報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「東北新幹線“やまびこ”223号」

2021-11-18 20:02:53 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日23:20.天候:晴 福島県福島市栄町 JR東北新幹線223B列車内]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、福島です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。福島の次は、白石蔵王に止まります〕
〔「福島でお降りのお客様、ご乗車ありがとうございました。まもなく福島、福島です。13番線到着、お出口は左側です。福島からのお乗り換えをご案内致します。東北本線下り、普通列車の藤田行きは、4番線から23時29分。上り、普通列車の松川行きは3番線から23時30分です。どちらも本日の最終列車となっております。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください。尚、山形新幹線、山形線、阿武隈急行線、福島交通飯坂線は本日の運転を終了致しております。……」〕

 リサ達を乗せた最終列車が福島県の県庁所在地駅に入線した。
 ホームには疎らながら、列車を待つ乗客も散見される。
 右側に中線が見えるが、これは通過線である。
 この“はやぶさ”“こまち”編成の“やまびこ”は、今日はこの副線に入るが、運用によっては、通過用の本線を爆走するのだろう。
 乗車客は少ないが、降車客は多かった。
 ホームの肉声放送では、しきりに東北本線の最終電車の案内をしている。
 そして、ホームからは発車メロディが聞こえてくる。
 高校野球で有名な、“栄冠は君に輝く”である。

〔13番線から、“やまびこ”223号、仙台行きが発車致します。次は、白石蔵王に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 列車は定刻通りに発車した。
 スーッと走り出すと、高橋が席を立つ。

 高橋:「ちょっとトイレ行ってきます」
 愛原:「ああ」
 リサ:「行ってらっしゃい」

 高橋は7号車側のトイレに行こうとした。

 高橋:(待てよ。せめてトイレくらいVIP用のを使わせてもらってもいいんじゃねぇか?)

 高橋はそう考えて、9号車に向かった。
 9号車は8号車よりもガラガラであった。

 高橋:(寂しいもんだな)

 しばらく歩くと、車両の中央の方に荷物だけ置かれた座席があった。

 高橋:(……?)

 そして、トイレに向かう。
 で、9号車のトイレに向かった時だった。

 パール:「それでは御嬢様、私は先に戻ってますので」

 多目的トイレから出て来たパール。

 パール:「!!!」
 高橋:「お、オマ……!」

 ドゴォッ!(パール、高橋のみぞおちにアイアンクロー!)

 高橋:「はぐはっ!?」

 ガシッ!(高橋を捕まえて、多目的トイレに連れ込む)

 高橋:「オメ……!いきなりかよ……!」
 パール:「うるさい!何で普通車の客がここに来るんだよっ!?」
 高橋:「い、いいじゃねぇか、別に……!ていうか、何でオメーが新幹線に乗ってるんだよっ!?」
 パール:「シーッ!」

 パールは高橋の口を塞ぎ、多目的トイレの向かい側の個室トイレの様子を伺う。
 どうやら、絵恋はそちらのトイレに入っているようだ。

 パール:「御嬢様が、どうしてもリサ様の後を追いたいって御命令なの!メイドしてはダメとは言えないじゃん!」
 高橋:「いや、言えるだろ!『ダメと言ったら、ダメでございます!』とか、『旦那様の御命令です』とか、色々言い様があるだろうが!」
 パール:「あの状況だ。旦那様は、とても御嬢様にとやかく言える状況じゃない」
 高橋:「それにしても、それにしてもだ!俺達はこれから危険な場所に行くんだから、着いてこられちゃ迷惑だっつーの!」
 パール:「やはりそうか」
 高橋:「……まさか、この期に及んで遊びに行くとか思ってたんじゃないだろうな?」
 パール:「どうかな」
 高橋:「オマエなぁ!」
 パール:「とにかく、愛原先生は旦那様が信頼される名探偵だ。後で旦那様にバレて、怒られたくない」
 高橋:「だろう?なら、さっさと帰れ」
 パール:「終電なので無理だ」
 高橋:「あー……まあ、そりゃそうか」
 パール:「適当な所までついて行って、それから宥めて引き返すさ」
 高橋:「そうしてくれ」
 パール:「だから頼む。この事は愛原先生やリサ様には内緒に……」
 高橋:「分かったよ。で、どうする?このまま席に戻ろうとすれば、俺はあいつに見つかるが?」

 話をしているうちに、絵恋はトイレから出て席に戻ってしまったようだ。
 高橋が8号車に戻るには、どうしても9号車の中を通らなくてはならない。

 パール:「任せろ。私にいい考えがある」

 ボーイッシュなスタイルであるが、パールが男性に間違われたことはない。
 高橋のバイセクシャルに対応できるよう、あえて中性的な見た目をしているのだ。
 髪はベリーショート、当初は一人称を『ボク』にしていた。

