報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「渋滞時のシーンはカットで」

2022-05-11 20:10:16 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月1日14:00.天候:雨 東京都渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿→ニュウマン新宿・飲食店]

 降りしきる雨の中、稲生達を乗せた高速バスは、およそ1時間50分の遅延をもってバスタ新宿に到着した。

 稲生:「あー、やっと着いた……」
 マリア:「うん。確かにバスの中にトイレ付いてて正解だわ」

 マリアはローブを羽織ると、荷棚で寝そべって寝ている人形達をバッグの中にしまう。

 稲生:「それよりお腹空いたね」
 マリア:「それだ。ワンスターホテルに行く前に、遅いランチにしよう。というか、これのおかげで、食べたらすぐホテルに行ける」
 稲生:「本当はその前に秋葉原散策とかしたかったんだけど……」
 マリア:「ん?何か言った?」
 稲生:「い、いや、別に……」
 マリア:「? そうか?」

 2人はバスタ新宿からJR新宿駅方面に向かった。
 途中にニュウマン新宿というファッションビルがある。
 バスタ新宿からも傘を差さずに行けて、飲食店もある。
 飲食店は昼時を過ぎたこともあり、そんなに混んでいなかった。
 そのうちの1つの店舗に入ると、カウンター席に横並びに座る。

 稲生:「ビーフカレー食べたかったんだ」
 マリア:「そういえば最近、屋敷の食事に出てなかったな……」

 カレーの発祥の地はインドであるが、それをナンではなくライスに掛け、尚且つとろみのあるルーにしたのは宗主国のイギリスである。
 その為か、そのイギリス人のマリアがいるからなのか、屋敷の食事にもたまにカレーが出てくることがあった。
 あくまでも、たまにである。
 それというのも、マリアはあまりそこまでカレーが好きと言うわけでもなく……。

 マリア:「この、限定ランチのハンバーグ定食はまだありますか?」
 店員:「はい、ございますよ」
 マリア:「それでは、これを……」
 店員:「かしこまりました」

 カレーではなく、ハンバーグ定食を注文した。
 稲生は大きなビーフの入っているビーフカレーを注文した。

 稲生:「このカレー、美味しいや」
 マリア:「あまり食べ過ぎると、今度はディナーが食べにくくなるからな……」
 稲生:「エレーナのホテルの話?」
 マリア:「そう。本当に藤谷さんも来るって?」
 稲生:「そうなんだよ。藤谷班長の会社、本社が墨田区にあるからね。……エレーナのホテルには、エレーナの知り合いのウクライナ人が滞在しているらしいね」
 マリア:「何だかんだ言って、母国に知り合いがいるんじゃないか。それにエレーナが藤谷さんに泣きついて、藤谷さんから支援金をせしめたという……」
 稲生:「本当に避難民に使うだけならいいけど、エレーナのことだから、『中間マージン頂くぜ!』って懐に入れそうだね」
 マリア:「それな」
 稲生:「あとは、鈴木君がいくらか出すだろうね」
 マリア:「懐に入れるなら、鈴木の金にしろって言いたい」
 稲生:「ハハハ……」

 この後、食後のコーヒーを飲んでから、店をあとにした。

[同日15:00.天候:雨 東京都新宿区西新宿 都営地下鉄新宿駅・新宿線ホーム→新宿線1488K電車先頭車内]

〔「5番線、ご注意ください。各駅停車、本八幡行きが長い10両編成で参ります。ホームドアから下がってお待ちください」〕

 エレーナのホテルがある森下まで、都営新宿線一本である。
 そのホームは京王新線と共同であるが、管理は京王電鉄である。
 その為、改札口やホームに立っている駅員は京王の社員であり、東京都交通局の職員はいない。
 駅の自動放送も京王のものだし、改札機の意匠も京王である。
 電車を待っていると、笹塚駅から京王の車両が入線してきた。
 雨が降っているからか、車体は濡れている。
 京王新線は地下線であるが、笹塚駅は地上にある為、雨が降っていれば濡れる。

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。5番線の電車は、各駅停車、本八幡行きです」〕

 

