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犯則と処遇(連載第34回)

2019-02-20 | 犯則と処遇

28 犯則捜査の鉄則

 「犯則→処遇」体系の下での犯則捜査は、犯則事件の真相解明のための証拠収集を目的とする捜査専従機関によって遂行されると述べたが、その際、捜査活動を規律するいくつかの規範的な原則が必要である。
 これらの原則は単に個々の捜査官が遵守すべき執務規則ではなく、捜査機関全体が組織として遵守すべき鉄則である。よって、以下の諸原則は犯罪捜査機関の内規として規定されるのではなく、犯則事件処理のプロセスについて定めた法令上に明記されるべきものである。
 そのような諸原則を列挙すると、「見込み捜査禁止の鉄則」「科学捜査優先の鉄則」「反面捜査完遂の鉄則」の三大鉄則に集約される。

 第一の「見込み捜査禁止の鉄則」にいう見込み捜査とは、初めから直感的に犯人を見定めたうえ、その者を有責とするに都合のよい証拠の収集に注力するような捜査手法である。
 このような捜査手法は一見すると効率的であり、結果的に的中することもあるが、そこが落とし穴であり、ひとたび犯人の見定めを誤ったときには誤審に直結する賭けのような捜査手法である。このような捜査手法の適用を禁ずるのが、本原則である。

 そこで、見込み捜査に代えて、物証演繹捜査が導入される。物証演繹捜査とは、はじめに犯人を見定めて結論先取り的に捜査するのではなく、まずは物証の検証を通じて、そこから確実に導き得る結論を立てていく捜査手法である。
 従って、この場合、初動捜査の対象は人ではなく、物である。物証を収集し、それを科学的に解析したうえで、物証から導かれる人にたどり着く手法であるから、一定以上の時間と労力を要するが、それこそプロフェッショナルな捜査専従機関にふさわしい捜査手法である。

 そこから、第二の「科学捜査優先の鉄則」が導き出される。従前から、捜査には鑑識活動が取り入れられ、科学捜査の技術も進歩しているとはいえ、鑑識は捜査の補充的な役割に甘んじていることが多く、前記見込み捜査手法の下では鑑識や鑑定結果が歪められることすらある。
 しかし、物証演繹捜査の下では、まず物証の収集が先行しなければならないから、物証の検証を本義とする科学捜査が優先される。ここで言う科学捜査とは、狭義の鑑識にとどまらず、変死体の検視、筆跡・音声鑑定、文書や電子データの分析、画像解析など、およそ科学的手法を用いて実施される捜査活動すべてを指す。

 こうした科学捜査を優先すべく、捜査専従機関には独立した科学捜査部門が設置される。これは、従来の警察機関では分立していることが多い鑑識部門と科学捜査研究部門とを統合した捜査部門であり、そこに所属する専従捜査員は採用時から一般の捜査員とは別途、科学捜査員として採用・育成される科学知識を持った特別捜査員である。
 そればかりでなく、一般の捜査員に対しても、科学捜査に関する研修を義務付け、初任時に科学捜査部門を必ず経験させるようにする。
 なお、変死体の検視は科学捜査員ではなく、法医学の知識を有する独立した専門検視員が担当することになるが、これについては後に章を改めて 言及することにする。

 さて、見込み捜査禁止の鉄則と物証演繹捜査、そしてそれを制度的に支えるものとしての科学捜査優先の鉄則に加え、ダメ押し的な原則として、三つ目の「反面捜査完遂の鉄則」がある。
 反面捜査とは、物証演繹捜査の結果、行き着いた被疑者が真犯人ではない可能性を示す証拠(反面証拠)の有無を捜査することである。

 物証演繹捜査によって導き出された被疑者が真犯人である可能性はかなり高いとはいえ、絶対的な確実性があるわけではない。事案によっては、物証が充分でないこともあり得る。そこで、被疑者の無実を示すような反面証拠の有無をダメ押し的に見究める必要があるのである。反面捜査の結果、反面証拠が存在しないことが確実となって、初めて被疑者を正式に犯人と特定できることになる。
 このような反面捜査はそのつど必要に応じて随意に行えばよいのではなく、すべての事案において必ず完遂されなければならない。そのために、すべての事案の捜査に際して反面捜査専従者を置いて、反面捜査を確実に完遂しておく必要がある。

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