報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「両親の来訪」

2021-11-21 23:07:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月20日11:00.天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 稲生:「マリアさん、そろそろ行かないと、列車の到着する時間です」
 マリア:「分かってる。今、準備している。先に車に乗ってて!」

 今日、ついに実家から稲生の両親が来訪する日となった。
 JRで来ることは聞いていたので、駅まで迎えに行くことにしたのだ。
 車は稲生が用意しようかと思ったが、マリアが魔法で用意した。
 イギリス人のマリアが送迎車を用意しようとすると、どうしてもロンドンタクシーになってしまう。
 稲生は普通の私服だが、マリアはおめかしをしているようだ。

 稲生:「いつものブレザーとスカートでいいのに……」
 マリア:「いや、ダメ。私が挨拶するんだから」
 稲生:「そ、そう?」
 イリーナ:「若いっていいねぇ……」
 稲生:「すいません、先生。両親の来訪を許可して下さって、ありがとうございます」
 イリーナ:「いいんだよ。思えば、私も向こうに滞在させてもらったことがあったのに、うちはダメってのは、さすがにそれは筋が通らないからね。取りあえず、セキュリティは変更しておいた」
 稲生:「セキュリティ?」
 イリーナ:「ほら、即死トラップとか、侵入者撃退用のセキュリティシステムね」
 稲生:「ある意味、世界最強のセコムですものね」

 すると、2階の抜き抜け階段をマリアがバタバタ降りて来た。
 ロングスカートを基調とした緑色のワンピースを着ている。
 しかし、魔道士のローブを羽織るのは忘れていなかった。

 マリア:「早く乗って!」
 稲生:「分かりました」

 黒いスーツに白い帽子を目深に被った運転手が無言で、しかし恭しく助手席後ろのドアを開けた。
 2人は後ろに乗る。

 稲生:「それじゃ先生、行ってきます!」
 イリーナ:「あいよ。気をつけて行っといで。私ゃ、できるだけのおもてなしの用意をしておくよ」

 稲生達を乗せたロンドンタクシーのような車が出発した。
 ロンドンタクシーの特徴として、後部座席がボックスシートになっていることが挙げられる。
 見た目は小型の車なのに、ボックスシート形式とはこれ如何に?と思うだろうが、荷物スペースが後部に一切無いのである。
 そのスペースをシートにすることで、小型車ながらボックスシートが可能なのである。
 では、荷物はどこに積むのかというと、助手席。
 助手席部分のシートがまるっと設置されておらず、そこが荷物スペースになっているのである。
 ポルシェやフォルクスワーゲンのように、ボンネット部分に積むわけではない(そんなことしたら、今度はエンジンを積むスペースが無くなってしまう)。

 稲生:「JR中央本線も大糸線も、特に遅れに関する情報は出ていないから、ダイヤ通りに着くはずだ」
 マリア:「日本の鉄道は正確でいいな」

 マリアは大きく頷いた。

[同日11:41.天候:曇 同県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 駅前ロータリーで車を降りた稲生達は、駅舎の中に入った。
 列車が来る前の間、木製のベンチに座って待っていた。
 しばらくして、列車の接近する案内放送が流れる。

 稲生:「本当に時刻通りだ」

 稲生は懐中時計を見て言った。
 金色の時計で、稲生が妖狐の威吹と共に、父親の宗一郎から何かの記念でもらったものである。
 お揃いということで、威吹も喜んで着物の懐に忍ばせていた。

 マリア:「そ、そうか。素晴らしい……」

 マリアは、どうも緊張しているようだ。

 稲生:「どうしたの?うちの両親になんて、何度も会ってるじゃない」
 マリア:「そ、そうなんだけど、いざとなると、何だか……」
 稲生:(だから、いつもの恰好で来れば良かったのに)

 という言葉を稲生は飲み込んだ。

 稲生:「さあ、深呼吸して」
 マリア:「きゃっ!?」

 稲生はマリアの尻をパンと叩いた。

 マリア:「ちょ、ちょっとォ……!」

 昔のマリアなら、セクハラしようものなら、その男は次の瞬間、瞬殺魔法で全身の血液を凝固させられていただろう。
 その方法が『ドラクエのザキ』に似ている為、稲生は『ザキ』と呼び、何故かいつの間にかダンテ一門内でそれが定着してしまった。
 海外でも有名なゲームの中の魔法であり、魔女の中にはリリアンヌのようにゲーム好きの者もいる為、それで定着したのかもしれない。
 今のマリアなら、少なくとも稲生に対してはほとんど怒ることは無い(避妊を徹底しなくてはならないが、一応体の関係には至っている為)。

