[7月18日09:00.天候:晴 アルカディアシティ6番街カブキンシタウン]
朝食を食べた後は、宿屋をチェックアウトした。
勇太:「じゃあ、この後は6号線に……」
マリア:「うん、その前にちょっと待って」
勇太:「えっ?」
マリア:「せっかく魔界に来たんだから、買い物して行きたい」
勇太:「なるほど。魔王城から先は忙しくなるかもしれないもんね」
マリア:「そういうこと」
夜は歓楽街であるカブキンシタウンであるが、昼間は普通の中心街といった感じである。
夜の店は閉まっているが、アイテム屋や武器屋などは営業している。
薬屋:「いらっしゃい。薬屋だが、アイテムも取り扱ってるよ」
勇太:「どうするの?」
マリア:「余ってる金でエリクサーやら、ハイポーションやら買って行く」
勇太:「なるほど」
生理中は体力ゲージが下がって行くので。
マリア:「MPを数値化すると、絶対に0になってるから」
勇太:「“魔女の宅急便”がゲームになったら、絶対そうなるよね?」
勇太は大きく頷いた。
勇太:「あれ?でも、薬で抑えられるんじゃないの?」
マリア:「辛い症状が緩和されるというだけで、MPガタ落ちなのは間違いない。これだ。これもちょうだい」
薬屋:「毎度。この薬は、生理痛に悩む女性の冒険者達にも大好評だよ」
マリア:「だろうな」
勇太:(日本の薬事法的にはアウトなんだろうなぁ……)
それから、次の店に移動する。
今度は年配の女性が経営する、魔法具屋だった。
魔法具屋:「いらっしゃい。魔法具は、何でもあるよ」
マリア:「杖の先端に取り付ける装飾品を新調したい」
勇太:(杖の先端の装飾品って、こういう所で調達するんだ!?)
マリア:「他にオススメはある?」
魔法具屋:「この高性能通信機はどうだい?相手の通話だけでなく、文字通信や天気占い、地図情報から翻訳機まで、何でも使えるよ?」
勇太:「それ、僕のスマホで十分じゃない?」
魔法具屋:「何と!?」
現実世界では当たり前のアイテム、スマホも魔界では高級魔法具である。
色々と買い物して、再び三星亭に戻った。
女将:「おや?色々と回って来たみたいですねぇ。あなた達は、夜の街より、普通に昼の街を楽しむタイプかしら?」
勇太:「そうかもしれません」
マリア:「向こうの世界に送りたいものがあるので、お願いします」
この街で買い物した物のうち、今は使わないものだ。
マリア:「後でエレーナが取りに来るでしょう?」
女将:「そうですね。午前便はもう取りに来たので、午後便になります」
勇太:「午前と午後に分けて取りに来てるんだ!?」
女将:「そうなんです。それと、これは稲生さん宛ての手紙です」
勇太:「えっ?それもエレーナから?」
女将:「はい」
それは封筒であった。
差出人を見ると、何と藤谷春人からであった。
勇太:「藤谷班長から!?」
勇太が封筒を開けると、書類と手紙が入っていた。
勇太:「あっ、添書だ……」
添書を見ると、藤谷班長が申込者の添書が入っていた。
これは大石寺の奉安堂で毎週、土・日・月・火曜日に行われる『御開扉』に参加する為の申込書である。
手紙も同封されていて、藤谷班長から、『たまには御登山しなさいよ』といった内容の事が書かれていた。
返信用封筒も入っていて、これに添書を入れてエレーナに渡すと、エレーナから藤谷班長に送られる仕組みになっているらしい。
そして藤谷から正証寺の御住職に渡され、そこから大石寺に提出する分を渡されるのだ。
しかも、他にも書類が入っていた。
勇太:「入信願書?まさか、魔界で街頭折伏でもしろってんじゃ……?」
そんなことは無かった。
既にマリアの名前が記入されており、『マリアさんも入信したら、一緒に御登山できるよ?』とのことだ。
マリア:「Fire.」
マリアは1番弱い火炎魔法で、その入信願書を焼き捨てた。
女将:「ちょいと。店内で燃やさんといてもらえます?」
マリア:「ごめんなさい」
勇太:「マリアさんの折伏、失敗か……w」
マリア:「なに笑ってんだ!」
勇太:「手紙には、『正証寺では結婚式も執り行っています』と書かれてたけど?」
マリア:「うちの屋敷でやるからいいでしょ」
勇太:「はは、それは残念」
マリアの入信願書は燃やされたが、しかし勇太の添書は燃やさなかったマリアだった。
勇太:「僕は参加していいんだね?」
マリア:「どうぞ御勝手に」
勇太:「それじゃあ、御言葉に甘えまして……」
勇太はペンを走らせ、自分が記入する所を記入した。
内容的には、藤谷も一緒に御登山することになりそうだ。
しかし日付を見ると平日のようだが、藤谷は休みが取れるのだろうか?
