報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「アリス達の足取りを追う」

2017-02-15 19:21:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日07:20.天候:晴 JR大宮駅西口]

 敷島とエミリーは、あの時アリス達を見送ったバス停にいた。
 羽田空港行きのリムジンバスが出るバス停である。
 もしかしたら、既にこの時から事件の臭いは漂っていたのかもしれない。
 だからなるべく、アリス達と同じ足取りを追うことにしたのである。

 エミリー:「バスが来ました」
 敷島:「ああ」

 大宮駅西口7時20分発のバスは、京急バスが担当する。
 だから昨日、豊洲駅から乗ったエアポートリムジンと違い、バスの車体の塗装も白と赤というものだった。
 バスが敷島達の前で停車して、大きなエアー音を立てる。

 運転手:「はい、お待たせしました。羽田空港行きです」

 アリス達が乗って行ったのとは違う運転手が降りて来た。
 バスの乗務員はローテーションで動いているので、毎日運行のバスであっても、毎日が同じ運転手とは限らない。

 運転手:「お荷物はそこに置いておいてください。後で積み込みます」

 係員のいないバス停では運転手が積み下ろしをするので、バスの荷物室の前に荷物を置いておくことになる。
 敷島とエミリーは運転手にチケットを渡してバスに乗り込んだ。
 既に数人の乗客が乗っているのは、このバスが始発ではないからだろう。

 エミリー:「社長、こちらに」
 敷島:「ああ」

 敷島達はアリス達が乗ったのと同じ場所、後ろの席に座った。
 豊洲駅発と違い、こちらは後ろにトイレが付いている。
 そのすぐ前の席だ。

 敷島:「まさか送った相手と同じバスの、しかも同じ席に座ろうとは思わなかったな」
 エミリー:「ええ。ですが、車両までは違うものです」
 敷島:「そうなのか?」
 エミリー:「ええ。ナンバーが違います」
 敷島:「お前、そういう所も見てるんだなぁ」
 エミリー:「特殊工作用としての用途も、私達にはありますので。もっとも、シンディはそこまでしているか分かりませんが」
 敷島:「おいおい。同型機なんだから、同じようにしてもらわないと困るよ」
 エミリー:「規格は同じなんですが、平賀博士やアリス博士とではコンセプトが違いますから」
 敷島:「うーむ……」

 だいたい半分くらいの席が埋まったところで、バスは出発した。
 早朝の便だと、この後でさいたま新都心駅にも止まるようだが、この便はもうこのまま羽田空港に向かうようだ。
 まずは女声の自動放送が流れた後、運転手の肉声放送が流れる。

〔「……羽田空港第2ターミナルには8時45分、第1ターミナルには8時50分、終点国際線ターミナルには9時ちょうどの到着予定です。……」〕

 敷島:「このルートをアリス達が通ったはずだ。エミリー、シンディの電源が切られる前の動きは覚えてるな?」
 エミリー:「はい」
 敷島:「なるべくアリス達が通ったルートをそのまま行く。何か変わったことがあるはずなんだ」
 エミリー:「了解しました」

[同日08:45.天候:晴 羽田空港第2ターミナル]

 エミリー:「社長、起きて下さい。まもなく第2ターミナルです」
 敷島:「……はっ!?しまった!つい、眠ってしまった!アリス達の動向を追うはずが……」
 エミリー:「私はずっと見ていましたが、特に変わった所はありませんでしたよ」
 敷島:「そ、そうなのか?」

 そういうことしているうちにバスが停車した。

 運転手:「羽田空港第2ターミナルです」
 敷島:「ああっと!」

 敷島は手荷物として荷棚に置いた荷物を下ろした。
 そして、急いでバスを降りる。

 係員:「お荷物ありますか?」
 エミリー:「あります。社長」
 社長:「ああっと!そうだった!」

 敷島はバスの荷物室から、大きなキャリーケースを降ろしてもらった。
 これはエミリーを飛行機で輸送する為のものである。

 社長:「早いとこ行くぞ」
 エミリー:「ちょっと待ってください」
 社長:「何だ?」

 エミリーはその大きなケースを開けた。
 その更に内側にあるポケットの中を開ける。

 エミリー:「何をしている!」

 エミリーは咎めるように言った。

 敷島:「お前は……!?」
 萌:「エヘヘヘ……」

 妖精型ロイド、萌だった。
 旧KR団最後の研究者、吉塚広美が製作した唯一の妖精型である。
 井辺のことを1番慕っていて、今ではロボット未来科学館でアルエットと一緒に展示されていた。

