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続・持続可能的計画経済論(連載第14回)

2020-02-28 | 〆続・持続可能的計画経済論

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

第2章 計画化の基準原理

(7)自由生産領域の規律原理
 持続可能的計画経済においては、計画経済の対象領域は環境負荷的産業領域に限局され、それ以外の領域は計画外の自由生産に委ねられる。これは、厳密には計画経済というより、計画経済と市場経済の混合経済体制の一種と解釈されるかもしれない。
 こうした混合経済体制に共通する難点は、原理の異なる二種の経済体制を混合することで、機能不全を起こすことである。化学にたとえるなら、水と油のように混ざらずに分離されるならまだしも、混合の結果、毒性の強い物質が発生してしまうような事態が最も懸念すべきものである。
 それを防ぐには、「混合」という発想に替えて、計画外の自由生産領域を計画経済の残余領域として把握することである。すなわち、自由生産領域は計画経済の対象外ではあるが、間接的な形で計画経済の規律が及ぶ領域とみなされるのである。
 その点、自由生産領域といえども、結果的に生産財や重要な消費財、またエネルギー供給に関わる基幹産業分野をカバーする計画化対象領域から生産財や消費財、エネルギーの供給を受けるので、波及的に計画経済が妥当することは必然である。
 さらに、環境的な持続可能性の原理は自由生産領域といえども適用されるのであり、自由生産領域の生産活動も共通の環境法体系によって規律され、環境的持続可能性を害するような「自由」は容認されないことになる。
 ところで、持続可能的計画経済体制は貨幣経済を前提としない経済システムであるから、自由生産領域といえども、当然の貨幣経済ではなくなる。となると、ここでの「自由」とは、単に経済計画の適用を直接には受けないという含意にとどまり、自由生産領域=市場経済となるわけではない。
 理念型としては、完全に無償供給型の自由生産活動も想定できるが、現実にそのような活動がどの程度の規模で行われるかは、人類にとって未知の世界である。経済人類学的な予測として、人類が本質的に交換を欲する生物であるなら、何らの交換も伴わない純粋に利他的な無償の生産活動は、ごく限られたものとなるだろう。
 そこで、貨幣経済に代わって旧来の物々交換慣習が復活してくるなら、それは交換経済の一種であるし、物々交換の対象物が慣習的に定式化されれば、貨幣経済に近づく。そこから、特定の取引界でのみ通用する私的貨幣が発生し、定着すれば、慣習的な貨幣経済の段階へ進む。
 持続可能的計画経済体制において、慣習的な私的貨幣は公式の通貨として認証されることはないが、逆に禁圧されるわけでもない。こうした経済慣習も自由生産領域における私的自治の表出として尊重される。ただし、自由放任ではなく、民事法上の規律は受ける。

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