〔「1番線、特急、南小谷行きの到着です」〕

 自動化されていない改札口のブースに駅員が立つ。
 定期列車では1往復しか無い直通特急のせいか、ダブルのブレザーを着た駅長が出て来てホームに出迎えるほどだ。
 列車が到着し、そこからぞろぞろと乗客達が降りて来る。
 新型コロナウィルスに関する緊急事態宣言が解除されて1ヶ月以上が経ち、そろそろ人々が旅行を開始するようになった。
 その為か、降りて来た乗客数もそれなりに多い。

 稲生:「やっぱりグリーン車に乗ってたか」

 列車が本線の1番線に入線した時、グリーン車に両親の姿を見た。
 列車は新宿駅を出た時点で、付属の編成を併結した12両編成だったはずだが、それは松本で切り離され、基本編成のみの9両編成であった。
 それでも、普段は2両編成のワンマン列車が運転される線区なので、それは圧巻である。

 稲生宗一郎:「よお、勇太。無事に着いたぞ」
 稲生佳子:「お迎え、ありがとうね」

 改札口の駅員にキップを渡して、稲生の両親がやってきた。

 稲生勇太:「長旅お疲れ様」
 マリア:「遠路遥々、ありがとうございます!」
 宗一郎:「お出迎え、ありがとうございます」
 佳子:「いつもの学校の制服みたいな服も似合うけど、その服も素敵ねぇ」
 マリア:「ありがとうございます」
 佳子:「学校の制服みたいな服は、そういう歳に見えるんだけど、その服だと大人っぽく見えるから不思議よね。外人さんだからかしら?」
 マリア:「それは……どうでしょう?」
 勇太:(魔道士だから、でいいんじゃないかなぁ……)

 マリアが18歳で魔道士になった為。
 ギリギリ高校の制服が着れる歳でもあったし、しかし大人っぽい服を着ても良い歳でもあった。
 で、契約悪魔の匙加減で、肉体年齢の成長の速度が極端に遅められる為である。

 勇太:「それより父さん、母さん、車を待たせあるから」
 宗一郎:「お、そうか。それじゃ、行こうか」
 佳子:「イリーナ先生もお待ちなのでしょう?それだったら、ここで油売るわけにはいかないわね」
 マリア:「まずは昼食を御用意してありますので、どうぞ」
 宗一郎:「そうかい。それは楽しみだな」
 佳子:「何だか恐縮しちゃうわね」

 駅の外に出た4人は、ロンドンタクシーみたいにな車に乗り込んだ。
 両親が持って来た荷物は助手席部分の荷物置き場に積み、あとはボックスシート形式になったリアシートに向かい合わせに座る。

 宗一郎:「おお。だいぶ前、ロンドンに出張に行った時を思い出すな」
 佳子:「マリアさんはイギリス人だから?」
 マリア:「そんなところです」
 勇太:(イングランドの片田舎じゃ、あまりロンドンタクシーに乗る機会も無かっただろうに……)

 むしろ本当にロンドン在住であり、死んだ父親がロンドン地下鉄の職員だったルーシーの方が機会に恵まれていただろう。

 マリア:「それじゃ、出発します」

 マリアが運転手に合図すると、運転手は無言で左手を挙げて応じる仕草をし、車を走らせた。
 イギリスは日本と同じ、左側通行・右ハンドルなので、実はあまり違和感は無い。

 宗一郎:「かなり山深い場所にあるんだってね?」
 勇太:「そう。途中から、舗装されてない道を通るよ」
 宗一郎:「そんなに!?冬とか大変だろう!?」
 勇太:「まあね。だけど、先生の魔法の力で生活はできるよ」
 マリア:「むしろ豪雪のおかげで、侵入者の心配も無いので、天然のセキュリティなのです」
 宗一郎:‘「なるほどな」
 佳子:「それよりマリアちゃん、日本語上手になったわねぇ……」
 マリア:「ありがとうこざいます!」

 そう、今のマリアは『自動通訳魔法具』を使用していない。
 何とか日常会話なら、支障無くできるようになった。
 難しい漢字の読み書きには、まだ難があるが……。
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“愛原リサの日常” 「深夜の到着」

2021-11-20 20:06:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日23:46.天候:曇 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 列車が仙台市に近づく度に速度を落として行く。
 そして、ついに市内近郊に入ると、大宮以南のと大して変わらぬ速度で走行する。
 東北一の大都会である為、眠らない地区も存在するにはするが、やはり深夜帯ということもあってか、沿線の雰囲気はどことなく寝静まっている感じがした。

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終点、仙台、仙台です。12番線到着、お出口は同じく左側です。仙台からのお乗り換えをご案内致します。……」〕

 この時間ともなると、とっくに終電の終わっている路線も存在する。
 因みにだ。
 この新幹線と接続する終電の時間は、全て0時2分である。
 0時2分に全ての最終電車が出発する。
 尚、仙台市地下鉄はこの限りではない。
 かつては地下鉄もこの新幹線に接続する終電は無かったが、今は接続するようになっている。