勇太:「これでよし」
勇太は添書を入れて封をした。
女将:「それじや、これは後でエレーナに渡しておきます」
勇太:「よろしくお願いします。エレーナだと、高く取りそうですね」
女将:「この手紙に関しては、稲生さんからは取らないみたいですよ。この……藤谷さん?という方から取るそうで……」
どうやらエレーナは、勇太に請求するよりも、藤谷に請求した方が料金を高く取れると踏んだようである。
マリア:「じゃあ、これもお願いします」
マリアは自分の荷物も送った。
女将:「イリーナ様宛てですか?」
マリア:「師匠名義にした方が、あの守銭奴魔女もボりにくいはずなので」
マリアはニヤッと笑った。
勇太:「いやあ……あの守銭奴は、普通に目上の人からも高く請求しそうだけど……」
“ゲゲゲの鬼太郎”のねずみ男等を見ると、守銭奴キャラはどうもそんな感じに思えてくるのだった。
[同日10:00.天候:晴 アルカディアメトロ6番街駅→6号線電車内]
路面電車の乗り場は、カブキンシタウン南口にある。
それに対して、新しくできた6号線の駅は北口にあった。
駅は地下にあるが、ホームは1面1線であった。
そこには、昔のニューヨーク地下鉄によく似た電車が停車していた。
電車に乗り込むと、車内はセミクロスシート。
日本の地下鉄では、あまり見られない構造である。
運転士:「おっ、お2人さん!先日はどうもね」
運転士は先日、1番街駅から事件現場付近まで回送電車に乗せてくれたオーガだった。
オーガとは、中東アラブ地域で語られる人食い鬼のことである。
但し、日本の鬼や西洋の鬼のように、生きている人間を殺して食うよりは、死体を貪り食う『死食鬼』である。
もちろん、この王国の法律では禁止されている。
改心したり、王権支持者は順法精神を持ち、このような公共機関で働いていることが多い。
運転士:「俺も仕事を失わずに済んだよ」
勇太:「そ、それは良かった」
オーガも額に角を生やしている。
その為、制帽は深く被れない。
運転士:「1番街まで行くんだろ?好きな席に座って寛いでくれ」
勇太:「ありがとう」
勇太としては先頭車に被りつきたいところだが、半室構造の運転室の横はクロスシートでも、進行方向逆向きに設置されている。
しょうがないので、進行方向向きのクロスシートに座った。
日本の地下鉄では、なかなか進行方向向きのクロスシートに座る機会は無い(都営浅草線乗り入れの京急電車の一部とか、京都市地下鉄乗り入れの京阪電車とかくらいか?)。
オーガは基本的に体がデカい。
なので、元ニューヨーク地下鉄の半室構造の運転室は、窮屈そうだった。
ホームからは、短い発車サイン音が響いてくる。
ニューヨークの地下鉄は今でも車掌乗務のツーマン運転だが、このアルカディアメトロの地下鉄は基本的にワンマン運転である。
なので、運転室の横にサイドミラーが付いていたりする。
乗降ドアが勢い良く閉まると、電車はゆっくりと走り出した。
思いっ切りバンと閉まるのは、古い電車ならではである。
〔この電車は6号線、各駅停車、1番街経由、2番街行きです。次は6番街北、6番街北です〕
車内は蛍光灯が輝いているが、旧型車両ということもあり、トンネル内では少し薄暗い。
それでも、サハギン達がいなくなったことで、電車は元気に走っているようだった。
朝食を食べた後は、宿屋をチェックアウトした。
勇太:「じゃあ、この後は6号線に……」
マリア:「うん、その前にちょっと待って」
勇太:「えっ?」
マリア:「せっかく魔界に来たんだから、買い物して行きたい」
勇太:「なるほど。魔王城から先は忙しくなるかもしれないもんね」
マリア:「そういうこと」
夜は歓楽街であるカブキンシタウンであるが、昼間は普通の中心街といった感じである。
夜の店は閉まっているが、アイテム屋や武器屋などは営業している。
薬屋:「いらっしゃい。薬屋だが、アイテムも取り扱ってるよ」
