報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「科学館の昼」

2017-02-09 22:45:08 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月8日12:00.天候:雨 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館]

 敷島と平賀は科学館内のカフェで昼食を取っていた。

 敷島:「平賀先生の話、良かったですよ」
 平賀:「どうも。ただ、自分は実物を前にした説明しかできないので、文書の資料をただ単に読み上げるようなことはしたくないので……」
 敷島:「エミリーが上手くアシストしてくれたじゃないですか。ただ、いくら天井の高いシアターホールだからといって、さすがに空を飛ぶのは無理だったようですが」
 平賀:「モノには限度ってものがありますからね」
 九海(このみ):「お待たせしましたー。『本日の日替わり定食』でーす!」
 敷島:「ああ、俺だ」

 メイドロイドの九海が料理を運んで来る。

 九海:「大盛りビーフカレーです」
 平賀:「ああ」
 九海:「今ならオイル交換無料です!」
 敷島:「ロイドじゃないし」
 九海:「バッテリーチェック無料です」
 平賀:「そういうのは、あそこにいるロボットに言いなさい」

 平賀はカフェの外で待機しているマルチタイプ姉妹を指さした。

 九海:「それではごゆっくりどうぞー」

 メイド服姿の九海はササッと下がった。

 敷島:「逃げるの上手くなりましたね?」
 平賀:「都合が悪くなるとそうする。人間の変な所を学習するようになっちゃいましたね」

 平賀はスプーンを手にして、カレーを口に運んだ。

 敷島:「午後の部もあるんですよね?講演会」
 平賀:「ええ。しかも、午前の部とはお題が違うんですよ」
 敷島:「午後の部は何ですか?」
 平賀:「『私のロボット研究理念』です」
 敷島:「へえ……。午前の部よりも、何だか固そうな……」
 平賀:「額面通りに話せばそうなるでしょうね。しかし、ここは大学でも学会でも無いんです。ロボット工学にはほとんどズブの素人である一般来館者が片手間で聴きに来るものです。かなり表現を簡単にして話さないと、すぐに飽きられるでしょうね」
 敷島:「なるほど」
 平賀:「敷島さんも講演してみたらいいんじゃないですか?」
 敷島:「ええっ?」
 平賀:「お題は、『私とボーカロイド』なんて……ね」
 敷島:「いやあ、私はプレゼンはよくやっていますが、講演はちょっとねぇ……」

 敷島は苦笑した。
 その後で、丼に入っている白米を口に運ぶ。

 平賀:「いいじゃないですか。自分も敷島さんのプレゼンを聴いたことがありますが、思わず自分も買いたくなりましたよ」
 敷島:「自分が造ったものを自分で買わないでください」
 平賀:「まあまあ。とにかく、プレゼンで上手く話せるんですから、講演会も大丈夫です」
 敷島:「ははは……」
 平賀:「話は変わりますが……。エミリーがワガママを言って、申し訳無いですね」
 敷島:「私、そんなに信頼されることしたんですかねぇ……」
 平賀:「自分も東京決戦の時は、危うく前期型のシンディに殺されるところでした。七海が助けに入ってくれなかったら、本当に冗談抜きで死んでいたでしょう。しかし、敷島さんは違う。幾多のロボットテロによる死線を掻い潜ってきたじゃありませんか。正直言って、あのシンディがあなたの命令を聞くこと自体が自分には信じられないくらいです。その証拠に、シンディは自分の命令を聞きませんからね」
 敷島:「そりゃま、平賀先生はシンディのオーナーにもユーザーにもなっていませんから。エミリーだって、アリスの命令はガン無視ですよ」
 平賀:「逆にアリスは、エミリーのオーナーでもなければユーザーでもないですからね。ですが、例外があるんですよ」
 敷島:「何ですか?」
 平賀:「敷島さん、あなたですよ」
 敷島:「えっ?」
 平賀:「あなたは表向き、エミリーのオーナーでもなければユーザーでもないんです。ところが、エミリーはあなたの言う事を聞いている。本来それはマルチタイプのシステム上、有り得ないんです。これはエミリーが自分で『そのように判断』して、自分で『システムを再構築』したということです」
 敷島:「何故そんなことを?」
 平賀:「それだけエミリーは、あなたを全面的に信頼しているということでしょう。既に、布石は打たれていたということなんですね」
 敷島:「エミリーからは、既にラブコールを受けましたよ」
 平賀:「南里先生の御遺言もあるのでオーナー登録の変更はさすがにムリですが、ユーザー登録の変更は可能です。もはやナツ(※)は名ばかりのユーザーですから、それを敷島さんに変更することは可能です。そう考えると、確かにエミリーとしては敷島さんに使ってもらった方が有意義なわけですね」

 ※平賀奈津子の愛称。平賀太一の妻で、アリスや平賀と違って、マルチタイプの研究にはあまり興味が無い。

 敷島:「平賀先生はそれでも構わないのですか?」
 平賀:「エミリーではないですが、彼女を使いこなせるユーザーは現時点で敷島さんしかいないのは事実でしょう。自分はエミリーを研究対象として使うことはできても、彼女の持ち味を十分に生かした使い方まではできない。でも、敷島さんならそれができる……と思います。南里先生も、敷島さんが使うのであれば喜んでくれますよ」
 敷島:「うーむ……」
 平賀:「気が向いたら、いつでも仰ってください。すぐに登録変更できるようにしておきます」
 敷島:「分かりました」
 
[同日13:00.天候:曇 DCJロボット未来科学館]

 九海:「ありがとうございましたー!」
 敷島:「ごちそうさん」

 敷島達はカフェを出た。

 エミリー:「敷島・社長、平賀・博士」

 カフェの外ではエミリーが待っていた。
 つい最近見せるようになった笑みを浮かべている。

 平賀:「待たせたな。それじゃ一旦、控え室に行くか。一服して」
 敷島:「シンディはどうした?」
 エミリー:「ゴンスケの・救助に・当たって・います」
 敷島:「ゴンスケ?あの農耕ロボットの?故障でもしたのか?」
 エミリー:「いいえ」

 科学館裏手にある畑では……。

 シンディ:「芋掘りロボットのくせに畑の土に埋まるアホがどこにいるんだ!」
 ゴンスケ:「土が柔らか過ぎました……」
 敷島:「これは……!?」
 エミリー:「畑を・柔らかく・耕したは・いいものの、雨で・更に・地盤が・緩んだ・もようです」

 そこにゴンスケが畑に入ったものだから、ズブスブと下半身が埋まってしまったということだ。

 敷島:「面白いことしてくれるなぁ。何気に、他にもロボットが埋まってんじゃないのか?」
 エミリー:「金属反応は・ありません」
 シンディ:「さすがにそれは無いよ、社長」
 敷島:「はははっ、それもそうだな」
 シンディ:(それにしても、いつも総合受付の横にいたPepperはどこに行ったんだろう?)
 Pepper:「助ケテ……」

 シンディの足の下に何故か埋まっていたPepperだった。
 シンディがいたので、エミリーも金属反応はシンディのものだと思ったのだろう。
コメント (1)
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