報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「別館捜索」

2017-02-25 21:24:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日17:45.天候:曇 北海道日高地方某所 廃ペンション・別館]

 エミリーと萌は廃ペンション内を捜索している。
 2階に上がる階段を見つけたエミリーは、その階段を上がってみることにした。
 ギシギシとエミリーの重さにギリギリ耐えているような音が響く。
 これではすぐ近くにテロリストがいようものなら、すぐに気づかれてしまうだろう。
 もっとも、エミリーの体はマシンガンを食らっても平気なのだが。

 エミリー:「何だこれ?」

 階段を上がって2階に着くと、何かのスイッチが目に付いた。
 『Stairs』と書かれていた。
 英語で階段のことである。
 今登ってきた階段の照明か何かのスイッチだろうか?
 スイッチというより、赤いボタンだ。
 エミリーはそのボタンを押してみたが、何も起こらない。

 萌:「エミリー、多分通電してないよ、これ」
 エミリー:「なにっ?」

 萌は赤いボタンの上にあるランプを指さした。

 萌:「これが点いてないってことは、通電してないってことなんじゃないかなぁ……」
 エミリー:「どこかに電源があるのかもしれないな」

 しかし、館内は停電しているわけではないようだ。
 2階には机があって、そこに置かれているスタンドは点灯している。
 机の上には写真が置かれていた。
 それは何かのヘリコプターの写真。
 何故だか白黒の写真であった。

 エミリー:「デイライトコーポレーション!」

 そのヘリコプターの機体には、デイライトコーポレーションのロゴマークが入っていた。
 具体的には略称であるDCのアルファベットを半分ずつ重ね合わせ、その上からスパナとトライバーを交差させたものである。
 何故かそのヘリが下から撮影されていた。
 その写真をひっくり返してみると、白地の部分に英語で何かが書いてあった。
 それを和訳すると、こうなる。

『いつものヘリ。監視されてる?』

 敷島:「DCJさんがここを監視していた?」
 星:「DCJさんというのは、誘拐されていた人達の会社ですね?」
 敷島:「そうです。てことは、今回の事件はDCJさんを狙ったものだということになりますかね」
 矢ヶ崎:「しかし、我々より先にテロリストのアジトを一民間企業がヘリで監視してるなんて……」
 敷島:「そうですねぇ……。(DCJさん……いや、大元のDCI自体が怪しげな会社だからな。『ロボット企業版アンブレラ』とはよく言ったものだ)」

 エミリーは2階の探索を終え、再び1階に下りた。
 そして廊下の奥に進む。
 途中のチェストの上に置かれたスタンドは、やはり点灯している。
 停電しているわけではないというのは明らかだ。
 廃屋なのに通電しているということは、これ如何に?
 廊下の突き当りに行くと、ドアがあった。
 そして、その右側にもドアがある。

 エミリー:「んっ!」

 エミリーはまず突き当りのドアをスキャンした。
 ドアは木製で、これならその向こう側をスキャンすることができる。
 もし向こうにテロリストが待ち伏せしていたとしても、予め確認することができるというわけだ。
 そのような反応は無かった。
 それを確認したエミリーは、突き当りのドアを開けようとしたが、鍵が掛かっていた。

 萌:「閉まってるけど、これならエミリーは簡単にこじ開けできるね」
 エミリー:「だが、大きな音が出る。今はテロリストに見つからないようにしろという御命令だ。こっちのドアにしよう」

 エミリーは向かって右側のドアをスキャンした。
 ここも人の気配は無かった。
 そして、ドアを開けようとした時だった。

 エミリー:「!?」

 そのドアの向こうから、何か大きな音がした。
 何か……大きなモノが倒れるような音。
 それは端末で監視している敷島達にも聞こえたくらいだ。

 敷島:「注意しろ。人間はいないかもしれないが、テロ・ロボットが配置されている恐れがある」
 エミリー:「金属反応はありませんでしたが……了解です」

 エミリーは右手をレーザーガンに変形させてドアノブを回した。
 こちらは鍵は掛かっていなかった。
 慎重にドアを開けて、エミリー達は部屋の中に入った。
 どうやら、ここは応接室か何かだったらしい。

 萌:「暖炉があるよ?」
 エミリー:「昔は使用されていたのだろう」

 そして壁際には、アップライトピアノがあった。

 敷島:「エミリー。こういう探索モノだと、暖炉の奥に何か仕掛けられていることがある。暖炉の奥を調べてみてくれ」
 エミリー:「了解です」

 エミリーはしゃがんで、暖炉の中を覗いてみた。
 暖炉の奥はレンガが積み上げられている。
 エミリーは軽く叩いてみたが、それが崩れて隠し部屋が現れるなんてことはなかった。

