[7月16日08:30.天候:雨 東京都江東区森下 創作レストラン“マジックスター”→ワンスターホテル]
勇太はホテル建物内にテナントとして入居しているレストランで、朝食を取っていた。
コロナ禍前まではビュッフェスタイルだったのだが、渦中の現在においては定食スタイルに変わっている。
但し、飲み物だけドリンクバーという所は変わらない。
今朝の朝食はロールパンとクロワッサン、目玉焼きにウィンナー、オニオンスープにサラダというオーソドックスな組み合わせだった。
サラダを見ると、ハーブなどが混じっていることが分かる。
魔界では回復薬として使用されるグリーンハーブだろう。
実際食べてみると、体力が回復していくのが分かった。
創作料理のレストランではあるが、実際は魔法料理のレストランなのである。
魔女が作るものと言ったら、老婆がヤバい材料を使って見た目もグロテスクといったイメージがあるが、ここの責任者であるキャサリンはそういったイメージを払拭することを心掛けたという。
今は魔女も、それなりに商売をしないといけない時代ということだ。
〔「次です。昨日夕方、栃木県の鬼怒川温泉で、宗教団体が管理する建物が大爆発を起こしました」〕
レストランにはテレビが設置されている。
バーカウンターの上に、40インチのテレビモニタが吊り下げられている。
勇太はそのカウンター席に座っていたので、テレビモニタを見上げる形となった。
画面はスタジオから、現場の様子に移る。
深刻な顔をしたテレビリポーターがカメラの前に立った。
向こうの空も曇っていたが、東京と違って雨は止んでいるらしい。
〔「はい、こちら栃木県日光市にあります鬼怒川温泉に、私は来ています。ここは温泉街の中心地から北に約1キロほど移動した所でありまして、元は廃業したホテルが建っていた所です。御覧頂けますでしょうか?今は建物の原型が分からないほどに崩れ落ちており、このような、そこかしこに建物の破片と思われる物が道路などに散乱しています」〕
勇太:「うあ……」
〔「この建物、かつては温泉客で賑わう観光ホテルだったのですが、廃業し、しばらく廃墟になっていたとのことです。それが時期は不明ですが、とある宗教団体が買い取って、信者専用施設として使用していたもようです」〕
勇太:「宗教団体の名前は出さないのかよ?w」
勇太は口元を歪めた。
それをスタジオの方でも思ったらしい。
〔「池田さん、その宗教団体というのは、どこの団体か分かりますでしょうか?」〕
〔「……えー、今のところ確認中です」〕
〔「安倍元総理の事件で有名になった旧統一教会の施設か何かでしょうか?」〕
〔「……えー、すいません。まだ、そこまでの情報は入っておりません」〕
勇太:「絶対今、自主規制入ってるなw」
〔「ただ、新興宗教団体が、地方の廃業したホテルを買い取って改築し、専用施設として再利用するという動きはよくあることのようでして、この建物も、そういった流れで活用されていた施設かもしれません」〕
〔「分かりました。引き続き、気を付けて取材してください。……えー、現場から池田リポーターがお伝えしました」〕
もっとも、創価学会などのように、巨大規模で尚且つ資金が潤沢にあるような団体は、中古物件を買い取って再利用するような浅ましいマネはしない。
かといって零細・小規模団体は、廃ホテルを買い取って専用施設にリニューアルするような資金も無いだろうから、そういうこともしない。
結果的に、中・大規模団体がこのようなやり方をすることがある。
概してそのような団体は、後で問題を起こしてマスコミを賑わしたりするものだ。
勇太:「ここぞとばかりに、妙観講が記者会見でもして、当時の様子を話せばいいのに……」
と、そこへ店長のキャサリンがやってきた。
キャサリン:「稲生君、おはよう」
勇太:「あっ、おはようございます!」
今のキャサリンの見た目は癖毛だらけの金髪を長く伸ばし、丸いレンズの眼鏡を掛けた妙齢の女性の姿をしている。
だが、実際は彼女も魔法で若作りしている美魔女。
かつては老婆の姿で、勇太が入学する前の母校で噂になっていた。
魔法薬で作った飴玉を、一人ぼっちで下校している生徒に渡していたのである。
素直に受け取って素直に食べた者は、不思議と運気が急上昇して、その後の人生をバラ色にしている。
しかし、そうでない生徒は【お察しください】。
今はこうして店を構えたことで、『飴玉婆さん』としての活動は控えている。