 愛原:「……どれ、そろそろ降りる準備をするか」
 高橋:「うっス」

 通路側に座っている高橋が立ち上がると、荷棚に乗せた荷物を下ろした。

 高橋:「ほらよ」
 リサ:「ありがとう」

 高橋はリサにリュックを渡した。

 愛原:「東北だから、夜は涼しいかもしれないな?」
 高橋:「一応、パーカー持って来ました」
 リサ:「私も」
 愛原:「何で2人とも、お揃いのフード付きパーかーなの?仲の良い兄妹だねぇ……」
 高橋:「ぐ、偶然っスよ!」
 リサ:「うーん……確かに、お兄ちゃんのファッション真似た部分はある」

 リサは腕組みをして、首を傾げるような仕草をした。
 列車は素直に下り本線ホームに入線した。
 恐らく、このまま利府の車両基地まで引き上げるのだろう。

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、仙台、仙台です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。12番線に到着の列車は、回送となります。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕

 ドアが開いて、リサ達はホームに降り立った。
 確かに東京と比べて、心なしか涼しい気がする。
 リサ達は階段を下りて、改札口に向かった。

 絵恋:「私達も行きますわよ?」
 パール:「はい」

 絵恋達はエスカレーターでコンコースに下りる。

 絵恋:「ねえ、パール。リサさん達が泊まるホテル、目星とか付いているの?」
 パール:「あいにくですが、それはマサも教えてくれません」
 絵恋:「リサさんもよ。何か、『愛原先生の命令で、教えることはできない』なんて……」
 パール:「愛原先生は探偵のお仕事で仙台に向かわれたのです。恐らく、この町に着いた時から仕事が始まるのでしょう」
 絵恋:「それにしたってねぇ……」
 パール:「ホテルの場所まではピンポイントでは分かりませんが、少なくとも、この仙台駅周辺であることは予測できます」
 絵恋:「そうなの?」
 パール:「はい。もう深夜帯で終電の時間ですし、その終電に乗って移動するということは考えられません。恐らくは、仙台駅周辺に、まずは一泊するものと思われます」
 絵恋:「さすがパールね」
 パール:「恐れ入ります。(まあ、ここまではマサに聞いたんだけど……)」
 絵恋:「それで、私達はどこに泊まるの?」
 パール:「仙台駅周辺が見渡せる場所が良いでしょう。そこを予約してございます」

 パールはホテルメトロポリタンを指さした。

 絵恋:「さすがはパールね」

 確かに仙台市内では高層ホテルの1つであり、駅前周辺の眺望には優れている。

 パール:「もう夜も遅いです。早くチェックインして、お休みください」
 絵恋:「分かったわ」

[10月1日23:59.同地区内 ホテルグリーンウエル]

 仙台駅西口を出て数分ほど歩き、地下鉄乗り場にも程近い所に、リサ達の今夜の宿はあった。
 規模的には、こぢんまりとしたビジネスホテルである。

 スタッフ:「それでは愛原様、本日より1泊のご利用ですね」
 愛原:「はい」

 愛原は鍵を2つ受け取った。

 愛原:「はい、リサはシングルな」
 リサ:「えー、また1人?」
 愛原:「そう言うなよ。東京中央学園じゃ、寮は2人部屋だって言うじゃないか」
 リサ:「まあ、そうだけど……」

 私立だからか、東京中央学園には寮がある。
 スポーツ特待生とか、留学生とか、はたまた家庭の事情とかで入寮することがある。
 しかし、日本アンブレラはリサ・トレヴァー達を1人ずつ隔離して、集団生活させることはなかった。
 これは1人1人の個性が強い為に、互いに反発しやすい反面、団結してしまったら会社に造反することを恐れてのことだという。
 ハンターみたいに頭が悪く、ただ与えられた簡単な命令をこなすだけの下級BOWなら集団行動させても良いが、人間並みの知性を持つリサ・トレヴァー達は警戒された。
 もっとも、実際はここにいる『2番』のリサのように、隔離しても危険な個体はいたのだが。

 愛原:「中には個室を希望するコもいるらしいが、規則でダメらしいな」
 リサ:「なーんかね。そうらしいね」

 リサ達はエレベーターで、指定された客室フロアへ上がった。

 リサ:「イジメとかもあるみたいだし」
 愛原:「マジか……。オマエ、寮長になって取り締まったらどうだ?」
 リサ:「え?バイオハザード起こしていいって?w」
 愛原:「誰もそんなこと言っとらん」

