報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「仙台到着」

2022-05-22 20:31:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月3日12:45.天候:雨 宮城県仙台市青葉区 JR仙台駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線、仙台空港アクセス線、仙台市地下鉄南北線と仙台市地下鉄東西線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 列車は地震復旧後の暫定ダイヤの為、郡山駅以北は速度を落として運転した。
 最速列車の“はやぶさ”であるにも関わらず、所要時間が長いのはこの為。
 しかも、宮城県に入ったら雨が降り出してきた。

 勇太:「せっかくの旅行なのに……」

 勇太が窓に当たる雨粒を見ながらボヤくと、前の席に座っている宗一郎が言った。

 宗一郎:「まあ、今日に関しては不幸中の幸いだ。今日は基本的に傘は要らないはずだからな」
 勇太:「そうなの?」
 佳子:「これから駅の中でお昼を食べて、あとはホテルのバスに乗ってホテルに向かうだけだから、多分傘は要らないと思うわ」
 勇太:「そうなんだ」
 宗一郎:「そこで、問題は明日以降の天気なんだが……」

 宗一郎はマリアを見た。

 マリア:「あ、はい。私の占いでは、明日以降は雨は降らないです」
 宗一郎:「ということだ。良かったな」
 勇太:「そういうことなら……」

〔「……到着ホームは11番線。お出口は、右側です。お降りの際、車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 列車は雨に霞む視界の中、下り副線ホームに進入した。
 そして、停車する直前には乗降ドアの下からステップがせり上がって来る。
 これは車体の幅が在来線規格である為、フル規格の新幹線ホームに入線すると、車両とホームの間に大きな隙間ができてしまう。
 それを防ぐ為に出てくるものだ。

〔ドアが開きます〕

 乗降ドア開閉の乗客への合図、JR東海系統だとドアチャイムだが、JR東日本系統だとアナウンス。

〔「ご乗車ありがとうございました。仙台、仙台、終点です。お忘れ物、落とし物の無いよう、お降りください。11番線の電車は、回送となります。ご乗車になれませんので、ご注意ください。この後、盛岡、新青森方面ご利用のお客様……」〕

 勇太達は列車を降りた。
 雨が降っているからか、埼玉よりも湿気が多く感じる。
 しかも、肌寒い。
 これにはさすがの勇太も、ローブを羽織った。
 宗一郎はスーツの上着とは違うジャケットを羽織っているし、佳子はカーディガンを羽織っている。

 宗一郎:「改札を出たら、牛タンでも食べに行くか」
 勇太:「やっぱりそうなるよね」
 宗一郎:「こういう所に来たら、やっぱり名物を食べないとな」
 勇太:「昔、この町に住んでいた時は夕食に牛タンが出て来たね」
 佳子:「生協で普通に売ってたからねぇ……」

 自動改札口を出ると、稲生家の面々は同じ改札階にある“牛タン通り”に向かった。
 まだ昼時なので各店舗とも賑わっていたが、長い行列ができているというわけでもない(そこが地方と中央の差か)。
 少し並んでいると、順番が回って来た。

 店員:「4名様、どうぞ!」

 店内のテーブル席に通される。

 勇太:「父さん、まさか昼間からビールなんてのは……?」
 宗一郎:「ん?勇太、飲みたいのか?別にいいぞ」
 勇太:「いや、父さんが飲むのかなぁって……」
 宗一郎:「まあ、社員旅行なら飲むところなんだがな……」
 佳子:「あなた……!」
 宗一郎:「家族旅行では、飲むのをやめておこう。マリアさんも、昼間から飲むのは嫌だろう?」
 マリア:「Huh?」

 マリア、普通にアルコールメニューを目を通している。

 宗一郎:「お国柄の違いでしたな」

 宗一郎はガックリ頭を垂れた。

 佳子:「あんまり飲み過ぎて、バスへの乗車を断られたりでもしたらどうするのよ?」
 宗一郎:「そ、それもそうだな。まあ、酒は夕食の時にでもしよう」
 勇太:「じゃあ僕、ウーロン茶で」

 4人は牛タン定食と、ソフトドリンクを注文した。
 もっともマリアの場合、童顔なのと制服ファッションのせいで、また未成年を疑われる可能性大であるが。

[同日13:50.天候:雨 仙台駅東口バスプール→ホテル送迎バス車内]

 食事が終わった後、トイレを済ませて、バス乗り場へと向かった。
 送迎バスの発着場は東口である。
 東口から外に出ると、意外と強く雨が降っていることに驚いた勇太。
 地味に傘が必須なほどである。
 で……。

