報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「シンディ再起動」

2017-02-21 19:13:47 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日17:00.天候:曇 北海道札幌市 東京REIホテル]

 敷島は初音ミクの専属マネージャーである篠里に電話を掛けた。

 篠里:「はい、篠里です」
 敷島:「あ、篠里君。私だけど、今電話大丈夫かな?」
 篠里:「社長!……奥様方の行方は分かりましたか?」
 敷島:「いや、あいにくとまだだ。それより今、ミクは仕事中かな?」
 篠里:「はい。テレビの収録です。まもなく終了しますが」
 敷島:「会社にはいつ戻る?」
 篠里:「そうですね……。私はこの収録が終わったら戻りますが」
 敷島:「キミじゃない。ミクはいつ戻る?」
 篠里:「恐らく、日付が変わる頃かと」
 敷島:「なにぃ?どういうことだ?」
 篠里:「社長、お忘れですか?ミクはオールナイトニッポンの特別ゲストとして呼ばれることになったんですよ」
 敷島:「あ……!なに?それが今日だって!?」
 篠里:「そうなんです。ですので、夜中過ぎになると思いますよ。まあ、ミクは人間じゃないので、深夜労働とかは無関係なので何の心配も……」
 敷島:「くそっ!こんな時に……!とにかく、ミクが会社に戻ったら、すぐに俺のケータイに連絡するように伝えてくれないか?」
 篠里:「えっ!?ですが、時間帯が……」
 敷島:「何時でもいいから!」
 篠里:「わ、分かりました」

 敷島は電話を切った。

 村中:「敷島社長、私と警視は一旦ここを出る。警視は今から道警本部に向かうところだし、私は北国観光バスの本社へ向かう。あなたはどうする?」
 敷島:「取りあえず、私は市内のホテルに泊まります」
 村中:「このホテルに泊まったらどうだい?ここなら街中だしね」
 敷島:「村中課長と鷲田警視は?」
 村中:「私達もこのホテルに泊まるよ。もしかしたら、犯人がここに戻って来る可能性も無きにしもあらずだからね」
 敷島:「分かりました。部屋、空いてるのかな……?」
 村中:「さっき聞いたら、ツインとダブルなら1つずつ空いてるってさ」
 敷島:「なるほど」
 鷲田:「おい、村中君。そろそろいいかな?」
 村中:「はい。それじゃ、そっちで分かったことがあったらすぐに教えてよ?」
 敷島:「分かりました」

 敷島は大きく頷いた。

 エミリー:「社長、ミクに何をやらせる気ですか?」
 敷島:「社長室に、お前やシンディの通信機があるだろう?」
 エミリー:「はい」

 遠くにいるマルチタイプと交信する際に使用する。
 放送用の卓上マイクを改造したものだ。
 ミクにはそれの通信機を使ってシンディに歌を送信する。
 その歌が電気信号となって、シンディを遠隔で再起動できるかもしれないということだ。

[2月4日時間不明(恐らく夜間) 天候:不明 場所不明]

 シンディ:「う……」

 シンディが再起動した。
 起き上がると、真っ暗な部屋にいるのが分かった。
 すぐに暗視カメラに切り替える。
 これでライトが無くても、暗闇での行動が可能。
 この機能はボーカロイドにも付いているが、使用中は目がオレンジ色または赤色にボウッと光るので不気味だと人間達からは不評である。

 シンディ:「ここは……?」

 どこかの廃屋のようだった。
 古い木張りの床があり、応接室だったのか、埃かぶった皮張りの茶色のソファが置かれている。

 シンディ:(マスター達の泊まっているホテル?いや、それにしては汚い部屋だね……)

 場所を特定しようとGPSを作動させようとしたが、何故か動かない。

 シンディ:(とにかくここを出ましょう)

 ドアを開けると、すぐに廊下になっていた。
 だがその廊下も、古い木張りの床になっている。
 壁も所々剥がれ落ちていて、まるでこれでは廃屋だ。

 シンディ:(一体何なのここは?どうして私はここにいるの?)

 廊下に置かれたスタンドは点灯しているので、停電しているわけではないようだ。
 つまり、見た目は廃屋同然であるものの、本当の廃墟というわけではない。
 2階に上がる階段があるようだが、シンディはそこではなく、もっと奥へ向かうことにした。
 もっとも、ここが1階だとも限らないが。
 少し進むと、キッチンがあった。
 どうやら、ここは普通の家らしい。
 造りが洋風なので、洋館か何かだろうか。
 しかし、人の気配は全くない。
 引っ越した後というよりは、それまで人が住んでいたのが、急にいなくなってしまって何年もそのままといった感じだ。
 何故なら家財道具はそのままだし、キッチンの鍋や腐った食材もそのままだからである。

 シンディ:(こんな所にマスターがいるとは思えない。マスターは一体、どこに?)