 確かにリサのウィルスや寄生虫に感染させれば、イジメは無くなるだろう。
 但し、リサの機嫌を損ねた者は例外として。
 そして、エレベーターを降りる。

 高橋:「先生、明日は何時に起きます?」
 愛原:「そうだな……。下の朝食会場のオープンは、7時からだそうだ。それに合わせて起きよう」
 高橋:「そういうわけだ。分かったな?」
 リサ:「うん、分かった。要は、朝7時に下のレストランに行けばいいんだね?」
 愛原:「そうだ」
 リサ:「食べ放題!?」
 高橋:「今、コロナだから、バイキングとかは取りやめなんじゃねーか?作者贔屓の東横インも、一部の店はまだ弁当形式らしいぜ?」
 リサ:「そうなの……」

 リサは口を尖らせて、ガクッとなった。

 愛原:「いや、そんな話、フロントでしてなかったぞ?」
 高橋:「えっ?そうなんスか!?」
 愛原:「ああ。だから、バイキング形式だと思うぞ」
 リサ:「食べ放題……!」
 愛原:「そういうわけだから、夜更かししないで、さっさと寝ろよ」
 高橋:「分かった。おやすみなさい」

 リサはシングルルームの鍵を受け取ると、それでその部屋に入った。
 部屋の構造は、“ベタなビジネスホテルの法則”通り。
 リサは荷物を適当に床に置くと、ベッドにダイブした。

 リサ:「これがやりたかった~」

 そして、仰向けになってスマホを取り出す。
 絵恋からLINEが来ていた。
 『もう仙台に着いたの?』とか、『私は常にリサさんのことを見ているからね』とか書かれている。

 リサ:(キモい……)

 一瞬、LINEをブロックしてやろうかと思ったリサだった。
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“愛原リサの日常” 「東北新幹線“やまびこ”223号」

2021-11-18 20:02:53 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日23:20.天候:晴 福島県福島市栄町 JR東北新幹線223B列車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、福島です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。福島の次は、白石蔵王に止まります〕
〔「福島でお降りのお客様、ご乗車ありがとうございました。まもなく福島、福島です。13番線到着、お出口は左側です。福島からのお乗り換えをご案内致します。東北本線下り、普通列車の藤田行きは、4番線から23時29分。上り、普通列車の松川行きは3番線から23時30分です。どちらも本日の最終列車となっております。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください。尚、山形新幹線、山形線、阿武隈急行線、福島交通飯坂線は本日の運転を終了致しております。……」〕

 リサ達を乗せた最終列車が福島県の県庁所在地駅に入線した。
 ホームには疎らながら、列車を待つ乗客も散見される。
 右側に中線が見えるが、これは通過線である。
 この“はやぶさ”“こまち”編成の“やまびこ”は、今日はこの副線に入るが、運用によっては、通過用の本線を爆走するのだろう。
 乗車客は少ないが、降車客は多かった。
 ホームの肉声放送では、しきりに東北本線の最終電車の案内をしている。
 そして、ホームからは発車メロディが聞こえてくる。
 高校野球で有名な、“栄冠は君に輝く”である。

〔13番線から、“やまびこ”223号、仙台行きが発車致します。次は、白石蔵王に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 列車は定刻通りに発車した。
 スーッと走り出すと、高橋が席を立つ。

 高橋:「ちょっとトイレ行ってきます」
 愛原:「ああ」
 リサ:「行ってらっしゃい」

 高橋は7号車側のトイレに行こうとした。

 高橋:(待てよ。せめてトイレくらいVIP用のを使わせてもらってもいいんじゃねぇか?)

 高橋はそう考えて、9号車に向かった。
 9号車は8号車よりもガラガラであった。

 高橋:(寂しいもんだな)

 しばらく歩くと、車両の中央の方に荷物だけ置かれた座席があった。

 高橋:(……?)

 そして、トイレに向かう。
 で、9号車のトイレに向かった時だった。

 パール:「それでは御嬢様、私は先に戻ってますので」

 多目的トイレから出て来たパール。

 パール:「!!!」
 高橋:「お、オマ……!」

 ドゴォッ!(パール、高橋のみぞおちにアイアンクロー!)

 高橋:「はぐはっ!?」

 ガシッ!(高橋を捕まえて、多目的トイレに連れ込む)

 高橋:「オメ……!いきなりかよ……!」
 パール:「うるさい!何で普通車の客がここに来るんだよっ!?」
 高橋:「い、いいじゃねぇか、別に……!ていうか、何でオメーが新幹線に乗ってるんだよっ!?」
 パール:「シーッ!」

