報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「善場からの作戦依頼」

2021-11-15 20:37:31 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日13:15.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 無事に帰所した私は、まずは昼食を取った。
 高橋が弁当を作ってくれたので、それを食べる。
 それからしばらくして午後になり、私は善場主任へ電話を掛けた。
 善場主任に、私の推理を話してみた。

 愛原:「伯父が開発した『枯れた苗を元に戻す薬』……つまり、死んだ植物……生物を生き返らせる薬……。それを日本アンブレラが欲しがったという事実……。盗まれた“トイレの花子さん”の遺骨……」
 善場:「つまり、愛原公一名誉教授が何か知っているかもしれないというわけですね?」
 愛原:「そうです。しかし、もしそうだとすると、伯父さんは……」
 善場:「ええ。白井に与する犯罪者ということになりますね」
 愛原:「で、ですが、これはあくまで私の推理で……」
 善場:「分かっていますよ。少なくとも、遺骨と名誉教授の薬だけではまだ足りません。しかし、ある物を加えれば、遺骨からでも生き返らせることは可能でしょう」
 愛原:「ある物?」
 善場:「特異菌です。ルーマニアの山奥で発生したバイオハザード事件、そこでは1人のBOWが亡くなりました。名前をイーサン・ウィンターズと言います。彼は死ぬ間際まで、自分を人間だと信じていました。いえ、周囲も、ごく限られた一部の者以外は彼を人間だと信じて疑わなかったようです。しかし、彼は明らかに人間ではなかったのです」
 愛原:「と、言いますと?」
 善場:「一度死んだ人間が、全く生前の状態のまま生き返る。その生き返った人間は、人間だと言えるでしょうか?」
 愛原:「えーと……」
 善場:「私でさえ、一度は化け物にされた者です。しかし、死んではいませんよ。生きたまま、ちゃんと人間に戻れました。しかし、ウィンターズ氏の場合は違います」
 愛原:「で、では……?」
 善場:「今は特異菌があるので、遺骨からでも蘇生が可能なのかもしれません。愛原所長、確かめに行ってはもらえませんか?これは私からの依頼です」
 愛原:「わ、分かりました!すぐに宮城に向かいます!」
 善場:「明日でいいですよ」
 愛原:「は!?」
 善場:「今日はリサの誕生日を祝う日でしょう?それをすっぽかしては、新たなバイオハザードを生むことになります。それは何としてでも阻止しなければ、なりません」
 愛原:「そ、それもそうですね」
 善場:「それと、恐らくAkibaエージェンシーに遺骨捜索の依頼をしたのは、遺族でしょう。国際テロ組織ヴェルトロが事実上の犯行声明を出したことで、地元の警察では手に負えないと判断しましたから」
 愛原:「そうなんですね」
 善場:「明日の朝一番で結構ですので、お願いします」
 愛原:「分かりました。リサも一緒でいいですか?」
 善場:「いいでしょう。その方が自然でしょうから」
 愛原:「分かりました」

 私は電話を切った。

 愛原:「高橋、明日朝一で伯父さんの所に行くぞ。公一伯父さんの所だ」
 高橋:「あの名誉教授っスか?あの人、そんなに悪い人だったんスかね?」
 愛原:「俺も信じたくない。だが、何らかの事情があるのかもしれない。それを調べに行きたいんだ」
 高橋:「お供します!」
 愛原:「リサも一緒に行くが、いいな?」
 高橋:「先生の御意向でしたら……」
 愛原:「善場主任にも、そうしろと言われたんだ。そこを自分に言い聞かせて納得してくれ」
 高橋:「御命令とあらば……」
 愛原:「とにかく、今日は予定通り、家でリサの誕生日パーティーだ。分かったな」
 高橋:「うス」

 私はパソコンのマウスを動かし、キーボードを叩いた。

 愛原:「明日の新幹線の予約だ。それと、レンタカーだな。また、運転は頼むぞ」
 高橋:「あ、はい。それは任せてください」

 私はJR東日本のサイトにアクセスして、明日の新幹線を予約しようとした。
 と、また事務所の電話が鳴る。

 高橋:「ハイ、愛原学探偵事務所っス」
 善場:「あ、善場です。愛原所長はもう新幹線を予約しましたか?」
 高橋:「今やってるところだが?」
 善場:「こちらから新幹線は手配するので、それは中止してもらってください」
 高橋:「わ、分かった!先生!」

