報恩坊の怪しい偽作家!

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“ユタと愉快な仲間たち” 「束の間ホリデー」 final

2014-10-24 15:04:56 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月19日16:00.さいたま市大宮区三橋 湯快爽快2F 稲生ユウタ&マリアンナ・スカーレット]

「あれ?イリーナさんは?」
 ほどよく温まっているマリアに声を掛けるユタ。
「師匠なら、リラクゼーションをハシゴ中。今、垢スリ受けてる」
「へえ……」
「今度は整体と足裏マッサージ受けるんだって、妙に張り切ってる」
「それ、富士宮でもやってましたよね?」
「そろそろ師匠の体も限界なんだよ」
「僕が生きてる間に、姿が変わっちゃうんですね……」
「まあ、師匠のことだから、いい切り札を持ってると思うけどね」
 そういうマリアの肩を揉むのはミク人形とフランス人形。
「なるほど……」
「ああ、私は変わんないよ。数百年は」
「それは良かったです」
「……ユウタ君は、これでいいの?」
「え?何がですか?」
「師匠みたいなモデル体型じゃなくて、私みたいな幼児体型でいいの?」
「幼児体型だなんて、そんな……!僕は素直にマリアさんみたいな人を、『お人形さんみたいでかわいい』と思ったんです」
「数十年はきっとこのままだよ?いいの?」
「もちろんです」
「おうおう、それってユタが魔道師になるって前提の話だろ?」
「キノ!」
 そこへ、キノと江蓮がやってきた。
「……威吹のヤツ、何か言ってなかったか?」
「キノの悪口なら言ってた」
「あー、そーかよ!って、そうじゃねぇ!あいつ、魔界に行くのかって!」
「魔界正規軍?勧誘の話はあるみたいだけど、実際どうなんだか……」
 ユタは首を傾げた。
「けっ、そうか……」
「キノ、もしかして、キミの所にも……?」
 ユタは意外そうな顔をした。
「なりふり構っていられねぇって話だ。オレは獄卒の仕事が忙しいって断ったけどな」
 すると江蓮がジト目でキノを見た。
「なーにがだよ。『正規軍として従軍したら、除隊後は無条件で獄卒に復帰させる』という条件突き付けられたんだろーが」
「えっ、そうなの!?」
「え、江蓮!余計なこと言うんじゃねぇ!」
「地獄界を牛耳る鬼族が、魔界の干渉を受けるのか?」
 マリアも訝し気な顔をした。
「だから、そんな話信じられねーから、断ったんだっつの!」
「もちろん除隊の条件は、『普通除隊以上』だそうだ。普通除隊以上って何?魔道師さんなら知ってる?」
 江蓮が珍しくマリアに面と向かって聞く。
「ああ。要はアメリカ軍と同じ。上から順に名誉除隊、普通除隊、非名誉除隊、不行跡除隊、不名誉除隊の5つがある。魔界正規軍の良い辞め方は、最初の2つ。あとの3つは言葉からイメージできると思うが、あまり良くない。特に不名誉除隊なんて、重大な軍紀違反をしでかして軍法会議に掛けられた上、投獄された者に課せられるものだ。魔界で生きて行けなくなるとも言われている。名誉除隊は軍人としての勤務成績が概ね良好で、軍法会議の対象にならなかった場合、退役時に名誉除隊証書が交付される。3年以上の軍歴を有する名誉除隊者には「善行章」も授与される。これに該当する者は、退役後も魔界で様々な恩恵を受けられる。恐らく、『無条件で獄卒に復帰』というのも、そこから来ているんだと思う」
「すると、普通除隊というのは、そこまでではなくても、一応満期で兵役を務め上げた人ということですかね?」
「そんなところだ」
 ユタの質問にマリアは大きく頷いた。
「威吹なんてオレから言わせてみりゃ、兵役逃れの為に海外逃亡しているようなもんだぜ」
「オメーも人のこと言えねーだろ」
 江蓮が突っ込んだ。

[同日17:30.大宮駅西口行き送迎バス車内 ユタ、威吹、カンジ、イリーナ、マリア]