 キッチンを通り抜けて、また廊下に出る。
 随分と変わった構造の家だ。
 ようやく、外に出られそうなドアを見つけた。
 だが、カギが掛かっている。

 シンディ:「こんなもの……!」

 シンディはマルチタイプならではの力でドアを蹴破った。
 そして、外灯が照らす外へと出ようとした時だった。

 ガシッ!(シンディの右肩を何者かが掴む)

 シンディ:「!?」

 そして振り向かされると、そこにいたのは……。

 ???:「お前も『家族』だ」
 シンディ:「ぅあああああああああっ!!」

 シンディの体に高圧電流が走る。
 そこでシンディの電源は再び切れてしまった。

[同日03:00.天候:雪 北海道札幌市 東急REIホテル・客室]

 エミリー:「シンディ?シンディ!応答して!」

 エミリーは再びシンディの電源が切れたことを察知した。

 萌:「うるさいよ、エミリー。社長さんが起きちゃうよ」
 エミリー:「そうだった。だが、シンディの居場所が分かった」
 萌:「そうなの?」
 エミリー:「恐らく一瞬でも、電波が入る所に行ったんだろう。それを社長達に報告する」
 萌:「う、うん」

 1人の女性型ロイドともう1人の妖精型ロイドは、ベッドに横たわる人間の男を見た。

 萌:「社長さん、寝てるね」
 エミリー:「無理もない。奥様のことが心配で、ろくに眠れなかったのだ。だから初音ミクとの連絡は、勝手ながら私が代行させてもらった」
 萌:「怒られるんじゃない?」
 エミリー:「それでもいい。後でお役に立てたとなれば、私はそれでいい」
 萌:「そういうものかぁ……。ボクも井辺さんのお役に立てるといいな」
 エミリー:「朝になって社長が起床されたら、すぐに報告しよう」
 萌:「うん」
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“Gynoid Multitype Cindy” 「少しずつ分かってきたアリス達の足取り」

2017-02-21 12:15:23 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月3日16:45.天候:曇 北海道札幌市 東急REIホテル1Fロビー]

 支配人:「先ほどは失礼致しました」
 鷲田:「いやいや。何かありましたかな?」
 支配人:「この者が事情を知っているようですので、もしよろしければと思いまして……」

 支配人は、このホテルの制服を着たホテルマンの男性を連れて来た。
 ホテルマンは敷島達に一礼する。

 鷲田:「ご協力ありがとう。で、何をご存知なのかね?」
 ホテルマン:「実は当日(1月30日)のことなんですが、私がフロント業務に就いておりましたところ、1つのクレームがございました」
 村中:「クレーム?」
 ホテルマン:「はい。1人の男性のお客様だったのですが、こういった内容でした」

 男性客は新千歳空港に到着した後、このホテルにチェックインするつもりだったらしい。
 だから、最初から予約は入れていたわけだ。
 新千歳空港からどうやって札幌市内まで行こうか考えている時に、たまたま到着口の前に停車していたバスを見つけた。

 ホテルマン:「そのバスには大きく当ホテルの送迎バスと書かれていたそうで、それに乗って行かれようとしたそうです。ところが、『「これは団体専用だからダメだ」と断られた。そんなことどこにも書いてないのに、どうなってるんだ!』といった内容のクレームです」
 村中:「普通は団体専用と断られたら諦めるんだけど、いるんだよねぇ、そういうクレーマーが」
 敷島:「支配人さん、やっぱり団体専用とはいえ、送迎バスを走らせるんじゃないですか」
 支配人:「ところが当ホテルでは、そのような記録も連絡も全く無いんです」
 敷島:「は?」
 ホテルマン:「そのお客様が証拠の写真を撮影しようとカメラを向けたら、物凄い剣幕で運転手や案内係から怒鳴られたとも申されております」
 敷島:「その男性客はどこに?」
 ホテルマン:「あいにくと昨日、チェックアウトされております」
 支配人:「赤川君、もしかして、まだあの写真は残ってますか?」
 ホテルマン:「はい」
 支配人:「すぐに持って来てください」
 ホテルマン:「はい!」