 萌:「おはよーございます」
 エミリー:「どういうことか、説明してもらおう」

 エミリーは険しい顔付きになって萌を睨みつけた。
 尚、萌という名前は彼女の型番、MOE-409から取った。
 井辺が見つけた時はまだ試作中だった為か性別の設定が無く、萌は自分のことをボクと呼んでいた。
 ところが後でアリス達に、妖精は女の子ということで、性別設定を女にされた。
 体付きや顔付きも、もう少し女の子に近いものに改良されたのだが、未だに何故か一人称はボクのままである。

 萌:「いや〜、井辺さんがなかなか会いに来てくれないんで、社長さんの荷物の中に紛れ込んじゃいました」
 エミリー:「さっさと帰れ!」
 萌:「帰り方が分からないんです。GPSが付いてないもんで」
 敷島:「今からDCJさんに送り返す時間も無ければ、うちの会社まで持って行く時間も無いぞ。しょうがない。もしかしたら、お前にも働いてもらう機会があるかもしれない。一緒に来てもらう」
 萌:「井辺さんは?」
 敷島:「いないよ」
 萌:「えーっ!」
 エミリー:「いい加減にしろ。ワガママ言うと、私が強制送還するぞ?」
 萌:「ひぇっ!そ、それだけは……!」
 エミリー:「それなら、敷島社長の言う事は全て聞け」
 萌:「は、はい……」
 敷島:「萌程度なら、手荷物として機内持ち込みできるかな?」
 エミリー:「金属探知機に引っ掛かるのがオチだと思います」
 敷島:「……だな」

 妖精型だけに、萌の身長は30cmも無い。
 フィギュア程度の大きさである。

 敷島:「エミリーと仲良くここに入ってもらうから」
 萌:「ボク、お荷物ですか?」
 敷島:「さっきもバスの荷物として乗っていただろうが」
 エミリー:「そういうことだ」
 敷島:「で、エミリー。アリス達はこの後、どうしたんだ?」
 エミリー:「はい。集合時刻まで時間があったようで、朝食を取られています」
 敷島:「よし。俺も同じ店で朝飯食うぞ。どこだ?」
 エミリー:「こっちです」

 エミリーは自分が荷物として詰め込まれるケースを引きながら、敷島を誘導した。
 尚、萌はしばらくの間、エミリーの肩に乗っかっていた。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「消えたツアー客」

2017-02-15 15:07:19 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月1日15:45.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 エミリー:「社長、そろそろバスの乗り場へ向かった方がよろしいかと思います」

 エミリーは敷島だけにする滑らかな口調で言った。
 いつもはシンディよりも表情に乏しいエミリーだが、今回は少し緊張した面持ちになっていた。

 敷島:「ああ、分かってる」

 敷島は社長室内の衣文掛けに掛けてあるコートを羽織った。
 結局、今の今までアリス達からの連絡も無ければ、こちらから電話が通じることも無かった。
 そして、シンディの電源は未だに入っていない。
 遠隔でこちらから入れようとしても、ブロックされて弾かれてしまうのだ。

 敷島:「ああ、井辺君。申し訳無いが、私は先に上がらせてもらうよ、うん……。何かあったら、すぐに連絡をくれ……な?」
 井辺:「結構ですよ、社長。御心配なのは、よく分かります。あとは私達にお任せください」
 敷島:「一海も。井辺君や皆のサポート、よろしく」
 一海:「かしこまりました」

 一海はメイドロイドから改良した事務員ロイドである。
 だから見た目は他のメイドロイドに似ているが、着ている服はメイド服ではなく、事務服である。

 エミリー:「社長」
 敷島:「ああ。それじゃ、行ってくる」

 敷島は事務所のドアから共用廊下に出ると、既にエミリーが呼んでいたエレベーターに乗り込んだ。

 敷島:「小山副館長の方でも、全く連絡が取れていない。副館長は幹事の岩下副館長と同等だから、例え幹事権限で連絡不可にしたとしても、それを拒否できる権限があるはず。それが叶わないとは……」
 エミリー:「西山館長も参加されてるんですよね?」
 敷島:「ああ。西山館長もまた幹事の1人なんだが、全く連絡が取れない。科学館の幹部同士なのに、連絡が取れないというのは明らかに不自然だ」
 エミリー:「はい、そうですね。そう思います」
 敷島:「だろ?」