 高橋はすぐに私にその旨伝えて来た。
 今ちょうど空席照会をしているところであり、まだ予約はしていなかった。

 愛原:「もしもし、お電話代わりました。何か事情が変わったんですか?」
 善場:「そうです。作戦上、やはり今日中に宮城入りして頂きます。要は前泊ですね」
 愛原:「前泊!」
 善場:「新幹線のキップと、宿泊先のホテルの宿泊券はこちらでお送りします」
 愛原:「レンタカーはどうしましょう?私の推理が正しければ、伯父の送り迎えには期待していけないでしょうし、タクシーを使うのも……」
 善場:「それは所長の判断にお任せします。レンタカーの手配もお任せします。その費用については、後でこちらに請求して頂ければ、お支払いさせて頂きますので」
 愛原:「リサには何と言えば……」
 善場:「パーティーはできますよ。要は、その後で出発して頂ければ良いので」
 愛原:「あ、そうなんですか」
 善場:「つまり、夜の新幹線で出発して頂くということですね。バイク便でそちらに届けますので、しばらくお待ちください」
 愛原:「わ、分かりました。つまり、デイライトさんでは、それくらいのことをする確信を得たのですね?」
 善場:「内容については、今はお話しできませんが、つまりはそういうことです」
 愛原:「分かりました。その御依頼、お引き受けしましょう」
 善場:「御理解が早く、助かります。リサの方も説得をお願いします。場合によっては、リサの力に頼ることも想定できますので」
 愛原:「分かりました」

 伯父さん、何をやったんだよ。
 ていうか、遺骨泥棒なんて……。
 16時頃、バイク便が届いた。
 その中には、夜の新幹線のキップと、仙台駅近くのホテルの宿泊券が入っていた。
 どうやら、ガチのようだ。
 もしも単なる調査であれば、当初の予定で良かっただろう。
 しかし、ガチの作戦となると話は別になる。
 私はスマホを取り出し、リサに大事な話があるから早めに帰るように伝えた。
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“私立探偵 愛原学” 「新しい推理」

2021-11-15 10:53:54 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月1日10:45.天候:晴 東京都新宿区西新宿 エステック情報ビルB1F]

 よーし、リサへのプレゼント、ゲット!
 あとは帰るだけだな。
 私がビルの1階へ上がろうとした時だった。

 男:「あのー、すいません」
 愛原:「はい?」

 私よりも小柄な中年の男が話し掛けて来た。
 しかし、年齢は私よりも上だろう。
 50歳くらいか。

 男:「探偵の愛原学さんですよね?」
 愛原:「はい、そうですが。どちら様で……」
 男:「私、同業の者です」

 男は名刺を差し出した。
 そこには、『世界探偵協会日本支部東京地区本部所属 Akibaエージェンシー 秋葉悟』と、書かれていた。

 愛原:「同業の秋葉さんと仰いますか。それで、その同業者の方がどのような御用件で?」
 秋葉:「ちょっと、お話よろしいですか?」
 愛原:「は、はあ……」

 私達は同じビルのカフェに入った。
 まだ昼前ということもあり、店内は空いている。

 秋葉:「実は私、とあるクライアントに頼まれて、遺骨の捜索に当たっているのです」
 愛原:「その遺骨って、もしかして、50年くらい前に無くなった女子高生の物では?」
 秋葉:「やはり御存知ですか。さすが、尾行した甲斐がありました」
 愛原:「尾行なんてしなくても、直接うちの事務所に来て下されば、情報の共有くらいはしますよ?」

 “トイレの花子さん”こと、斉藤早苗さんの遺骨そのものについては、私の業務とは直接関係無い。
 白井伝三郎が盗んだとされているが、まだ決定的な証拠が無いからだ。
 それに、直接その遺骨捜索のことは全く依頼されていない。

 秋葉:「いやいや!私もさすがに、そんな危険は冒しませんよ!」

 秋葉氏は帽子を被っていたが、さすがに店内ではそれを取っている。
 盗ると、さすがに私よりも頭頂部は薄めであった。
 私も10年後はこうなるのだろうか。
 それにしても、恰好が昔の探偵だな。
 さすがに、松田優作ほどではないが……。

