[5月2日07:00.天候:曇 東京都江東区森下 ワンスターホテル→マジックスター]
稲生の枕元に置いたスマホが、アラームを鳴らす。
稲生:「うーん……」
稲生は手を伸ばして、アラームを止めた。
稲生:「もう朝かぁ……」
枕が変わると抵抗無く起きれるものだが、今回は訳の分からぬ夢を見たということもあり、どちらかというと深く眠れた感は無い。
浅い眠りのまま、朝を迎えたといった感じ。
稲生:「ううーん……」
起き上がってカーテンを開く。
雨は止んでいるようだが、まだ曇っていた。
欠伸をしながら、バスルームに向かった。
顔を洗って歯を磨いていると、LINEの着信がある。
見ると母親の佳子からで、今日は平日の為に、父親の宗一郎は会社に出勤するという。
稲生:「へえ……」
そこで稲生は、お使いを頼まれた。
父親の会社に行き、父親から封筒を受け取って来て欲しいというものだ。
その中身は、今度行く家族旅行で使う旅行券の引換券が入っているのだそうだ。
随分まだるっこしいことだが、恐らく優待券とか法人割引の関係とか、その辺りだろう。
稲生:「本当は秋葉原に行きたかったのに、先に八丁堀に行くハメになりそうです」
マリアと合流して1階のレストランで朝食を取りながら、稲生は言った。
マリア:「そう、なんだ。じゃあ、正装した方がいいかな?」
稲生:「別にいいんじゃない?仕事で行くわけじゃないんだし。それに、ローブは着てるしね」
帰省なので、稲生も私服である。
さすがにダンテと会うだとか、魔界の魔王城に行くとあらばスーツくらいは着るが。
マリア:「それもそうか。……ハッチョーボリってどこにあるの?大手町じゃなかったっけ?」
稲生:「父さんの会社、移転したからね」
元々は大手町にあったのだが、それは築年数が古い建物で、東日本大震災の影響もあり、数年前に移転したそうである。
マリア:「そうなんだ。で、どうやって行く?」
稲生:「幸い、そこの通りを走るバスが八丁堀地区まで行くから、それに乗って行けばいいと思う。まだ八丁堀で良かったよ」
マリア:「どうして?」
稲生:「八丁堀は地下鉄日比谷線が通っててね、それに乗れば秋葉原まで行けるんだ」
マリア:「そういうことか」
稲生:「10時半くらいに行けばいいらしいから、時間合わせて行こう」
マリア:「分かった」
[同日10:09.天候:曇 同地区 森下駅前バス停→都営バス錦11系統車内]
ホテルをチェックアウトした2人は、その足で最寄りのバス停に向かった。
ゴールデンウィーク期間中であるが、今日は平日であり、カレンダー通りの企業であれば、出勤日である。
多くの大企業では有給休暇取得奨励日なるものを設けており、実質10連休にする所が多いが、もちろんそうでないこともある。
“かりあげクン”の会社は中小企業であるが、有休休暇奨励日が設けられ、多くの社員は喜んで有休を使ったが、遅刻・欠勤・早退の多いかりあげクンだけ出社していたという。
稲生:「バスが来ました」
都営バスの特別区内は前乗り。
前から乗った稲生達は、Suicaで運賃を払う。
朝ラッシュが終わった後の為か、車内は空いていた。
空いている2人席に腰かける。
〔発車致します。お掴まりください〕
バスは稲生達を乗せると、すぐに発車した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは、浜町中の橋経由、築地駅前行きでございます。次は新大橋、新大橋でございます。……〕
新大橋バス停を出ると、バスは新大橋を渡る。
その橋は隅田川に架かる橋なのだが、その橋の上からの眺めは良い。
何となく東京スカイツリーも見えそうな気がするのだが、川沿いにタワマンが建っているからか、さすがに見ることはできなかった。
[同日10:30.天候:曇 東京都中央区八丁堀 稲生宗一郎の会社]
バスは渋滞に巻き込まれることなく、順調に運行できたので、ダイヤ通りに走れたのだろう。
中央道の大渋滞に巻き込まれた高速バスとは、雲泥の差である。
平日の東京都心は多くの営業車が行き交っているが、さすがに今日は休んでいる者が多いからだろう。
バス停から徒歩数分の所に、宗一郎の会社があった。
入ると受付カウンターはあったが、そこに受付係はおらず、代わりにホテルの自動チェックイン機のような機械があった。
稲生:「えーっと……」
近づくと画面が変わる。
