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共産論(連載第10回)

2019-02-21 | 〆共産論[増訂版]

第2章 共産主義社会の実際(一):生産

(3)計画経済に再挑戦する

◇古い計画経済モデル
  ここであえて計画経済モデルに「再挑戦」するという言葉を使うのは、計画経済モデルはすでに破綻したということがなおも国際的及び国内的な常識となっているからである。
 ただし、ここで言う「再挑戦」とは、実際に破綻したソ連型集産主義の下での計画経済モデルを単純に再試行することを意味しているのではない。むしろ新しい観点と手法による新しい計画経済モデルの開発に挑戦したいのである。そのためには、まず古い計画経済モデルの観点と手法を振り返って整理しておく必要がある。 
 この古い計画経済は、専ら資本主義経済の持つ不安定さを解消するため、事前の計画に基づいて需給関係を調節し、安定な経済運営を実現しようとの観点から、―商品‐貨幣交換システムは存置したまま―国家計画機関が主導するプランに従って国有企業体を中心に生産活動を展開していくというものであった。
 しかもソ連の計画経済モデルにあっては、重工業分野を中心に「アメリカに追いつき、追い越す」ための高度経済成長を狙い、極めて高い生産目標数値を盛り込んだ長期(原則5か年)の計画に特徴があった。
 しかし、商品‐貨幣交換を軸とする経済システムの下での需給関係の混乱は、商品‐貨幣交換の連鎖の中でのアットランダムな調節―いわゆる“神の見えざる手”という名の人の見える手―によって事後的に始末されるのであって、それを事前的な計画によって統制しようとしてもかえって計画倒れの混乱が生じかねないのである。
 この点、マルクスはある私信の中で「ブルジョワ社会(資本主義社会―筆者注)の機知は、先験的に生産の意識的な社会的規制が全くなされないという事実にある」と皮肉っているのであるが、そのような社会的規制の欠如こそ、資本主義社会の「機知」ならぬ「機序」なのだ。
 しかし、商品‐貨幣交換が廃される共産主義経済システムの下では、商品‐貨幣交換を介さない需給関係の直接的な事前調節が可能となり、またそれこそが過剰生産や逆に過少生産を防止する唯一の手段ともなる。そうした意味で、計画経済モデルは貨幣経済が廃止されて初めてその真価を発揮すると言えるのである。

◇持続可能的計画経済モデル
 新しい計画経済モデルの真の新しさのゆえんは、何よりもまず生態学的持続可能性に最大の力点を置いた計画経済生態学上持続可能的計画経済(以後、持続可能的計画経済と略す場合がある)―であるというところに存する。
 現代の資本主義を特徴づける大量生産‐大量流通‐大量廃棄(大衆の消費抑制が定在化してくると必ずしも大量消費とは言えないため、大量の未消費廃棄物が排出されるという異常!)のシステムは、その高エネルギー消費という点からしても、もはや根本的に生態学的持続可能性を保証することができなくなっており、資本主義的生産様式を続ける限り、いかに高度な環境政策も、それは決定的な環境危機をせいぜい先延ばしにし、ツケを将来世代に回すだけの姑息的な効果しか持たない。
 資本主義の枠内にとどまり、資本主義的生産様式に手を着けないまま、大量生産→大量廃棄のサイクルを止めようとしても無理なのである。資本主義とは、角度を変えて見れば、廃棄するために生産するシステムである。廃棄自体が一種の再投資なのであり、この意味では資本主義とは大量廃棄を通して資本蓄積が続いていく一種の「蕩尽経済」でもある。
 そういうわけで、根元的に生態学上持続可能な経済モデルとして、一度は信用失墜したかに見える計画経済が再発見されるべく立ち戻ってくるのである。