勇太:「どうするの?」
マリア:「余ってる金でエリクサーやら、ハイポーションやら買って行く」
勇太:「なるほど」
生理中は体力ゲージが下がって行くので。
マリア:「MPを数値化すると、絶対に0になってるから」
勇太:「“魔女の宅急便”がゲームになったら、絶対そうなるよね?」
勇太は大きく頷いた。
勇太:「あれ?でも、薬で抑えられるんじゃないの?」
マリア:「辛い症状が緩和されるというだけで、MPガタ落ちなのは間違いない。これだ。これもちょうだい」
薬屋:「毎度。この薬は、生理痛に悩む女性の冒険者達にも大好評だよ」
マリア:「だろうな」
勇太:(日本の薬事法的にはアウトなんだろうなぁ……)
それから、次の店に移動する。
今度は年配の女性が経営する、魔法具屋だった。
魔法具屋:「いらっしゃい。魔法具は、何でもあるよ」
マリア:「杖の先端に取り付ける装飾品を新調したい」
勇太:(杖の先端の装飾品って、こういう所で調達するんだ!?)
マリア:「他にオススメはある?」
魔法具屋:「この高性能通信機はどうだい?相手の通話だけでなく、文字通信や天気占い、地図情報から翻訳機まで、何でも使えるよ?」
勇太:「それ、僕のスマホで十分じゃない?」
魔法具屋:「何と!?」
現実世界では当たり前のアイテム、スマホも魔界では高級魔法具である。
色々と買い物して、再び三星亭に戻った。
女将:「おや?色々と回って来たみたいですねぇ。あなた達は、夜の街より、普通に昼の街を楽しむタイプかしら?」
勇太:「そうかもしれません」
マリア:「向こうの世界に送りたいものがあるので、お願いします」
この街で買い物した物のうち、今は使わないものだ。
マリア:「後でエレーナが取りに来るでしょう?」
女将:「そうですね。午前便はもう取りに来たので、午後便になります」
勇太:「午前と午後に分けて取りに来てるんだ!?」
女将:「そうなんです。それと、これは稲生さん宛ての手紙です」
勇太:「えっ?それもエレーナから?」
女将:「はい」
それは封筒であった。
差出人を見ると、何と藤谷春人からであった。
勇太:「藤谷班長から!?」
勇太が封筒を開けると、書類と手紙が入っていた。
勇太:「あっ、添書だ……」
添書を見ると、藤谷班長が申込者の添書が入っていた。
これは大石寺の奉安堂で毎週、土・日・月・火曜日に行われる『御開扉』に参加する為の申込書である。
手紙も同封されていて、藤谷班長から、『たまには御登山しなさいよ』といった内容の事が書かれていた。
返信用封筒も入っていて、これに添書を入れてエレーナに渡すと、エレーナから藤谷班長に送られる仕組みになっているらしい。
そして藤谷から正証寺の御住職に渡され、そこから大石寺に提出する分を渡されるのだ。
しかも、他にも書類が入っていた。
勇太:「入信願書?まさか、魔界で街頭折伏でもしろってんじゃ……?」
そんなことは無かった。
既にマリアの名前が記入されており、『マリアさんも入信したら、一緒に御登山できるよ?』とのことだ。
マリア:「Fire.」
マリアは1番弱い火炎魔法で、その入信願書を焼き捨てた。
女将:「ちょいと。店内で燃やさんといてもらえます?」
マリア:「ごめんなさい」
勇太:「マリアさんの折伏、失敗か……w」
マリア:「なに笑ってんだ!」
勇太:「手紙には、『正証寺では結婚式も執り行っています』と書かれてたけど?」
マリア:「うちの屋敷でやるからいいでしょ」
勇太:「はは、それは残念」
マリアの入信願書は燃やされたが、しかし勇太の添書は燃やさなかったマリアだった。
勇太:「僕は参加していいんだね?」
マリア:「どうぞ御勝手に」
勇太:「それじゃあ、御言葉に甘えまして……」
勇太はペンを走らせ、自分が記入する所を記入した。
内容的には、藤谷も一緒に御登山することになりそうだ。
しかし日付を見ると平日のようだが、藤谷は休みが取れるのだろうか?
