報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“愛原リサの日常” 「動き出す敵陣」

2021-11-08 20:04:17 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月20日00:59.天候:晴 東京都江東区森下 都営地下鉄森下駅]

 仮面子:「ふふふ……ふはははははっ!」

 手前の両国駅を発車した直後に行動に出た、白い仮面の少女。
 最後尾の車両なので乗務員室はあるのだが、都営大江戸線はワンマン運転が行われている為、そこに車掌はいない。
 愛原を含む数人の乗客達は、座席に座ったままで全員意識を失っており、本当に終電ならではの光景となっていた。
 だから、森下駅に到着した時、ホームの駅員や乗客がこの様子を見ていたが、誰も不審に思わなかったという。

〔森下、森下〕

 電車が森下駅に到着する。
 本来、愛原はここで降りるはずだった。
 森下駅から菊川駅までは1駅だけなので、歩いて帰るつもりだったのだが……。

 愛原:「…………」

 仮面の少女に何かされたことで意識を失い、降りることはできなくなっていた。

 仮面子:「♪」

 仮面の少女は白い仮面を外すと、それを通学鞄の中にしまい、悠然と電車を降りた。
 仮面の下は、ごくごく普通の在り来たりな顔立ちの少女であった。
 本当にどこにでもいるという感じ。
 美少女と言えなくもないが、仮にアイドルユニットのチーム入りをしたところで、有名どころに埋もれてしまい、コアなファンにしか顔と名前を憶えてもらえない。
 そんな感じである。

〔「最終の清澄白河行き、発車致します」〕

 最終電車は何も知らずに発車していった。
 その電車が巻き起こした風で、少女の制服のスカートがひらりと靡くが、特に少女は気にすることもなく、改札階への階段を昇る。
 本当にその振る舞いは、塾か部活帰りの女子中高生といった感じだった。
 何食わぬ顔して駅の外に出る。
 殆ど人通りや車通りの少なくなった大通りから、路地裏に入った。

 仮面子:「……!」

 向こうから殺気立った者が近づいて来た。
 その者は剣道着を着て、袴を穿いている。
 歩く度にカチャカチャという金属音がした。

 栗原蓮華:「見つけたぞ。人食い鬼!」

 本物の鬼もびっくりの鋭い眼光で、蓮華は真剣を抜いた。

 仮面子:「な、何のことですか?私はただの塾帰りですけど……。け、警察呼びますよ?」
 蓮華:「ああ、勝手にしな。呼べるものならね」

 蓮華は大きく踏み込んだ。
 踏み込む時は、義足ではない方の右足を使って踏み込む。

 仮面子:「くっ!」

 仮面の少女は人間とは思えないほどの跳躍力で、近くに路駐していたワンボックスの上に飛び乗った。

 蓮華:「普通の人間なら、そんな跳び方はできない。オマエは鬼だ!」
 仮面子:「ちっ……!」

 仮面の少女の姿が変化していく。

 仮面子:「ならばオマエを食うまでだ!!」
 蓮華:「やってみろ!首を刎ねてやる!」

 仮面の少女は右手を変化させて、触手とした。

 仮面子:「オマエもゾンビにしてやろうか!」
 蓮華:「あいにくと抗体は持ってるよ!」
 仮面子:「なにっ?」

 蓮華は仮面の少女の触手を切り落とした。
 だが、その触手はまたすぐに生えてくる。

 蓮華:「ああ、やはりブランクがある。オマエは弱い」
 仮面子:「なに!?」

 次の瞬間、蓮華は仮面の少女の首を刎ね飛ばした。

 蓮華:「オマエ、番号いくつだ?」
 仮面子:「…………」

 蓮華は仮面の少女が着ていたブラウスを引き裂いた。
 白い下着を更に退かして、左腋の下を見る。

 蓮華:「453!?やはり亜種か。通りで弱いと思った」

 蓮華は手持ちのスマホでどこかに連絡した。

 蓮華:「……うん、私。鬼退治、終わった。だけど、違うね。対象の鬼じゃない。弱過ぎる。でも多分、私と会う前にどこかで悪さした感じだから、探してもらえる?……うん。それじゃ」

 蓮華は電話を切った。

 蓮華:「ここは……愛原先生の家の近くか……」

[同日01:00.天候:晴 同区白河 地下鉄清澄白河駅・都営大江戸線ホーム]

〔「ご乗車ありがとうございました。清澄白河、清澄白河、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。2番線、3番線に到着の電車は回送です。ご乗車になれませんので、ご注意ください」〕

