報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「再び魔界へ」

2022-08-17 20:29:34 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月17日10:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 朝食を終えた後で、再び魔界へ行く準備をした。
 エレーナと共に、ホテルの地下室へ向かう。

 マリア:「とんだ時間のロスをしてしまった。申し訳ない」
 勇太:「しょうがないよ。生理だもの」
 エレーナ:「良かったな、マリアンナ。これがクズ男だったら、『何でこんな時に生理になりやがるんだよォ!』ってキレるからよ?」
 マリア:「そんなヤツは、今頃地獄に堕としている」
 勇太:「怖い怖い」

 地下室に着いて、魔法陣のある一角に向かう。

 勇太:「でも魔女は、『生理中は魔法が使えない』って聞くけど、よく人形を動かせてたね?」
 マリア:「あれは人形に、予め魔力をチャージさせておいたから。だから私が体調不良で魔力を送り込めなくても、ある程度は動けるんだ」
 勇太:「それは凄い」
 エレーナ:「『魔女は初潮で弟子入り、閉経して一人前』とは良く言ったものだぜ」
 勇太:「半人前の期間、長くない?!」
 マリア:「長いと思う」
 エレーナ:「いや、多分……一人前になってからの方が長いと思うぜ?」

 シーン……となる魔道士達。
 そうするうちに、魔法陣の一角に到着する。

 マリア:「と、とにかく魔界に行くぞ」
 勇太:「う、うん」

 魔法陣の上に乗る勇太とマリア。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ……」
 エレーナ:「気をつけて行って来いよ」
 勇太:「うん、色々とありがとう」

 エレーナが聖水を振り掛けると、紫色の光が現れ、勇太達はそれに包まれた。

[魔界時間10:00.天候:晴 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ南端村・魔界稲荷]

 光による視界不良が無くなった時、2人は見覚えのある場所にいた。

 さくら:「まあ、お帰りなさい」

 そこは威吹の住む稲荷神社で、その住居の中の客間であった。
 以前来た時、勇太とマリアはこの客間に滞在させてもらった。
 で、紙に描いた魔法陣をここに保管させてもらっている。

 勇太:「あ、さくらさん!すいません、掃除中でしたか!」
 さくら:「いいのですよ」

 さくらは威吹の人間の妻で、江戸時代からの想い人であった。
 それがようやく実り、今や夫婦として暮らしている。
 さくらは現在、この神社の禰宜である。

 勇太:「マリア、早く靴脱いで!」
 マリア:「あ、ああ」

 因みにさくら、今は2人目の子を妊娠中である。
 マリアの占いでは、2人目も女の子だそうだ。
 長女の美狐は、妹ができると喜んでいた。

 さくら:「このままお待ちください。今、威吹を呼んで来ますね」
 勇太:「いえ、お構いなく。駅前の共和党事務所に行きますから」
 さくら:「まあ、そうなのですか」
 勇太:「魔法陣を預かっててくれて、ありがとうございました。こちら、御礼の菓子折りです」
 さくら:「そんな、お気遣いなく……」
 美狐:「あ、コンコンコン。洋菓子の甘々しい香り」

 そこへ長女の美狐が登場する。
 私服の作務衣を着ていた。
 ピンク色に狐の刺繍が入った、かわいいデザインである。

 さくら:「これ!はしたないわよ!」
 勇太:「どうぞどうぞ。食べてください。では、僕達はこれで」
 美狐:「ちょっと待って!村の中心部に行くのなら、また車を用意するから!」
 マリア:「それは助かる」

 美狐はパタパタと走り去って行った。

 さくら:「慌ただしい娘で申し訳ありません」
 勇太:「元気があって、いいじゃないですか」
 さくら:「あのコ、『留学する』って聞かないんですよ」
 勇太:「ハハハ、こっちの世界の学校は大変ですよ」
 さくら:「ですよねぇ……」
 勇太:「過去に鬼族のコが、『留学』した例はありますけどね」
 さくら:「そうなのですか。大丈夫ですか?鬼にも人食いをする者がいますから、まかり間違ってそんなことをしたら……」
 勇太:「そんな話は聞かなかったので、多分、大丈夫でしょう」
 さくら:「威吹も人食い妖狐でしたし、美狐もたまに食人衝動が来てしまうのです。特に、満月の晩は要注意で……」
 勇太:「因みに、それが今夜というオチは……?」
 さくら:「いえ、昨日でした」
 勇太:「あ、なんだ!」

