[7月23日14時20分 天候:晴 秋田県北秋田郡鬼里村 民宿『太平屋』]
車は当初は国道105号線と同等の広さの県道を走っていたが、やがてどんどん道幅が狭くなって行った。
ついに1車線だけの道幅になった時にトンネルが現れ、その中に入って行く。
さすがにトンネルの手前は離合スペースがあったが、辛うじて反対側が見えるほどの長さのトンネルで、対向車が現れたりしたら大変だ。
私がそれを言うと、運転手の太平山豊氏は笑いながら、『対向車が来ることはまず無い』と答えた。
美樹の話では、平日は郵便局の車などの商用車が行き交うこともあるが、村人達の殆どは車で村の外に出ることは無いのだという。
私はその意味が分からず、首を傾げた。
そうしているうちにトンネルの反対側に出る。
愛原「うわっ、舗装が無くなった!?」
豊「少し揺れますから、気をつけててけさい」
リサ「あっ、看板がある」
道の脇には、『北秋田郡 鬼里村』という秋田県が設置したと思われる看板が立っていた。
他にも、県道の番号が記されたヘキサ型の県道標識もある。
『秋田県道 404号線 鬼里比立内線』と、書かれていた。
現役の国道で舗装されていないのは、山形県の国道458号線の十部一峠くらいしか私は知らないが、県道クラスとなると、地方ローカル線になれば未舗装も珍しくない。
他にも、『鬼里温泉』とか、これから泊まる民宿の『太平屋』の看板もあった。
一応、そこまで排他的な村ではないらしい。
太平山豊「着きましたよ」
村に入ってすぐの所に、宿泊先の民宿はあった。
そこが、この親子の家でもある。
民宿でもあり、豊氏が経営するタクシー会社の事務所でもあった。
敷地内には建物が2つあり、太平山家の住人用と、民宿用に分かれている。
古い民宿は、宿泊客と民宿経営者家族との垣根が低いのが当たり前であり、むしろその交流を楽しみに、あえて宿泊先に民宿をチョイスする利用者もいたそうである。
ただ、現在は昨今のプライバシー保護の観点から、建物を別にすることも当たり前になってきている。
ここもそうなのだろう。
ただ、外観を見ると、2つの建物同士は渡り廊下で繋がっているようである。
車は入って手前の建物の前で止まった。
2階建ての立派な日本家屋がそこにはあった。
隣には今風の2階建て一軒家があり、そちらが美樹の実家の方なのだという。
分家でこの立派な建物なのだから、本家はもっと大きな家をしているのだろう。
玄関の入口には、観光ホテルよろしく『歓迎 愛原様』という看板が立てられていた。
車を降りてハッチを開け、そこから荷物を下ろす。
女将「いらっしゃいませぇ~。愛原様ですね。お待ちしておりました」
玄関から、旅館の女将よろしく、着物姿の女性が出てくる。
太平山美樹「母ちゃん。なしてそんなめかし込んでんだ?」
美樹母「お黙りなさい。うちのヤドロクが、お待たせして申し訳ありません。後でキツく言っておきますので……」
豊「ブッ!」
美樹「……あたし、知らね」
愛原「ムムッ!これは上野利恵とはまた違う鬼女美人!」
リサ「先生?」
リサは私の腕をグッと掴んだ。
美樹母「長旅でお疲れでしょう。どうぞ、中へ」
愛原「お、お邪魔しまーす
」
リサ「先生。リエと違って、ダンナさんいるからね?」
豊「車のガソリンば入れて来るっけ」
美樹「母ちゃん、ついでに買い物ばして来いっでよ?買い物メモ忘れんなって」
豊「人使い荒いべねぇ……」
美樹母「何か言っだが!?」
豊「べ、別に……」
一瞬、美樹の母親たる女将の瞳が赤く光り、牙が覗く。
やはり、鬼なのは間違い無いようだ。
角は盛った髪の中に隠しているのか、よく見えなかった。
美樹母「何泊されますか?」
愛原「2泊ほどしたいのですが、空いてますか?」
美樹母「ご安心ください。ちょうどガラガラですよ」
愛原「それは良かった」
リサ「先生と……先生と一緒に部屋にして!」
リサは私の腕を取りながら言った。
すると美樹母、リサの顔をジーッと見つめる。
美樹母「……今夜は、うちの娘と泊まってください」
リサ「ええーっ!」
愛原「……ん、だろうな」
リサ「私は先生のお嫁さんだよ!?」
美樹母「愛原様は、どうなさいますか?」
愛原「部屋、2つお願いします」
美樹母「かしこまりました」
リサ「宿泊費用掛かるよ?」
愛原「今回の旅行に関わる費用は、ほとんどデイライトに請求できるからいいの」