「はい、発車しまーす」
 マイクロバスにはエアブレーキやエアサスペンションが搭載されていないせいか、自動ドアも空気圧ではなく、電動で開閉する。
「だいぶ、外は暗くなりましたねー」
「もう秋だ」
 車内にはオレンジ色の明かりが灯っているが、路線バスの照明同様、そんなに明るいものではない。
「マリアさん達は、いつ頃出発するんですか?」
 2人席に座るユタとマリア。
 ユタは隣にちょこんと座るマリアに話し掛けた。
「ユウタ君の家からにしたい。師匠の魔法なら、ほんの一瞬だ」
「“ルーラ”ですね」
「ルーラ?」
「とある有名RPGで、瞬間移動の魔法の名前です」
「そんなのがあるのか。魔法に名前……」
 マリアは首を傾げた。
「魔法に名前が無い?」
「名前なんて……付けませんよね、師匠?」
「クカー……」
 イリーナは1人席に腰掛け、寝ていた。
「またか……」
「相変わらず寝落ち早い人だなぁ……」
「多分、詠唱の最後に3文字前後の言葉を放つから、それが便宜上、『魔法の名前』になったんじゃないか」
「そうですか。(唱題とは違うな)」
 と、思う。
 マリアはユタから目を放し、目を進行方向に向けてボソッと言った。
「魔道師になれば……勤行はやらなくて済む……」
「はい?」

[同日18:00.さいたま市大宮区仲町(南銀座)の居酒屋 上記メンバー]

「はい、カンパーイ!」
「いいのか?酔っぱらって魔法使えなくなるんじゃないか?」
 威吹はニヤッと笑った。
「だーいじょーぶだって。何百年魔道師やってるって思ってんの」
「1000年だろ。さり気なく歳サバ読むな」
 威吹がすかさず突っ込んだ。
「本当に大丈夫かよ……」
「先生、どうぞ」
 カンジが威吹に酒を注ぐ。
「ああ、すまん」
「温泉で会った鬼と女子高生は帰ったのか?」
 マリアの質問にユタが答えた。
「ええ。僕達より1本前のバスで帰ったらしいです」
「まあ、17歳の“獲物”が一緒ですから、ここにはいないでしょう」
 カンジはユタに同調するように頷いた。

[同日20:00.JR大宮駅東口タクシー乗り場 上記メンバー]

「うぃー……すまないねぇ……」
「絶対こうなると思った!」
 千鳥足のイリーナ。
 それを支えるユタと威吹。
「5人はタクシーに乗れませんから、分けて乗りましょう」
「威吹、悪いけど、イリーナさんを家までは運んできてくれない?」
「ユタがそう言うのなら……」
「師匠、タクシー代くらい下さいよ。あなたが酔い潰れたせいなんだから」
 マリアは師匠にたかった。
「1万もあれば足りるかねぇ……」
「いえ、1000円でいいです。逆に、お釣り無いって断られそうなんで」
「師匠、先に行ってください。私達は後の車で行きます」
「そうかい。ちゃんとついてきなよ」
「もちろんです」
 というわけで、ユタはマリアと後続車へ。
 ユタは運転手に行き先を告げた。
 すぐにタクシーは乗り場を発車した。
「マリアさん、どうして威吹達を先に行かせたんですか?」
「ユウタ君に言うのも何だけど、あいつらが師匠を途中で捨てて行かないかって警戒してる」
「はは、まさか……」
「こうして、私達が後ろから監視すればそんなことはしないだろう」
「そりゃもう……」

[同日21:00.ユタの家 上記メンバー]

 家に着いた後、少し酔いを覚ましてから、イリーナは魔法の準備を始めた。
「魔法陣書かなきゃいけないんですね」
 ユタは庭先に書かれた魔法陣を見た。
「人んちの庭に落書きすんなよ」
 と、威吹。
「まあまあ」
「ごめんね。魔法使ったら、きれいさっぱり消えるから」
 酔い潰れかけていたイリーナだったが、今ではすっかり元に戻っている。
(これぞ、魔道師の不思議)
 と、ユタ。
 魔法の準備ができたようで、2人の魔道師は魔法陣の中に入った。
「それじゃ、ユウタ君。またいつでも遊びに来てね」
「こちらこそ、いつでも来てください」
「魔道師になる覚悟……決めてくれると嬉しいな」
「ユタを惑わすな」
「威吹君も、今後の進路を早く決めた方がいいわよ」
「黙れ!大きなお世話だ!」
 魔法陣に緑色の光が浮かび上がる。
「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。……」
 修行の一環なのか、はたまたやっぱり酒の残量が多いのか、呪文の詠唱はマリアが行った。
「ラ・ウ・ル・ウラ!
 2人の魔道師は光に包まれ、姿を消した。
 そしてイリーナの言う通り、魔法陣は影も形も無くなっていた。
「全く。嵐のような魔道師共だ。ユタ、家の中に入ろう。だいぶ冷え込んで来た。せっかく温泉に入ったのに、風邪を引いては元も子もない」
 威吹はユタを促した。
 しかしユタは、
「“ルーラ”じゃん!」
 妖狐2人には訳の分からぬことを口走った。
「ユタ、唱題して魔道師達の誑惑を断ち切るんだ!」
 謗法たる稲荷信仰の手先、妖狐が仏法の唱題を勧めるほどに、魔法は危険なものだと察知したようである。

                                                     束の間ホリデー 終

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