報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「選択肢、どうしよう……?」

2017-02-26 22:16:26 | アンドロイドマスターシリーズ
[2月4日19:45.天候:曇 北海道日高地方・廃ペンション別館内]

 萌が別館の地下室で男性の死体を発見した。
 その死体はどういうわけか佇んでいる形になっていて、萌が近づいたら、まるで彼女を押し潰すかのように倒れて来た。
 殴られて殺されたのか、顔中血だらけのボコボコ状態だ。

 敷島:「エミリー、一旦戻れ!萌はそのままでいい!死体を発見しただけでも警察の出番だ!」
 エミリー:「了解しました!」

 エミリーは隠し部屋から応接室に戻った。

 エミリー:「!?」

 応接室のドアは開けっ放しになっていた。
 その開けっ放しのドアの前を、あの黄色いジャンパーの男がスッと横切った。
 右から左に。
 それはつまり、先ほど施錠されていたドアから来たということである。

 エミリー:「……!」

 廊下からエミリーの姿はバッチリ見えたはずだ。
 だが何故か黄色いジャンパーの男は、エミリーの姿が見えないかのように、応接室には目もくれずに立ち去って行った。

 エミリー:(罠か?)

 安心して廊下に出ようとすると、実はそこで待ち伏せしていて……というのはよくあることである。
 エミリーは右手を光線銃に変形させたまま、廊下をそっと覗いた。
 そこには誰もいなかった。
 それでも歩くスピードはあえてゆっくりだ。
 この廃屋(に限り無く近い状態の建物)の構造が熟知できていない以上、少なくともエミリー達よりよく知っているテロリスト達の方が断然有利である。
 エミリーがキッチンの中を通って、裏口に通じる廊下に出た時だった。

 敷島:「うわっ、何だお前ら!?」
 星:「警察だ!手を挙げろ!」
 矢ヶ崎:「警部補、向こうからも来ました!」

 エミリーの耳に、敷島達の声が聞こえてきた。
 そして、同時に銃声も聞こえてきた。

 エミリー:「社長!?」

 エミリーは急いで裏口のドアに掛け寄った。

 エミリー:「くっ……!」

 だが、ドアには鍵が掛けられていた。
 腐りかけた木製のドアだ。
 こんなもの、エミリーの力を持ってすれば簡単にこじ開けられるはずだった。

 エミリー:「何故!?」

 だが、どういうわけだか、ビクともしない。
 それでも、ようやく少しだけ開いた。

 ???:「フッフッフ……ハハハハハハハハハ!」
 エミリー:「誰だ、貴様!?」

 ドアの隙間から、あの黄色いジャンパーの男が得意げな笑みを浮かべてきた。
 エミリーは光線銃を放った。
 だが、男はスッとドアの外に隠れた。
 そして、ドアが思いっ切り閉まる。

 エミリー:「開けろ!!」

 今度はどんなにしてもドアが開かなかった。

 エミリー:「社長!社長!何かありましたか!?応答してください!」

 エミリーは端末の向こう側にいるはずの敷島に問い掛けた。
 だが、敷島からの応答は無かった。

 エミリー:「ど、どうしよう……?」

 敷島達の車がテロリスト達に見つかったのかもしれない。
 エミリー達がこの廃屋内に入り、閉じ込めたところで襲撃する算段だったのだろうか。

 エミリー:「萌を助けに行こう」

 エミリーは先ほどの場所に戻ることにした。
 因みにキッチンの入口の所には観音開きの戸棚があり、そこはチェーンで封印されている。

 エミリー:「どういうこと?」

 先ほどのジャンパーの男が出てきたと思われるドアは、相変わらず鍵が掛かっていた。
 鍵を閉めて出て来たのだろうか?
 エミリーは地下室の入口まで来ると、意を決して梯子を下り始めた。
 だが、案の定……。

 エミリー:「!?」

 バキッ!という音がして、木製の梯子が折れた。
 そして、その後も梯子は折れて、エミリーは地下室の床に叩き付けられてしまった。

 エミリー:「チッ……!」

 もちろんそこはマルチタイプ。
 この程度で壊れるようなタマではない。
 だが、梯子は折れて登れなくなってしまった。
 まあ、いざという時は有線ロケットパンチを応用して上がれば良い。