私は荷物の中から、土産の酒と肉系のおつまみ盛り合わせを取り出した。
愛原「これはつまらないものですが、仙台で買って来たお土産です」
美樹母「あンれ、まあ!」
民宿の女将という立場上、普段は方言ではなく、標準語を喋るのだろうが、感嘆した時には方言に戻るのだろう。
愛原「これで何とか、本家の『お姫様』とのお取次ぎを……」
すると女将、目を丸くした。
美樹母「娘からは聞いてましたけど、本気ですか」
愛原「はい。『鬼の血』のことについて聞きたく……」
美樹母「分かりました。これは本家に回しておきます。すぐには無理だと思うので、まずはこちらでごゆっくりお休みください」
愛原「宜しくお願いします」
私は宿帳に記帳した後、前払いで宿泊料金を払った。
もらった領収証は、後でデイライトに提出することになる。
美樹母「美樹ちゃん!お客様の荷物、運んで!」
美樹「はいはい!」
美樹母「それじゃ、こちらがお部屋の鍵です」
愛原「ありがとう」
私は鍵を2つ受け取った。
201号室と202号室。
つまり、2階ということだ。
帳場の前に階段があり、そこを昇って行くようである。
美樹は私やリサの荷物をヒョイと持ち上げると、それで階段を昇った。
階段を上がると、廊下に6つほどの部屋があった。
美樹「トイレと洗面所は、向こうですっけ」
愛原「あっちの突き当りね」
リサ「まさか、和式じゃないよね?」
美樹「うちのは洋式ウォシュレットたべしゃ」
リサ「なら良し!!」
愛原「部屋はどっちがいいんだ?」
美樹「広さはどっちも同じですよ」
リサ「先生、201にして。わたしと美樹、202にする」
愛原「そうなんだ。どうして?」
リサ「階段は1つしか無い。鬼の耳は格別」
要するに、私を狙った侵入者はもちろん、私が脱走しないようにという監視の意味もあるのか……。
鍵を開けて中に入ると、純和風の部屋になっていた。
畳敷きで8畳ほどある。
1人で使うには広く、2人でちょうど良く、3人だと少し狭い感じか。
私は荷物を部屋の中に置くと、エアコンを入れた。
昼間は強い日差しで暑いが、夜は案外涼しいかもしれない。
ここが今日を含めた3日間の滞在拠点となる。
車は当初は国道105号線と同等の広さの県道を走っていたが、やがてどんどん道幅が狭くなって行った。
ついに1車線だけの道幅になった時にトンネルが現れ、その中に入って行く。
さすがにトンネルの手前は離合スペースがあったが、辛うじて反対側が見えるほどの長さのトンネルで、対向車が現れたりしたら大変だ。
私がそれを言うと、運転手の太平山豊氏は笑いながら、『対向車が来ることはまず無い』と答えた。
美樹の話では、平日は郵便局の車などの商用車が行き交うこともあるが、村人達の殆どは車で村の外に出ることは無いのだという。
私はその意味が分からず、首を傾げた。
そうしているうちにトンネルの反対側に出る。
愛原「うわっ、舗装が無くなった!?」
豊「少し揺れますから、気をつけててけさい」
リサ「あっ、看板がある」
道の脇には、『北秋田郡 鬼里村』という秋田県が設置したと思われる看板が立っていた。
他にも、県道の番号が記されたヘキサ型の県道標識もある。
『秋田県道 404号線 鬼里比立内線』と、書かれていた。
現役の国道で舗装されていないのは、山形県の国道458号線の十部一峠くらいしか私は知らないが、県道クラスとなると、地方ローカル線になれば未舗装も珍しくない。
他にも、『鬼里温泉』とか、これから泊まる民宿の『太平屋』の看板もあった。
一応、そこまで排他的な村ではないらしい。
太平山豊「着きましたよ」
村に入ってすぐの所に、宿泊先の民宿はあった。
そこが、この親子の家でもある。
民宿でもあり、豊氏が経営するタクシー会社の事務所でもあった。
敷地内には建物が2つあり、太平山家の住人用と、民宿用に分かれている。
古い民宿は、宿泊客と民宿経営者家族との垣根が低いのが当たり前であり、むしろその交流を楽しみに、あえて宿泊先に民宿をチョイスする利用者もいたそうである。
ただ、現在は昨今のプライバシー保護の観点から、建物を別にすることも当たり前になってきている。
ここもそうなのだろう。
ただ、外観を見ると、2つの建物同士は渡り廊下で繋がっているようである。
車は入って手前の建物の前で止まった。
2階建ての立派な日本家屋がそこにはあった。