 エレベーターを降りる時、エミリーが言った。

 エミリー:「妹がお役に立てず、申し訳ありません」
 敷島:「シンディは悪くない。電源が切られてるんじゃ、どうしようもない」

 敷島達は冬の西日が差す豊洲の町に出た。

[同日16:35.天候:晴 東京空港交通エアポートリムジン車内→羽田空港第2ターミナル]

 豊洲から羽田空港までは片道20キロ強といったところだ。
 だから、所要時間も20分ないし30分で着いてしまう。
 その為か、バスは観光バス仕様ではあるものの、後部にトイレの無いタイプであった。
 敷島とエミリーは2人席に腰掛けていたが、バスの車内では終始無言で過ごした。
 多弁なシンディなら何か喋ったかもしれない。
 いや、それともさすがの彼女も空気を読んで黙っているか。
 とにかく、バスは冬の西日が降り注ぐ中、特に渋滞に巻き込まれることもなく、無事に羽田空港に到着した。
 2人はバスを降りた。
 飛行機乗り換え客はバスに大きな荷物を積んでいるが、迎えに行くだけの敷島達は身軽だ。
 そのままターミナルの中に入る。

 敷島:「到着口で待とう。フライト状況はどうだ?」
 エミリー:「本日の新千歳空港付近の天候は良好で、一部の機材変更や折り返し遅れなどを除いて、大幅な遅延は発生していないもようです」
 敷島:「分かった」

 敷島達は到着口に向かった。

[同日18:00.天候:晴 羽田空港第2ターミナル]

 敷島は固唾を飲んで、到着口から出てくる旅客を眺めていた。
 だが、何度見てもアリスの姿を見ることはなかった。

 エミリー:「社長、既にANA68便は到着しております」
 敷島:「何でだ!何でここから出てこないんだ!」
 エミリー:「他に到着口が無いかどうか確認してきます」

 エミリーがカウンターの方に行ってしまうと、敷島のスマホに着信があった。
 すわっ、と思ってポケットから取り出したが、画面に映っていた名前は鷲田警視だった。

 鷲田:「ああ、私だ。奥さんは帰ってきたかね?」
 敷島:「…………」
 鷲田:「そうか。実は今、私の部下達が第1ターミナルの方を見ている。もしかしたら、JALに変更したかもしれないと思ってな。だが、そんなことは無かったようだ」
 敷島:「警察としては、どうするつもりですか?」
 鷲田:「どうもこうもない。今のところ、まだDCJさんからは捜索願は出ていないからな。勝手はことはできんよ。とにかく、先日捕らえたテロリスト共を締め上げて吐かせるだけだな。もしかしたら、奴らは知ってるかもしれんからな。とにかく、気を落とすんじゃないぞ」

 鷲田は電話を切った。
 と、同時にエミリーが戻ってきた。

 エミリー:「社長、あいにくですが、第2ターミナルの到着口はこちらだけのようです」
 敷島:「アリス達が消えてしまった。エミリー、こうなったら……!」

 エミリーは目を丸くした。
 普段は表情に乏しい彼女だが、敷島の突拍子も無い考えは往々にしてマルチタイプさえも震え上がらせるのである。
 そしてそんな敷島を何度も見て来たからこそ、「仕え甲斐のあるアンドロイドマスター」と判断するに至ったのだろう。

[2月2日11:00.天候:晴 敷島エージェンシー]

 井辺:「何ですって!?」
 敷島:「明日、アリス達の行方を追う為、北海道へ向かう。もう既にチケットは取ってきた」
 MEIKO:「ちょっと!会社はどうするのよ!?」
 井辺:「そうですよ。それに、社長は今もっともKR団からの報復の対象だというではありませんか。危険過ぎますよ」
 敷島:「俺は『不死身の敷島』『テロリストが泣いて逃げ出す男』だぞ?」
 井辺:「ですが……!」
 孝之亟:「いいぢゃないか。行ってきたまえ」
 井辺:「敷島最高顧問!」
 孝之亟:「孝夫の妻が、ワシの注文したマルチタイプの製作を行っておるのじゃろう?」
 敷島:「そうです」
 孝之亟:「ちゃんと帰ってきてもらわねば困る。違約金をたんまり頂ければそれで良いという話ではない。孝夫、行って連れ戻して来い。敷島家の男たるもの、それが当然じゃ」
 敷島:「は、はい!さすがは外国に消えた奥さんを捜しに、現地の軍隊まで動員した爺さんだ!」
 井辺:「ええーっ!?」
 孝之亟:「おいおい。今から半世紀も前の話じゃぞ?照れるではないかー、はっはっはーっ!」
 井辺:「そ、そんな国際問題になりかねないことを……」

