報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「マリアのダウン」

2022-08-10 20:20:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月15日22:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 東武浅草駅からワンスターホテルに向かっている最中、雨が降って来た。
 それはまだ弱い雨だったし、雷鳴も聞こえて来なかった。
 ので、“魔の者”の警告なのか、それともただの自然現象なのかは分からない。

 大原:「へぇ!鬼怒川のケンショー施設を潰して来たのか!さすがは稲生君だね!」

 乗り込んだ個人タクシーの運転手は、奇しくも勇太と同じ日蓮正宗寺院の班長だった。

 勇太:「僕達が潰したというより、ケンショーグレーが強引に潰したと言う方が正しいですよ」
 大原:「影の薄いヤツほど、何をするか分からないからねぇ、気を付けないとね」
 勇太:「はあ……」

 そんなことを話しているうちに、ホテルの前に到着する。

 大原:「ここでいいかな?」
 勇太:「あ、はい。ありがとうございます。あの、カード使えますよね?」
 大原:「もちろん!今日日、東京の個人タクシーも基本的にカードは使えると思っていてくれていい」
 勇太:「カードでお願いします」
 大原:「おお!プラチナカード!ゴールドカードは何回か見たが、プラチナは初めて見た。藤谷親子ですらゴールドなのに、いきなり出世したね!?」
 勇太:「いえ、これは僕達の先生から借りたものです」
 大原:「そうなのかい?」
 勇太:「僕なんか、普通のSuicaビューカードやdカードがせいぜいですよ」
 大原:「なるほどね。……はい、じゃあ暗証番号を入力して」
 勇太:「はい」
 大原:「じゃあ、これが控えと領収証ね。それじゃ、お寺で待ってるからね」
 勇太:「はい。お世話さまでした」

 勇太はマリアの手を取って、大原タクシーを降りた。
 そして、その足でホテルのロビーに入る。

 オーナー:「いらっしゃいませ」
 勇太:「こんばんは。遅くなりました」
 オーナー:「おお、稲生さん!これはお疲れさまです。何かトラブルでもありましたか?」
 勇太:「そういうわけじゃありませんが、マリアの具合が良くなくて……」
 オーナー:「ええっ!?」

 マリアはソファに座り込んだ。

 マリア:「……病気じゃない。薬を飲まなかったせいで、一気に『重く』なっただけだ……」

 マリアは自分の股間を指さして言った。

 勇太:「そ、そうだったのか!」
 オーナー:「エレーナなら薬を持っているでしょう。ちょっと、エレーナを起こしてきます」
 勇太:「寝てるんですか?」
 オーナー:「今日は魔女宅の仕事が忙しかったとかで、夜、帰って来て寝てますよ。明日は、こっちの仕事に入ってもらうことになってますから」
 マリア:「……いい。今夜は寝てる。明日の具合次第だ」
 勇太:「と、とにかく部屋で休もう」

 勇太は急いで宿泊者カードに記入した。

 オーナー:「では、どうぞ。こちらの鍵をお持ちください」

 ルームキーを2つ渡される。
 3階の同じ部屋だった。
 もちろん、あの後でちゃんと清掃はされているだろうが。

 勇太:「マリア、立てる?」
 マリア:「うん……」

 マリアが立ち上がると、フラッと倒れそうになる。

 勇太:「おっと!」

 それを勇太が支えた。
 どうやら、軽い貧血を起こしたらしい。

 オーナー:「ちょっと待ってください。今、車椅子を……」
 勇太:「いえ、それには及びません」
 オーナー:「えっ?」

 勇太はマリアを負ぶった。

 勇太:「よし、マリア軽い!」
 オーナー:「大丈夫ですか?部屋まで御一緒に……」
 勇太:「いえ、大丈夫です」

 マリアのバッグから、メイド人形が出て来る。
 それが人形形態から人間形態へと変わり、屋敷で働くメイドの姿となった。

 勇太:「彼女達に付いてもらいますから」
 オーナー:「さすがですね」

 勇太達はエレベーターに乗り、それで3階へ向かった。
 そして3階の、まずはマリアの部屋に入る。

 勇太:「いいかい?あとはよろしく頼むよ?」

 ベッドに寝かせると、あとはメイド人形のミカエラとクラリスに託した。

 クラリス:「御意」
 ミカエラ:「お任せください」
 勇太:「それじゃマリア、ゆっくり休んでね?」
 マリア:「…………」

 勇太はマリアの部屋を出ると、すぐ隣の自分の部屋に入った。
 部屋の造りはマリアと同じ、セミダブルベッドのデラックスシングルルームである。
 但し、ベッドの配置やバスルームの位置が左右対称になっている。
 スタンダードシングルルームと違うのは、そちらはベッドが本当にシングルサイズで、ライティングデスクも大きくない(パソコンデスク程度のサイズ)。