 妖狐達が村に出て暴れ出さないよう、日暮れまでには蔵に閉じこもり、翌朝まで出て来ない習慣というのができてしまった。
 しばらくして人力車の準備ができたということで、勇太達は神社の外に向かった。

 威吹:「まだ来てくれよ、勇太?」

 威吹の見送りと共に、人力車に乗り込む勇太とマリアだった。

[同日10:30.天候:晴 アルカディアシティ南端村 魔界共和党南端村事務所]

 坂吹:「それじゃ、ここで宜しいですね?」
 勇太:「うん、ありがとう」

 2人は人力車から降りた。

 勇太:「威吹達によろしくね」
 坂吹:「分かりました」

 それから魔界共和党の事務所に入る。

 坂本:「これはこれは稲生さん、いい時に来ました」

 所長で共和党幹部の坂本が、そんなことを言ってきた。

 勇太:「何かあったんですか?」
 坂本:「実は今日から警戒レベルが引き上げられることになりまして、その……推薦人が2人から3人に増えてしまったのです」
 勇太:「ええっ!?」
 マリア:「そんなの横暴だ!」
 勇太:「じゃあ、あと1人また推薦状をもらわないとダメなんですか?!」
 坂本:「そういうことに……」
 勇太:「“噂の委員会”が言ってたのは、こういうことだったのか」

 危うくこのまま魔王城に行って、追い返されるところであった。

 勇太:「あと1人、どうしよう……?」
 坂本:「さすがにこれはあんまりだということで、最後の3人目にあっては、暫定措置として、『後援会幹部が代行しても良い』となっております。あくまでも暫定措置なので、いつまたそれも撤廃されるか分かりませんが……」
 勇太:「後援会にしたって、そんな知り合いいないよ」

 勇太が途方に暮れていると……。

 坂本:「あの……これは内密にしておいて欲しいのですが……」
 勇太:「何ですか?」
 坂本:「後援会の幹部を1人、御紹介致します。政治献金を頂ければ……」
 勇太:「また1万ゴッズですか?」
 坂本:「さすが、お目が高い」
 勇太:「分かりました。払いますよ」
 坂本:「ありがとうございます」
 マリア:「それで、あなたの知ってる後援会幹部というのは?」
 坂本:「皆さん、6番街には行ったことがありますか?」
 勇太:「6番街?」
 マリア:「あの、アルカディアシティ随一の繁華街だろう?それがどうした?」
 坂本:「あそこで店を経営している者に、後援会幹部がいるのです。その者を紹介します。その者を訪ねてみてください」
 勇太:「分かりました。その人のこと、詳しく教えてもらえますか?」

 思わぬアクシデントが発生してしまったが、どうやら回避できそうである。
 急な出費は発生してしまったが。
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“大魔道師の弟子” 「イリーナからの電話」

2022-08-17 11:44:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月17日06:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル1Fフロント]

 マリアの部屋から、こそこそ出てくる勇太の姿を廊下の防犯カメラがしっかり映していた。
 どうやら一晩中、勇太はマリアの部屋で過ごしたようだ。
 そして、そそくさと、隣の自分の部屋に戻って行った。
 その様子はフロントに設置されたモニタから見ることができるのだが(もちろん、客側からは見ることができない角度にある)、居眠りしていたエレーナはそれに気が付かなかった。
 居眠りしていたエレーナが目を覚ましたのは、またもやロビーの公衆電話の着信音が鳴った時だった。

 

 エレーナ:「うぉっと!?」

 思わず反射的にフロントの電話を取ろうとしたが、着信音が違うことに気がついた。

 エレーナ:「ま、また公衆電話か!?」

 エレーナは公衆電話に駆け寄ると、受話器を取った。

 エレーナ:「お電話ありがとうございます。ワンスターホテルでございます」

 一応、マニュアル通りの挨拶をしておく。

 イリーナ:「おっ、やっと繋がった!……じゃなかった!……我々ハ“噂の委員会”ダ」
 エレーナ:「いや、もうバレてますよ!?イリーナ先生!」
 イリーナ:「あらやだ!エレーナには通用しなかったのかしら?」
 エレーナ:「どこから突っ込んでいいのか分かりませんが、うちのリリィも学園生徒ですから、“噂の委員会”のことは聞いています」
 イリーナ:「ああ、そうだったわね」
 エレーナ:「それで、何ですか?用件は私じゃなくて、稲生氏やマリアンナでしょう?まだ、部屋で寝てるでしょうけど、お急ぎなら呼びますよ?」
 イリーナ:「ああ、それは別にいいの」