 星:「敷島さん?」
 敷島:「ゲームの通りには行かないか……」

 と、敷島は萌の視点で何かを見つけた。
 すぐに萌の視点に切り替える。

 敷島:「萌、今お前の右前方に映ってるものは何だ?」
 萌:「これですか?」

 萌が見ているのは分電盤らしきもの。

 敷島:「ちょっと開けてみてくれ」
 エミリー:「はい」

 エミリーが代わりに開けた。
 するとそこは、ヒューズボックスになっていた。
 で、一本だけ抜けているものがあった。

 エミリー:「Stairsとあります」
 敷島:「なるほど。さっきの階段のスイッチが作動しなかったのは、そのヒューズが抜けているからだな。他のヒューズはちゃんとあって、それで通電してるんだ。そこのヒューズだけどうして無いんだろう?」
 エミリー:「探してみます」
 敷島:「ああ。あと、できれば鍵だな。どうやらこの建物には、テロリストはいないみたいだ。いや、まあ、鍵の掛かっている部屋の向こうにはいるのかもしれないけど……」

 エミリーは壁に掛かっている絵を見た。
 30代くらいの白人の夫婦に挟まれた、3〜4歳くらいの幼女の写真があった。
 ここに住んでいた住民の写真だろうか?
 それとも、ここがペンションとして機能していた頃に撮られた外国人観光客の写真とか?

 エミリー:「ドクター・ウィリー……!」

 その近くには若かりし頃のウィリアム・フォレスト博士の写真もあった。

 敷島:「マジか!やっぱりここはただのペンション、酪農家の家じゃないな」

 エミリーはウィリーの写真を外した。
 するとその裏に、何かメモが挟まっていた。
 英文だが、それを和訳するとこうなる。

『月の光を奏でる時、新たな道は開けん』

 萌:「うわあ、謎解きだぁ……」
 敷島:「……エミリー。お前、“月光”は弾けるか?ベートーヴェン作曲のピアノソナタだ」
 エミリー:「はい、弾けます」
 敷島:「よし。そこのピアノで“月光”を弾いてみろ」
 エミリー:「分かりました」

 エミリーの特技の1つはピアノを弾けることである。
 南里研究所にいた時から記念館暮らしをしていた頃まで、17時になるとピアノをよく弾いていた。

 エミリーは古めかしいピアノの前に座り、鍵盤に手を置いた。
 そして、“月光”を弾き始める。
 古くて埃被ったピアノなのに、調律はズレておらず、ちゃんとした戦慄を奏でる。

 萌:「あっ!」

 エミリーがピアノを弾いて1分ほどしたところで、萌が声を上げた。
 ウィリーの写真が掛かっていた場所の壁が、向こう側に半開きになった。
 やはり隠し扉があったのだ。
 エミリーは弾くのを止めて、隠し扉の奥へと向かった。
 そこは3帖程度の小部屋になっていたが、地下に下りる梯子があったのを見つけた。
 だが、どうもエミリーの重さに耐えられるかどうか分からない。

 エミリー:「萌、お前行け」
 萌:「ええっ!?」
 エミリー:「私じゃこの梯子は古過ぎて、耐えられるかどうか分からない。だから……先に行け。この下がどうなってるか見てきてほしい」
 萌:「う、うん」

 萌はゆっくりと梯子の下に降りて行った。
 こんな時、妖精型ロイドは役に立つ。
 敷島も視点をエミリーから萌に切り替えた。
 どうやら、地下室になっているのは間違い無いようだ。

 敷島:「ん?」

 地下室には更に奥に続く通路があるようだった。
 だが、その入口の脇に背中を向けて佇む人影があった。
 人間の男性のようだった。
 テロリストだろうか?
 萌がその様子を見る為、男の前に回り込もうとした時だった。
 男が急に倒れて来た。

 萌:「わああああああああっ!!」
 敷島:「!!!」

 その男は死んでいた。
 顔中血だらけなので、鈍器のようなもので殴られたりしたのか。
 萌は倒れて来た男の死体の下敷きになり、身動きが取れなくなった。

 敷島:「エミリー!お前は……」

 ①萌を助けに行け!
 ➁萌を置いて戻ってこい!
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“Gynoid Multitype Cindy” 「潜入」

2017-02-24 20:56:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日16:45.天候:曇 北海道日高地方 廃ペンション]

 エミリーと萌は、ペンションの敷地に近づいた。
 ペンション自体は廃業してから1年ほどしか経っていないものの、元々老朽化していた建物だった為、廃業してからの荒れ方は激しいものだった。
 敷地に入る為に近づいた洋風の鉄の門は、固く閉ざされていた。

