報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「宗一郎の会社へ」

2022-05-14 19:54:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月2日07:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル→マジックスター]

 稲生の枕元に置いたスマホが、アラームを鳴らす。

 稲生:「うーん……」

 稲生は手を伸ばして、アラームを止めた。

 稲生:「もう朝かぁ……」

 枕が変わると抵抗無く起きれるものだが、今回は訳の分からぬ夢を見たということもあり、どちらかというと深く眠れた感は無い。
 浅い眠りのまま、朝を迎えたといった感じ。

 稲生:「ううーん……」

 起き上がってカーテンを開く。
 雨は止んでいるようだが、まだ曇っていた。
 欠伸をしながら、バスルームに向かった。
 顔を洗って歯を磨いていると、LINEの着信がある。
 見ると母親の佳子からで、今日は平日の為に、父親の宗一郎は会社に出勤するという。

 稲生:「へえ……」

 そこで稲生は、お使いを頼まれた。
 父親の会社に行き、父親から封筒を受け取って来て欲しいというものだ。
 その中身は、今度行く家族旅行で使う旅行券の引換券が入っているのだそうだ。
 随分まだるっこしいことだが、恐らく優待券とか法人割引の関係とか、その辺りだろう。

 稲生:「本当は秋葉原に行きたかったのに、先に八丁堀に行くハメになりそうです」

 マリアと合流して1階のレストランで朝食を取りながら、稲生は言った。

 マリア:「そう、なんだ。じゃあ、正装した方がいいかな?」
 稲生:「別にいいんじゃない?仕事で行くわけじゃないんだし。それに、ローブは着てるしね」

 帰省なので、稲生も私服である。
 さすがにダンテと会うだとか、魔界の魔王城に行くとあらばスーツくらいは着るが。

 マリア:「それもそうか。……ハッチョーボリってどこにあるの?大手町じゃなかったっけ?」
 稲生:「父さんの会社、移転したからね」

 元々は大手町にあったのだが、それは築年数が古い建物で、東日本大震災の影響もあり、数年前に移転したそうである。

 マリア:「そうなんだ。で、どうやって行く?」
 稲生:「幸い、そこの通りを走るバスが八丁堀地区まで行くから、それに乗って行けばいいと思う。まだ八丁堀で良かったよ」
 マリア:「どうして?」
 稲生:「八丁堀は地下鉄日比谷線が通っててね、それに乗れば秋葉原まで行けるんだ」
 マリア:「そういうことか」
 稲生:「10時半くらいに行けばいいらしいから、時間合わせて行こう」
 マリア:「分かった」

[同日10:09.天候:曇 同地区 森下駅前バス停→都営バス錦11系統車内]

 ホテルをチェックアウトした2人は、その足で最寄りのバス停に向かった。
 ゴールデンウィーク期間中であるが、今日は平日であり、カレンダー通りの企業であれば、出勤日である。
 多くの大企業では有給休暇取得奨励日なるものを設けており、実質10連休にする所が多いが、もちろんそうでないこともある。
 “かりあげクン”の会社は中小企業であるが、有休休暇奨励日が設けられ、多くの社員は喜んで有休を使ったが、遅刻・欠勤・早退の多いかりあげクンだけ出社していたという。

 稲生:「バスが来ました」

 都営バスの特別区内は前乗り。

 前から乗った稲生達は、Suicaで運賃を払う。
 朝ラッシュが終わった後の為か、車内は空いていた。
 空いている2人席に腰かける。

〔発車致します。お掴まりください〕

 バスは稲生達を乗せると、すぐに発車した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは、浜町中の橋経由、築地駅前行きでございます。次は新大橋、新大橋でございます。……〕

 新大橋バス停を出ると、バスは新大橋を渡る。
 その橋は隅田川に架かる橋なのだが、その橋の上からの眺めは良い。
 何となく東京スカイツリーも見えそうな気がするのだが、川沿いにタワマンが建っているからか、さすがに見ることはできなかった。

[同日10:30.天候:曇 東京都中央区八丁堀 稲生宗一郎の会社]

 バスは渋滞に巻き込まれることなく、順調に運行できたので、ダイヤ通りに走れたのだろう。
 中央道の大渋滞に巻き込まれた高速バスとは、雲泥の差である。
 平日の東京都心は多くの営業車が行き交っているが、さすがに今日は休んでいる者が多いからだろう。
 バス停から徒歩数分の所に、宗一郎の会社があった。
 入ると受付カウンターはあったが、そこに受付係はおらず、代わりにホテルの自動チェックイン機のような機械があった。

 稲生:「えーっと……」

 近づくと画面が変わる。

〔いらしゃいませ。受付方法を選択してください〕

 稲生:「僕の名前でいいのかな……」

 稲生が自分の名前を入力すると、とある社員の名前が出て来た。
 それは宗一郎の秘書の名前であることは知っていた。
 その名前を選択する。

〔この内容でよろしければ、「次へ」を選択してください〕

 それを押す。

〔担当者へ、連絡しました。入館証の発行は、ございません。ロビーのソファにお掛けになって、お待ちください。まもなく、担当者が参ります。お待ちください〕

 稲生:「これでいいのか……!」
 マリア:「ハイテク……!」

 エントランスで立哨している警備員が、何も言ってこないところを見ると、これで良いのだろう。
 しばらくすると、セキュリティゲートの向こうから、稲生と大して歳の変わらぬ男性社員がやってきた。

 社員:「稲生様でいらっしゃいますか?」
 稲生:「あ、はい。そうです」
 社員:「私、秘書部の者ですが、担当が別件対応中でして、代理で参りました」
 稲生:「あ、そうなんですか」
 社員:「こちらが副社長からお預かりした封筒です。御確認ください」

 しばらくの間、専務取締役関東統括エリア本部長だった稲生宗一郎だったが、イリーナの多大なる助力もあり、代表取締役副社長に昇格していた。
 初登場時は、執行役員埼玉支社長だったのだが。
 しかし、これ以上イリーナからの音沙汰が無いということは……。

 稲生:「……あ、はい。大丈夫です。言われた内容通りです」

 稲生は一応封筒を開けてみて、中に引換券が入っているのを確認した。

 社員:「それでは、よろしくお願い致します」
 稲生:「あ、はい。父にも、よろしくお伝えください」
 社員:「承知しました」
 稲生:「それでは失礼致します」
 社員:「失礼致します」

 稲生は封筒を受け取ると、それをローブのポケットの中にしまう。
 ローブのポケットは、まるで四○元ポケ○トのようになっており、スッポリと入っていった。

 稲生:「あー、緊張した」
 マリア:「私の方が緊張したよ。まさか、セレクタリ(秘書)が代理で持ってくるなんて……」
 稲生:「副社長だから、平日はガッツリ忙しいのかもね」

 でも、休日は休む。
 今でも接待ゴルフなんてあるのだろうか。
 あんまり宗一郎がゴルフに行くところは、見たことが無いが……(でも、ゴルフバッグはある)。

 稲生:「それじゃ、今度はアキバに行こう」

 2人は地下鉄八丁堀駅に向かった。
コメント
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