◇計画の実際
 実際の計画にあたっては、温室効果ガスや各種有害物質削減目標のような具体的環境規準を踏まえた厳正な供給設定が鍵となる。
 この点、現代の資本主義経済は人々の欲求に応じて明らかに実需要を超えた物を大量に生産する「欲求(需要)の経済」であり、かつ生産物の耐用年数が意図的に短期に設定され、消費者が頻繁な買い替えを強いられる「更新の経済」でもあり、それがまたエネルギー需要―特に生産過程における―の莫大な「高エネルギーの経済」につながっている。
 これに対して、新たな持続可能的計画経済は環境的持続可能性によって規定された供給に応じて需要を調整する「供給の経済」であり、かつ一つの物をできるだけ長持ちさせる「耐用の経済」でもある。従ってまた、必要最小限のエネルギー需要で足りる「低エネルギーの経済」でもある。
 ただし、前に示唆したように、全産業分野で計画経済が実施されるわけではない。計画経済の対象範囲は基本的に環境負荷の高い産業分野ということになるが、それはほぼ鉄鋼、石油、電力、造船、機械工業などの基幹産業分野と運輸をカバーするであろう。
 これに加えて、自動車産業や家電産業のように、その生産物の消費が環境負荷的となりがちな分野も計画経済の対象範囲に含まれ、こうした分野では生産物の質と量の両面で計画的な生産に踏み込む必要がある。
 また二酸化炭素の排出量の増加傾向が目立つ運輸部門は、少なくとも陸上貨物輸送については、電気自動車または水素自動車によるトラック輸送と可能限り電化された鉄道輸送を単一の事業機構に統合化したうえ、長距離トラック輸送の制限と鉄道輸送の復権とを計画的に実行する必要がある。
 長距離トラック輸送を制限するには、とりわけ消費財の地産地消のシステムを確立することが有意義であるが、この点、次節でも触れるように、各地方圏ごとに設立される消費事業組合が地産地消システムの拠点となるであろう。
 一方、日用消費財分野では、一部の基幹的な物資を除き、計画経済の対象外として自由生産制が採られる。ただ、商品‐貨幣交換が廃される共産主義経済の下では、消費財の過剰供給が生じやすい資本主義経済の場合とは反対に、過少供給の傾向が生じやすいと想定され、相対的な物不足が生じる懸念がないわけではない。
 そこで、主食的な食品をはじめとする日常必需的な消費財については、大災害や重大伝染病のパンデミックなど非常時の備蓄をも兼ねた余剰生産物の貯蔵を各生産組織に義務付けられる。そうした限りでは、限定的な計画経済が適用される。
 以上に対して、製薬のように健康に直接関わる特殊な産業分野については、一般の経済計画とは別立てで中立的かつ科学的に厳正な治験に基づく特殊な生産計画が立てられる。また天候などの自然条件に左右される農業をはじめとする第一次産業分野についても、一般の経済計画とは別立ての個別計画となる。
 こうした地球環境の保全を最終目的とする持続可能的計画経済は、その究極においては現在の国際連合に代わるグローバルな統合体としての世界共同体を通じて地球規模で実施されるべきものであるが、その実際については最終章で改めて論ずることにする。

◇非官僚制的計画
 ところで、旧ソ連式の古い経済計画は政府機関主導による官僚制的な国家計画であったがために、机上的・非現実的計画の横行を招いたことにかんがみ、新しい経済計画は計画適用分野の企業自身による自主的な共同計画に基づいて立案される。
 具体的には、計画経済の対象範囲に含まれる業種に対応する企業から選出された計画担当役員で構成する「経済計画会議」を設置し、この機関が直接に計画立案・実施を担うのである。(※)
 この経済計画はその統一的な根拠を世界共同体が策定する世界経済計画要綱に置きつつ、科学的な環境見通しに立ちつつ、比較的短期の3か年計画を基本とし、世界共同体を構成する緩やかに自治的な各領域圏の代表機関である民衆会議で承認され、法律に準じた拘束力をもって公布・施行される規範的な指針である。ただし、法律と異なり毎年内容が検証され、必要に応じ適宜修正もされる柔軟な規範である。
 このように比較的短期かつ見直しも随時行うのは、予測不能な環境条件によって左右される経済計画の目標期間は、せいぜい3か年単位が限度と考えられ、かつ可変的な柔軟性を持たせる必要もあるからである。
 また非官僚制的計画という性格からして、経済計画会議は計画の立案から実施、実施状況の監督、検証と修正に至るまで一貫して自らが担当しなければならない。
 それを可能とするためにも、会議には調査分析センターを付置し、ここには官僚でなく、新たに養成されるプロフェッショナルとしての「環境経済調査士」(環境影響評価に基づいて経済予測・分析を行う公的専門資格)を多数配置し、補佐体制を充実させる必要がある。

※当ブログ上の先行する他連載等における記述では「経済計画評議会」と表記している場合があるが、新しい計画経済モデルにおける計画機関は民衆会議と並ぶ一種の代議機関の位置づけとなるため、「経済計画会議」と命名するほうがふさわしい。従って、他連載等における記述も、このように読み替えられたい。

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