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共産論(連載第12回)

2019-02-23 | 〆共産論[増訂版]

第2章 共産主義社会の実際(一):生産

(4)新しい生産組織が生まれる(続)

◇農業生産機構
 共産主義は工業偏重の資本主義的生産体制を是正して、第一次産業、特に農業の比重を回復する。ただ、農業分野については、依然として大土地所有制の下で貧農が搾取されている諸国は別として、大土地所有制の解体と農地解放が進展した諸国にあっても、自営的な農家が代々継承してきた農地を耕作する形態が根強く残り、マルクスが『資本論』第三巻で理論上想定したような借地農業資本による資本主義的農業経営はあまり普及しているとは言えない。
 しかし、自営的農業は元来経営基盤が弱いことに加え、後継者不足やグローバル化の中での「市場開放」圧力によって、存亡の危機に立たされつつある。このままいけば、いずれ世界の農業は遺伝子組み換え技術で武装した農業食糧資本による直接的または借地農業資本のような間接的形態の商業的大規模経営に委ねられることになろう。
 これに対して、共産主義的農業は―後述するように農地を含む全土地を「土地管理機構」に集中することを前提として―生産事業機構の特例である「農業生産機構」が一元的・集約的に運営する
 農業生産機構は、多くの工業化諸国のように農地そのものが縮退している所では、商業の廃止に伴って吐き出される商業用地を新たに農地として開墾しつつ―あるいは先進的な工場栽培技術を用いて―、環境と健康に配慮された農法に従った持続可能な農産体制を確立するであろう。
 農業生産機構の内部構造については前述した生産事業機構に関する原則がほぼ妥当するが、農業生産機構の労働者に相当するのは、一般事務職を別とすれば各農場で農作業に当たる農務員である。従来農家を営んできた人々は、希望に応じて機構農場の管理者(農務員の指導監督に当たる一種の現地管理職)として農業生産機構に雇用される。
 なお、林業や漁業についても、農業に準じて「林業生産機構」、「漁業生産機構」といった生産事業機構を通じた共同化を考えることができる。特に漁業に関しては、水産資源の有限性を考慮しつつ、生物多様性に配慮された計画漁業を推進する必要がある。また林業も同様に森林資源の保護に配慮された計画植樹・伐採が要請される。そうした点では、林業、漁業分野の生産活動は農業以上に環境配慮的な手法による共同化に適していると言えるだろう。(※)

※林業及び畜産は農業とも隣接しており、兼業経営も可能であることから、農業を含めた三分野を包括する「農林畜産機構」を設立することも一考に値する。

◇消費事業組合
 これまで見てきた種々の生産組織はいずれも物やサービスの生産そのものに関わる事業体であったが、消費についても一種の「生産組織」を考えることができる。それが「消費事業組合」である。
 現代資本主義の下での消費は今日、ますますスーパーマーケット(=超市場)というすぐれて資本主義的な名辞を冠された巨大小売資本に制圧され、衣食に関わる日用消費財のほとんどすべてをスーパーマーケットで調達することが慣習化している。それによって我々は「便利」という殺し文句と引き換えに、画一的な消費財の受動的な「消費機械」にさせられている。
 これに対して、共産主義的な消費事業組合は、現在は政治的な郷土愛主義の隠れ蓑にすぎない「地産地消」を基本的経済原則とするため、地方ごと―第4章で見る「地方圏」(日本を例にとれば、近畿地方圏とか東北地方圏など)の単位―に設立される特殊な流通組織(サービス生産組織)である。
 各地方の消費事業組合は、先述の農業生産機構をはじめ、安全性と信頼性が確認された他の消費財生産組織とネットワークを結び、組合直営の物品供給所を通じて無償で各種消費財を供給する。この組合直営の物品供給所は新たに設立するほか、既存のスーパーマーケットやコンビニエンスストアを接収・転換する方法によってもよいだろう。
 消費事業組合はその管轄地方圏の住民(例えば、上例の近畿消費事業組合であれば近畿地方圏の住民)を自動的加入の組合員とする特殊な事業体であり、組合員総会(組合員の中から抽選で選ばれた総会代議者で構成する)がその最高議決機関となる。
 一方、先述した生産協同組合とは異なり、消費者が組合員となる消費事業組合にあっては職員(労働者)=組合員という図式は成り立たないため、組合員総会とは別個に労働者代表役会が常置される必要がある。
 なお、消費事業組合は「組合」とはいえ、自主管理企業とは異質であるため、その内部構造については、生産協同組合ではなく、より大規模な生産企業法人のそれに準ずる。

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