 エミリー:「施錠されている」

 観音開きの門は内側から閂がされ、更にチェーンが巻かれて南京錠で固定されていた。
 エミリーの力でもってすれば、こじ開けることなど造作も無い。
 だが……。

 敷島:「エミリー、他の入口を探せ。星警部補が、『今大きな音を立てて、中の犯人達に気づかれるのはマズい』とのことだ」

 RV車の覆面パトカーに乗った敷島が、端末越しにエミリーに指示を出した。

 エミリー:「かしこまりました」

 エミリーは敷地を回り込むように走った。
 建物が老朽化しているならば、敷地を囲う門も老朽化している。
 どこからか侵入できるはずだ。
 除雪は全くされておらず、エミリーはズボズボと雪深い所を進む。
 だが逆にうず高く積もった雪が、上手い具合にエミリーや萌の姿を建物から見えなくなるようにしてくれている。

 エミリー:「!?」

 その時、一瞬だけだが人影が見えた。
 黄色っぽいジャンパーを羽織った初老の男が、スッと先の道を進んだのだった。
 一瞬だけだった為、エミリーがスキャンするヒマも無かった。

 萌:「今、人がいたよね?」
 エミリー:「うむ」
 敷島:「エミリー、今さっき人が通らなかったか?」
 エミリー:「はい。私も見ました」
 敷島:「テロリストのメンバーかもしれない。見つからないようにしろ」
 エミリー:「かしこまりました」

 覆面パトカーの中では敷島と地元の警察署に所属する私服刑事の星警部補と矢ヶ崎巡査部長が、エミリーや萌の目から送信されてくる画像を見つめている。

 敷島:「警部補、もし良かったら、このペンションに関するデータをこちらに送ってもらうように依頼できますか?」
 星:「データですって?」
 敷島:「ええ。内部構造とか、それが分かるだけでも捜索はしやすいかと」
 矢ヶ崎:「それはいいアイディアですね。本署に問い合わせてみましょう」

 矢ヶ崎は自分のケータイを出すと、それで連絡した。
 そうしている間に、エミリー達はペンションの敷地内に入れたようだ。

 敷島:「これがペンション?」

 敷島は首を傾げた。
 確かに老朽化してはいるものの、洋風建築な所はペンションだろう。
 だが、何と言うか……欧米などにある酪農家の建物に見えなくもない。
 いや、確かにこの地方は、特に競走馬を育てる牧場があることで有名だ。
 ペンションは言わば、洋風の民宿のようなもの。
 農家がその片手間にペンションを経営することは、何ら不思議ではない。
 そのはずなのだが、何故か敷島は違和感を禁じ得なかった。
 その理由は分からない。
 酪農家がその片手間で洋風の民宿を経営していた。
 しかし老齢化と利用客の減少、そして建物や施設の老朽化で廃業した。
 よくある話だ。
 たまたまそこをアリス達を誘拐した犯人一味が目をつけ、アジトとして利用している。
 恐らくそういうことだと思う。

 星:「どうかしましたか?」
 敷島:「あれ、何ですかね?」
 星:「馬小屋か牛小屋だと思いますよ。元々、酪農家だったんでしょうね。多分、この建物はペンションではなく、馬小屋や牛小屋でしょう」

 もちろん廃業している為、馬や牛の姿は無い。
 そして、その小屋への入口のドアは開いていた。

 エミリー:「敷島社長!」
 敷島:「何だ?」
 エミリー:「ここはシンディが捕らわれていた建物と一致します」
 敷島:「何だって!?」

 エミリーは開いている小屋の入口を背にしてみた。

 エミリー:「ここです!ここでシンディは襲われたんです!」

 エミリーはシンディが最後に送信した画像を出した。

 星:「さっきの黄色いジャンパーの男と似てますね!」

 シンディの肩を掴んで振り向かせ、高圧電流でもってシャットダウンさせた初老の男と、先ほど一瞬だけ通り過ぎた黄色いジャンパーの男がよく似ていた。

 敷島:「高い確率で、ここにシンディが捕まっている可能性がありますね。そして、アリスも……」
 エミリー:「潜入します」
 敷島:「頼むぞ。くれぐれも慎重にな」
 エミリー:「はい」
 敷島:「もしテロリスト達が襲って来たら、遠慮なく応戦しろ。但し、すぐには殺さず、シンディやアリスの居場所を締め上げて吐かせるんだ」
 エミリー:「了解です」

 エミリーと萌は小屋の中に入った。
 するとまるでエミリー達の進入を待っていたかのように開いていたドアは、また自動で閉まった。
 中は暗い為、ロイド達は暗視機能を作動させた。
 これで暗闇でも、中の様子が分かる。
 あえてライトは点灯しなかった。
 それでテロリスト達に居場所がバレる恐れがあったからである。
 廊下を進んで突き当りを右に入ると、朽ちたキッチンがあった。
 単なる馬小屋か牛小屋ではなく、ここが農場経営者達の住まいだったのだろうか。

 敷島:「普通に廃業した割には、随分と散らかってますね」
 星:「これではまるで、事件に巻き込まれて行方不明になった家族……って感じですね」
 矢ヶ崎:「もしかして、しばらくの間、犯人達はここで生活していたのかもしれませんね」
 星:「うむ……」