 赤川という名のホテルマンは急いで、事務室に取って返した。

 鷲田:「あの写真というのは?」
 支配人:「例のお客様が近影ならムリだということで、そのバスが出発した後、望遠で撮影されたのですよ」
 村中:「クレーマーの執念は凄いねぇ……」
 支配人:「ご宿泊の最中は、ごく普通のお客様でした」
 敷島:「やはり、偽バスが出されていたんですね」

 少しして赤川というホテルマンが戻ってきた。

 赤川:「こちらになります」
 鷲田:「ほほぉ……」

 デジカメで撮影したのだろう。
 写真といっても紙に印刷されたものだ。
 そのバスは旧年式の三菱ふそう・エアロエースだった。

 
(バス会社は違うが、これが三菱ふそう・エアロエースの旧年式車)

 敷島:「結構、本格的な観光バスだ。一体、どこで手に入れたのやら……」
 鷲田:「ふむ……。というかこれ、北国観光バスじゃないか。一体どうなってる?」
 村中:「まさか、北国観光バス自体がグルだったとか?」
 敷島:「ええっ?」
 支配人:「因みに、こちらが当ホテルの送迎バスになります」

 支配人はタブレットでホテルの公式サイトを見せた。
 そこには送迎バスの写真もある。

 敷島:「色が違う」
 支配人:「ええ。当ホテルの送迎バスも、バス会社に運行を委託したものでありますが、専用の塗装で運行して頂いております」
 鷲田:「すると、そのバス会社オリジナルの塗装で運転されるということは……?」
 支配人:「基本的にございません。それ以前に、新千歳空港からは運行しておりませんし」
 鷲田:「なるほどな」
 敷島:「ん?これは……」

 写真は何枚かあるのだが、最後の1枚はバスの後部を写したものだった。
 ボールペンでナンバープレートのところに矢印がしてあり、手書きでナンバーが書かれていた。

 赤川:「お客様は、バスのナンバーまで御記憶でした。それでメモしたんです」
 村中:「クレーマーの執念は凄いねぇ……」

 そのナンバーは、『札幌231 は 27-39』とあった。

 敷島:「初音ミクかよw」
 鷲田:「ちょっと待った。事業用(緑ナンバー)の場合、平仮名で、『は』は使えんぞ」
 敷島:「ええっ!?」
 村中:「うん。緑ナンバーで使える平仮名は、『あ』『い』『う』『え』『を』『か』『き』『く』『け』『こ』だけだ」
 敷島:「そうなんですか!」

 因みに『お』は白ナンバーや軽自動車ナンバーでも使えない。
 代わりに『を』を使う。

 敷島:「ということは……」
 鷲田:「バスは知らんが、ナンバーは偽造ナンバーだということだ」
 村中:「警視、これで少しずつはっきりしてきましたね」
 鷲田:「うむ。道警に頼んで、この偽バスの行き先を探ってもらおう。あと、北国観光バスに、『おたくのバスが犯罪に使われた』とでも言っとけ」
 村中:「はい!」

 とはいえ、敷島は北国観光バスそのものがアリス達誘拐の一翼を担っていたとは思えなかった。
 もし会社や営業所ぐるみなら、わざわざ偽造ナンバーを取り付ける必要は無い。
 本物のバスを使って、ごくありきたりのツアーバスを装えば良いのだ。
 それとも、バス1台が盗難にでも遭ったのだろうか?
 或いは、犯人達が道内にある本物の観光バスを装う為に、たまたま北国観光バスと同じ塗装に塗ったか。

 敷島:「ん?」

 と、そこへ敷島のスマホが鳴った。
 取ってみると、画面には小山副館長の名前が出ていた。

 敷島:「ちょっと失礼します」

 敷島は席を立つと、少し離れた場所に移動した。

 敷島:「もしもし?」
 小山:「あ、敷島さん。今、電話よろしいですか?」
 敷島:「はい」
 小山:「実は、もしかしたらシンディを遠隔でONにできるかもしれない方法が見つかりました」
 敷島:「おおっ!それは何ですか?」
 小山:「初音ミクの持ち歌に、『ミクのドドンパ』というのがあるでしょう?」
 敷島:「はい」
 小山:「あれを何とかシンディに聴かせれば、再起動できるかもしれないようです」
 敷島:「その方法が……」
 小山:「方法につきましては、私より詳しい敷島さんにお任せします。それでは……」

 小山が電話を切ったので、敷島も電話を切った。

 敷島:「えーと……どうしようかな?……あ、なるほど」

 敷島は取りあえず、ミクのマネージャーに電話をすることにした。
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