 ローズピンクの座席に腰かける。
 緑色の塗装が目立つ都営車ではないせいか、マリアの契約悪魔のベルフェゴールがモブキャラとして現れることはなかった。

〔「各駅停車の本八幡行きです。途中駅での急行の通過待ち合わせはございません。まもなく、発車致します」〕

 1分の停車時間の後、ホームに発車ベルが鳴り響いた。

〔「5番線から各駅停車の本八幡行き、発車致します」〕

 ピンポーンピンポーンと2回ドアチャイムが鳴って、ドアが閉まる。
 ホームドアが閉まって、運転席から僅かに発車合図のブザーが聞こえてくる。
 ガチャッとハンドルを操作する音が聞こえて来たかと思うと、床下からエアーの抜ける音が聞こえた。
 それから、電車がスーッと走り出した。
 先頭車はモーターの積んでいないクハ車である為、あまりインバータ制御のモーターの音は聞こえてこない。

〔都営新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は、各駅停車、本八幡行きです。次は新宿三丁目、新宿三丁目。丸ノ内線、副都心線はお乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔This is the local train bound for Motoyawata.The next station is Shinjyuku-sanchome.S02.Please change here for the Marunouchi line and the Fukutoshin line.〕

 マリア:「駅に着いたら、ホテルまで外歩きだろう?雨は止む様子が無い」
 稲生:「そうかぁ……」
 マリア:「多分、今日1日ずっと雨だよ」
 稲生:「春になったら、雨が降るようになるね」

 その為か、エレーナの“魔女の宅急便”も、雨の時は割増料金になるという。

 稲生:「一応、エレーナに今、地下鉄で向かっているという連絡はしておこう」
 マリア:「その方がいいな」
 稲生:「もしかして、ホテル貸切状態なのかな?避難民の」
 マリア:「小さなホテルだけど、1フロアにつき、10部屋くらいあって、それが5階建てだろう?全部部屋を避難民で埋めたら、相当な数になるんじゃないかな?」
 稲生:「それもそうかぁ……」

 エレーナから返信が来た。
 『了解だぜ!待ってるぜ!』とか、『避難民には一部の部屋しか貸してねーよ』とか書いてあった。

 稲生:「やっぱりな」

 稲生は微笑を浮かべて、スマホをしまった。
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“大魔道師の弟子” 「中央高速バス白馬線」

2022-05-11 15:45:12 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月1日06:50.天候:曇 長野県北安曇郡白馬村 白馬八方バスターミナル]

 

 屋敷から車で村内のバスターミナルまで送ってもらった稲生とマリア。
 発車時間まではターミナルの中で過ごした。

 稲生:「午後から雨か……」

 天気予報を水晶玉か何かで占えばカッコ良かったのだが、稲生はフツーにスマホの天気予報を見ていた。
 マリアはトイレに行っている。
 と、屋外のバス発着場に1台のバスが横付けされた。
 あれが2人がこれから乗る、バスタ新宿行きの高速バスである。

 係員:「7時ちょうど発、バスタ新宿行きの御案内を開始しまーす」

 1番乗り場は東京方面行きのバスが発車する。

 マリア:「お待たせ」

 トイレからマリアが戻って来た。

 稲生:「もうバスに乗れるみたいだよ。準備はいい?」
 マリア:「OKだ」

 2人は乗車券を手に、バス乗り場に向かった。
 外の自販機で、飲み物だけは買って行く。
 GWということもあってか、乗客は多かった。

 運転手:「稲生様、3Bです」
 稲生:「はい」
 運転手:「マリアンナ様、3Aです」
 マリア:「Thanks.」

 バスに乗り込む。
 座席は4列シートながら、シートピッチの広いタイプ(JRバス関東で言うところの“楽座シート”のようなもの)である。
 因みに夜行便もこのタイプだ。
 荷棚の上にバッグを置くと、そこから現れるはミク人形とハク人形。

 稲生:「GWだから、もしかしたら高速、渋滞するかもなぁ……」
 マリア:「まあ、しょうがない。どうせ時間はあるんだから。日暮れまでには着くでしょ?」
 稲生:「そ、それはさすがにそうでしょ」

 とはいうものの、そこまで予知できない2人。

 マリア:「まあ、朝食でも食べよう」

 座席の小さなテーブルを出して、そこにメイド人形に作ってもらったサンドイッチを置いた。

 稲生:「ダイヤ通りに……着けないよな……」

 稲生は昨日のニュースを見て、首を傾げた。
 昨日もGWで交通機関は混雑したらしい。

 稲生:「どの辺で渋滞にハマるか……」

 発車時刻は、だいたい時間通りだった。
 始発乗り場くらいは、定刻通りに発車できたが……。

〔「本日はGW期間中の為、特に中央自動車道内において大きな渋滞が予想されます。この為、通常より到着予定時刻が大幅に遅れることがございます。予め、ご了承ください」〕