 パール:「私が合図をしたら、一気に戻れ」
 高橋:「あいよ」

 パールは座席に戻った。

 絵恋:「パール、遅かったわね」
 パール:「申し訳ございません。化粧直しをしていたもので……」
 絵恋:「化粧直し」
 パール:「それより御嬢様、お手洗いの中に忘れ物がございます。御嬢様の物かどうか、確認して頂きたいのですが……」
 絵恋:「えっ、何か落としたっけ?」
 パール:「それを確認して頂きたいのです」
 絵恋:「分かったわ。案内して」
 パール:「こちらでございます」

 パールはまんまと絵恋を連れ出すことに成功した。
 そして、先ほど絵恋が使用していたトイレの個室に連れ込む。

 パール:「これなんでございますけどね」

 パールは絵恋と一緒に個室に入ると、わざと強くガチャンと閉めた。
 その音は向かい側の多目的トイレにも聞こえるほど。
 それを聞いた高橋は、多目的トイレのドアを開けると、一目散に8号車へと走って行った。

 絵恋:「これは私がパールに預けたハンカチじゃない?」

 もちろん、パールが予め仕掛けたものである。

 パール:「いえ、あいにくですが、私がお預かりしたのは別のハンカチでございます。これは、御嬢様に預けさせて頂いたものです」
 絵恋:「そうだったっけ?……おかしいわねぇ……」

 絵恋は首を大きく傾げた。

 パール:「それより、落とし物が回収できて、ようございました。お席に戻りましょう」

 パールはドアを開けて、トイレから出た。

 リサ:「この話、殆ど私の出番無いじゃん!」

 と、後にリサが言っていたかどうかは【お察しください】。
 
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“愛原リサの日常” 「夜の仙台行」

2021-11-18 16:01:20 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日21:39.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅・東北新幹線ホーム→東北新幹線223B列車9号車内]

〔21番線に停車中の電車は、21時44分発、“やまびこ”223号、仙台行きです。この電車は途中、上野、大宮、宇都宮、新白河、新白河から先の各駅に止まります。グランクラスは10号車、グリーン車は9号車と11号車、自由席は1号車から5号車と、12号車から17号車です。尚、全車両禁煙です。……〕

 本来なら金曜日夜の最終下り列車は、フル編成にしなくてはならないほど賑わうものなのだろう。
 在来線も下りの最終電車が賑わうのと理屈は似ている。
 緊急事態宣言中は明らかな輸送力過剰だったようだが、緊急事態宣言終了後は……やっぱり寂しかった。
 まだ解除されたばかりだから、というのはあるだろう。
 これでも宣言中よりは増えたのもしれない。
 しかし、“こまち”編成のE6系分は必要無いかも……。
 それくらいの客数だった。

 高橋:「オマエ、家であれだけ食っといて……」
 リサ:「甘い物は別腹だよ」
 高橋:「オメェは……」
 愛原:「まあまあ。俺達は飲み物くらい買って行こう」
 高橋:「はあ……」

 リサはビニール袋に入ったポッキーやプリッツ、飲み物を覗いてニヤッと笑った。

 愛原:「こっちだ、こっち」

 自販機でペットボトルやボトル缶入りのコーヒーを買った愛原と高橋は、8号車に乗り込んだ。
 本来、BSAAとの取り決めでは、リサは先頭車か最後尾に乗ることになっているのだが、指定席がどうしても中間車にしか無いなどの理由においては、事前に通告しておけば良い。
 これはリサがBSAAの監視下に置かれていることを意味する。

 駅員:「21番線に停車中の電車は、21時44分発、東北新幹線“やまびこ”223号、仙台行きです。本日、仙台行きの最終列車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」

 9号車のグリーン車の近くで放送している立ち番の駅員は、そのグリーン車に怪しげな人影が乗って行くのを見つけた。

 駅員:「ん!?」

 よく見ると、それは女性2人であるようだった。
 こんな夜なのにサングラスを掛けたり、帽子を深く被ったりしているからだ。

 駅員:「警備員さん、ちょっとグリーン車内を見て来てくれませんか?」
 警備員:「分かりました」

 駅員はホーム巡回をしている警備員に言った。
 警備員はガラガラのグリーン車内に入る。

 斉藤絵恋:「バレないようにこっそり行くのよ!」
 パール(霧崎真珠):「かしこまりました。お嬢様」
 絵恋:「私だけ除け者なんて、そうはいかないからね?リサさん」
 パール:「私もマサに言いたいことがあります」

 絵恋とパールは、同時にスマホを出した。
 それぞれLINEを見ている。

 絵恋:「リサさんが『新幹線なう』って書いてきた」
 パール:「マサもです。まるでTwitterですね。でも、本当によろしいのですか?こっそりついて行くなんて……」
 絵恋:「お父さんがもしかしたら社長をクビになるかもしれないせいで、実家に帰れないんだからしょうがないじゃない!」

 絵恋はデッキ出入口扉上のLED表示板を見た。

『◆◇◆朝読新聞ニュース◆◇◆ 新薬開発に政府非公認の製材を無断使用したとして、厚労省より使用者責任を問われている大日本製薬の斉藤秀樹社長は、自身の進退問題について、「臨時の株主総会で決める」と発表。自身の指示については明言せず』

 と、ニュースが流れていた。

 パール:「そうですね……」
 絵恋:「こうなったら、リサさんと心中よ」
 パール:「それはお考えをお改めください」
 警備員:(黒い服を着たメイドさんと、黒いドレスの御嬢様???……怪しくない……のか?)