 愛原:「危険?」
 秋葉:「今、『最もテロ組織に近い探偵』として有名ですよ?愛原さんは」
 愛原:「私が……。あー……まあ、ねぇ……」
 秋葉:「少しだけでもあなたのことを尾行させてもらって、今あなたを狙うテロリストがいないかどうかを確認したのです」
 愛原:「で、いないと判断された?」
 秋葉:「そうですね。現時点で、あなたのことを尾行している人間はいないようです」
 愛原:「それは良かったです。で、私に何を聞きたいんですか?業務内容の物については、お話できないが……」
 秋葉:「それはお互いさまでしょう。私が聞きたいのは、そこではありません。愛原さんの身内の中に、科学者はいらっしゃいませんか?ジャンルは問いません」
 愛原:「私の身内?まあ、1人農学者がいますが……」
 秋葉:「農学者ですか。その方、主にどんなことを研究されてますか?」
 愛原:「詳しくは知らないですよ。まあ、本人は『グスコーブドリの再来』なんて自称してますけど……」
 秋葉:「グスコーブドリ?あの、宮沢賢治の?」
 愛原:「そうです。宮沢賢治作“グスコーブドリの伝記”の主人公です。もっとも、キャラクター的にはクーボー大博士の方ですがね」
 秋葉:「いずれにせよ、凄い方が身内にいらっしゃるんですね」
 愛原:「それが何か関係あるんですか?」
 秋葉:「その農学者の方は愛原公一博士ですね?」
 愛原:「分かりますか?」
 秋葉:「少なくとも、ネットを検索すれば出てきます。今は東北の大学の農学部名誉教授ですね」
 愛原:「そうです」
 秋葉:「ネットの情報によれば、農薬や化学肥料の研究・開発も行っていたということですが?」
 愛原:「そのようですね。製薬会社から、そのライセンス契約の話が来たこともあるくらいです」

 もっとも、それが日本アンブレラだったのだから皮肉なもんだ。

 秋葉:「なるほど。分かりました」
 愛原:「今のでいいんですか?」
 秋葉:「ええ、結構ですよ。ありがとうございます。御礼に、ここの代金は私が持ちましょう」

 秋葉氏は伝票を手に取った。


[同日11:43.天候:晴 同地区内 都営地下鉄新宿駅・新宿線ホーム→新宿線1120T電車最後尾車両]

〔「今度の電車は11時43分発、各駅停車の本八幡行きです」〕

 菊川駅には止まらない急行電車を見送り、その次の各駅停車を待った。
 新宿始発ということもあり、無人の状態で入線してくる。
 先発の急行は京王電車だったが、こちらの各駅停車は都営の車両だ。

〔この電車は、各駅停車、本八幡行きです〕
〔This is a local train bound for Motayawata.〕

 私は再び硬い座席に腰かけた。
 秋葉氏とは、新宿駅で別れた。
 急ぎ足でJRの方に向かって行った。
 こりゃもしかしたら、公一伯父さんの所に行くかもしれないな。
 しかし、“花子さん”の遺骨捜しで、どうして公一伯父さんが出てくるのだろう。

 愛原:「……!?」

 私は、ある仮説が浮かんだ。
 い、いや、まさかな。
 だが、秋葉氏の言動がどうも怪しいというか……。

〔「この電車は11時43分発、都営地下鉄新宿線、各駅停車の本八幡行きです。終点、本八幡まで、急行電車の通過待ちはありません。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 地下ホームに発車ベルが鳴り響く。
 同時に車外スピーカーからも、メロディが鳴った。
 私はスマホを取り出した。
 まずは、高橋にLINEを送る。
 そうしているうちに、電車が走り出した。

〔都営新宿線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。お出口は、右側です。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。一部、電車とホームの間が広く空いておりますから、ご注意ください〕

 高橋には遅くなった理由を話した。
 だが、この電車なら昼頃には菊川に到着できるだろう。
 高橋は特に何か言ってくるわけでもなく、ただ単に、『お疲れ様です。お気をつけて』と、返して来ただけだった。
 あとは、善場主任だ。
 主任はLINEではなく、メールである。
 主任には、まず他の探偵に遺骨の捜索を依頼したかどうかの確認をした。
 そしたら、そんなことはしていないという。
 私はそれを確認した上で、先ほどの秋葉氏とのやり取りを報告した。
 それに対し、主任は、『そのことについて、愛原所長の推理をお伺いしたいので、午後にでも電話ください』とのことだった。
 複雑だ。
 いや、話はそんなに複雑ではない。
 私の心中がだ。
 もしも私の推理が正しければ、公一伯父さんが悪者になってしまうからだ。
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