[11月20日11:00.天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷]
稲生:「マリアさん、そろそろ行かないと、列車の到着する時間です」
マリア:「分かってる。今、準備している。先に車に乗ってて!」
今日、ついに実家から稲生の両親が来訪する日となった。
JRで来ることは聞いていたので、駅まで迎えに行くことにしたのだ。
車は稲生が用意しようかと思ったが、マリアが魔法で用意した。
イギリス人のマリアが送迎車を用意しようとすると、どうしてもロンドンタクシーになってしまう。
稲生は普通の私服だが、マリアはおめかしをしているようだ。
稲生:「いつものブレザーとスカートでいいのに……」
マリア:「いや、ダメ。私が挨拶するんだから」
稲生:「そ、そう?」
イリーナ:「若いっていいねぇ……」
稲生:「すいません、先生。両親の来訪を許可して下さって、ありがとうございます」
イリーナ:「いいんだよ。思えば、私も向こうに滞在させてもらったことがあったのに、うちはダメってのは、さすがにそれは筋が通らないからね。取りあえず、セキュリティは変更しておいた」
稲生:「セキュリティ?」
イリーナ:「ほら、即死トラップとか、侵入者撃退用のセキュリティシステムね」
稲生:「ある意味、世界最強のセコムですものね」
すると、2階の抜き抜け階段をマリアがバタバタ降りて来た。
ロングスカートを基調とした緑色のワンピースを着ている。
しかし、魔道士のローブを羽織るのは忘れていなかった。
マリア:「早く乗って!」
稲生:「分かりました」
黒いスーツに白い帽子を目深に被った運転手が無言で、しかし恭しく助手席後ろのドアを開けた。
2人は後ろに乗る。
稲生:「それじゃ先生、行ってきます!」
イリーナ:「あいよ。気をつけて行っといで。私ゃ、できるだけのおもてなしの用意をしておくよ」
稲生達を乗せたロンドンタクシーのような車が出発した。
ロンドンタクシーの特徴として、後部座席がボックスシートになっていることが挙げられる。
見た目は小型の車なのに、ボックスシート形式とはこれ如何に?と思うだろうが、荷物スペースが後部に一切無いのである。
そのスペースをシートにすることで、小型車ながらボックスシートが可能なのである。
では、荷物はどこに積むのかというと、助手席。
助手席部分のシートがまるっと設置されておらず、そこが荷物スペースになっているのである。
ポルシェやフォルクスワーゲンのように、ボンネット部分に積むわけではない(そんなことしたら、今度はエンジンを積むスペースが無くなってしまう)。
稲生:「JR中央本線も大糸線も、特に遅れに関する情報は出ていないから、ダイヤ通りに着くはずだ」
マリア:「日本の鉄道は正確でいいな」
マリアは大きく頷いた。
[同日11:41.天候:曇 同県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]
駅前ロータリーで車を降りた稲生達は、駅舎の中に入った。
列車が来る前の間、木製のベンチに座って待っていた。
しばらくして、列車の接近する案内放送が流れる。
稲生:「本当に時刻通りだ」
稲生は懐中時計を見て言った。
金色の時計で、稲生が妖狐の威吹と共に、父親の宗一郎から何かの記念でもらったものである。
お揃いということで、威吹も喜んで着物の懐に忍ばせていた。
マリア:「そ、そうか。素晴らしい……」
マリアは、どうも緊張しているようだ。
稲生:「どうしたの?うちの両親になんて、何度も会ってるじゃない」
マリア:「そ、そうなんだけど、いざとなると、何だか……」
稲生:(だから、いつもの恰好で来れば良かったのに)
という言葉を稲生は飲み込んだ。
稲生:「さあ、深呼吸して」
マリア:「きゃっ!?」
稲生はマリアの尻をパンと叩いた。
マリア:「ちょ、ちょっとォ……!」
昔のマリアなら、セクハラしようものなら、その男は次の瞬間、瞬殺魔法で全身の血液を凝固させられていただろう。