キャサリン:「食事は終わったかい?ホテルのオーナーから電話があって、エレーナが起きたから、フロントにいるって」
勇太:「あっ、分かりました!ありがとうございます!御馳走様でした!」
食事代は既にフロントで朝食券を購入し、それを店員に渡したことで支払い済みである。
関係上はオーナーとテナントではあるが、実質的にホテル直営のレストラン同然である。
勇太は急いで席を立つと、ホテルに戻った。
エレーナ:「稲生氏、おはようだぜ」
勇太:「ああ、おはよう、エレーナ!」
エレーナは珍しいことに私服姿だった。
白いTシャツに、下はジーンズを穿いている。
まだ、勤務に入るわけではないらしい。
夜勤なのかもしれない。
勇太:「実はマリアが……」
エレーナ:「ああ、オーナーから聞いたぜ。あいつも薬を飲み忘れるなんてなぁ……」
勇太:「忙しくて飲めなかったのかもしれない」
エレーナ:「どうかな」
勇太:「それで、薬を融通してもらえないかと……」
エレーナ:「ああ、稲生氏の頼みだ。嫌とは言えないぜ」
勇太:「ありがとう!まあ多分、有料だと思うけど、カードならあるから」
エレーナ:「イリーナ先生のカードだろ?それじゃ実質的に、私はイリーナ先生から金を取ることになってしまうぜ」
勇太:「それじゃあ……」
エレーナ:「稲生氏かマリアンナのカードで払うんたぜ?もちろん、現金化してな」
勇太:「わ、分かった。僕のカードを使うよ。キャッシングだな。いくら払えばいいんだ?」
エレーナ:「ざっと1万円でどうだ?」
勇太:「諭吉先生1人分か。分かったよ。ちょっと、ATM行って来る」
エレーナ:「ほお!?」
エレーナは感心したかのように、緑色の瞳を大きく見開いた。
勇太:「雨か……」
外は雨が降り続けている。
以前のような豪雨というわけではないのだが、傘が必要だ。
あいにくと傘は持っていないし、雨除けに使える魔道士のローブは部屋に置いて来てしまっている。
すると、エレーナはフロントに行って、すぐに戻って来た。
その手には、透明のビニール傘があった。
エレーナ:「これを使うんだぜ。特別タダでいいぜ」
勇太:「ありがとう」
勇太は傘を差して、急いでコンビニに向かった。
しかしエレーナは後で、話を聞いたオーナーから『薬代、吹っ掛け過ぎ!』と、ゲンコツを食らったという。
勇太はホテル建物内にテナントとして入居しているレストランで、朝食を取っていた。
コロナ禍前まではビュッフェスタイルだったのだが、渦中の現在においては定食スタイルに変わっている。
但し、飲み物だけドリンクバーという所は変わらない。
今朝の朝食はロールパンとクロワッサン、目玉焼きにウィンナー、オニオンスープにサラダというオーソドックスな組み合わせだった。
サラダを見ると、ハーブなどが混じっていることが分かる。
魔界では回復薬として使用されるグリーンハーブだろう。
実際食べてみると、体力が回復していくのが分かった。
創作料理のレストランではあるが、実際は魔法料理のレストランなのである。
魔女が作るものと言ったら、老婆がヤバい材料を使って見た目もグロテスクといったイメージがあるが、ここの責任者であるキャサリンはそういったイメージを払拭することを心掛けたという。
今は魔女も、それなりに商売をしないといけない時代ということだ。
〔「次です。昨日夕方、栃木県の鬼怒川温泉で、宗教団体が管理する建物が大爆発を起こしました」〕
レストランにはテレビが設置されている。
バーカウンターの上に、40インチのテレビモニタが吊り下げられている。
勇太はそのカウンター席に座っていたので、テレビモニタを見上げる形となった。
画面はスタジオから、現場の様子に移る。
深刻な顔をしたテレビリポーターがカメラの前に立った。
向こうの空も曇っていたが、東京と違って雨は止んでいるらしい。
〔「はい、こちら栃木県日光市にあります鬼怒川温泉に、私は来ています。ここは温泉街の中心地から北に約1キロほど移動した所でありまして、元は廃業したホテルが建っていた所です。御覧頂けますでしょうか?今は建物の原型が分からないほどに崩れ落ちており、このような、そこかしこに建物の破片と思われる物が道路などに散乱しています」〕
勇太:「うあ……」
〔「この建物、かつては温泉客で賑わう観光ホテルだったのですが、廃業し、しばらく廃墟になっていたとのことです。それが時期は不明ですが、とある宗教団体が買い取って、信者専用施設として使用していたもようです」〕
