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報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鬼里村」

2025-04-11 16:13:47 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月23日14時20分 天候:晴 秋田県北秋田郡鬼里村 民宿『太平屋』]

 車は当初は国道105号線と同等の広さの県道を走っていたが、やがてどんどん道幅が狭くなって行った。
 ついに1車線だけの道幅になった時にトンネルが現れ、その中に入って行く。
 さすがにトンネルの手前は離合スペースがあったが、辛うじて反対側が見えるほどの長さのトンネルで、対向車が現れたりしたら大変だ。
 私がそれを言うと、運転手の太平山豊氏は笑いながら、『対向車が来ることはまず無い』と答えた。
 美樹の話では、平日は郵便局の車などの商用車が行き交うこともあるが、村人達の殆どは車で村の外に出ることは無いのだという。
 私はその意味が分からず、首を傾げた。
 そうしているうちにトンネルの反対側に出る。

 愛原「うわっ、舗装が無くなった!?」
 豊「少し揺れますから、気をつけててけさい」
 リサ「あっ、看板がある」

 道の脇には、『北秋田郡 鬼里村』という秋田県が設置したと思われる看板が立っていた。
 他にも、県道の番号が記されたヘキサ型の県道標識もある。
 『秋田県道 404号線 鬼里比立内線』と、書かれていた。
 現役の国道で舗装されていないのは、山形県の国道458号線の十部一峠くらいしか私は知らないが、県道クラスとなると、地方ローカル線になれば未舗装も珍しくない。
 他にも、『鬼里温泉』とか、これから泊まる民宿の『太平屋』の看板もあった。
 一応、そこまで排他的な村ではないらしい。

 太平山豊「着きましたよ」

 村に入ってすぐの所に、宿泊先の民宿はあった。
 そこが、この親子の家でもある。
 民宿でもあり、豊氏が経営するタクシー会社の事務所でもあった。
 敷地内には建物が2つあり、太平山家の住人用と、民宿用に分かれている。
 古い民宿は、宿泊客と民宿経営者家族との垣根が低いのが当たり前であり、むしろその交流を楽しみに、あえて宿泊先に民宿をチョイスする利用者もいたそうである。
 ただ、現在は昨今のプライバシー保護の観点から、建物を別にすることも当たり前になってきている。
 ここもそうなのだろう。
 ただ、外観を見ると、2つの建物同士は渡り廊下で繋がっているようである。
 車は入って手前の建物の前で止まった。
 2階建ての立派な日本家屋がそこにはあった。
 隣には今風の2階建て一軒家があり、そちらが美樹の実家の方なのだという。
 分家でこの立派な建物なのだから、本家はもっと大きな家をしているのだろう。
 玄関の入口には、観光ホテルよろしく『歓迎 愛原様』という看板が立てられていた。
 車を降りてハッチを開け、そこから荷物を下ろす。

 女将「いらっしゃいませぇ~。愛原様ですね。お待ちしておりました」

 玄関から、旅館の女将よろしく、着物姿の女性が出てくる。

 太平山美樹「母ちゃん。なしてそんなめかし込んでんだ?」
 美樹母「お黙りなさい。うちのヤドロクが、お待たせして申し訳ありません。後でキツく言っておきますので……」
 豊「ブッ!」
 美樹「……あたし、知らね」
 愛原「ムムッ!これは上野利恵とはまた違う鬼女美人!」
 リサ「先生?」

 リサは私の腕をグッと掴んだ。

 美樹母「長旅でお疲れでしょう。どうぞ、中へ」
 愛原「お、お邪魔しまーす
 リサ「先生。リエと違って、ダンナさんいるからね?」
 豊「車のガソリンば入れて来るっけ」
 美樹「母ちゃん、ついでに買い物ばして来いっでよ?買い物メモ忘れんなって」
 豊「人使い荒いべねぇ……」
 美樹母「何か言っだが!?」
 豊「べ、別に……」

 一瞬、美樹の母親たる女将の瞳が赤く光り、牙が覗く。
 やはり、鬼なのは間違い無いようだ。
 角は盛った髪の中に隠しているのか、よく見えなかった。

 美樹母「何泊されますか?」
 愛原「2泊ほどしたいのですが、空いてますか?」
 美樹母「ご安心ください。ちょうどガラガラですよ」
 愛原「それは良かった」
 リサ「先生と……先生と一緒に部屋にして!」

 リサは私の腕を取りながら言った。
 すると美樹母、リサの顔をジーッと見つめる。

 美樹母「……今夜は、うちの娘と泊まってください」
 リサ「ええーっ!」
 愛原「……ん、だろうな」
 リサ「私は先生のお嫁さんだよ!?」
 美樹母「愛原様は、どうなさいますか?」
 愛原「部屋、2つお願いします」
 美樹母「かしこまりました」
 リサ「宿泊費用掛かるよ?」
 愛原「今回の旅行に関わる費用は、ほとんどデイライトに請求できるからいいの」

 私は荷物の中から、土産の酒と肉系のおつまみ盛り合わせを取り出した。

 愛原「これはつまらないものですが、仙台で買って来たお土産です」
 美樹母「あンれ、まあ!」

 民宿の女将という立場上、普段は方言ではなく、標準語を喋るのだろうが、感嘆した時には方言に戻るのだろう。

 愛原「これで何とか、本家の『お姫様』とのお取次ぎを……」

 すると女将、目を丸くした。

 美樹母「娘からは聞いてましたけど、本気ですか」
 愛原「はい。『鬼の血』のことについて聞きたく……」
 美樹母「分かりました。これは本家に回しておきます。すぐには無理だと思うので、まずはこちらでごゆっくりお休みください」
 愛原「宜しくお願いします」

 私は宿帳に記帳した後、前払いで宿泊料金を払った。
 もらった領収証は、後でデイライトに提出することになる。

 美樹母「美樹ちゃん!お客様の荷物、運んで!」
 美樹「はいはい!」
 美樹母「それじゃ、こちらがお部屋の鍵です」
 愛原「ありがとう」

 私は鍵を2つ受け取った。
 201号室と202号室。
 つまり、2階ということだ。
 帳場の前に階段があり、そこを昇って行くようである。
 美樹は私やリサの荷物をヒョイと持ち上げると、それで階段を昇った。
 階段を上がると、廊下に6つほどの部屋があった。

 美樹「トイレと洗面所は、向こうですっけ」
 愛原「あっちの突き当りね」
 リサ「まさか、和式じゃないよね?」
 美樹「うちのは洋式ウォシュレットたべしゃ」
 リサ「なら良し!!」
 愛原「部屋はどっちがいいんだ?」
 美樹「広さはどっちも同じですよ」
 リサ「先生、201にして。わたしと美樹、202にする」
 愛原「そうなんだ。どうして?」
 リサ「階段は1つしか無い。鬼の耳は格別」

 要するに、私を狙った侵入者はもちろん、私が脱走しないようにという監視の意味もあるのか……。
 鍵を開けて中に入ると、純和風の部屋になっていた。
 畳敷きで8畳ほどある。
 1人で使うには広く、2人でちょうど良く、3人だと少し狭い感じか。
 私は荷物を部屋の中に置くと、エアコンを入れた。
 昼間は強い日差しで暑いが、夜は案外涼しいかもしれない。
 ここが今日を含めた3日間の滞在拠点となる。

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