勇太:「これでよし」
勇太は添書を入れて封をした。
女将:「それじや、これは後でエレーナに渡しておきます」
勇太:「よろしくお願いします。エレーナだと、高く取りそうですね」
女将:「この手紙に関しては、稲生さんからは取らないみたいですよ。この……藤谷さん?という方から取るそうで……」
どうやらエレーナは、勇太に請求するよりも、藤谷に請求した方が料金を高く取れると踏んだようである。
マリア:「じゃあ、これもお願いします」
マリアは自分の荷物も送った。
女将:「イリーナ様宛てですか?」
マリア:「師匠名義にした方が、あの守銭奴魔女もボりにくいはずなので」
マリアはニヤッと笑った。
勇太:「いやあ……あの守銭奴は、普通に目上の人からも高く請求しそうだけど……」
“ゲゲゲの鬼太郎”のねずみ男等を見ると、守銭奴キャラはどうもそんな感じに思えてくるのだった。
[同日10:00.天候:晴 アルカディアメトロ6番街駅→6号線電車内]
路面電車の乗り場は、カブキンシタウン南口にある。
それに対して、新しくできた6号線の駅は北口にあった。
駅は地下にあるが、ホームは1面1線であった。
そこには、昔のニューヨーク地下鉄によく似た電車が停車していた。
電車に乗り込むと、車内はセミクロスシート。
日本の地下鉄では、あまり見られない構造である。
運転士:「おっ、お2人さん!先日はどうもね」
運転士は先日、1番街駅から事件現場付近まで回送電車に乗せてくれたオーガだった。
オーガとは、中東アラブ地域で語られる人食い鬼のことである。
但し、日本の鬼や西洋の鬼のように、生きている人間を殺して食うよりは、死体を貪り食う『死食鬼』である。
もちろん、この王国の法律では禁止されている。
改心したり、王権支持者は順法精神を持ち、このような公共機関で働いていることが多い。
運転士:「俺も仕事を失わずに済んだよ」
勇太:「そ、それは良かった」
オーガも額に角を生やしている。
その為、制帽は深く被れない。
運転士:「1番街まで行くんだろ?好きな席に座って寛いでくれ」
勇太:「ありがとう」
勇太としては先頭車に被りつきたいところだが、半室構造の運転室の横はクロスシートでも、進行方向逆向きに設置されている。
しょうがないので、進行方向向きのクロスシートに座った。
日本の地下鉄では、なかなか進行方向向きのクロスシートに座る機会は無い(都営浅草線乗り入れの京急電車の一部とか、京都市地下鉄乗り入れの京阪電車とかくらいか?)。
オーガは基本的に体がデカい。
なので、元ニューヨーク地下鉄の半室構造の運転室は、窮屈そうだった。
ホームからは、短い発車サイン音が響いてくる。
ニューヨークの地下鉄は今でも車掌乗務のツーマン運転だが、このアルカディアメトロの地下鉄は基本的にワンマン運転である。
なので、運転室の横にサイドミラーが付いていたりする。
乗降ドアが勢い良く閉まると、電車はゆっくりと走り出した。
思いっ切りバンと閉まるのは、古い電車ならではである。
〔この電車は6号線、各駅停車、1番街経由、2番街行きです。次は6番街北、6番街北です〕
車内は蛍光灯が輝いているが、旧型車両ということもあり、トンネル内では少し薄暗い。
それでも、サハギン達がいなくなったことで、電車は元気に走っているようだった。