報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「エミリーとの契約(仮)」

2017-02-13 21:57:13 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月29日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 平賀:「それでは明日より3月31日まで、敷島さんをエミリーのユーザーに仮登録します」

 平賀は手持ちのPCのキーボードを叩いていた。

 敷島:「すいませんね。こんな中途半端な時に」
 平賀:「いえ、別に……。あくまでもまだ正式なユーザーはナツですが、ナツのユーザー権限を休止し、それを敷島さんへ移行する過渡期という扱いです。ですので、命令を素直に聞く確率は計算上割と低いのですが……」

 平賀はチラッとエミリーを見た。
 満面の笑みを浮かべているエミリーを見て、平賀は小さく溜め息を吐いた。

 平賀:「エミリーの敷島さんに対する信頼度からして、ほぼ100%と言えるでしょう」
 シンディ:「全然低くないじゃないw」
 平賀:「うるさいな」
 エミリー:「敷島・社長、明日から・よろしく・お願い・します」
 敷島:「あ、ああ。よろしく」

 どうしてこの時期に、こんなことをやっているのか。

 シンディ:「アリス博士がお呼びだわ。ちょっと失礼」
 敷島:「ああ」

 シンディは会議室を出て行った。

 敷島:「ったく。アリスのヤツ、大事な取引なんだから立ち会えっての」
 平賀:「まあ、確かにアリスには直接関係の無いことではあるでしょうね」

 平賀は苦笑いした。

 敷島:「アメリカ系企業だから、アメリカの流儀で運営しているはずなんですけどねぇ……。何かこっちのデイライトさんは、まるで生粋の日本企業みたい。明日から社員旅行だなんて」
 平賀:「デイライト・アメリカ本社からは『日本の商習慣もいい加減にしろ』という苦言が出ていたのですが、その肝心の本社がジャニスとルディの騒ぎでガタガタになりましたからねぇ。こりゃ本当に、日本法人だけ独立しそうな勢いです。社員旅行みたいな、保守的な日本企業の一部しかやっていないようなことをあえてやるのも、その一環なのでしょう」
 敷島:「うちでもやろうかなぁ……」
 平賀:「いいんじゃないですか。四季グループさんでは、他にやってないんですか?」
 敷島:「いや、実はやっている所はあるんですよ」
 平賀:「ほう!」
 敷島:「ほら、先生。何年か前、まだ十条伝助博士が生きていた頃、皆で江ノ島に行ったことがあるでしょう?」
 平賀:「ありましたね!……そうか。言うなれば、あれが敷島エージェンシーの社員旅行第1回目ってところですか?」
 敷島:「まだ個人経営してた頃の話で、法人化する前ですから、あれを社員旅行と言うには無理があるかもですね」
 平賀:「いいんじゃないんですか、別に」
 敷島:「ま、後で考えます」
 平賀:「シンディはアリスの護衛に北海道に連れて行く必要がある。しかも、トニー君も一緒ですか?」
 敷島:「1歳の子を飛行機に乗せるなんて虐待みたいなもんだからやめろと言って、何とか止めさせましたよ」
 平賀:「うーむ……。うちのチビ達も、飛行機に乗せるようになったのはつい最近ですなぁ……」
 敷島:「でしょ?でしょ?アリスのヤツ、何考えてるのやら……」
 平賀:「シンディは体の構造上、搭乗できないはずですが……」
 敷島:「シンディは電源を切った上で、荷物室ですよ。前回のアメリカ行きと違って、銃火器自体はもう取り外しているので、それと比べれば格段に楽になったということです」
 平賀:「確かにねぇ……。銃火器をバラバラにするのに、1日以上掛かりましたもんね」
 敷島:「マジでどうやって南里所長やウィリーはエミリー達を日本に持ち込んだんだか。おい、エミリー。本当に覚えてないのか?」
 エミリー:「……申し訳・ありませんが・お答え・できません」

 エミリーは申し訳なさそうに頭を下げた。
 だが一瞬、ニヤッと笑みを浮かべたように見えた。

 平賀:「自分的には、船便か何かだと思っているんです。恐らくバラした状態で、こっそりコンテナの中に紛れ込ませたのではないかと……」
 敷島:「それでバレないんですかね?」
 平賀:「どうだかねぇ……」

 南里の直弟子の平賀でさえ、師匠である南里の全てを理解しているわけではない。

[1月30日07:20.天候:晴 JR大宮駅西口]

 敷島:「なるほど。科学館は土日忙しいから、あえて月曜日の定休日も入れた3連休にしてそこで行くってか」
 アリス:「そういうこと」
 敷島:「しかも、行き先が北海道とはな。沖縄に行けばいいのに……」
 アリス:「いいのいいの」
 敷島:「二海が留守番してくれてるから、トニーの面倒は心配無いんだがな?」
 アリス:「でしょ?だから家のことは任せたわよ」
 敷島:「それはいいけどさ」
 シンディ:「マスター、バスが到着しました」
 敷島:「シンディの電源は空港で落とすのか?」
 アリス:「そう。そして、それに詰める」

 シンディが持つ大きなキャリーケース。
 体を折り畳めば、確かに人が1人入れそうな勢いだが……。
 恐らく、エスパー伊東とはまた違った折り畳み方で入るのだろう。
 人間と違って呼吸困難だの、関節の痛みなどは気にしなくていいわけだから。
 羽田空港行きのバスは高速バス仕様で、後ろにトイレに付いているタイプだった。

 運転手:「お待たせしました。羽田空港行きです」

 運転手が降りてきて、バスの床下の荷物室のハッチを開けた。
 乗客はここに荷物を置いて、先にバスに乗って良いパターンらしい。

 敷島:「じゃあ、気を付けて行けよ」
 アリス:「あなたも。いくらエミリーが一緒だからって、調子に乗るんじゃないよ?」
 敷島:「分かってるって」
 シンディ:「だってさ。姉さん」
 エミリー:「シンディの・立場も・ある。それは・尊重する」

 エミリーにとっては敷島の浮気の監視は対象外なのであるが、あまり無視し続けているとシンディの立場も悪くなることは理解していた。
 だから、ある程度は抑止するつもりであると考えている。
 監視はしないが、ある一線を越えようとするとさすがに止める。
 後ろの方に乗ったアリスとシンディ。
 運転手が乗客の荷物を積み込み終わる頃、発車時刻になった。

 敷島:「こんな朝早くからとは……」

 バスのスライドドアが閉まり、だいたい時刻表通りに発車して行った。

 敷島:「京急は電車が飛ばすからバスも飛ばすって噂だ。ま、ダイヤ通りに着けるだろう」

 エミリーは微笑を浮かべると、口調をあの時のものに変えて言った。

 エミリー:「それでは社長、会社に参りましょうか。シンディの代役、しっかり果たさせて頂きます」
 敷島:「あ、ああ。頼むぞ」
 エミリー:「私にユーザー登録して頂き、ありがとうございます。とても嬉しいです」
 敷島:「まだ仮登録だ。早まるんじゃない」
 エミリー:「それなら、早く本登録を完了して頂けるように頑張ります」
 敷島:「ああ、よろしく」

 何故だか敷島はエミリーに一抹の不安を覚えつつ、そろそろ朝ラッシュで賑わいを見せる大宮駅の構内に向かった。
コメント (2)
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