勇太:「宗教団体の名前は出さないのかよ?w」
勇太は口元を歪めた。
それをスタジオの方でも思ったらしい。
〔「池田さん、その宗教団体というのは、どこの団体か分かりますでしょうか?」〕
〔「……えー、今のところ確認中です」〕
〔「安倍元総理の事件で有名になった旧統一教会の施設か何かでしょうか?」〕
〔「……えー、すいません。まだ、そこまでの情報は入っておりません」〕
勇太:「絶対今、自主規制入ってるなw」
〔「ただ、新興宗教団体が、地方の廃業したホテルを買い取って改築し、専用施設として再利用するという動きはよくあることのようでして、この建物も、そういった流れで活用されていた施設かもしれません」〕
〔「分かりました。引き続き、気を付けて取材してください。……えー、現場から池田リポーターがお伝えしました」〕
もっとも、創価学会などのように、巨大規模で尚且つ資金が潤沢にあるような団体は、中古物件を買い取って再利用するような浅ましいマネはしない。
かといって零細・小規模団体は、廃ホテルを買い取って専用施設にリニューアルするような資金も無いだろうから、そういうこともしない。
結果的に、中・大規模団体がこのようなやり方をすることがある。
概してそのような団体は、後で問題を起こしてマスコミを賑わしたりするものだ。
勇太:「ここぞとばかりに、妙観講が記者会見でもして、当時の様子を話せばいいのに……」
と、そこへ店長のキャサリンがやってきた。
キャサリン:「稲生君、おはよう」
勇太:「あっ、おはようございます!」
今のキャサリンの見た目は癖毛だらけの金髪を長く伸ばし、丸いレンズの眼鏡を掛けた妙齢の女性の姿をしている。
だが、実際は彼女も魔法で若作りしている美魔女。
かつては老婆の姿で、勇太が入学する前の母校で噂になっていた。
魔法薬で作った飴玉を、一人ぼっちで下校している生徒に渡していたのである。
素直に受け取って素直に食べた者は、不思議と運気が急上昇して、その後の人生をバラ色にしている。
しかし、そうでない生徒は【お察しください】。
今はこうして店を構えたことで、『飴玉婆さん』としての活動は控えている。
キャサリン:「食事は終わったかい?ホテルのオーナーから電話があって、エレーナが起きたから、フロントにいるって」
勇太:「あっ、分かりました!ありがとうございます!御馳走様でした!」
食事代は既にフロントで朝食券を購入し、それを店員に渡したことで支払い済みである。
関係上はオーナーとテナントではあるが、実質的にホテル直営のレストラン同然である。
勇太は急いで席を立つと、ホテルに戻った。
エレーナ:「稲生氏、おはようだぜ」
勇太:「ああ、おはよう、エレーナ!」
エレーナは珍しいことに私服姿だった。
白いTシャツに、下はジーンズを穿いている。
まだ、勤務に入るわけではないらしい。
夜勤なのかもしれない。
勇太:「実はマリアが……」
エレーナ:「ああ、オーナーから聞いたぜ。あいつも薬を飲み忘れるなんてなぁ……」
勇太:「忙しくて飲めなかったのかもしれない」
エレーナ:「どうかな」
勇太:「それで、薬を融通してもらえないかと……」
エレーナ:「ああ、稲生氏の頼みだ。嫌とは言えないぜ」
勇太:「ありがとう!まあ多分、有料だと思うけど、カードならあるから」
エレーナ:「イリーナ先生のカードだろ?それじゃ実質的に、私はイリーナ先生から金を取ることになってしまうぜ」
勇太:「それじゃあ……」
エレーナ:「稲生氏かマリアンナのカードで払うんたぜ?もちろん、現金化してな」
勇太:「わ、分かった。僕のカードを使うよ。キャッシングだな。いくら払えばいいんだ?」
エレーナ:「ざっと1万円でどうだ?」
勇太:「諭吉先生1人分か。分かったよ。ちょっと、ATM行って来る」
エレーナ:「ほお!?」
エレーナは感心したかのように、緑色の瞳を大きく見開いた。
勇太:「雨か……」
外は雨が降り続けている。
以前のような豪雨というわけではないのだが、傘が必要だ。
あいにくと傘は持っていないし、雨除けに使える魔道士のローブは部屋に置いて来てしまっている。
すると、エレーナはフロントに行って、すぐに戻って来た。
その手には、透明のビニール傘があった。
エレーナ:「これを使うんだぜ。特別タダでいいぜ」
勇太:「ありがとう」
勇太は傘を差して、急いでコンビニに向かった。
しかしエレーナは後で、話を聞いたオーナーから『薬代、吹っ掛け過ぎ!』と、ゲンコツを食らったという。