 エミリーはテーブルの上に乗っている鍋の蓋を開けた。
 すると中には腐った料理が入っており、死んだゴキブリやハエが大量に紛れ込んでいた。
 多分、冬の寒さで死んだのだろうが、もしこれが冬以外の季節だったとしたら、開けた瞬間……【お察しください】。

 敷島:「犯人達は本当にここで生活していたんですかね?料理が腐り過ぎてますよ」
 星:「そうですねぇ……」

 エミリーは犯人達に繋がる何か痕跡が無いかとキッチン内を探索してみたが、何も見つからなかった。
 ただ、古い新聞を見つけることはできた。

『東京都心で大規模ロボットテロ!』『国際指名手配犯ウィリアム・フォレスト容疑者、死亡!』『大手町の高層ビル大崩壊!』

 敷島:「これは東京決戦の時の新聞記事!」
 星:「何でそんなものが?」
 矢ヶ崎:「その頃からもうこの建物は無人だったってことですか?」
 敷島:「でも、ペンションとしては去年まで営業していたんですよね?」
 星:「一応、そういうことにはなってます」
 敷島:「エミリー、そこはもういいから先へ進んでくれ」
 エミリー:「了解しました」

 エミリーはキッチンを抜けた。
 また右に曲がるようになっており、2階に上がる階段と1階の奥へ進む廊下があった。
 さて、どうしようか?

 ①2階へ上がる。
 ➁1階の奥へ進む。
 ③引き返す。
 ④もう少しキッチンを調べる。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「アリスとシンディの救出へ」

2017-02-23 19:17:40 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日15:15.天候:曇 JR静内駅前]

 苫小牧駅から1両単行のディーゼルカーに揺られること、およそ30分。
 鵡川駅から代行バスへの乗り換えを余儀無くされた敷島達。
 連絡運輸がされているということもあり、駅前にバスが横付けされていた。
 バスは一般路線バスタイプではなく、観光バスタイプ。
 2時間近くも掛けて走行するのだから、確かにこのタイプの方がいいのだろう。
 ただ、やはりバスだと定時性に難があるようだ。
 少なくとも、敷島には定刻通りに走っている感が無かった。
 雪道で、ゆっくり走っている感じがしたからだ。
 ようやく静内駅に着いた時には、15分遅れになっていた。

 敷島:「えーと……待ち合わせの人達は……」

 駅舎の中から2人の男が出て来た。
 どちらもスーツにコートを着ている。

 ???:「敷島エージェンシーの敷島さんですか?」
 敷島:「はい、そうです」
 ???:「新ひだか警察署の星警部補です」
 ???:「同じく矢ヶ崎巡査部長です」

 星警部補は40代くらいの痩身の男で、矢ヶ崎巡査部長は30代くらいだった。
 どちらも私服刑事であろう。

 敷島:「敷島エージェンシーの敷島です。警視庁の鷲田警視からは、どのくらい話を聞いてますか?」
 星:「今回のDCJロボット未来科学館の職員拉致・監禁事件の犯人達をあなたが知っているということで、捜査協力をすると」
 敷島:「目星が付いているというだけで、別に確信はしていませんよ」
 矢ヶ崎:「それじゃあ……?」
 敷島:「場所だけは知っています。近づけるだけ近づけたところで、あとはこのロイド達が潜入しますから」
 エミリー:「マルチタイプ1号機のエミリーです。よろしくお願いします」
 萌:「MOE-409、萌です。ボクは車で待機ということで」
 エミリー:「こいつも潜入捜査に使いますので、ご安心ください」

 エミリーはガシッと萌を掴んだ。

 星:「話は聞いています。本当にできるんですか?」
 敷島:「御心配無く。とにかく、現場までご案内します」
 星:「分かりました。乗ってください」

 やってきたのは鷲田の見立て通り、シルバーのデリカだった。
 雪道なら、こういうRV車の方がいいだろう。

 星:「矢ヶ崎君、キミが運転してくれ」
 矢ヶ崎:「はい」

 エミリーがナビをするので助手席に座った。

 敷島:「それじゃ、お願いします」
 星:「ああ。本当に大丈夫なんですか?」
 敷島:「ええ。アリス達を救出し、テロリスト達も一網打尽にして一躍ヒーローになるチャンスですよ。何階級も特進できます」
 矢ヶ崎:「本当ですか?」
 敷島:「失敗したら、私達全員の死亡記事が一般紙を飾ります」
 矢ヶ崎:「え〜……」
 星:「とにかく、行ってみよう。いざとなれば、本署に応援を頼めば良い」

[同日16:15.天候:曇 日高郡某所]

