだけだな」
 高橋「早速行ってきます!」
 愛原「待て待て」
 高橋「えっ!?」
 愛原「この雨だぞ。安全最優先で行かなくてどうする?宅急便でさえ、雨でやや遅れ気味だったんだぞ?」
 高橋「車で行くのはダメですかね?」
 愛原「俺がタクシーを呼んでやる。行きはそれで行け。帰りは……適当にバスでもタクシーでも何でもいいから」
 高橋「あ、あざっス!」

 私は自分のスマホを取り出すと、それで配車アプリを起動させた。
 雨だから、なかなかタクシーが捕まらないかと思ったが、多少の待ち時間を取れば予約できそうだ。
 支払いもアプリ決済にしておけば、この2人が払う必要は無い。
 まあ、ささやかながら2人の門出の為だ。

 愛原「よし。12時くらいにここに来るから、それに乗って区役所に行け」
 パール「お昼休みにブチ当たりますけど、大丈夫ですかね?」
 愛原「婚姻届自体は、いつでも受け取ってくれることになってるんだよ。万が一ダメでも、午後イチで窓口に出せばいいだろう。ここは俺とリサに任せとけ」
 高橋「サーセン」

 もう少し晴れていてくれれば良かったのだが、なかなか上手くは行かないな。
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