その方法が『ドラクエのザキ』に似ている為、稲生は『ザキ』と呼び、何故かいつの間にかダンテ一門内でそれが定着してしまった。
海外でも有名なゲームの中の魔法であり、魔女の中にはリリアンヌのようにゲーム好きの者もいる為、それで定着したのかもしれない。
今のマリアなら、少なくとも稲生に対してはほとんど怒ることは無い(避妊を徹底しなくてはならないが、一応体の関係には至っている為)。
〔「1番線、特急、南小谷行きの到着です」〕
自動化されていない改札口のブースに駅員が立つ。
定期列車では1往復しか無い直通特急のせいか、ダブルのブレザーを着た駅長が出て来てホームに出迎えるほどだ。
列車が到着し、そこからぞろぞろと乗客達が降りて来る。
新型コロナウィルスに関する緊急事態宣言が解除されて1ヶ月以上が経ち、そろそろ人々が旅行を開始するようになった。
その為か、降りて来た乗客数もそれなりに多い。
稲生:「やっぱりグリーン車に乗ってたか」
列車が本線の1番線に入線した時、グリーン車に両親の姿を見た。
列車は新宿駅を出た時点で、付属の編成を併結した12両編成だったはずだが、それは松本で切り離され、基本編成のみの9両編成であった。
それでも、普段は2両編成のワンマン列車が運転される線区なので、それは圧巻である。
稲生宗一郎:「よお、勇太。無事に着いたぞ」
稲生佳子:「お迎え、ありがとうね」
改札口の駅員にキップを渡して、稲生の両親がやってきた。
稲生勇太:「長旅お疲れ様」
マリア:「遠路遥々、ありがとうございます!」
宗一郎:「お出迎え、ありがとうございます」
佳子:「いつもの学校の制服みたいな服も似合うけど、その服も素敵ねぇ」
マリア:「ありがとうございます」
佳子:「学校の制服みたいな服は、そういう歳に見えるんだけど、その服だと大人っぽく見えるから不思議よね。外人さんだからかしら?」
マリア:「それは……どうでしょう?」
勇太:(魔道士だから、でいいんじゃないかなぁ……)
マリアが18歳で魔道士になった為。
ギリギリ高校の制服が着れる歳でもあったし、しかし大人っぽい服を着ても良い歳でもあった。
で、契約悪魔の匙加減で、肉体年齢の成長の速度が極端に遅められる為である。
勇太:「それより父さん、母さん、車を待たせあるから」
宗一郎:「お、そうか。それじゃ、行こうか」
佳子:「イリーナ先生もお待ちなのでしょう?それだったら、ここで油売るわけにはいかないわね」
マリア:「まずは昼食を御用意してありますので、どうぞ」
宗一郎:「そうかい。それは楽しみだな」
佳子:「何だか恐縮しちゃうわね」
駅の外に出た4人は、ロンドンタクシーみたいにな車に乗り込んだ。
両親が持って来た荷物は助手席部分の荷物置き場に積み、あとはボックスシート形式になったリアシートに向かい合わせに座る。
宗一郎:「おお。だいぶ前、ロンドンに出張に行った時を思い出すな」
佳子:「マリアさんはイギリス人だから?」
マリア:「そんなところです」
勇太:(イングランドの片田舎じゃ、あまりロンドンタクシーに乗る機会も無かっただろうに……)
むしろ本当にロンドン在住であり、死んだ父親がロンドン地下鉄の職員だったルーシーの方が機会に恵まれていただろう。
マリア:「それじゃ、出発します」
マリアが運転手に合図すると、運転手は無言で左手を挙げて応じる仕草をし、車を走らせた。
イギリスは日本と同じ、左側通行・右ハンドルなので、実はあまり違和感は無い。
宗一郎:「かなり山深い場所にあるんだってね?」
勇太:「そう。途中から、舗装されてない道を通るよ」
宗一郎:「そんなに!?冬とか大変だろう!?」
勇太:「まあね。だけど、先生の魔法の力で生活はできるよ」
マリア:「むしろ豪雪のおかげで、侵入者の心配も無いので、天然のセキュリティなのです」
宗一郎:‘「なるほどな」
佳子:「それよりマリアちゃん、日本語上手になったわねぇ……」
マリア:「ありがとうこざいます!」
そう、今のマリアは『自動通訳魔法具』を使用していない。
何とか日常会話なら、支障無くできるようになった。
難しい漢字の読み書きには、まだ難があるが……。