 勇太:「ちょっと、勤行でマリアの具合が良くなるように御祈念しよう」

[7月16日07:00.天候:雨 同ホテル3F 勇太の部屋]

 マリアの事が心配であまり寝られなかった上、スマホのアラームが鳴る前に目が覚めてしまった勇太。
 外はどんよりと曇っていて、雨が降っている。
 但し、雷が鳴っているわけでもなく、強い風が吹いているわけでもなく、ただしとしとと降っている感じだ。
 しかし、恐らくは1日中この天気なのだろうと思わせる降り方だ。
 要は、何だか梅雨に戻ったかのような天気ということである。
 朝の身支度を整えてから、朝の勤行を始める。
 それが終わってから、マリアの部屋に内線電話を掛けた。
 すると……。

 ミカエラ:「もしもし?」

 メイド人形のミカエラが出た。

 勇太:「あっ、ミカエラ?僕だけど……」

 勇太はマリアの具合について聞いた。

 ミカエラ:「あいにくですが、マスターは頭痛、生理痛などが昨夜より酷い状態です」
 勇太:「そうか……」
 ミカエラ:「食欲も無いので、御朝食は取れそうにもありません」
 勇太:「分かった。マリアのこと、よろしく」

 勇太は電話を切った。

 勇太:「これは本気で、エレーナから薬を融通してもらった方が良さそうだ」

 勇太はルームキーを手にすると、部屋を出て1階に向かった。

[同日07:45.天候:雨 同ホテル1階・ロビー]

 エレベーターを降りると、すぐ目の前はロビーになっている。

 オーナー:「あ、稲生さん、おはようございます」
 勇太:「おはようございます。あの、エレーナは……?」
 オーナー:「まだ、寝てると思います。マリアンナさんの具合は……?」
 勇太:「昨夜よりも悪いようです。こりゃ本気で、エレーナから薬を融通してもらう必要があると思います」
 オーナー:「分かりました。リリィは起きてると思うので、もしもエレーナが起きたら、すぐにフロントに来るよう伝えてもらいます」
 勇太:「リリィが来てるんですか!」
 オーナー:「魔界の学校は、夏休みが長いみたいですね」
 勇太:「あ、そうか。日本の学校とは違うんだ」
 オーナー:「そのようです。まずは、朝食を召し上がって来ては如何でしょう?」
 勇太:「そうですね。ちょっと行って来ます」

 勇太はフロントで朝食券を買うと、その会場であるレストランに向かった。

 勇太:(マリアの具合が悪いようでは、魔界には行けない。延泊することになるのかな……)
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“大魔道師の弟子” 「浅草に到着」

2022-08-10 16:05:38 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月15日21:35.天候:曇 東京都墨田区花川戸 東武鉄道浅草駅]

 稲生達を乗せた上り最終特急は、無事に終点の浅草駅に接近していた。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、浅草、浅草です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。これより、急カーブを通過致します。電車、大きく揺れる場合がございますので、お立ちのお客様はご注意ください。また、網棚のお荷物にもご注意ください。浅草駅より東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。……」〕

 電車が隅田川の鉄橋をゆっくり渡る。
 というのは、渡り切った先に90度直角カーブと言っても良いほどの急カーブがあるからだ。
 これは本来、業平橋(現・とうきょうスカイツリー)駅止まりだった線路を、どうしても川向うに延伸したかった為に起きたことである。

 勇太:「マリア、もうすぐ着くよ。大丈夫?」
 マリア:「うーん……」

 マリアは途中で眠ってしまい、勇太に寄り掛かるようにしていたのだが、さすがに起こさなければならかった。

 マリア:「大丈夫……」

 とはいえ、疲れの色が隠しきれないでいる。

 勇太:「早くホテルに行って休もう」
 マリア:「うん……」

 制限速度15キロという厳格な徐行規制の中、電車はようやく所定の停止位置に停車した。

〔ご乗車、ありがとうございました。あさくさ、浅草、終点です。東京メトロ銀座線、都営地下鉄浅草線はお乗り換えです。3番線に到着の電車は、折り返し、21時59分発、特急“リバティけごん”259号、新栃木行きとなります。……〕