 真ん中の副線ホームに最終電車が到着する。
 ドアが開くと、乗客達が降りて来るが、中には寝込んでしまって降りて来ない客もいる。

 駅員:「お客さん、終点ですよ」
 乗客A:「ん?ああ……」

 駅員達が電車内に入って、そういった乗客達を起こして回る。
 そして、最後尾の車両まで来た時、他の車両よりも多くの乗客達が寝込んでいるのを確認した。

 駅員:「お客さん、終点ですよ」
 乗客B:「…………」
 駅員:「お客さん、終点ですよ」
 乗客C:「ウゥ……」
 駅員:「しょうがないなぁ、酔っ払っちゃって……!」

 駅員が応援を呼ぼうと、電車から降りようとした時である。

 乗客C:「ゥアアアアッ!!」
 駅員:「わあっ!?ななな、何するんですか!?」
 乗客D:「ウゥウ……!」
 乗客E:「アァア……!」

 駅員はゾンビ化した乗客達に、体中を食い千切られることとなった。

 運転士:「た、大変だ!警察を呼んでくれ!!」

 最終電車を運転していて、一緒に車内を確認していた運転士は間一髪逃げることに成功し、駅員室に飛び込んで助けを求めた。
 そして、前回終盤の愛原の回想に至る。

[同日02:30.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 室内に置かれた固定電話の着信音がけたたましく鳴る。
 家庭用のファックスと一体になったタイプである。
 場合によっては自宅で依頼書を受け取ったり、自宅からクライアントへファックスする機会もあるということで、愛原のマンションではファックスと一体となった電話機を置いていた。

 高橋:「ったく、何だよ……」

 高橋が渋々起きて、電話の受話器を取る。

 高橋:「もしもし、誰?……あ、病院?……え?……え?……ええーっ!?せ、先生が事件に?!」
 リサ:「!?」

 リサは自分の部屋のドアから、高橋が電話に出る様子を伺っていたが、高橋の驚きぶりから、何か大変なことが起きたことが判明した。

 リサ:「な、なに?何があったの……!?」
 高橋:「くそっ!」

 高橋は電話を切った。

 リサ:「兄ちゃん、先生に何があったの?!」
 高橋:「事件に巻き込まれたらしい!それも、バイオハザード事件だ!」
 リサ:「ええっ!?」
 高橋:「救急車で病院に運ばれたらしいぜ!俺達も行くぞ!支度しろ!」
 リサ:「う、うん!」

 リサは急いで部屋に戻ると、私服に着替え始めた。
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“私立探偵 愛原学” 「森脇警備員との別れ」

2021-11-08 15:43:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月20日00:51.天候:晴 東京都台東区上野 都営地下鉄上野御徒町駅→大江戸線2432B電車最後尾車内]

 結局、酒豪の森脇さんに2次会、3次会と連れ回され、最後には緊急事態宣言などガン無視の酒提供の店に連れて行かれた。

 森脇:「愛原君と一緒だと楽しいねぇ!もう一杯行こうか!」

 なんて……。

 愛原:「でも森脇さん、すいませんけど、そろそろ終電が……」
 森脇:「なに?もうそんな時間か?残念だなぁ……」

 終電の時間になると解放してくれた。

 森脇:「駅まで送って行くよ」
 愛原:「はあ、すいません……」

 私はヨタつく足元に注意しながら、席を立った。

 森脇:「早く店でガンガン飲めるようになるといいねぇ……」

 いや、もう既にガンガン飲んでるじゃないですかぁ……。

 店長:「ありがとやんした!」
 森脇:「ごちそうさんねー」

 酒代は全部森脇さんが払ってくれたが。
 尚、店の暖簾は既に店内に取り込まれており、入口の所には『貸切営業中』という札が掲げられていた。
 通常の営業は20時までの時短営業だが、それ以降は貸切営業なら良いらしい。
 だけど、他にも森脇さんと似たような常連客がいたことから、本当にただ誤魔化す為の『なんちゃって貸切営業』なのだろう。
 森脇さんのような人が常連だから、居酒屋も潰れずに済んでいるのだろうが……。

 森脇:「さてさて。上野御徒町駅はあっちだ。俺について来い」
 愛原:「はあ……」

 森脇さんは、確かに飲んで顔が赤くなっていたものの、意識レベルは通常値である。
 また、私のように足元がフラつくこともなく、しっかりとした足取りである。

 愛原:「それにしても、斉藤さんは残念でしたなぁ……」
 森脇:「本当だよ。何で死んじゃったんだよォ……」

 酒を飲んだことが、却って脳が活性化されたのか、森脇さんは思い出してくれた。
 “トイレの花子さん”の生前の本名を。
 生前の本名は斉藤早苗という。
 斉藤というと、斉藤社長を思い出してしまうが、まあ、斉藤という名字は何も珍しくはないから、たまたま偶然だろう。
 それでも記憶違いの恐れもある為、一応、卒業アルバムは確認してくれるという。