 エミリーのナビで進む覆面パトカー。
 現場に近づく度に、周囲は荒れ地が広がる。

 星:「こんな所にテロリスト達のアジトが?」
 敷島:「そうですね」
 エミリー:「あの建物です」

 エミリーが指さした所には、木造の建物があった。

 矢ヶ崎:「あれは確か廃業したペンションですよ」
 敷島:「そうなんですか?」
 矢ヶ崎:「そうです。確か、昨年に廃業したんですよ」
 敷島:「つい最近ですね」
 矢ヶ崎:「元々オーナー夫妻が老齢化していて、しかも日高本線が不通になって、復旧の目処が立たない状態になってしまいましたからね。昨年の観光客数は惨憺たる有り様なもんで、それで廃業したと聞いています」
 敷島:「そのオーナー夫妻は?」
 矢ヶ崎:「どこかに引っ越したらしいですが……」

 また廃業して1年しか経っていないのに、だいぶ荒れているように見えた。
 元々建物自体も老朽化していたらしい。

 星:「矢ヶ崎君、あの林の近くに車を止めてくれ」
 矢ヶ崎:「はい」
 星:「もしテロリスト達のアジトと化しているのなら、死角になっている所を選んだ方がいいからな」
 矢ヶ崎:「はい」
 敷島:「あとはここからエミリー達が向かいます」

 車を止めると、バッテリーを交換したエミリーと萌が車から降りた。

 敷島:「警部補、エミリーに銃を貸してやってもらえませんか?」
 星:「はあ?」
 敷島:「国家公安委員会がうるさくて、右手に取り付けていた銃を取り外してしまったんですよ」
 矢ヶ崎:「右手に銃を仕掛けていたんですか!」
 星:「あいにくですが、そこまでは命令を受けていません。あくまで、潜入捜査の協力でしょう?テロリスト達の存在や人質の存在を確認してくれるだけで結構です。そこまでしてくれたら、あとは警察の方でやりますから」
 敷島:「ロボット・テロリスト達だったら、人間の機動隊100人相手でもキツいだろうな……」
 矢ヶ崎:「何か言いました?」
 敷島:「いや、別に……。じゃ、エミリー。悪いけど、自分の力で何とかしてくれ」
 エミリー:「かしこまりました」
 敷島:「いざとなったら、テロリストから銃を奪い取ってそれで応戦していいから」
 エミリー:「かしこまりました」
 星:「いや、ちょっと、それは困ります!」
 敷島:「警部補、相手はヘタすりゃ、あのKR団の生き残りかもしれないんですよ?私ゃ何も、エミリーに人間のテロリストを射殺しろとは言っていない」(←でもホテルでそう言っていた人)
 星:「いや、しかしですね!」
 敷島:「テロ用途のロボットが配置されていたら、それはモノなんだからブッ壊したっていいでしょ。何でしたら、後で証拠品として1機くらい生け捕りにしてもらいますから。な?エミリー」
 エミリー:「御命令頂ければ」
 敷島:「とにかく、こうしている間にもアリス達が危険なんですから、とっとと行ってもらいましょう」
 星:「……一躍ヒーローか、殉職かの二者択一ではなく、懲戒免職も含まれてるんですなぁ……」
 敷島:「そういうことです。ま、ご安心ください。あなた達が懲戒免職を食らう時は、私も会社を畳んで刑務所に入ることになるでしょう」
 矢ヶ崎:「恐ろしい人だ……」

 エミリー達が行ってしまうと、敷島はエミリーや萌を監視している端末を開いた。
 といっても、ノートPCである。

 星:「ほお、これは……」
 敷島:「ええ。これはエミリーの視点です。右上に小さく映っているのは、萌の視点ですね。こうして、いつでも切り替えることができます」

 敷島は萌の視点に切り替えた。
 基本はエミリーを操作することになるので、エミリー視点の画面にしておく。

 敷島:「エミリー、俺の声が聞こえるか?」
 エミリー:「はい。感度良好です」
 萌:「同じく」
 敷島:「よし。……こうして、彼女らとの通信も可能なわけです」
 星:「それは凄い」
 矢ヶ崎:「ハイテクですね」

 エミリー達は廃ペンションに向かった。
 近づくといきなり銃撃が……ということは無かった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「日高地方」

2017-02-23 15:14:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日10:56.天候:雪 JR千歳線普通列車内→苫小牧駅]

 敷島:「冬の北海道だから当たり前だが、雪か……」
 エミリー:「ですが、雲は薄いようです。僅かに太陽が見えています」
 敷島:「テロリスト共め。もっと救出しやすい所に行けってんだ」

 無茶を言う敷島だった。

〔「ご乗車お疲れさまでした。まもなく終着、苫小牧に到着致します。お出口は、右側です。苫小牧からのお乗り換えをご案内致します。【中略】日高本線下り、鵡川行きの普通列車は1番線から12時23分です。【中略】今日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 敷島:「じゅ……?!12時……!?」
 エミリー:「ローカル線ですからね」
 萌:「テロリスト達はどうやって、シンディをあそこまで運んだんだろうねぇ……」
 エミリー:「車か何かだろう」
 敷島:「こんな雪ん中、さすがに車で向かったら事故るわ」