 2人はホームに降り立った。
 隣のホームには、群馬県に向かう特急列車が停車している。
 そこそこ乗客が乗っているようだ。

 マリア:「ちょっとトイレに行きたいけど、いい?」
 勇太:「いいよ。改札の外にあるから」

 ホームをそのまま真っ直ぐ歩いて、特急改札口を通過する。
 その後、自動改札機を通過すると、もう手元にキップは無い。
 目の前に下に降りる階段やエスカレーターがあるのだが、そこを回り込んで、向こう側にあるトイレに向かった。
 勇太もついでにトイレを済ませるが、戻ってきてもまだマリアはいない。
 そこで、ワンスターホテルに一報入れておくことにした。

 オーナー:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテルでございます」

 代表電話に掛けると、フロントに繋がる。
 そこで出たのはオーナーだった。

 勇太:「あっ、オーナー。稲生ですけど、エレーナから聞いていますか?」
 オーナー:「稲生様、いつもご利用ありがとうございます。ええ、御心配には及びません。先日ご利用頂いた御部屋と、同じお部屋をお取りしてございます」
 勇太:「本当ですか。どうもすいません。今、浅草駅に着いた所です。これからタクシーで向かいますので、よろしくお願いします」
 オーナー:「浅草駅からでございますね?かしこまりました。それでは、御到着をお待ち申し上げます」
 勇太:「よろしくお願いします」

 勇太は電話を切った。

 勇太:「良かった、エレーナに掛けなくて」

 シフト的に、エレーナは休みか何かなのだろう。
 そんな時に電話しなくて良かった。

 マリア:「エレーナに掛けようとしたのか?」

 その時、不機嫌そうなマリアな声がした。

 勇太:「あっ、いや、違うんだ!ちゃんと部屋が取れてるかどうか、ホテルに確認を……って、大丈夫かい!?」

 元々白人で肌の白いマリアだが、トイレから出て来ると、余計に白くなっているように見えた。

 マリア:「……早く休みたい」

 顔色が悪い所は、かつて会った時と似ていた。
 毎晩のように悪夢に苛まされていた当時のマリアは、睡眠時間が僅かしか確保できず、常に顔色を悪くしていた。

 勇太:「わ、分かった!早く行こう!」

 近くにエレベーターがあったので、それで1階に降りる。
 そして、駅の外に出て、タクシー乗り場に向かった。
 だが、数台しか止まるスペースが無い為か、タクシーは1台も客待ちをしていなかった。

 勇太:「くっ、こんな時に……!」

 と、そこへ空車のタクシーが通り掛かった。
 屋根の行灯がカタツムリのような形をしていることから、『でんでん虫』と呼ばれる個人タクシーである。
 大きく手を挙げてタクシーを止め、それに乗り込んだ。

 勇太:「江東区森下のワンスターホテルまでお願いします」
 運転手:「森下のワンスターホテルですね。分かりました」

 タクシーはすぐに走り出す。

 運転手:「あれ?お客さん、ひょっとして……稲生君?!」
 勇太:「えっ!?……あっ!」
 運転手:「やっぱりだ!稲生君と……えーと、マリー……アントワネットさん?」
 勇太:「フランス革命じゃないです!マリアさんですよ!」
 運転手:「ああっと、これは失礼!」
 勇太:「カンベンしてくださいよ、大原班長」

 この個人タクシーの運転手、勇太の所属する寺院支部の班長であった。
 班違いではあるが、顔見知りでもあるし、ダンテ一門の騒動に巻き込まれた人物の1人でもある。
 かつてダンテ一門の魔女達が、キリスト教系魔女狩り集団に追われたことがある。
 捕まった魔女を助け出す為、この大原タクシーを活用したことがあった。

 大原:「いやいや、ゴメンゴメン」
 勇太:「また、新車買ったんですね?新しいクラウンだ」
 大原:「おかげさまでね。キミ達の騒動に巻き込まれてから、何だか売り上げが良くなっちゃって」

 ダンテ一門の綱領の1つに、『受けた恩と仇は必ず返すこと』とある。
 恐らく、魔女狩り集団に捕まった仲間を助ける協力に対する謝礼として、売り上げが上がるよう、便宜が図られたのだろう。

 勇太:「それは良かったですね」
 大原:「それより最近、お寺に来ないじゃない?」
 勇太:「いやあ、ちょっと忙しく4て……。今も走り回っている最中なんですよ」
 大原:「仕事かい?」
 勇太:「まあ、仕事ですね」
 大原:「ま、仕事は大事だからね。仕事が終わったら、お寺に足を運ぶんだよ」
 勇太:「分かりました」

 尚、個人タクシーでも多くの場合、クレジットカードが使える。
 この大原タクシーもまた、例外ではなかった。
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