 勇太:「エレベーターかエスカレーターのある場所には屋根があるけど、そこまでの間は屋根無し……と」
 宗一郎:「どうしたもんかね?」

 マリアはローブのフードを被った。

 マリア:「勇太、ここから近いのはあのエレベーターか?」

 マリアはエレベーターを指さした。
 東口バスプールも乗り場が厳格に決められていて、しかしちゃんと観光・送迎バスの乗り場が用意されているのが特徴である。
 ここだけ東京駅や大宮駅に勝っている!
 イメージ的には、さいたま新都心駅東口のバスプールを2~3倍大きくした感じだと思って頂ければ良い。

 勇太:「そうだね」

 エレベーターの後ろに、観光・送迎バス発着場の島に下りる階段とエスカレーターがある。
 つまり、エレベーターが最も駅の出入口に近い所にあるということだ。

 マリア:「私がエレベーターを呼んで、すぐ乗れるようにする。合図をしたら、走ってきて」
 勇太:「なるほど。それはいいアイディアだ」

 マリアはエレベーターまでダッシュすると、ボタンを押した。
 やはりエレベーターは下に止まっていたのか、スーッと上に向かって来る。
 そして……。

〔下へ参ります〕

 ドアが開いて、マリアが大きく手を挙げた。

 勇太:「よし、今だ!」

 勇太もフードを被って、エレベーターにダッシュした。

〔ドアが閉まります〕

 ドアが閉まって、ガラス張りのエレベーターは下に向かった。

 宗一郎:「いやあ、実にスリリングだったねぇ……」
 佳子:「まさか、こんなに雨が降るなんて思わなかったわ」

〔1階でございます〕

 幸い、バスプールの車寄せの部分には屋根がある。

 勇太:「あのバスだ」

 バス待機場には何台かの送迎バスが止まっていたが、その中に1台、これから稲生家が宿泊するホテルの名前が書かれたバスが止まっていた。
 中型の観光バスタイプである。
 乗降口には名簿を持った運転手がいた。

 宗一郎:「予約していた稲生です」
 運転手:「稲生様ですか。4名様ですね。3のAとB、CとD席へどうぞ。お荷物はございますか?」

 中型でも観光バスタイプである為、床下には荷物室がある。

 宗一郎:「それでは、頼むよ」

 宗一郎はキャリーバッグを荷物室に預けた。
 バスに乗り込む。
 中型バスだと定員30人弱といったところだが、既に10人くらいの乗客が乗っていた。
 運転手に指定された座席に座る。
 マリアは、また荷棚の上にバッグを置いた。
 やはり、そこから人形達が出て来て寛ぎ始める。
 稲生家の後、何組かの客が乗って来て、だいたい定員の半分以上が埋まった。
 補助席もあるのだが、それは使用せずに済みそうである。

 運転手:「お待たせしました。それでは、出発致します」

 最後の乗客を乗せると、バスは14時過ぎくらいに出発した。
 雨が降っているので、フロントガラスの上をワイパーが規則正しく動いている。

 宗一郎:「これならホテル真正面に着けてもらえるから、傘は要らないだろう?」
 勇太:「まあ、そうだね」
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“大魔道師の弟子” 「はやぶさ307号」

2022-05-22 15:43:57 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月3日11:07.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅・新幹線ホーム→東北新幹線307B列車17号車内]

〔♪♪♪♪。17番線に、11時9分発、“はやぶさ”307号、仙台行きが7両編成で参ります。……〕

 新幹線下りホームに行くと、GWたけなわということもあり、多くの行楽客が行き交っていた。
 何しろ、久しぶりの何のコロナ規制も無い(マスク着用などの自主規制はあるが)GWなので、必然的にそうなるであろう。
 マリアのような外国人旅行客もいないわけではないが、さすがにまだ少ない(そもそもマリアは稲生家に連れられているだけで、自身は永住者である)。

〔「17番線、ご注意ください。11時9分発、“はやぶさ”307号、仙台行きの到着です。黄色い線まで、お下がりください。次は終点、仙台に止まります。停車駅にご注意ください。また、全車両指定席で自由席はございませんので、ご注意ください」〕

 

 東京方面から赤い塗装が目立つE6系車両がやってきた。
 編成はそれだけ。
 “はやぶさ”なのに、肝心の“はやぶさ”車両E5系は連結されていない。
 これでは、“スーパーこまち”である。

 稲生勇太:「父さん、鉄ヲタの僕が驚くって……」
 稲生宗一郎:「どうだ?こういう列車も珍しいだろう?」
 勇太:「た、確かにそうだけど、よく見つけたね?こんなマニアック運用……」

 附属編成たるE6系“こまち”車両が単独で運用されるのは、1往復のみ。
 それも、地震復旧中の暫定ダイヤだからではない。
 今年の3月にダイヤ改正した際に現れた運用だ。
 通常ダイヤでは、“こまち”6号が秋田~東京間を単独で運行する。
 その折り返しで仙台の車両基地に回送される際の間合い運用が、これだ。
 列車番号こそ暫定ダイヤの為に異なっているが、運用は同じである。