 雪道は不慣れの敷島だった。

 エミリー:「ですが、現場は駅からも遠く離れた場所です。車は必要不可欠ではないかと」
 敷島:「タクシーで行けるような場所かな?」
 エミリー:「御命令下されば、社長は安全な場所にいて頂いて、私達だけで向かいますよ」
 萌:「えっ、ボクも行くの?」
 エミリー:「当たり前だ」
 敷島:「ふーむ……。取りあえず、なるべく近くの駅まで行ってみよう」

 電車がホームに停車する。
 苫小牧駅は2面4線のホームで、そのうちの1つに到着したわけだ。

 ピンポーンピンポーン♪(ドアチャイムの音)

 敷島:「ううっ、寒い!こんなんで、1時間以上どこで時間潰せってんだ……」
 エミリー:「取りあえず、駅前のどこかのお店に入りましょう。少し早いですが、昼食を取った方がいいかもしれません」
 敷島:「そうするか」

 敷島達は改札口を出ると、駅前の複合施設に入った。
 そこへまた鷲田警視から連絡が入る。

 敷島:「はい、もしもし?」
 鷲田:「あー、私だ。もう現場に着いたのか?」
 敷島:「いや、まだですよ。まだ、苫小牧駅の周辺です。どうも列車の本数が少なくて……」
 鷲田:「そりゃそうだろう。それと、静内……今は新ひだか町だが、鉄道で行けなくなってるからな」
 敷島:「はい?」
 鷲田:「キミ、知らずに向かってたのか。2015年の高波災害で、日高本線は鵡川から先は列車が行けなくなってるんだ。鵡川駅から代行バスに乗る必要がある」
 敷島:「ええーっ!何だってシンディはそんな所に……!?」
 鷲田:「そんなのは犯人達に聞いてくれ。まあ、交通不便な所に連れ込んで、少しでも追跡を免れる為だとは思うがな。それより、こっちはこっちでやることがあるから、やっぱりキミ達に捜査協力を頼む」
 敷島:「おおっ、来ましたか」
 鷲田:「但し、無理はするなよ。いいか?静内駅前に着いたら、道警の警察官達がキミ達と合流する。テロリスト達にバレないように、覆面パトカーだろう。できるだけ、その警察官達の指示に従ってくれ」
 敷島:「分かりました。西山館長達は無事なんですよね?」
 鷲田:「病院で検査を受けたが、全員がほぼ無事だ。飛行機の予約が取れ次第、急いで戻るそうだ。何しろ、科学館の臨休が続いてるからな」
 敷島:「あっ、そうか!」

 偽ツアーに参加したメンバーとも接触が取れた。
 アリスの代わりを演じられたポルトガル人女性は、東京の大学院に通う院生で、偽ツアーと知らずに参加してしまったのだという。
 観光気分で写真を撮りまくったのだが、何故かツアコン役は絶対に写真に写りたがらなかったとのことだ。

 敷島:「偽ツアーの参加者の中に、容疑者はいないということですか」
 鷲田:「その方向で見ている。もちろん、写真に写りたがらなかったというツアコン役については物凄く怪しいがな」
 敷島:「そりゃそうでしょうね」

[同日12:23.天候:雪 JR苫小牧駅→日高本線列車内]

 札幌から苫小牧まではSuicaが使えたが、ここから先は使えない。
 自動券売機で乗車券を購入する必要があった。
 で、確かに、そこかしこに日高本線の列車は鵡川駅までしか運転しておらず、そこから先は代行バスになる旨の表示がしてあった。
 但し、乗車券はそのまま通しでいいらしい。
 今度はキップで改札口を通り、途中まで走る列車が出る1番線に向かうと、1両のディーゼルカーが停車していた。

 敷島:「電車も3両編成だったけど、今度は1両か……」

 ディーゼルカーならではのエンジン音を響かせている。
 敷島達はその列車に乗り込んだ。
 さすがに車内は暖房が効いて暖かい。
 デッキが付いているので、保温性も良い。
 空いているボックスシートに、エミリーと向かい合って座った。
 萌はシンディの肩に乗っている。

〔「この列車は12時23分発、日高本線、鵡川行きの普通列車です。終着、鵡川で静内行きの代行バスに連絡しております。終着、鵡川には12時52の到着予定です。お待たせ致しました。まもなく発車致します」〕