隣には今風の2階建て一軒家があり、そちらが美樹の実家の方なのだという。
分家でこの立派な建物なのだから、本家はもっと大きな家をしているのだろう。
玄関の入口には、観光ホテルよろしく『歓迎 愛原様』という看板が立てられていた。
車を降りてハッチを開け、そこから荷物を下ろす。
女将「いらっしゃいませぇ~。愛原様ですね。お待ちしておりました」
玄関から、旅館の女将よろしく、着物姿の女性が出てくる。
太平山美樹「母ちゃん。なしてそんなめかし込んでんだ?」
美樹母「お黙りなさい。うちのヤドロクが、お待たせして申し訳ありません。後でキツく言っておきますので……」
豊「ブッ!」
美樹「……あたし、知らね」
愛原「ムムッ!これは上野利恵とはまた違う鬼女美人!」
リサ「先生?」
リサは私の腕をグッと掴んだ。
美樹母「長旅でお疲れでしょう。どうぞ、中へ」
愛原「お、お邪魔しまーす

リサ「先生。リエと違って、ダンナさんいるからね?」
豊「車のガソリンば入れて来るっけ」
美樹「母ちゃん、ついでに買い物ばして来いっでよ?買い物メモ忘れんなって」
豊「人使い荒いべねぇ……」
美樹母「何か言っだが!?」
豊「べ、別に……」
一瞬、美樹の母親たる女将の瞳が赤く光り、牙が覗く。
やはり、鬼なのは間違い無いようだ。
角は盛った髪の中に隠しているのか、よく見えなかった。
美樹母「何泊されますか?」
愛原「2泊ほどしたいのですが、空いてますか?」
美樹母「ご安心ください。ちょうどガラガラですよ」
愛原「それは良かった」
リサ「先生と……先生と一緒に部屋にして!」
リサは私の腕を取りながら言った。
すると美樹母、リサの顔をジーッと見つめる。
美樹母「……今夜は、うちの娘と泊まってください」
リサ「ええーっ!」
愛原「……ん、だろうな」
リサ「私は先生のお嫁さんだよ!?」
美樹母「愛原様は、どうなさいますか?」
愛原「部屋、2つお願いします」
美樹母「かしこまりました」
リサ「宿泊費用掛かるよ?」
愛原「今回の旅行に関わる費用は、ほとんどデイライトに請求できるからいいの」
私は荷物の中から、土産の酒と肉系のおつまみ盛り合わせを取り出した。
愛原「これはつまらないものですが、仙台で買って来たお土産です」
美樹母「あンれ、まあ!」
民宿の女将という立場上、普段は方言ではなく、標準語を喋るのだろうが、感嘆した時には方言に戻るのだろう。
愛原「これで何とか、本家の『お姫様』とのお取次ぎを……」
すると女将、目を丸くした。
美樹母「娘からは聞いてましたけど、本気ですか」
愛原「はい。『鬼の血』のことについて聞きたく……」
美樹母「分かりました。これは本家に回しておきます。すぐには無理だと思うので、まずはこちらでごゆっくりお休みください」
愛原「宜しくお願いします」
私は宿帳に記帳した後、前払いで宿泊料金を払った。
もらった領収証は、後でデイライトに提出することになる。
美樹母「美樹ちゃん!お客様の荷物、運んで!」
美樹「はいはい!」
美樹母「それじゃ、こちらがお部屋の鍵です」
愛原「ありがとう」
私は鍵を2つ受け取った。
201号室と202号室。
つまり、2階ということだ。
帳場の前に階段があり、そこを昇って行くようである。
美樹は私やリサの荷物をヒョイと持ち上げると、それで階段を昇った。
階段を上がると、廊下に6つほどの部屋があった。
美樹「トイレと洗面所は、向こうですっけ」
愛原「あっちの突き当りね」
リサ「まさか、和式じゃないよね?」
美樹「うちのは洋式ウォシュレットたべしゃ」
リサ「なら良し!!」
愛原「部屋はどっちがいいんだ?」
美樹「広さはどっちも同じですよ」
リサ「先生、201にして。わたしと美樹、202にする」
愛原「そうなんだ。どうして?」
リサ「階段は1つしか無い。鬼の耳は格別」
要するに、私を狙った侵入者はもちろん、私が脱走しないようにという監視の意味もあるのか……。
鍵を開けて中に入ると、純和風の部屋になっていた。
畳敷きで8畳ほどある。
1人で使うには広く、2人でちょうど良く、3人だと少し狭い感じか。
私は荷物を部屋の中に置くと、エアコンを入れた。
昼間は強い日差しで暑いが、夜は案外涼しいかもしれない。
ここが今日を含めた3日間の滞在拠点となる。
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