〔「大宮ぁ、大宮です。17番線の電車は、“はやぶさ”307号、仙台行きです。次は、終点の仙台に止まります。停車駅にご注意ください」〕

 こういう列車では、下車客はまずいない。
 稲生家の面々は先頭車に乗り込んだ。
 グリーン車ではないのは、あくまでも今はプライベートの家族旅行なので、宗一郎も倹約したか、或いは息子が鉄ヲタなので先頭車を狙ったのかのいずれかだろう。
 少なくとも、鉄道趣味を持つのはここでは勇太だけだ。

 

 シートピッチこそ普通車であるが、シート形状はまるでグリーン車のよう。
 3人席が無いのは、E6系は在来線特急の規格で製造されているからである。
 指定されている席に、前後して座った。
 進行方向左側だが、別に座席は向かい合わせにはしない。
 まだコロナ禍による自粛呼びかけがある為。
 勇太はもちろんマリアと一緒に座った。
 マリアが荷棚に人形の入ったバッグを置くと、そこから自主的に出てくる人形。
 ホームからは、発車ベルが聞こえてくる。

〔17番線から、“はやぶさ”307号、仙台行きが発車致します。次は、終点仙台に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 車内は、ほぼ満席状態。
 空いている席は本当に売れなかった席か、あるいはキャンセルされた席か、はたまた調整席か……。
 発車時刻通りに、列車はインバータの音を響かせて発車した。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日も東北新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“はやぶさ”号、仙台行きです。全車両指定席で、自由席はございません。次は終点、仙台に止まります〕

 マリア:「この列車、写真に撮ってルーシーに送ってあげると喜ぶかな?」
 勇太:「あー、そうだね。仙台に着いたら、外観の写真を撮って送ってあげよう」
 マリア:「さっき撮ってたのは?」
 勇太:「発車標と駅名看板と、この車両の行き先表示板?」
 マリア:「これも送ってあげなよ」
 勇太:「こういうの、喜ぶかなぁ……」
 マリア:「喜ぶだろう、きっと。地下鉄の写真は嫌がらせだと思うだろうが、新幹線はそれに関係する写真なら何でも喜ぶと思うよ」
 勇太:「そうか。じゃあ、そうしよう」

 ルーシーが地下鉄の写真を嫌がるのは、人間だった頃、地下鉄職員だった父親をテロで亡くし、自身もそれに巻き込まれて生死の境をさまよったからである。
 表向きにはそこで死亡したことになり、師匠に拾われて魔道士となっている。
 その為、心に傷は負ってはいるものの、テロの巻き添えが原因であり、マリアや他の魔女みたいな性犯罪の被害歴は無い。
 尚、逆に暗闇が大好きなリリアンヌは地下鉄の移動を好む(が、別に鉄ヲタってわけではないので、地下鉄の写真を送っても心霊写真と疑うだけである)。

 勇太:「僕は乗り鉄だから、車両だけじゃなく、駅の写真とかもよく撮るんだよね」

 撮り鉄が車両の写真しか撮らないのとは、少し違う。
 車両も確かに被写体の対象だが、鉄旅を楽しむ乗り鉄はそれに付随する写真も撮りたがる。
 但し、移動の邪魔になるので、撮り鉄が持っているような一眼レフなどの大型カメラは基本持ち歩かない。
 せいぜいがスマホかデジカメ。

 マリア:「それでいいと思う。他の魔女が日本に興味を持つのは、勇太の写真がきっかけであることも多い」
 勇太:「そうなの!?」
 マリア:「勇太、Twitterやインスタグラムに写真をUPするだろう?」
 勇太:「うん、するね」
 マリア:「あれ、他の魔女も観てるよ」
 勇太:「そうなの!?」
 マリア:「前に、大宮のスイーツバイキングに行った時の写真があったでしょ?」
 勇太:「うん。確かにあれもUPした」
 マリア:「パスポート偽造してまで、日本に行こうとした輩がいたらしい」
 勇太:「あの程度のスイーツ、他の国にもあるでしょ!?」
 マリア:「で、たまに私に嫉妬のコメントが来る」
 勇太:「えっ?」
 マリア:「『マリアンナ、てめぇ男嫌いの魔女だったくせにフザケんな!』『ビッチに転向した魔女さんはいいですねwww』とか色々……」
 勇太:「そんなコメントあったの!?」
 マリア:「即座に削除して、後で呪術を……」
 勇太:「確かマリア、呪術は禁止って先生に言われてなかった?」
 マリア:「聞こえませーん」

 もちろん、殆どの魔道士達は勇太とマリアの仲を好意的に見ている。
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