 井辺は立ちくらみがした。
 敷島の不死身ぶり、テロリスト泣かせぶりの系譜は既に孝之亟の時から始まっていたのだ。
 いや、もしかしすると、それ以前からかも……。

 井辺:「しかし、社長の代わりはどうするんです?」
 孝之亟:「なぁに、心配いらん。四季グループの子会社の社長の代わりなど、いくらでもおるでな」
 矢沢:「お任せください」
 井辺:「四季エンタープライズの矢沢専務……」
 孝之亟:「1週間くらいなら、この男でも十分代理が務まるじゃろう。いいか?期限は1週間じゃ。1週間以内に何としてでも、お前の妻とそのロボットを見つけ出せ。分かったな?」
 敷島:「ありがとうございます!最高顧問!」
 孝之亟:「ワシの計画を邪魔する者どもには、何としてでも思い知らせてやらんとな。ワシはこのロボットが欲しいのじゃ」
 敷島:「エミリーが欲しいなら、しばらくお貸ししますよ」
 孝之亟:「バカ者!何度も言っとるじゃろう?ワシは新品が欲しいのじゃ」

 そう言いつつ、さり気なくエミリーのお尻をナデナデしているスケベジジィが1人。
 因みにこの最高顧問、シンディのお尻もナデナデしていた。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「ツアー客が消えた?」

2017-02-15 10:44:34 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月30日17:30.天候:雨 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 社長室内の応接セットに座る警視庁幹部の2人と敷島。
 成り行き上、井辺も敷島の隣に座っている。

 鷲田:「まず、そちらさんで何が起きているのか話してもらおうか。何か、私らに届け出ることがあったようだが……」
 敷島:「はあ……」

 エミリーが鷲田達にコーヒーを持って来る。

 エミリー:「失礼します」
 村中:「お、こりゃどうも」

 敷島の話を聞いた鷲田は鼻を鳴らした。

 鷲田:「大したことない。ツアー参加者は研究職が多いのだろう?」
 敷島:「まあ、そうですね。結局、館員さんも来館者に詳しく説明できる人がいいってんで、そういう人が多いですから」
 鷲田:「もちろん研究員とはいえ人間だし、一民間企業が慰安旅行に行くくらい、当然のことだ。だがしかし職務上、色々と秘密保持とかうるさいんじゃないのかね?」
 敷島:「そりゃそうでしょう」
 鷲田:「プライベートであってもそういった制約が課されるというのに、ましてや今回は会社主催の慰安旅行。つまり、会社の行事だ。広い意味ではそれも業務と捉えるのであれば、旅行中ハメを外して秘密を洩らさないように努めるものなのではないかね?」
 井辺:「それは有り得ますね」
 鷲田:「なるべく、外部と余計な連絡を取らないように決めているのかもしれん」
 敷島:「ですが、同じ職員の人とも連絡を取らないというのは違うでしょう?」
 鷲田:「何か、事前の取り決めなどですれ違いがあったのだろう。小山副館長とやらは自分とだけは連絡を密にするように言ったのかもしれんが、幹事の方はそれすらもダメという風に捉えたか」
 敷島:「どういう耳をしたら、そういう風に聞こえるんですか」
 鷲田:「それは本人に言いたまえ。とにかく飛行機はダイヤが乱れつつも、無事に新千歳空港に着いた。そこから札幌市内では電車かバス、どっちで行ったか知らんが、それでも無事にホテルに着いた。今頃、どこかビール園にでも行って、ドンチャン騒ぎでもやるんだろう。どこが問題かね?」
 敷島:「だから、連絡が取れないというのが……」
 村中:「でもね、敷島社長。ちゃんと彼らの足取りは取れてるんだ。行方不明になったわけじゃない。個人的な連絡が取れないくらいで、事件の臭いだとするのは……ちょっと早合点だと思うな。飛行機そのものが行方不明になっただとか、空港から先の足取りが全く掴めないとか、そういうんだったら確かに事件だけどね」
 敷島:「……で、鷲田さん達は何の用で来たんですか?」
 鷲田:「それなんだがな、俺達は別の事件の臭いを嗅ぎつけてやってきたんだ。舞台は奇しくも北海道だ」
 敷島:「えっ?」
 村中:「KR団は組織的には正式に崩壊したけれども、まだ散り散りになったメンバー全員を逮捕できていないのは知っているでしょ?中にはKR団の再興を目指している者もいる。新KR団だな。先日、それを旗揚げした別のメンバー達は全員逮捕した」
 敷島:「あっ、マジですか」
 鷲田:「警察だってやる時ゃやるぞ。だから今、『新KR団』を名乗る組織はどこにも無い。だが、旧メンバーでまだ逃走を続けている奴らがまた別の組織を作ろうとしている話を聞いた」