 パールは高橋の口を塞ぎ、多目的トイレの向かい側の個室トイレの様子を伺う。
 どうやら、絵恋はそちらのトイレに入っているようだ。

 パール:「御嬢様が、どうしてもリサ様の後を追いたいって御命令なの!メイドしてはダメとは言えないじゃん!」
 高橋:「いや、言えるだろ!『ダメと言ったら、ダメでございます!』とか、『旦那様の御命令です』とか、色々言い様があるだろうが!」
 パール:「あの状況だ。旦那様は、とても御嬢様にとやかく言える状況じゃない」
 高橋:「それにしても、それにしてもだ!俺達はこれから危険な場所に行くんだから、着いてこられちゃ迷惑だっつーの!」
 パール:「やはりそうか」
 高橋:「……まさか、この期に及んで遊びに行くとか思ってたんじゃないだろうな?」
 パール:「どうかな」
 高橋:「オマエなぁ!」
 パール:「とにかく、愛原先生は旦那様が信頼される名探偵だ。後で旦那様にバレて、怒られたくない」
 高橋:「だろう?なら、さっさと帰れ」
 パール:「終電なので無理だ」
 高橋:「あー……まあ、そりゃそうか」
 パール:「適当な所までついて行って、それから宥めて引き返すさ」
 高橋:「そうしてくれ」
 パール:「だから頼む。この事は愛原先生やリサ様には内緒に……」
 高橋:「分かったよ。で、どうする?このまま席に戻ろうとすれば、俺はあいつに見つかるが?」

 話をしているうちに、絵恋はトイレから出て席に戻ってしまったようだ。
 高橋が8号車に戻るには、どうしても9号車の中を通らなくてはならない。

 パール:「任せろ。私にいい考えがある」

 ボーイッシュなスタイルであるが、パールが男性に間違われたことはない。
 高橋のバイセクシャルに対応できるよう、あえて中性的な見た目をしているのだ。
 髪はベリーショート、当初は一人称を『ボク』にしていた。

 パール:「私が合図をしたら、一気に戻れ」
 高橋:「あいよ」

 パールは座席に戻った。

 絵恋:「パール、遅かったわね」
 パール:「申し訳ございません。化粧直しをしていたもので……」
 絵恋:「化粧直し」
 パール:「それより御嬢様、お手洗いの中に忘れ物がございます。御嬢様の物かどうか、確認して頂きたいのですが……」
 絵恋:「えっ、何か落としたっけ?」
 パール:「それを確認して頂きたいのです」
 絵恋:「分かったわ。案内して」
 パール:「こちらでございます」

 パールはまんまと絵恋を連れ出すことに成功した。
 そして、先ほど絵恋が使用していたトイレの個室に連れ込む。

 パール:「これなんでございますけどね」

 パールは絵恋と一緒に個室に入ると、わざと強くガチャンと閉めた。
 その音は向かい側の多目的トイレにも聞こえるほど。
 それを聞いた高橋は、多目的トイレのドアを開けると、一目散に8号車へと走って行った。

 絵恋:「これは私がパールに預けたハンカチじゃない?」

 もちろん、パールが予め仕掛けたものである。

 パール:「いえ、あいにくですが、私がお預かりしたのは別のハンカチでございます。これは、御嬢様に預けさせて頂いたものです」
 絵恋:「そうだったっけ?……おかしいわねぇ……」

 絵恋は首を大きく傾げた。

 パール:「それより、落とし物が回収できて、ようございました。お席に戻りましょう」

 パールはドアを開けて、トイレから出た。

 リサ:「この話、殆ど私の出番無いじゃん!」

 と、後にリサが言っていたかどうかは【お察しください】。
 
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“愛原リサの日常” 「夜の仙台行」

2021-11-18 16:01:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日21:39.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東北新幹線ホーム→東北新幹線223B列車9号車内]

〔21番線に停車中の電車は、21時44分発、“やまびこ”223号、仙台行きです。この電車は途中、上野、大宮、宇都宮、新白河、新白河から先の各駅に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車、自由席は1号車から5号車と、12号車から17号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 本来なら金曜日夜の最終下り列車は、フル編成にしなくてはならないほど賑わうものなのだろう。
 在来線も下りの最終電車が賑わうのと理屈は似ている。
 緊急事態宣言中は明らかな輸送力過剰だったようだが、緊急事態宣言終了後は……やっぱり寂しかった。
 まだ解除されたばかりだから、というのはあるだろう。
 これでも宣言中よりは増えたのもしれない。
 しかし、“こまち”編成のE6系分は必要無いかも……。
 それくらいの客数だった。

 高橋:「オマエ、家であれだけ食っといて……」
 リサ:「甘い物は別腹だよ」
 高橋:「オメェは……」
 愛原:「まあまあ。俺達は飲み物くらい買って行こう」
 高橋:「はあ……」

 リサはビニール袋に入ったポッキーやプリッツ、飲み物を覗いてニヤッと笑った。

 愛原:「こっちだ、こっち」

 自販機でペットボトルやボトル缶入りのコーヒーを買った愛原と高橋は、8号車に乗り込んだ。
 本来、BSAAとの取り決めでは、リサは先頭車か最後尾に乗ることになっているのだが、指定席がどうしても中間車にしか無いなどの理由においては、事前に通告しておけば良い。
 これはリサがBSAAの監視下に置かれていることを意味する。