 エミリー:「萌、大丈夫か?」
 萌:「うう……」

 エミリーは萌を男性の死体から引きずり出した。

 萌:「あー、ヒドい目に遭った……。結局、エミリー来たんだね」
 エミリー:「それより大変だ。社長達がテロリストの襲撃に遭ったらしい」
 萌:「ええっ!?」
 エミリー:「早く救助に行きたいが、どういうわけだか裏口のドアが開かない。私の力でもこじ開けられない。どこか、別の出口を探さないと……」
 萌:「分かった。奥へ進もう。何か、嫌な予感がするけれど……」
 エミリー:「テロリスト達が隠れているようなら、遠慮無く応戦する」
 萌:「う、うん。それよりこの人、何か持ってるよ」
 エミリー:「?」

 死体と化している男性は、ジーンズにTシャツ姿である。
 ジーンズのポケットからは、ハンドガンの弾が数発とメモ書きが入っていた。

『役立たずにはこれがお似合い!』

 萌:「仕事でミスって殺されたのかなぁ?」
 エミリー:「テロリスト達の繋がりなど、所詮こんなものだろう」

 ハンドガンの弾は持っていたが、肝心のハンドガンは持っていなかった。
 エミリーと萌は地下室の更に奥へ向かった。

 エミリー:「水が溜まってる」
 萌:「深くない?」
 エミリー:「膝くらいの高さだな」

 萌は飛べるので水に入らなくて済む。

 エミリー:「アメリカのDCI研究所みたいに、水中に適したテロ・ロボットが仕掛けられてるかもしれない。気をつけろ」
 萌:「う、うん」

 ザコとしてピラニアがモデルで、それを大型化したロボットや、中ボスとしてマーティという名のマーメイド型ロイドがいた。
 因みにこのマーティ、今は修理されて日本へ空輸され、大型の水槽を備えたメキシカンレストランに引き取られている。
 レストランのショーに出ているらしい。
 エミリーは時折、水面や水中をスキャンして敵の襲撃に備えた。

 エミリー:「! 何か聞こえる。……水の音?」
 萌:「きっと、この水が流れて来る所じゃない?」

 地下水でも湧き出しているのだろうか。
 突き当りに行くと、歪んだ鉄の扉があった。
 その隙間から、水がバシャバシャと噴き出ている。
 一体このドアの向こうには何があるのだろうか?
 エミリーはドアをこじ開けた。

 エミリー:「何これ?」
 萌:「……トイレ?」

 ドアの向こうには、トイレがあった。
 それも昔の高速道路のサービスエリアというか、昔の百貨店のトイレというか、とにかく大人数が用を足せればそれで良い的な感じの殺風景な造りの広いトイレだった。
 今はそんな考えは通用せず、如何に快適に過ごせるかが求められている時代だが。
 古いトイレが漏水するというのは、よくあることである。
 ところが、ここのトイレは漏水の仕方が尋常ではなかった。
 全ての水道から、蛇口全開なほどの勢いで水が噴き出していたのだった。
 水資源の垂れ流しもいい所だが、しかし水道から水が出るということは、やはり廃墟ではないのだろうか。
 よく見ると、天井の蛍光灯も一部だけだが点灯している。

 萌:「エミリー、反対側にドアがあるよ?」
 エミリー:「よし、あそこへ行こう」

 2人のロイドは萌が指さしたドアへ向かった。
 水圧でちょっとやそっとの力では開きそうに無いが、エミリーの力を持ってすればこじ開ける自信はあった。
 いざとなれば、そのドアを壊してもいい。
 と、その時だった。

 萌:「わあっ!」

 閉まっている個室のドアが壊れて開いた。
 しかし、そこからは先ほどの死体よりも更に腐敗の進んだ男の死体が飛び出してきた。
 もちろん、ゾンビとかではなく、死体が勢い良く噴き出す水道の水圧に押されて出て来ただけである。

 萌:「どういうこと!?また人が死んでるよ!?」
 エミリー:「テロリストに殺された人達か、或いはテロ組織内部の紛争で殺されたテロリストか……」

 少なくも地下室内で萌を押し潰し掛けた死体は、組織から粛清されたテロリストのようである。
 エミリーは反対側のドアに辿り着くと、そのドアを蹴破った。
 水がザザーッとドアの向こうに流れて行く。

 エミリー:「何だこの構造は!?」

 水はドアの向こう側にある側溝に流れ込んで行く。
 その先には数段ほどの石段があり、そこを登ることで、ようやくエミリーは浸水から解放されたのである。
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