[同日21:44.天候:晴 JR東北新幹線223B列車8号車内]

『◆◇◆冨士参詣深夜便ニュース◆◇◆「雲羽百三氏、同年の一般女性と交際か?」「JR大宮駅でデート中を目撃される」「“今度は同じ轍を踏まぬ”と豪語の雲羽氏、結婚なら日蓮正宗離檀か?』

〔「お待たせ致しました。21時44分発、東北新幹線下りの最終列車、“やまびこ”223号、仙台行き、まもなく発車致します」〕

 ホームから発車ベルが聞こえてくる。
 普通車3人席の窓側に座るリサは、ポッキーの箱を開け、それを口に咥えながらホームの様子を見ていた。
 少ない客ながら、それでもホームを全力疾走する者も散見される。
 終電だからか、発車ベルも長めに鳴っていた。

〔21番線から、“やまびこ”223号、仙台行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕
〔「21番線、東北新幹線最終の仙台行き、まもなく発車致します。閉まるドアに、ご注意ください」〕

 そして、甲高い客終合図のブザーが鳴り、車両のドアが閉まった。
 東海道新幹線と違い、JR東日本の新幹線ホームには、まだホームドアが無い。

 リサ:「おー、出発」

 列車は東京の夜景の下を出発した。
 もっとも、この列車とて、夜景を彩る1つとなるだろう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は東北新幹線、“やまびこ”号、仙台行きです。次は、上野に止まります。……〕

 愛原:「今は夜景の中を走るが、栃木から北は真っ暗闇の中を走るんだろうな」
 高橋:「それは東北道も同じですよ。真っ暗な中、ハイビームでかっ飛ばすから面白いんです」
 愛原:「オマエは走り屋でも、どんなジャンルだったんだ?」
 高橋:「オールマイティーですよ。ゼロヨンからドリフトにルーレット、全部やりました」
 愛原:「刑務所関係といい、コンプリートが好きだねぇ……」
 高橋:「あざーっス」
 リサ:「ねぇ、先生」
 愛原:「何だ?」

 リサは少し不気味そうな顔で、私にスマホを見せて来た。
 LINEの画面になっていて、相手は絵恋さんになっている。
 タイトルが『サイトー(デザート)』となっているのが気になるが……。

 リサ:「何か、サイトーが不気味なの」
 愛原:「んん?」
 リサ:「『わたしはいつでもリサさんと一緒よ』だって」
 愛原:「『気持ちが』一緒という意味だと思うけどなぁ……」
 リサ:「でも何だかブキミ……」
 愛原:「そうかな?」
 高橋:「それなら先生、俺もなんスよ」
 愛原:「え?」
 高橋:「パールからなんスけどね、『わたしもあなたと一緒よ』なんて送って来やがったんです」
 愛原:「私『も』?『も』って何だ?」
 リサ:「メイドさん、サイトーと一緒にいる?」
 愛原:「まあ、そりゃあ、パールは絵恋さんの専属メイドだからなぁ……。あんまり気にしない方がいいんじゃないか?」
 高橋:「確かにそうなんですよ。文面も、大した内容じゃないんです。だけど何か……今日に限っては、何だか不気味に感じるんスよ」
 リサ:「同感。私も同じ」
 愛原:「考え過ぎだろう?それとも何だ?誰か、あの2人にこの列車に乗ることを伝えたのか?」
 高橋:「俺は何も……」
 リサ:「私は、『これから仙台行って来る』ってLINEしたけど……」
 高橋:「そのせいだろ!?」
 リサ:「でも、この新幹線とは一切言ってないよ?せいぜい、さっき『新幹線なう』ってLINEしたくらいで」
 高橋:「それは俺もだけど……」
 愛原:「GPSでは追えるだろ?そういうことかもしれんぞ」
 高橋:「GPSっスか?まあ、パールならやりかねませんけど……」
 リサ:「それはサイトーも同じ。そうか。GPSか」
 愛原:「そういうことだ。あんまり気にするな」
 リサ:「はぁい……」
 高橋:「先生がそう仰るのなら……」

『◇◆◇参詣新聞ニュース◇◆◇「雲羽氏、報恩坊御会式参加を表明」 ノベラーエクスプレス関東の管理人で日蓮正宗報恩坊信徒の雲羽百三氏は、本紙の取材に対し、今月21日に行われる報恩坊御会式への参加を正式に表明した。報恩坊では末寺としての御会式の他、御講も行われる見通し。雲羽氏の大石寺登山は、今年で2回目となる。「離檀届を提出するかも?」の発言に関する真意は不明』
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