稲生:「マリアさん、そろそろ行かないと、列車の到着する時間です」
マリア:「分かってる。今、準備している。先に車に乗ってて!」
今日、ついに実家から稲生の両親が来訪する日となった。
JRで来ることは聞いていたので、駅まで迎えに行くことにしたのだ。
車は稲生が用意しようかと思ったが、マリアが魔法で用意した。
イギリス人のマリアが送迎車を用意しようとすると、どうしてもロンドンタクシーになってしまう。
稲生は普通の私服だが、マリアはおめかしをしているようだ。
稲生:「いつものブレザーとスカートでいいのに……」
マリア:「いや、ダメ。私が挨拶するんだから」
稲生:「そ、そう?」
イリーナ:「若いっていいねぇ……」
稲生:「すいません、先生。両親の来訪を許可して下さって、ありがとうございます」
イリーナ:「いいんだよ。思えば、私も向こうに滞在させてもらったことがあったのに、うちはダメってのは、さすがにそれは筋が通らないからね。取りあえず、セキュリティは変更しておいた」
稲生:「セキュリティ?」
イリーナ:「ほら、即死トラップとか、侵入者撃退用のセキュリティシステムね」
稲生:「ある意味、世界最強のセコムですものね」
すると、2階の抜き抜け階段をマリアがバタバタ降りて来た。
ロングスカートを基調とした緑色のワンピースを着ている。
しかし、魔道士のローブを羽織るのは忘れていなかった。
マリア:「早く乗って!」
稲生:「分かりました」
黒いスーツに白い帽子を目深に被った運転手が無言で、しかし恭しく助手席後ろのドアを開けた。
2人は後ろに乗る。
稲生:「それじゃ先生、行ってきます!」
イリーナ:「あいよ。気をつけて行っといで。私ゃ、できるだけのおもてなしの用意をしておくよ」
稲生達を乗せたロンドンタクシーのような車が出発した。
ロンドンタクシーの特徴として、後部座席がボックスシートになっていることが挙げられる。
見た目は小型の車なのに、ボックスシート形式とはこれ如何に?と思うだろうが、荷物スペースが後部に一切無いのである。
そのスペースをシートにすることで、小型車ながらボックスシートが可能なのである。
では、荷物はどこに積むのかというと、助手席。
助手席部分のシートがまるっと設置されておらず、そこが荷物スペースになっているのである。
ポルシェやフォルクスワーゲンのように、ボンネット部分に積むわけではない(そんなことしたら、今度はエンジンを積むスペースが無くなってしまう)。
稲生:「JR中央本線も大糸線も、特に遅れに関する情報は出ていないから、ダイヤ通りに着くはずだ」
マリア:「日本の鉄道は正確でいいな」
マリアは大きく頷いた。
[同日11:41.天候:曇 同県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]
駅前ロータリーで車を降りた稲生達は、駅舎の中に入った。
列車が来る前の間、木製のベンチに座って待っていた。
しばらくして、列車の接近する案内放送が流れる。
稲生:「本当に時刻通りだ」
稲生は懐中時計を見て言った。
金色の時計で、稲生が妖狐の威吹と共に、父親の宗一郎から何かの記念でもらったものである。
お揃いということで、威吹も喜んで着物の懐に忍ばせていた。
マリア:「そ、そうか。素晴らしい……」
マリアは、どうも緊張しているようだ。
稲生:「どうしたの?うちの両親になんて、何度も会ってるじゃない」
マリア:「そ、そうなんだけど、いざとなると、何だか……」
稲生:(だから、いつもの恰好で来れば良かったのに)
という言葉を稲生は飲み込んだ。
稲生:「さあ、深呼吸して」
マリア:「きゃっ!?」
稲生はマリアの尻をパンと叩いた。
マリア:「ちょ、ちょっとォ……!」
昔のマリアなら、セクハラしようものなら、その男は次の瞬間、瞬殺魔法で全身の血液を凝固させられていただろう。
その方法が『ドラクエのザキ』に似ている為、稲生は『ザキ』と呼び、何故かいつの間にかダンテ一門内でそれが定着してしまった。