 駅員:「21番線に停車中の電車は、21時44分発、東北新幹線“やまびこ”223号、仙台行きです。本日、仙台行きの最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」

 9号車のグリーン車の近くで放送している立ち番の駅員は、そのグリーン車に怪しげな人影が乗って行くのを見つけた。

 駅員:「ん!?」

 よく見ると、それは女性2人であるようだった。
 こんな夜なのにサングラスを掛けたり、帽子を深く被ったりしているからだ。

 駅員:「警備員さん、ちょっとグリーン車内を見て来てくれませんか?」
 警備員:「分かりました」

 駅員はホーム巡回をしている警備員に言った。
 警備員はガラガラのグリーン車内に入る。

 斉藤絵恋:「バレないようにこっそり行くのよ!」
 パール(霧崎真珠):「かしこまりました。お嬢様」
 絵恋:「私だけ除け者なんて、そうはいかないからね?リサさん」
 パール:「私もマサに言いたいことがあります」

 絵恋とパールは、同時にスマホを出した。
 それぞれLINEを見ている。

 絵恋:「リサさんが『新幹線なう』って書いてきた」
 パール:「マサもです。まるでTwitterですね。でも、本当によろしいのですか?こっそりついて行くなんて……」
 絵恋:「お父さんがもしかしたら社長をクビになるかもしれないせいで、実家に帰れないんだからしょうがないじゃない!」

 絵恋はデッキ出入口扉上のLED表示板を見た。

『◆◇◆朝読新聞ニュース◆◇◆ 新薬開発に政府非公認の製材を無断使用したとして、厚労省より使用者責任を問われている大日本製薬の斉藤秀樹社長は、自身の進退問題について、「臨時の株主総会で決める」と発表。自身の指示については明言せず』

 と、ニュースが流れていた。

 パール:「そうですね……」
 絵恋:「こうなったら、リサさんと心中よ」
 パール:「それはお考えをお改めください」
 警備員:(黒い服を着たメイドさんと、黒いドレスの御嬢様???……怪しくない……のか?)

[同日21:44.天候:晴 JR東北新幹線223B列車8号車内]

『◆◇◆冨士参詣深夜便ニュース◆◇◆「雲羽百三氏、同年の一般女性と交際か?」「JR大宮駅でデート中を目撃される」「“今度は同じ轍を踏まぬ”と豪語の雲羽氏、結婚なら日蓮正宗離檀か?』

〔「お待たせ致しました。21時44分発、東北新幹線下りの最終列車、“やまびこ”223号、仙台行き、まもなく発車致します」〕

 ホームから発車ベルが聞こえてくる。
 普通車3人席の窓側に座るリサは、ポッキーの箱を開け、それを口に咥えながらホームの様子を見ていた。
 少ない客ながら、それでもホームを全力疾走する者も散見される。
 終電だからか、発車ベルも長めに鳴っていた。

〔21番線から、“やまびこ”223号、仙台行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「21番線、東北新幹線最終の仙台行き、まもなく発車致します。閉まるドアに、ご注意ください」〕

 そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り、車両のドアが閉まった。
 東海道新幹線と違い、JR東日本の新幹線ホームには、まだホームドアが無い。

 リサ:「おー、出発」

 列車は東京の夜景の下を出発した。
 もっとも、この列車とて、夜景を彩る1つとなるだろう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は東北新幹線、“やまびこ”号、仙台行きです。次は、上野に止まります。……〕

 愛原:「今は夜景の中を走るが、栃木から北は真っ暗闇の中を走るんだろうな」
 高橋:「それは東北道も同じですよ。真っ暗な中、ハイビームでかっ飛ばすから面白いんです」
 愛原:「オマエは走り屋でも、どんなジャンルだったんだ?」
 高橋:「オールマイティーですよ。ゼロヨンからドリフトにルーレット、全部やりました」
 愛原:「刑務所関係といい、コンプリートが好きだねぇ……」
 高橋:「あざーっス」
 リサ:「ねぇ、先生」
 愛原:「何だ?」

 リサは少し不気味そうな顔で、私にスマホを見せて来た。
 LINEの画面になっていて、相手は絵恋さんになっている。
 タイトルが『サイトー(デザート)』となっているのが気になるが……。