 警察が新KR団のアジトを捜索したり、逮捕したメンバーの尋問でもって得た情報である。

 鷲田:「それによると、北海道にそのアジトがあるらしいんだ」
 敷島:「アリス達、大丈夫かなぁ?」
 村中:「普通なら連絡を取ろうとしないのは、逆にそんな連中から動きを悟られないようにってことで警戒しているからという風に見れるよね?」
 敷島:「あ、なるほど。そういうことか……」
 鷲田:「ところが、そんな暢気な風にも行かなくなってきた」
 敷島:「と、言いますと?」
 鷲田:「キミの奥さんだ。キミの奥さん、旧姓は何だ?」
 敷島:「フォレストですね。ウィリーに引き取られたので、ウィリーの名字をもらったそうですから」
 鷲田:「その前の名字は?」
 敷島:「えっ?前の名字?」
 村中:「キミの奥さんは、生まれてすぐ捨てられた捨て子だったのかい?」
 敷島:「いや、そんなはずは……ないと思いますが。確か小さい時に両親が行方不明になって、他に身寄りが無かったもんだから、施設に入ったんだと……」
 鷲田:「ということは、その時に名乗っていた名字があるはずだ。それを知らないのかね?」
 敷島:「いや……何しろデリケートなことだから、その辺はあんまり……」
 井辺:「警視達は社長の奥様の最初の名字を知って、どうなさろうというんですか?」
 村中:「実は件のアジトに踏み込んで色々と証拠品を押収したわけだが、その中に初期の頃から現在に至るまでのメンバーの名簿が見つかってな。その中にアリスと名乗るヤツがいるんだよ」
 敷島:「警視、アリスという名前は英語圏の女性にはよくある名前ですよ。何も珍しい名前じゃない」
 鷲田:「もちろん、そんなことは百も承知だ。メンバーの中に『アリス・ホーゲルマン』という名前のヤツがいてな、備考欄にこう書いてあったんだ。『2007年現在、フォレスト姓』とな」
 敷島:「今から10年前ですか。確かにその時のアリスは、ウィリーの孫娘として育てられていたはずです。だから名字もフォレスト……」
 村中:「メンバーの中に、ホーゲルマンを名乗る……恐らく夫婦であろう者達がいてね。まさかとは思うのだが……」
 鷲田:「本人に話を聞きたいと思ったのだが、北海道に行ってしまったということで、もしかしたらキミは知ってるんじゃないかと思ってね」
 敷島:「いや、私は何も……」
 村中:「もう1人の秘書さんでも良かった。恐らく、社長夫人をウィリアム博士が引き取ってからのことを記憶しているだろうからね」
 井辺:「2泊3日の旅行ですから、明後日には帰って来られます。その時でよろしいんじゃないでしょうか?」
 鷲田:「……だといいんだがな」
 敷島:「警視?」
 鷲田:「いや、そこの社員さんの言う通りだ。明後日というのは2月の1日か。その日、何時に帰って来るのかね?」
 敷島:「ちょっと待ってください。エミリー」
 エミリー:「はい」

 エミリーは敷島の机の引き出しを開けて、中から1枚のプリントを出した。

 敷島:「ANA68便、新千歳空港離陸が15時30分で、羽田空港到着が17時10分ですね」
 鷲田:「迎えに行くのかね?行くんだろ?」
 敷島:「心配だから行きますよ」
 鷲田:「よろしい。ではその時、状況を私に伝えてくれ。無事に帰って来たのなら、それで良い。但し、話は奥さんから直接聞かせてもらう。で、もし無事に帰って来ないようだったら……」
 敷島:「やめてくださいよ!」
 井辺:「取り越し苦労ですよ。奥様はちゃんと帰って来られます」
 敷島:「そうだそうだ!」
 村中:「や、こりゃ失礼したね。警視、そろそろ帰りましょうか」
 鷲田:「うむ……」
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