 ワンマン運転なので、運転士が肉声方向を行うのだろう。
 ドアが閉まる音がすると、今度はディーゼルエンジンの唸り声が聞こえてきた。

 敷島:「何だか、いきなり旧式になったって感じだな……」

 窓の外を見ると、雪がちらついていた。

 敷島:「着いたら猛吹雪なんてことは勘弁だな……」
 エミリー:「天気予報では日高地方は曇時々雪です。この予報では、吹雪になることは無いと思います」
 敷島:「だといいけどな。シンディはまだ起動していないか?」
 エミリー:「まだです」
 敷島:「そうか……。もし現場に着いたら、ミクに頼んで再起動の作業をしてもらおうか……」
 エミリー:「いえ、それは危険だと思います」
 敷島:「そうか?」
 エミリー:「はい。シンディしか捕らわれていないのであればそれでも良いかもしれませんが、アリス博士も人質になっているのであれば、シンディを再起動させることで、犯人達を刺激する恐れがあります」
 敷島:「う……そうか」
 エミリー:「私と萌で救出に行きますから、どうかご安心ください」
 敷島:「分かったよ」

 列車はまだ苫小牧市街を走る。
 次の停車駅、勇払駅までの距離は13キロ以上もある。
 もちろんこれは各駅停車の鈍行だ。
 所要時間も次の駅だけで10分以上も掛かる。
 これでは静内駅まで行くのに、何時間掛かるのかは【お察しください】。
 それだけ北海道が広いということなのか、それとも……。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「事件はまだ終わっていない」

2017-02-23 12:06:11 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日09:00.天候:晴 北海道札幌市 東急REIホテル]

 萌がテレビを観て何やら騒いでいる。
 どうやら、何か事件があったようだ。
 敷島とエミリーも、テレビの画面に目をやった。

〔「……先月末より行方不明になっていたツアー客が無事、発見されました。行方不明になっていたのは、埼玉県さいたま市にあるデイライトコーポレーション・ジャパン、ロボット未来科学館の職員達で、1月30日より2泊3日の慰安旅行で北海道に向かったところ、何者かによって拉致・監禁されていたものです」〕

 敷島:「マジかよ!?鷲田警視達、やるなぁ!」
 エミリー:「申し訳ありません。何のお役にも立てず……」
 敷島:「いや、いいよ。お前達は切り札だ。警察が役に立たなくなったら、お前達の出番ってことでいいから」
 エミリー:「ありがとうございます」

 テレビではちょうど人質達が救出されるシーンが映っていた。

 敷島:「おおっ、西山館長!皆、元気だな!」

 全員が歩いて監禁場所から警察に誘導されて出て来た。
 そのまま警察が用意したバスに乗り込んで行く。
 時間は午前6時くらいになっていた。
 早朝を狙って踏み込んだらしい。
 だが、なかなかアリスの姿が見当たらない。
 シンディは……まあ、電源が切られているから当たり前か。
 シンディが再起動したことで、テロリスト達は慌てたのかもしれない。
 何とかまたシンディの電源を切ることには成功したが、その時既に警察は駆け付けていて、その騒ぎに乗じて踏み込んだ……と思ったのだが……。

 敷島:(時系列が合わないな。どういうことだ?)

 その時、画面に映し出された現場の名前を見てエミリーが反応した。

 エミリー:「社長。シンディがいた場所と一致しません」
 敷島:「そうだな!」

 西山館長達が監禁されていたのは、札幌市郊外となっていた。
 郊外にある廃屋に監禁されていたらしい。
 元々はバブル期にリゾートホテルとして開発された所だったが、バブル崩壊の煽りで廃業した所である。
 テレビ映像は、マスコミが飛ばしているヘリコプターによる上空からの映像に切り換わる。
 するとその廃ホテルの一角に、1台のバスが止まっているのが見えた。
 全体的に白いバスで、年式は古いものだったが、ホテルと一緒に朽ちた廃車というわけではないようだ。
 あれがアリス達を騙して連れ去った偽バスだろうか。

〔「……警察が現場に踏み込んだ時は、既に犯人達は逃走した後で、警察では犯人達の行方を追っています」〕

 敷島:「見つけ次第、全員射殺でいい。エミリー」
 エミリー:「イエス!……と、言いたいところですが、私はもう銃火器は取り外されているのですが」
 敷島:「ああ、知ってる。だからわざと言ってみた」

 敷島はスマホを出してみた。

 敷島:「見た目には無事だろうが、一応病院で診察は受けるだろうからな。どこの病院か、鷲田警視に電話してみよう。もうこの番組は見たんだからいいだろう」
 エミリー:「はい。シンディが別の場所にいることが気がかりですが……」
 敷島:「奴らにとってシンディは脅威だからな、わざとシンディだけ別の場所に運んだのかもしれない」