 リサ:「何か、サイトーが不気味なの」
 愛原:「んん?」
 リサ:「『わたしはいつでもリサさんと一緒よ』だって」
 愛原:「『気持ちが』一緒という意味だと思うけどなぁ……」
 リサ:「でも何だかブキミ……」
 愛原:「そうかな?」
 高橋:「それなら先生、俺もなんスよ」
 愛原:「え?」
 高橋:「パールからなんスけどね、『わたしもあなたと一緒よ』なんて送って来やがったんです」
 愛原:「私『も』?『も』って何だ?」
 リサ:「メイドさん、サイトーと一緒にいる?」
 愛原:「まあ、そりゃあ、パールは絵恋さんの専属メイドだからなぁ……。あんまり気にしない方がいいんじゃないか?」
 高橋:「確かにそうなんですよ。文面も、大した内容じゃないんです。だけど何か……今日に限っては、何だか不気味に感じるんスよ」
 リサ:「同感。私も同じ」
 愛原:「考え過ぎだろう?それとも何だ?誰か、あの2人にこの列車に乗ることを伝えたのか?」
 高橋:「俺は何も……」
 リサ:「私は、『これから仙台行って来る』ってLINEしたけど……」
 高橋:「そのせいだろ!?」
 リサ:「でも、この新幹線とは一切言ってないよ?せいぜい、さっき『新幹線なう』ってLINEしたくらいで」
 高橋:「それは俺もだけど……」
 愛原:「GPSでは追えるだろ?そういうことかもしれんぞ」
 高橋:「GPSっスか?まあ、パールならやりかねませんけど……」
 リサ:「それはサイトーも同じ。そうか。GPSか」
 愛原:「そういうことだ。あんまり気にするな」
 リサ:「はぁい……」
 高橋:「先生がそう仰るのなら……」

『◇◆◇参詣新聞ニュース◇◆◇「雲羽氏、報恩坊御会式参加を表明」 ノベラーエクスプレス関東の管理人で日蓮正宗報恩坊信徒の雲羽百三氏は、本紙の取材に対し、今月21日に行われる報恩坊御会式への参加を正式に表明した。報恩坊では末寺としての御会式の他、御講も行われる見通し。雲羽氏の大石寺登山は、今年で2回目となる。「離檀届を提出するかも?」の発言に関する真意は不明』
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“私立探偵 愛原学” 「慌ただしい出発」

2021-11-16 19:58:53 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日18:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 愛原:「誕生日ケーキだぞ~」
 リサ:「わーい、食べる~!」
 愛原:「16歳の誕生日、おめでとう!」
 リサ:「ありがとう!本当は15歳までに、先生とエッ○したかったんだけど、16歳なら心置きなくデキるね!」
 愛原:「な、何で!?」
 リサ:「だってぇ……法律では、女は16歳から結婚していいんでしょ?」
 愛原:「こ、今年まではな」
 リサ:「そう!だから、今年!今年して!来年はできなくなっちゃう!」

 2022年度から法律が変わり、女性も結婚できるのは18歳からとなる為である。
 その為、2021年度中は16歳のリサは結婚できるが、来年は17歳になる為に、結婚できなくなるのである。
 但し、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことにより、未成年は親の同意が必要というのも無くなる。

 愛原:「今、結婚したら学校行けなくなっちゃうぞ?」
 リサ:「う……それは嫌だ」
 愛原:「そうだろそうだろ?それに……」

 キッチンから漂う、香ばしい肉の香り。

 高橋:「できたぞ。500gの超厚ステーキだ。表面はウェルダンだが、中身はレアだぞ」
 愛原:「愛原リサ誕生日特別記念GⅠだ。ステーキも特別だぞ」
 リサ:「食べる!!」

 リサ、第1形態に戻って、ステーキやケーキをバクバク食べた。
 すっかり結婚のことは忘れるほどに。

 高橋:「見た目は鬼娘なのに、食欲はウマ娘ですよ?」
 愛原:「うーむ……。東京競馬場を1周走らせたいくらいだ」
 高橋:「おっ、いいっすね!」
 愛原:「それとリサ」
 リサ:「ふぁに?」(←口いっぱいに食べ物を詰めている)
 愛原:「帰り際に何か色々ともらって来たみたいだが?」

 リサ、口に詰め込んだ食べ物を飲み込む。

 リサ:「うん。学校の皆が、私に誕生日プレゼントくれた」
 愛原:「ウィルスや寄生虫に感染させて、無理やり祝わせたわけじゃないだろうな?」
 リサ:「全然。皆、天然」

 気になる回答だが、一応リサは否定したので、それを信じておこう。

 リサ:「あ、そうだ。先生、これ書いて」

 リサは私に婚姻届を差し出した。
 まるで学校で渡されたプリントを、保護者に渡す感覚だ。

 リサ:「コジマからのプレゼント。コジマのお父さん、区役所の偉い人だから、すぐに受理してくれるって」

 小島さんとは、リサの取り巻き女子の1人である。

 愛原:「返してきなさい!」
 リサ:「えーっ!」
 高橋:「えーじゃねぇ!先生を困らせんな!」
 愛原:「まあまあ。それよりリサ、俺からもプレゼントあげるから」
 リサ:「えっ!」
 愛原:「まず、これは善場主任から。まあ、いつもの図書カードNEXTだ。これで好きな本を買って読んで、より人間に近づけるようになれってことだな」
 リサ:「なるほど。分かった。先生からは?」
 愛原:「俺からはクオカードをやろう。これなら、本以外の物も買えるぞ」
 リサ:「ありがとう!……お兄ちゃんは?」
 高橋:「俺は後でゲーム買ってやる。“バイオハザード・ヴィレッジ”か?」
 リサ:「それはもうサイトーんちでやった。別なのがいい。サイトーも持ってないヤツ」