〔いらしゃいませ。受付方法を選択してください〕
稲生:「僕の名前でいいのかな……」
稲生が自分の名前を入力すると、とある社員の名前が出て来た。
それは宗一郎の秘書の名前であることは知っていた。
その名前を選択する。
〔この内容でよろしければ、「次へ」を選択してください〕
それを押す。
〔担当者へ、連絡しました。入館証の発行は、ございません。ロビーのソファにお掛けになって、お待ちください。まもなく、担当者が参ります。お待ちください〕
稲生:「これでいいのか……!」
マリア:「ハイテク……!」
エントランスで立哨している警備員が、何も言ってこないところを見ると、これで良いのだろう。
しばらくすると、セキュリティゲートの向こうから、稲生と大して歳の変わらぬ男性社員がやってきた。
社員:「稲生様でいらっしゃいますか?」
稲生:「あ、はい。そうです」
社員:「私、秘書部の者ですが、担当が別件対応中でして、代理で参りました」
稲生:「あ、そうなんですか」
社員:「こちらが副社長からお預かりした封筒です。御確認ください」
しばらくの間、専務取締役関東統括エリア本部長だった稲生宗一郎だったが、イリーナの多大なる助力もあり、代表取締役副社長に昇格していた。
初登場時は、執行役員埼玉支社長だったのだが。
しかし、これ以上イリーナからの音沙汰が無いということは……。
稲生:「……あ、はい。大丈夫です。言われた内容通りです」
稲生は一応封筒を開けてみて、中に引換券が入っているのを確認した。
社員:「それでは、よろしくお願い致します」
稲生:「あ、はい。父にも、よろしくお伝えください」
社員:「承知しました」
稲生:「それでは失礼致します」
社員:「失礼致します」
稲生は封筒を受け取ると、それをローブのポケットの中にしまう。
ローブのポケットは、まるで四○元ポケ○トのようになっており、スッポリと入っていった。
稲生:「あー、緊張した」
マリア:「私の方が緊張したよ。まさか、セレクタリ(秘書)が代理で持ってくるなんて……」
稲生:「副社長だから、平日はガッツリ忙しいのかもね」
でも、休日は休む。
今でも接待ゴルフなんてあるのだろうか。
あんまり宗一郎がゴルフに行くところは、見たことが無いが……(でも、ゴルフバッグはある)。
稲生:「それじゃ、今度はアキバに行こう」
2人は地下鉄八丁堀駅に向かった。
稲生の枕元に置いたスマホが、アラームを鳴らす。
稲生:「うーん……」
稲生は手を伸ばして、アラームを止めた。
稲生:「もう朝かぁ……」
枕が変わると抵抗無く起きれるものだが、今回は訳の分からぬ夢を見たということもあり、どちらかというと深く眠れた感は無い。
浅い眠りのまま、朝を迎えたといった感じ。
稲生:「ううーん……」
起き上がってカーテンを開く。
雨は止んでいるようだが、まだ曇っていた。
欠伸をしながら、バスルームに向かった。
顔を洗って歯を磨いていると、LINEの着信がある。
見ると母親の佳子からで、今日は平日の為に、父親の宗一郎は会社に出勤するという。
稲生:「へえ……」
そこで稲生は、お使いを頼まれた。
父親の会社に行き、父親から封筒を受け取って来て欲しいというものだ。
その中身は、今度行く家族旅行で使う旅行券の引換券が入っているのだそうだ。
随分まだるっこしいことだが、恐らく優待券とか法人割引の関係とか、その辺りだろう。
稲生:「本当は秋葉原に行きたかったのに、先に八丁堀に行くハメになりそうです」
マリアと合流して1階のレストランで朝食を取りながら、稲生は言った。
マリア:「そう、なんだ。じゃあ、正装した方がいいかな?」
稲生:「別にいいんじゃない?仕事で行くわけじゃないんだし。それに、ローブは着てるしね」
帰省なので、稲生も私服である。
さすがにダンテと会うだとか、魔界の魔王城に行くとあらばスーツくらいは着るが。
マリア:「それもそうか。……ハッチョーボリってどこにあるの?大手町じゃなかったっけ?」
稲生:「父さんの会社、移転したからね」
元々は大手町にあったのだが、それは築年数が古い建物で、東日本大震災の影響もあり、数年前に移転したそうである。
マリア:「そうなんだ。で、どうやって行く?」
稲生:「幸い、そこの通りを走るバスが八丁堀地区まで行くから、それに乗って行けばいいと思う。まだ八丁堀で良かったよ」
マリア:「どうして?」