 敷島は鷲田警視に電話をしたみたが、電話が繋がらなかった。
 まだ忙しいのだろう。

 敷島:「しょうがない。俺達でシンディだけでも回収してこよう。場所は列車の本数も少ないところだからな。うかうかしていると、日が暮れちゃう」
 エミリー:「奥様はいいのですか?」
 敷島:「無事に発見されて病院に運ばれたところまで確認できればいいよ。あとはシンディだ。シンディがブッ壊されてたりでもしてみろ?俺の命も危ない」
 エミリー:「? 夫婦間の問題ですか?」
 敷島:「そういうことだ。行くぞ」
 エミリー:「は、はい」

[同日09:35.天候:雪 JR札幌駅]

 敷島達は札幌駅に行き、そこに止まっていた列車に乗り込んだ。
 まだ発車まで時間があったが、寒いので車内にいる。
 ロングシートの通勤車両だったが、さすがにそこは北海道。
 乗降ドアは半自動で、停車中でもドアが閉まっている。
 朝ラッシュも終わった時間帯で、尚且つ郊外へ向かおうという電車なせいか、たった3両編成でも閑散としている。
 敷島は先頭車となる車両に乗り込み、ドア横の座席に座っていた。
 エミリーは着席せず、敷島の横に立っている。
 護衛としての本分を発揮しているわけだ。
 萌は敷島の真上、つまり網棚に乗っていた。

〔「ご案内致します。この列車は9時40分発、千歳線上り、苫小牧行きの普通列車です。終着、苫小牧までの各駅に停車致します。恵庭、千歳、南千歳へお急ぎのお客様は、この後このホームから発車致します9時50分発、新千歳空港行き快速“エアポート”96号をご利用ください。……」〕

 3両編成であっても札幌都市圏ではワンマン運転はしないらしい。
 実際、運転室の前を見てもワンマン機器は設置されていない。
 車内は比較的静かなのは、これは本当の電車だからだろう。
 他のホームに止まっているディーゼルカーからのエンジン音の方が響いてくる。

 敷島:「ん?」

 と、そこへ鷲田から着信があった。

 敷島:「ちょっと出てくる」
 エミリー:「はい」

 敷島はドアボタンを押して電車の外に出た。
 その間はエミリーが座っておく。

 敷島:「もしもし?」

 ディーゼルカーの音がやかましいので、敷島は片耳を押さえて通話しなくてはならなかった。

 鷲田:「ああ、私だ。今、どこにいる?」
 敷島:「札幌駅です。シンディの回収に行ってきますので」
 鷲田:「シンディだと!?どこにいる!?」
 敷島:「静内町……あ、いや、今は別の名前に変わってるんでしたっけ?どうも、そこにいるらしいんです」
 鷲田:「何で勝手に行く!?」
 敷島:「いや、何でって……。鷲田警視達、忙しいでしょうから」
 鷲田:「キミの奥さんもそこにいるかもしれない上、テロリスト達が潜んでるかもしれんのだぞ!?」
 敷島:「人間のテロリストが何人いようが、うちのエミリー1人で十分ですよ。ガチの一騎当千ですから。……ってか、何でアリスが?アリスは無事だったてんでしょう?」
 鷲田:「テレビを最後まで見たまえ!人質の数が足りないんだ!」
 敷島:「はあっ!?」
 鷲田:「足りないのはただ1人。キミの奥さんただ1人だ!」
 敷島:「どういうことですか!?」
 鷲田:「テロリスト共の目的は、ただ単にDCJに対する嫌がらせだけではないってことだよ。むしろ、奥さんやシンディが目的だったのかもしれん。それをカムフラージュする為に、一応全員かっさらったのかもな。静内だな?キミは勝手な行動をせず……」

 そうこうしているうちに、発車の時間が迫ってきた。

〔6番線から、苫小牧行き、普通列車が発車致します。まもなく、ドアが閉まりますからご注意ください〕

 ディーゼルカーの大音量には負けないくらいの自動放送がホームに響いた。

 エミリー:「社長、急いでください!発車します!」
 敷島:「おっと!じゃ、すいません、警視。私は先に行きます!」
 鷲田:「おい、ちょっと待……」

 ピイーッ!ピッ!(車掌の笛)

 敷島:「危ねぇ、危ねぇ!」

 ピンポーンピンポーン♪(ドアチャイムの音)

 敷島は座席に座った。
 インバータの音が響いて、3両編成の通勤電車が発車する。

〔この先、揺れることがありますので、お気をつけください。お立ちのお客様は、お近くのつり革、手すりにお掴まりください。今日もJR北海道をご利用頂きまして、ありがとうございます。この列車は千歳線、苫小牧行き、普通列車です。次は、苗穂に止まります。……〕

 敷島:「危うく、この後の快速で追い掛けるところだったじゃないか。……この辺は首都圏とあんまり変わらんね」
 エミリー:「そうですね。さっきのお電話は?」
 敷島:「あ、そうだった。実は……」

 敷島はエミリーに電話の内容を伝えた。
 それにはさすがのエミリーも、顔を曇らせたのである。
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