 リサ・トレヴァー、特異菌BOW達を次々に無双するの図。

 愛原:「絵恋さんからは何をもらったんだ?」
 リサ:「豪華客船のキップ」
 愛原:「返して来なさい!そんな高いの!」
 高橋:「リサのことだから、メーデーメーデー叫んでバイオハザード引き起こしますぜ」
 愛原:「だから尚更だよ」

 “バイオハザードシリーズ”において、船内におけるバイオハザード事件というのは鉄板だ。
 その為、コロナ禍初期、正に豪華客船“ダイヤモンドプリンセス”号においてバイオハザードが発生した時、多くのバイオファンはそれらをイメージしたという。
 もちろん、コロナウィルスはゾンビウィルスではないので、ゾンビが跋扈することは無かったが。

[同日21:00.天候:晴 愛原のマンション→日本交通タクシー車内]

 リサ:「先生、タクシー来たよ」

 マンションのベランダから、新大橋通りを覗いていたリサが言った。

 愛原:「よし、それじゃ行くか。準備はいいな?」
 高橋:「OKです」
 愛原:「じゃ、行こうや」

 私達は荷物を手に、マンションを出た。

 リサ:「こんな夜に出発なんて、何か珍しいね」
 愛原:「そうだな。ま、それだけ今回の依頼はガチだってことだ」

 マンションの前に到着した、予約のタクシーに乗り込む。
 荷物はハッチを開けてもらって、そこに積み込む。
 トールワゴンタイプの車種だったので、後ろにそのまま3人乗り込んだ。

 愛原:「東京駅までお願いします」
 運転手:「はい、ありがとうございます。東京駅はどちらに着けますか?」
 愛原:「そうですねぇ……。八重洲側でお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 タクシーが走り出す。
 リサは助手席後ろに座っていたが、そこに設置されているモニタを見ていた。
 因みに私はスーツだが、高橋とリサは私服である。
 10月になってもまだ東京は暑かったが、多分東北は涼しいだろう。
 リサは薄緑色のTシャツに、ジーンズのショーパンを穿いている。
 高橋は一応、黒いタンクトップの上に半袖のシャツを着ていたが、第2ボタンまで外している上に、派手な金色のネックレスを着けていた。
 傍から見れば、確かに変な組み合わせかもしれない。
 リサは少し私に寄り掛かり気味で座っていた。

[同日21:15.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅八重洲中央口→東北新幹線乗り場]

 タクシーは渋滞に巻き込まれることもなく、スムーズに東京駅に到着した。

 愛原:「お世話さまでした。領収証ください」
 運転手:「はい、ありがとうございます」

 私が料金を払っている間、リサが降りて、後ろに積んだ荷物を降ろした。
 もっとも、リサのはリュックだし、高橋はキャリーバッグだ。
 高橋のバッグに着替えとかを入れているので、私のは普通のビジネスバッグである。

 愛原:「よし、行こう」

 お釣りと領収証を財布に入れ、私達は東京駅構内に入った。
 金曜日の夜ということもあって、駅構内は賑わっている。
 緊急事態宣言解除はダテではないようだ。

 愛原:「キップは1人ずつ持とう」
 高橋:「ありがとうございます。“はやぶさ”ではないんですね」
 愛原:「多分、“はやぶさ”は賑わってるんだろう。金曜日の夜だし。俺達が乗るのは、仙台行きの最終列車だよ」
 リサ:「先生、駅弁買っていい?」
 高橋:「オマエ、さっきケーキとステーキ、あんだけ食っといてよぉ!」
 リサ:「駅弁は別腹だよ?」
 高橋:「くぉらっ!太るぞ!」
 リサ:「変化すれば太らないよ?」
 高橋:「あのなぁ!」
 愛原:「多分、これくらい夜遅くなると、もう駅弁屋は閉まってるんじゃないか?」
 リサ:「ええーっ!?」
 愛原:「で、おまけに“やまびこ”じゃ、車販も無いだろう。自販機の飲み物で我慢しとけ」
 リサ:「ぶー……」

 多分、“はやぶさ”にしなかったのは、テロ対策もあるんじゃないかな。
 駅間距離が長い列車だと、テロに巻き込まれやすい。
 そこで、わざと停車駅の多い“やまびこ”のキップを、善場主任は寄越したのではないかと私は考えた。
 私はリサと高橋の、まるで本当の兄妹みたいなやり取りを微笑ましく見ながら、キップを改札機に通した。
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