海外でも有名なゲームの中の魔法であり、魔女の中にはリリアンヌのようにゲーム好きの者もいる為、それで定着したのかもしれない。
今のマリアなら、少なくとも稲生に対してはほとんど怒ることは無い(避妊を徹底しなくてはならないが、一応体の関係には至っている為)。
〔「1番線、特急、南小谷行きの到着です」〕
自動化されていない改札口のブースに駅員が立つ。
定期列車では1往復しか無い直通特急のせいか、ダブルのブレザーを着た駅長が出て来てホームに出迎えるほどだ。
列車が到着し、そこからぞろぞろと乗客達が降りて来る。
新型コロナウィルスに関する緊急事態宣言が解除されて1ヶ月以上が経ち、そろそろ人々が旅行を開始するようになった。
その為か、降りて来た乗客数もそれなりに多い。
稲生:「やっぱりグリーン車に乗ってたか」
列車が本線の1番線に入線した時、グリーン車に両親の姿を見た。
列車は新宿駅を出た時点で、付属の編成を併結した12両編成だったはずだが、それは松本で切り離され、基本編成のみの9両編成であった。
それでも、普段は2両編成のワンマン列車が運転される線区なので、それは圧巻である。
稲生宗一郎:「よお、勇太。無事に着いたぞ」
稲生佳子:「お迎え、ありがとうね」
改札口の駅員にキップを渡して、稲生の両親がやってきた。
稲生勇太:「長旅お疲れ様」
マリア:「遠路遥々、ありがとうございます!」
宗一郎:「お出迎え、ありがとうございます」
佳子:「いつもの学校の制服みたいな服も似合うけど、その服も素敵ねぇ」
マリア:「ありがとうございます」
佳子:「学校の制服みたいな服は、そういう歳に見えるんだけど、その服だと大人っぽく見えるから不思議よね。外人さんだからかしら?」
マリア:「それは……どうでしょう?」
勇太:(魔道士だから、でいいんじゃないかなぁ……)
マリアが18歳で魔道士になった為。
ギリギリ高校の制服が着れる歳でもあったし、しかし大人っぽい服を着ても良い歳でもあった。
で、契約悪魔の匙加減で、肉体年齢の成長の速度が極端に遅められる為である。
勇太:「それより父さん、母さん、車を待たせあるから」
宗一郎:「お、そうか。それじゃ、行こうか」
佳子:「イリーナ先生もお待ちなのでしょう?それだったら、ここで油売るわけにはいかないわね」
マリア:「まずは昼食を御用意してありますので、どうぞ」
宗一郎:「そうかい。それは楽しみだな」
佳子:「何だか恐縮しちゃうわね」
駅の外に出た4人は、ロンドンタクシーみたいにな車に乗り込んだ。
両親が持って来た荷物は助手席部分の荷物置き場に積み、あとはボックスシート形式になったリアシートに向かい合わせに座る。
宗一郎:「おお。だいぶ前、ロンドンに出張に行った時を思い出すな」
佳子:「マリアさんはイギリス人だから?」
マリア:「そんなところです」
勇太:(イングランドの片田舎じゃ、あまりロンドンタクシーに乗る機会も無かっただろうに……)
むしろ本当にロンドン在住であり、死んだ父親がロンドン地下鉄の職員だったルーシーの方が機会に恵まれていただろう。
マリア:「それじゃ、出発します」
マリアが運転手に合図すると、運転手は無言で左手を挙げて応じる仕草をし、車を走らせた。
イギリスは日本と同じ、左側通行・右ハンドルなので、実はあまり違和感は無い。
宗一郎:「かなり山深い場所にあるんだってね?」
勇太:「そう。途中から、舗装されてない道を通るよ」
宗一郎:「そんなに!?冬とか大変だろう!?」
勇太:「まあね。だけど、先生の魔法の力で生活はできるよ」
マリア:「むしろ豪雪のおかげで、侵入者の心配も無いので、天然のセキュリティなのです」
宗一郎:‘「なるほどな」
佳子:「それよりマリアちゃん、日本語上手になったわねぇ……」
マリア:「ありがとうこざいます!」
そう、今のマリアは『自動通訳魔法具』を使用していない。
何とか日常会話なら、支障無くできるようになった。
難しい漢字の読み書きには、まだ難があるが……。
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