 何故かイリーナは取り留めの無い世間話を始めた。
 エレーナはそれを訝しく思った。
 イリーナの世間話は30分ほど続いて……。

 イリーナ:「……そろそろ大丈夫ね」
 エレーナ:「やっぱり、何かありましたか?」
 イリーナ:「“呪い針”がアナログ回線しか使えなくて良かったわ」
 エレーナ:「えっ?」

 そして、電話は切れた。

 エレーナ:「一体、何だったんだ?」

 エレーナが電話を切ろうとした時だった。

 エレーナ:「!?」

 受話器のうち、送話口の方が赤く染まっていた。
 それはまるで血のようだった。

 エレーナ:「!?」

 思わず口元を押さえたが、別にエレーナの血ではない。
 しかし、確実に血の臭いがした。

 エレーナ:「“呪い針”が何かあったのか?」

 要は、電話を使った瞬間殺魔法である。
 電話口の相手の耳に“呪い針”なる、魔法の針を撃ち込む。
 撃ち込まれた耳は爛れてしまう他、耳から脳髄に深く突き刺さって2度と抜けなくなるというものだ。
 イリーナと契約違反をしたり、敵対しようとする相手に対し、発動させることがある。

 エレーナ:「マリアンナ達に話した方がいいのか……?」

 それからしばらくして7時くらいになると、勇太達がエレベーターから降りてきた。

 勇太:「おはよう」
 エレーナ:「おう、稲生氏。さっき、イリーナ先生から電話があったぜ」
 勇太:「先生から!?何だって?」
 エレーナ:「いや、特に気になる話は無い」
 マリア:「そう言って、また情報料せびる気か?」

 マリアは制服ファッションに着替えていた。

 エレーナ:「本当にイリーナ先生がそういう話をしてきたら、そうするつもりだったぜ。だけど、本当にただの世間話だったんだ」
 勇太:「どういうことなんだ?」
 エレーナ:「多分、“呪い針”絡みじゃねーか?」
 マリア:「呪い針?!」
 勇太:「それって、ドラクエの『ザキ』を電話で唱えてみたって魔法だよね?」
 マリア:「身も蓋も無いが、そういうことだ」
 エレーナ:「あれは固定電話でしか使えないからな。しかも回線が塞がってると、発動できねぇ。もしかしたら、“呪い針”が制御不能とかになったんじゃねーの?」
 勇太:「ええっ!?」
 マリア:「それは困る!」
 エレーナ:「だからか!うちのリリィ、急に登校命令が出たの!」

 今度はリリィがエレベーターから降りてきた。
 リリィは学園の制服である臙脂色のセーラーブレザー(上はセーラー服のような特徴的な襟、下はブレザーのような折衷デザイン)を着用し、黒いとんがり帽子に魔道士のローブを羽織っていた。

 リリィ:「フヒッ、エレーナ先輩……。学園に行ってきます。聖水ください」
 エレーナ:「リリィ、オマエが登校命令下った理由って、“噂の委員会”絡みだろ?」
 リリィ:「フヒッ、そうです」
 エレーナ:「“呪い針”がどうとか言ってなかったか?」
 リリィ:「はい。そのことで、大事な話があるって聞いてます」
 マリア:「大事な話って?」
 リリィ:「それはこれから聞きます」

 リリィはそう言うと、エレーナから聖水をもらい、再びエレベーターに乗って行った。

 エレーナ:「魔法が暴走でもしたのかねぇ……」
 マリア:「それは困る。ましてや、瞬間殺魔法だぞ」
 エレーナ:「なあ」
 勇太:「僕達は予定通り、魔界に行っていいんだろうか?」
 エレーナ:「それはいいだろう。その事について、特に何も言ってなかったからな。ただ、“噂の委員会”はリリィの学園絡みだ。魔界共和党のことじゃねーから、それだけは言っておくぜ」
 勇太:「そうか。学校の中にも、『○○委員会』とかあるもんね」

 勇太は納得したように頷いた。

 勇太:「“噂の委員会”って、結局何なの?」
 エレーナ:「噂も魔法の1つなんだぜ。それについて研究する委員会ってとこかな」
 勇太:「そうなの?」
 エレーナ:「ガセネタで流された噂を、本当の話にしてしまう魔法とかな」
 勇太:「はあ……」
 エレーナ:「あとは知り過ぎたヤツを消す粛清部なんてのも、その委員会の中にあるぜ」
 勇太:「それが、あの“呪い針”……」
 マリア:「師匠の魔法でもある。それより、早いとこ朝食に行こう」

 マリアは勇太を引っ張るように、レストランの方に向かった。
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