 森脇:「それじゃあ、気を付けて帰れよ」
 愛原:「はい。色々とありがとうございました」
 森脇:「また、いつでも戻ってきていいからな?」
 愛原:「え……?」
 森脇:「うちの会社、人手不足なんだよ。コロナ禍なのに」
 愛原:「ははは……。まあ、探偵がダメになったらよろしくお願いします」

 私はそう答えると、駅への階段を下りた。

〔「大江戸線ご利用のお客様にお知らせ致します。大江戸線、まもなく清澄白河行きの最終電車が到着致します。ご利用のお客様は、お急ぎください。尚、都庁前、光が丘行きにつきましては、本日の運転を終了致しております」〕

 こんな放送が構内に鳴り響く。
 私は急ぎ足で、改札口にSuicaをタッチした。
 駅員達が改札口で、終電利用希望の客達を集めている。

〔まもなく2番線に、両国方面、清澄白河行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
〔「2番線、ご注意ください。本日最終の清澄白河行きの到着です」〕

 まばゆいヘッドライトの灯りを照らしながら、リニアモーター式の電車がやってきた。
 普通、平日の終電というと混んでいるイメージがあるが、この電車は空いていた。
 恐らく、緊急事態宣言の影響だろう。
 鉄道会社によっては、終電時間を繰り上げたところがあると聞く。
 こんなガラガラでは、それも致し方無いだろう。

〔上野御徒町、上野御徒町。……〕
〔「ご乗車ありがとうございました。上野御徒町、上野御徒町です。2番線の電車は、清澄白河行きの最終電車です。お乗り遅れの無いよう、ご注意ください」〕

 私は最後尾に乗り込み、ファインレッドの座席に腰かけた。
 長時間利用は考慮されていないのが、座面は硬い。

〔「2番線から、清澄白河行きの最終電車が発車致します」〕

 発車メロディが鳴った後で、ホーム立ち番の駅員が改札口の駅員と無線でやり取りしながら、終電の乗客を乗せて行く。
 そんなことをすれば発車が遅れるに決まっているが、もう次の電車が無い為、鉄道会社側も、遅延させた現場職員達を咎めることはまず無い。
 そもそも、『客扱い遅れ』に関しては、乗務員側に責任は無いとされている。
 そして、車両のドアとホームドアが閉まった。

 愛原:(もうこんな時間か。高橋にLINEしといて良かった……)

 さすがにもう寝てると思い、終電に乗ったまでは連絡しなくていいだろうと思った。

〔次は新御徒町、新御徒町です。お出口は、右側です〕
〔The next staion is Shin-Okachimachi.E10.〕

 本来なら、つくばエクスプレスの乗り換え駅であるが、そちらはもう終電が終わっている為、乗換案内放送は流れない。
 私は森脇さんから聞き出した情報をメモに書いており、それを鞄にしまった。
 電車内はガラガラで、私以外には数えるほどしか乗っていない。
 コロナ禍前は、もっと混んでいるはずなのに、随分と寂しくなったものだ。

 愛原:「ん?」

 すると、私のスマホが震えた。
 LINE着信の震え方だ。
 私がスマホを見ると、リサからだった。

 リサ:「まだ帰ってこないの?」

 というもの。
 なので私は、『さっき大江戸線の終電に乗った。もうすぐ帰る』というLINEを送っておいた。
 これで良し。

 愛原:「ん?」

 すると、隣の車両から誰かがやってきた。
 制服姿の女子中高生であった。
 こんな時間に何故と思ったが、塾か何かからの帰りだろうか。
 私の向かいに座った。
 そして、スカートのポケットからスマホを取り出して弄り出す。
 特に、問題無しか……。

[同日01:30.天候:晴 東京都江東区白河 地下鉄清澄白河駅]

 え……?何があった……?
 か、体が……動かない……。
 えーと……確か……あれだ……。
 えー……両国駅を出たら……向かい側に座っていた女子中高生が鞄の中から、白い仮面を取り出して、それを着けて……私が立ち上がろうとしたら、体の力が抜けて、倒れたんだっけ……。

 救急隊員A:「1名は呼吸あり!脈拍あり!意識は無し!」

 私はどうやらストレッチャーに乗せられているようだ。
 まるで、夢の世界にいるかのような感覚だ。
 周りは騒々しいはずなのに、それがまるで夢の中が騒がしいかのような感覚……。

 救急隊員B:「いや、意識混濁だ!大丈夫ですか!?分かりますか!?」

 駅の外に出たのだろう。
 しかし、そこも騒然としていたのは分かった。
 うつろな目に飛び込んで来る、いくつもの赤色灯。
 救急車に乗せられた時、私は目が半開きになっているのを救急隊員に見つかった。

 愛原:「…………」

 だが、何も答えられない。
 一体、何が……あったんだ……?
 私は救急隊員の呼び掛けに応えることはできず、再び意識を失った。
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