稲生:「八丁堀は地下鉄日比谷線が通っててね、それに乗れば秋葉原まで行けるんだ」
マリア:「そういうことか」
稲生:「10時半くらいに行けばいいらしいから、時間合わせて行こう」
マリア:「分かった」
[同日10:09.天候:曇 同地区 森下駅前バス停→都営バス錦11系統車内]
ホテルをチェックアウトした2人は、その足で最寄りのバス停に向かった。
ゴールデンウィーク期間中であるが、今日は平日であり、カレンダー通りの企業であれば、出勤日である。
多くの大企業では有給休暇取得奨励日なるものを設けており、実質10連休にする所が多いが、もちろんそうでないこともある。
稲生:「バスが来ました」
都営バスの特別区内は前乗り。
前から乗った稲生達は、Suicaで運賃を払う。
朝ラッシュが終わった後の為か、車内は空いていた。
空いている2人席に腰かける。
〔発車致します。お掴まりください〕
バスは稲生達を乗せると、すぐに発車した。
〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは、浜町中の橋経由、築地駅前行きでございます。次は新大橋、新大橋でございます。……〕
新大橋バス停を出ると、バスは新大橋を渡る。
その橋は隅田川に架かる橋なのだが、その橋の上からの眺めは良い。
何となく東京スカイツリーも見えそうな気がするのだが、川沿いにタワマンが建っているからか、さすがに見ることはできなかった。
[同日10:30.天候:曇 東京都中央区八丁堀 稲生宗一郎の会社]
バスは渋滞に巻き込まれることなく、順調に運行できたので、ダイヤ通りに走れたのだろう。
中央道の大渋滞に巻き込まれた高速バスとは、雲泥の差である。
平日の東京都心は多くの営業車が行き交っているが、さすがに今日は休んでいる者が多いからだろう。
バス停から徒歩数分の所に、宗一郎の会社があった。
入ると受付カウンターはあったが、そこに受付係はおらず、代わりにホテルの自動チェックイン機のような機械があった。
稲生:「えーっと……」
近づくと画面が変わる。
〔いらしゃいませ。受付方法を選択してください〕
稲生:「僕の名前でいいのかな……」
稲生が自分の名前を入力すると、とある社員の名前が出て来た。
それは宗一郎の秘書の名前であることは知っていた。
その名前を選択する。
〔この内容でよろしければ、「次へ」を選択してください〕
それを押す。
〔担当者へ、連絡しました。入館証の発行は、ございません。ロビーのソファにお掛けになって、お待ちください。まもなく、担当者が参ります。お待ちください〕
稲生:「これでいいのか……!」
マリア:「ハイテク……!」
エントランスで立哨している警備員が、何も言ってこないところを見ると、これで良いのだろう。
しばらくすると、セキュリティゲートの向こうから、稲生と大して歳の変わらぬ男性社員がやってきた。
社員:「稲生様でいらっしゃいますか?」
稲生:「あ、はい。そうです」
社員:「私、秘書部の者ですが、担当が別件対応中でして、代理で参りました」
稲生:「あ、そうなんですか」
社員:「こちらが副社長からお預かりした封筒です。御確認ください」
しばらくの間、専務取締役関東統括エリア本部長だった稲生宗一郎だったが、
初登場時は、執行役員埼玉支社長だったのだが。
しかし、これ以上イリーナからの音沙汰が無いということは……。
稲生:「……あ、はい。大丈夫です。言われた内容通りです」
稲生は一応封筒を開けてみて、中に引換券が入っているのを確認した。
社員:「それでは、よろしくお願い致します」
稲生:「あ、はい。父にも、よろしくお伝えください」
社員:「承知しました」
稲生:「それでは失礼致します」
社員:「失礼致します」
稲生は封筒を受け取ると、それをローブのポケットの中にしまう。
ローブのポケットは、まるで四○元ポケ○トのようになっており、スッポリと入っていった。
稲生:「あー、緊張した」
マリア:「私の方が緊張したよ。まさか、セレクタリ(秘書)が代理で持ってくるなんて……」
稲生:「副社長だから、平日はガッツリ忙しいのかもね」
でも、休日は休む。
今でも接待ゴルフなんてあるのだろうか。
あんまり宗一郎がゴルフに行くところは、見たことが無いが……(でも、ゴルフバッグはある)。
稲生:「それじゃ、今度はアキバに行こう」
2人は地下鉄八丁堀駅に向かった。