 という運転手の放送が流れた。
 マリアはローブを脱いで、ひざ掛けの代わりに使っている。
 今日から東京中央学園では衣替えということで、その制服をモチーフにしたマリアの服も衣替えである。
 ブレザーは着ておらず、グレーのニットのベストに緑色のプリーツスカートを穿いている。
 首に着けてるリボンは臙脂色。

 稲生:「結局、イリーナ先生、一度も屋敷に帰って来ませんでしたね」
 マリア:「師匠のことだから、捕まってるってことはないだろうけど……。北海道の件があるからなぁ……」
 稲生:「でも北海道の時は、相手は“魔の者”の眷属だったんだから仕方無かったんじゃ?」
 マリア:「“魔の者”がロシアにいないとは限らないだろうし、というか多分いるし」
 稲生:「そ、そうか……」
 マリア:「私が昨夜見た夢の話、まんざらでもないかもしれないよ?」
 稲生:「“魔の者”の黒い影が現れたって話か」

 寝ているマリアの上に覆い被さるようにして、黒い人影が耳元で囁いた。

 魔の者?:「極東の島国であれば、いつまでも安全だと思うなよ?」

 と。

 稲生:「! それって、マリアが狙われてるってこと?」
 マリア:「あの夢がただの夢ではなかったらね。まあ、北海道の時だって、元々は私が狙われてたわけだから」
 稲生:「あー、そっかぁ……」

 悪魔と契約して永遠の命と若さを手に入れた魔女の臓器を狙う人外もいる。
 特に女の魔法使いという意味での魔女は、その子宮や心臓を狙う者もいる。

 稲生:「警告や脅迫のようにも見えるし、ただの負け惜しみにも見える」
 マリア:「勇太はどっちだと思う?」
 稲生:「僕は後者かな。マリアのお母さんとかも送って寄越した事はあったけど、結局“魔の者”本人はここに現れていない」
 マリア:「なるほど。他には?」
 稲生:「もしも“魔の者”本人が日本国内に侵入可能だと分かったら、イリーナ先生や大師匠様も黙ってはおられないはず。でも、イリーナ先生がそもそもロシアに行ったっきりだということは、まだその可能性は低いということだよ」
 マリア:「北海道の時は、師匠がヘマして捕まったりしたけどな」
 稲生:「まあ、そんなこともあったね」
 マリア:「なので、藤谷さんの功績は大きいわけだよ」
 稲生:「また競馬の予想立てて欲しいみたいだけど、今回は無理だろうなぁ……」
 マリア:「まあ、しょうがない」

[同日08:45.天候:曇 長野県松本市 長野自動車道・梓川SA]

 バスは途中のバス停で乗客を拾い集めた。
 これでこのバスは、ほぼ満席となる。
 最後の乗車扱いの停留所を出ると、バスは長野自動車道へと入った。
 それからすぐに最初の休憩地、梓川サービスエリアに入る。

〔「梓川サービスエリアです。こちらで15分ほど休憩致します。発車は9時ちょうどです」〕

 稲生:「ちょっと降りてみよう」
 マリア:「うん」

 マリアは膝に掛けていたローブを羽織ると、稲生と一緒にバスを降りた。

 サービスエリアとしては大きい方で、ガソリンスタンドもある。
 ここを休憩地としているのは、偏に店舗経営を同じアルピコ交通がやっているからだろう。
 ガソリンスタンドは違うようだが……。

 マリア:「トイレに行って来る」
 稲生:「僕も行く」

 サービスエリアはGW期間中ということもあって、多くの車が休憩していた。
 大型駐車場は日曜日ということもあり、トラックよりもバスの方が多かった。
 高速路線バスだけでなく、貸切観光バスも目にできるようになったのは、今年のGWが何のコロナ規制も無いことへの現れであろう。
 トイレを済ませた稲生は、自動販売機に寄って紙コップ販売のコーヒーを買い求めた。
 あまりトイレ付近に掲示されている、渋滞情報は見ないようにした。
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