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犯則と処遇(連載第29回)

2019-02-01 | 犯則と処遇

23 交通事犯(下)―公共交通事故について

 現代の科学技術社会を特徴づける事象として、鉄道、船舶、航空機といった公共交通機関の著しい発達があるが、それに伴い、これら公共交通機関による死傷事故(公共交通事故)も跡を絶たなくなっている。
 こうした公共交通事故は、自動車事故とは異なり、より複雑で高度な機械的システムとそれを運営する法人企業組織を背景として生起してくることから、自動車事故のように、単純な過失犯として処理し切れないことが多い。

 そこで、公共交通事故が発生した場合は、まず事故原因の行政的な調査を先行させることが合理的である。そのためには、中立的な事故調査機関を常設する必要がある。
 この先行調査の結果、またはその過程で個々の交通機関要員の業務上過失が明らかとなった場合は、そこで初めて捜査機関に通報され、犯則行為としての過失責任を究明するための捜査が開始される段取りとなる。

 ただし、船舶や航空機の場合は、事故に関わった航海士や操縦士の法的な過失の有無とは別に、航海士や操縦士としての職務上の義務を適切に果たしたかどうかという観点からの審判手続きが捜査に先行される。具体的には、海難事故に関する海難審判のほか、航空事故に関する航空審判といった準司法的手続きである。
 こうした審判手続きと過失犯としての責任を究明する司法手続きとは目的を異にするとはいえ、両者の結論が完全に齟齬を来たすことは好ましくない。とりわけ、審判手続きでは義務違反なしとされながら、司法手続き上は有責とされるねじれは当事者に当惑と司法不信をもたらすであろう。
 そこで、審判手続きは司法手続きに先行して進められる必要があり、審判の結果、実質無答責に相当する義務違反なしとの結論が出た場合には、当該要員を改めて司法的に追及することは禁止されるべきである。

 ところで、組織を背景として引き起こされる公共交通事故では個々の要員の過失責任を追及するだけでは不十分であったり、個々の要員の過失を立証し切れないことも多い。そこで、こうした場合は運営組織の安全対策不備を一つの犯則行為とみなして対応する必要も出てくる。

 ただし、これはいわゆる組織犯とは異なり、法人としての過失犯であるので、通常の組織犯対策の出番とはならず、別の対策が必要となる。同時に、ここでも「犯則→処遇」の定式は貫徹されなければならない。
 具体的には、事故を引き起こした運営組織に対しては営業停止処分が課せられるほか、事故を繰り返す累犯的な組織に対しては究極の解散命令も課せられる。こうした組織の活動と存亡に関わる処分は単なる行政処分ではなく、司法手続きによって付せられる一種の対法人処遇である。

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